カードゲーム世界で考察配信したら、すべての黒幕だと思われた 作:マクロコスモス
俺のTCGプレイヤーとしての始まりは、一枚のカードだった。
カードゲームに興味を持って色々調べた結果、すでに構築されたデッキを三つ買うのが手っ取り早いと理解。
当時もっとも完成度が高いとされていた構築済みを購入。
その中に、”そいつ”は混じっていたんだ。
正確に言えば、その構築済みそのものが、そいつを中心に構築されていたというべきか。
そいつを使えば、相手は必ず嫌な顔をする。
自分の思う通りにカードをプレイできない相手を見ると――嬉しかった。
対戦ゲームは相手の嫌がることをするゲーム、だなんて誰かが言うことがあるけれど。
それは多分、本当だ。
だってこんなに気持ちいいんだから。
それから俺は、人の嫌がるカードばかり使うようになった。
ロックで相手の盤面を封じ、デッキ破壊でデッキそのものを機能停止にし、メタビートで相手のカードを全て妨害する。
そんな――陰湿デッキというやつを、好んでいたのだ。
はっきり言って、カードゲーマーとしては地獄にしか行けないな、と思っていた。
しかしそんな俺が、どういうわけか――カードゲームで全てが決まる世界に転生してしまったのだ。
一体どういう巡り合わせだろう。
そういう世界で生活しながら――俺はこの世界でも俺らしい生き方をしたいと常々考えていた。
それが――今回ようやく、見つかったらしい。
■
「えーそれでは、今日も配信始めていきます。適当にランクマ回してくから、よろしく」
――同接は5人、ただの雑談ランクマ配信にしてはいつもより人が多い。
それが配信者としての俺、
といっても今の俺は大学生。
モラトリアムのさなかに趣味として配信をしているだけなので、ぶっちゃけ多少零細でもそこまで気になることはない。
収益化はできてるので、むしろ配信者としてはかなり上等な方じゃないだろうか。
とはいえ、人が来ているというのはありがたいことだ。
そこで、普段より人がいることにいい気分になった俺は、ふと思いつきでとある話をし始めた。
――それが、世界を揺るがす配信になることなど、このときの俺には知る由もない。
「そういえば、マギロアカードにはそれぞれイラストがあって、スペルカードの場合は一つの場面を切り取っていることが多いよな」
:そうだな。
:俺のメタルテック・ドラゴンとかめちゃくちゃかっこいいぜ!
俺の発言に、リスナーがコメントを返す。
一人主人公っぽいやつが紛れてるのはカードゲーム世界っぽいよな。
いや俺の陰湿デッキでランクマ回す配信に、主人公っぽいやつが紛れ込んでるのはどうなんだ? とは思わなくもないが。
まぁ、いいか。
「そういったイラストって、深く読み解くとなかなか面白いことがわかりそうじゃないか?」
:面白いこと?
:なんかワクワクしてきたぜー!
「たとえば――最近話題になってる悪の組織、”機械帝国メタリカ”が使うカードとか」
:あー、話題になってるな。
:メタリカ……あいつら絶対許せないぞ!
――悪の組織。
なんだかホビアニみたいだと思うかもしれないが、ホビアニである。
そりゃカードゲームの世界なんだもの、カードゲームで世界を滅ぼそうとするやつなんているに決まってるよな。
今回の場合は、世界中の人間をメタルマジックユーザーに改造することが目的らしい。
マジックユーザーってのは、この世界におけるプレイヤーの名前。
永いので略してユーザーと呼ばれることが多い。
何故かメタリカの連中はメタルマジックユーザーということにこだわってるが。
ともかく。
「報道なんかを聞いてる限り、メタリカの使うカードって基本的には統一されてるよな」
:そうだっけ?
:【機械幻獣】って名前のカードばっかり使うんだぜ!
この主人公、なんかメタリカの連中と対戦経験があるっぽいな?
まぁいいか、続けよう。
「ネットに出回ってる【機械幻獣】カードを幾つか見てると、色々共通点が見えてくるんだよ」
:へー
:へー
俺はカードゲームにおいて、一番好きなのは陰湿デッキを使うことだ。
しかし、その次に好きなことがカードゲームのイラストやフレーバーテキストを漁ることである。
特に某Wikiの元ネタ解説の欄なんかは、結構好んで読み込んでいた。
だからか、こういうフレーバーの考察なんかも好きなんだ。
この世界のカードは、無から生み出されることもある。
そういうカードの考察も、結構面白かったりするんだ。
例えば――
「あれのスペルカードは、すべて似たような背景の中に描かれてる。多分これって、機械帝国の本拠地だよな?」
:そうなのかー
:そうなのかー
ん、なんか同接が増えたな。
「実際にリアルで存在する場所がモチーフになってるわけだ。そこで、窓なんかがカードに映り込めば本拠地の近くがどうなってるかわかるかもしれない」
:確かに
:それ、詳しく教えてくれませんか?
見知らぬ名前がチャットに。
さっき増えた同接の人かな、初見だろうか。
あと、さっきから主人公くんの発言が見受けられない。
「まぁ落ち着きなって。面白いのはここからで、残念ながら窓は俺の見る限り一枚もカードに映り込んでなかった」
:そうですか……
残念ながら、そううまくはいかない……と思わせて、実はそうじゃない。
「だけど思うんだが、流石に窓が一枚も背景に写り込まないのは変だろ。逆に考えると――
:なるほど
:地下等でsyうか?
質問してる人、誤字ってるぞ。
まぁいいか。
「そうだな。地下だったり異空間だったり。で、ここで【機械幻獣】のモンスターカードに目を向けると……機械だからってわけじゃないけど、ドリルを装備してるモンスターが多いな」
:地下から掘削して、地上を侵攻している!
「そうそう。まぁ想像だけどな。それで――」
その日俺は、機械帝国に関する考察を、あることないこと話しまくった。
リスナーの一人が、熱心に聞いてくれるのもあって、べらべら仮説の域を出ない想像まで話してしまったのである。
まぁ、楽しかった。
こういう考察って、あんまりこの世界だと主流じゃないからな。
単純に必要ないんだよ。
そんなことするまでもなく、敵をボコしていけば勝手にボスの元までたどり着くもんだし。
いやそれ以外にも理由はある気がするけど、なんとなく感性が他所から来てる転生者じゃわからない気がする。
なんなんだろうな。
で、翌日。
機械帝国メタリカの壊滅が、大々的に報道された。
うわー。
どうやら本当にメタリカの本拠地は地下にあったらしい。
それだけでは飽き足らず、他にも俺が語った想像はだいたい当たっていた。
恐ろしいほどにドンピシャである。
いや、何もそこまで当たらなくていいじゃん、ってところまで当たっていた。
機械帝国の皇帝はツルッパゲなんじゃないかって予想が当たるのは、逆になんなんだよ。
ワッパかけられた腕を布で覆われて、しょぼくれた雰囲気の頭がツルツルなボスが連行される映像は普通にシュールだった。
で、ここまで色々想像通りだと。
なんというか、案の定というべきか――
「……登録者数が一万人突破してる」
俺のアカウントが大バズリを起こしていた。
うわー。
まぁ、明らかに途中から同接が増え始めて、こいつら関係者だろ、みたいな連中がチャットにコメントしてたけど。
それに気付かないふりをしつつ、気持ちよく色々トークしてたけど。
何もここまでバズることないじゃんね。
どうしたもんかなぁ、これから。
「…………まぁ、いっか」
どうせ今のチャンネルは、趣味でやっている代物だ。
俺の個人につながる情報なんてほとんど存在しない。
声に関しても若干加工してるからな。
仮にバレたら大変だけど……悪いことはしてないし、変なことにはならないだろう。
むしろ、将来的に就職先が見つかってラッキー、みたいな展開もあるかもしれないな。
それに――
「どうせ、悪の組織だしな」
俺のやったことが世間に迷惑をかけたならともかく、逆に治安維持に一役かってるんだ。
むしろそう考えると普通に楽しいし――気持ちいい。
というかいままで気付かなかったけど、もしかして――――
「――悪の組織に嫌がらせするのって、楽しいんじゃないか?」
よし、今後もこの活動を継続しよう。
チャンネル登録者数も増えれば、いい機材を買えるかもしれない。
カードだって、これまで手が出なかった高額カードを買えるかも。
そうと決まれば――次の
なんて、このときの俺は呑気に考えていた。
後にこれが――”黒幕”ヴェルライトの始まりであることなど、知る由もなかったのだ。
あ、ヴェルライトっていうのは俺の配信者としての名前ね。