カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:マクロコスモス
さて、闇堕ちさせるといっても、今の俺にとっかかりはない。
強いて言うなら、俺の配信を古くから視聴していたとか、その程度。
とはいえこれは、とっかかりとしてはちょっと使いにくい。
しかし、先程ちょっとバトルをしただけでも、俺は情報を得ている。
ここからいつものように”考察”をし、切り込んでいくのが俺流だ。
「
「そ……それが何だよ」
「折角だ。どんな人助けをしていたのか、聞かせて貰ってもいいかな? 俺のことを、俺が黒幕と名乗る以前から知ってくれていた君のことを、俺は知りたいんだ」
「う……」
布太梳モエは俺に悪印象を抱いていない。
だって、俺がだらだら陰湿デッキでランクマをしている時から、ずっと俺の配信を見てきたんだ。
彼女に自分のことを話す理由など何一つないが、それを俺は作ることができる。
「え……っと。横断歩道を渡れなくなってたお婆ちゃんを背負ったり……木に引っかかってた風船を取ったり……迷子になった猫を探したり……」
「なるほどな」
案の定、ベタすぎる理由がわらわらと出てくる。
一つ一つは小さなことでも、積み重なればショップ大会に遅刻するくらいにはなるだろう。
と、思っていたら。
「近所の子たちの喧嘩を仲裁したりもしたし……浮気を疑うカップルが浮気してないって証明したりもしたし……バスに乗り遅れた人を担いでバスに追いついたりしたし……」
「ん……?」
「あと、人が足りない草野球チームに助っ人で参加したし……福祉施設にボランティアの手伝いもしたし……学校で大掃除をするって言うから、それに参加したりもしたな……」
ええと……なんか、多くない?
「……それを一日で?」
「みんなに頼られてるからな。俺は、困ってる人を見捨てられないんだぜ!」
「いや、別に全て君がどうにかする必要もないだろう。しかも、それに時間を取られてファイトができなかったのか?」
俺と戦う時に、燃えがなんたらとか言ってたからな。
そんなハードワークの末に、楽しみにしていただろうショップ大会にも遅刻してしまうのか?
「そんなことないぜ! こないだヴェルライトが倒したカード強盗の残党と戦ったり、イタズラカード団の悪事を暴いたりしたぞ!」
「ダークユーザーとしか戦ってないな、それは……」
すなわち、負ければカードにされたりカードを奪われたり。
そんな緊張を強いられるバトルばかり、していたわけだ。
考えると、今日は俺……もとい部下としかまともなバトルをしてないのか?
アレ、アンティとか特にしてないしな。
「仲間に任せたりはしないのか」
ほら、メタリカの件で途中から割って入った奴がいただろ。
「……ダメだ。俺がやらなきゃダメなんだ。そうしないと、またみんなを危険に晒しちまう」
「……」
ああ、これは……アレだ。
いわゆる――主人公色んなもの背負いすぎ案件だ。
ホビアニは、どうしたって最終的に主人公がボスと戦うことになる。
酷い時は、自分以外の仲間が敵にやられて一時的にとはいえ、消滅することすらあるのだ。
そのお約束がこの世界にも生きている以上、主人公が背負うものは非常に重い。
中にはガチ死亡してしまうケースすらあるからな。
「君は……何もかもを背負おうとしているんだな」
「……そうだよ。だって、そうしないと……そうしないと!」
「――なら、俺が力を貸してやろう」
「いらない! 俺が……俺一人だけが背負えば、それでいいんだ!」
やれやれ、これは重症だな。
俺は一つ息を吐いてから、提案する。
「俺が直接手を貸すわけじゃない。知恵を貸してやろうというんだ」
「……知恵?」
「限界を感じているのだろう? 今のままでは、取りこぼしが出てしまうんじゃないか……と。ならば、俺がより効率的な方法を教えてやろう」
もともと、こういう提案をするつもりだった。
相手の悩みを引きずり出し、そこに甘言をもたらすことで信頼を勝ち取る。
方法としては単純極まりない。
だが、熱血系の主人公は地頭こそいいけれど、直線的な性格である場合がほとんど。
乗せるのはそう難しくない、と考えていた。
「それ、は……」
「別に、俺の言うことなんて聞かなくたって問題はない。ただ話を聞くだけでいいのだ。それを活かすか、殺すか。君が決めろ」
実際、いい感じに布太梳モエは揺らいでいる。
しかしなんというか、こう――ちょっと想定以上に、闇が深いっすね……
■
――あれから、俺は布太梳モエに色々とアドバイスを送った。
これによって布太梳モエがどういった方向に進むか。
俺は二つの可能性を考えていたのである。
一つは、効率化によって時間に余裕が生まれ、自分を見つめ直す機会を得ること。
こうなれば、闇堕ちはそうそう起こらないだろう。
ぶっちゃけ俺は、布太梳モエがこの方向に進んでも問題はないと考えていた。
いや、あまりにも見てられないからそうなってほしいとか、そういう同情的な理由ではなく。
その方が、
どういうことかと言えば単純で、悩みを乗り越えたユーザーは強くなる。
それが主人公ならなおさらだ。
結果、周囲のダークユーザーに対して主人公は、安定した立ち回りができるようになる。
しかしテンバイヤは、意図的に運命の流れを書き換えて試練を与えることにより、マナの発生量を増やすことを目的としているわけだ。
つまり、運命に起伏がなくなって、テンバイヤのマナ回収に支障をきたす。
これが俺の第一の目的。
いや、嫌がらせか。
とはいえ、案の定というべきか――布太梳モエはそうならなかった。
効率化によって、さらに多くの問題を解決できるようになったことで、さらに無茶をするようになったのだ。
もともと、心の闇がだいぶ育っており、俺が手を加えなくてもいずれは闇堕ちしていただろう状態だった。
そこに加えて、黒幕ムーブをしながら暗躍する俺の存在を考えれば、まぁこうなるのは自然だろう。
正直、自分でもどうかと思う最低な方法だが――それでもこうするしかなかった。
最終的に、布太梳モエは病気の子どもを助けるため、山奥に眠るというフワフワカード草という、カードの形をした薬草を手に入れるため行動を起こした。
一人で山登りを始めたのだ。
しかし、ここまでの疲労がたたって、崖登りの途中で転落。
それをあらかじめ、万が一に備えて待機していた俺が回収。
近くにあった横穴へ、布太梳モエを引っ張ってきた。
夜が更け始め、周囲が少し肌寒くなる。
俺は焚き火に火をつけて明かりを確保しつつ、デッキを弄り始めた。
布太梳モエは意識を失い、まだ目を覚まさない。
ここに至るまで、本当に無理を重ねてきたからだろう。
そんな布太梳モエを見ながら、俺は固く決意する。
――闇堕ちさせなきゃ。
今のままでは、遅かれ早かれ布太梳モエは限界を迎える。
彼女が自分の正義感に則って行動する限り、それは避けられないことだろう。
であれば、布太梳モエを止める方法はただ一つ。
闇堕ちさせることだ。
闇堕ちすれば、正義感で行動を起こす必要もなくなる。
ゆっくり休んで、怠惰に生活しても問題がないのだ。
もはや布太梳モエは、彼女が布太梳モエであるかぎり、止まることは出来ない。
闇堕ちさせて、守護らねばならぬ――
俺はそうやって、覚悟を決めていた。
やがて、布太梳モエは眼を覚ます。
さて、ここからが本番だ。
俺はできるだけ雰囲気を出すべく、デッキを弄りながら洞窟の外に降り注ぐ雨へ視線を向けるのだった。
おいたわしや太ももの上……
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