カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:マクロコスモス
時刻はすっかり夜、パチパチと燃える焚き火の音と、自然の音だけが洞窟内に響いてくる。
俺はのんびりと――具体的には八時間くらい――ライブラリを弄りながら布太梳モエが起き上がるのを待っていた。
いやマジでぐっすりだな……ここが電波の届く場所でよかった。
流石に八時間も何もない場所で待ってるのは暇すぎる。
それだけお疲れなんだろうが、にしたって寝すぎだろう。
ともかく。
「……ん」
「……起きたか」
「ここは……って、んひゃぁ!? ヴェルライト!?」
んひゃあ、と来たか。
起き上がった布太梳モエは、めちゃくちゃ驚いた様子を見せながら俺から距離を取る。
かけておいたタオルケットをかかえ、何やら顔を真っ赤にしながら俺を見ていた。
「へ、変なことしてねーだろうな!」
「なんだ、そういう情緒はあるのか」
「だ、男女が一緒に添い寝したら、子どもができんだろ! シオンが言ってたぞ!」
シオン……というのは例のメタリカの時に出てきた奴。
クール系ライバルの少女なんだが、こっちも情緒は同レベルのようだ。
「見ての通りだ。君を助けてから、起きるまでライブラリを見ていた」
「そ、そうかよ……ってか、どれくらい寝てたんだ俺、外真っ暗じゃねぇか!」
「八時間。よっぽど疲れていたようだな」
「そ、そんなに……!? いつもの三倍くらい寝てるじゃねぇか!」
オイオイオイ、限界すぎだろこいつ……
まぁいい、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「ほら、お前の探していた薬草だ」
「うわっ!」
しゅるるる、とカードを投げる時よろしく薬草を渡す。
ぱしっと受け取る布太梳モエ。
これ、ほんとに薬草なんだよな?
表面に書いてあるカードの名前とか効果テキストは模様なんだよな?
ライブラリが読み込んだりしないよな?
「……ありがとう。でも、そんな無茶しなくてもよかったんだぞ。すっげぇ高いところにあっただろ、これ」
「たまたま通りかかったにすぎん」
「いやそれは流石に無茶だろ……俺でもわかんぞ」
そっかぁ。
こほん。
本題に入ろう。
「――コレで解っただろう、俺がどれだけ効率の良い方法を教えても、お前はそれを使ってより大きな無茶をするだけだ。そしてどれだけ無茶をしても、この世から悩みが消えることはない」
「……っ! でも、放っておけないだろ!」
「それ自体は美徳だな。しかし、他人の悩みを強引に奪い取る今のお前の姿と合わさると、それは傲慢に変わる」
「ぐっ……」
自分でも自覚があるのだろう。
それでも、強迫観念にとらわれて布太梳モエは抜け出せなく成っている。
なんとも可哀想なことだ。
だからこそ俺は、道を舗装してやるだけでいい。
「そして、お前の解決方法は俺が効率化してもなお、未熟」
「なんだと!?」
「人を救うとはどういうことか、俺が教えてやろう」
「え……?」
というわけで、俺は布太梳モエに道を示すべく、怪しげに笑ってみせるのだった。
「……それ、本当に黒幕のやることか?」
「ええい、細かいことは気にするな!」
実に尤もな指摘を、聞かなかったことにしつつ。
■
『それでは、次のニュースです。
先日、新たに発表された「フワフワカード草量産成功」のニュースに関しまして、続報です。
フワフワカード草は、これまで高地の特殊なマナが育む環境でしか、成長しないとされてきました。
しかしそれを平地においても、ハウス栽培で環境を再現することに成功。
これまで山奥に自生したものを使うしか無かったのに対し、誰もが自由にフワフワカード草を使えるようになりました。
ですが、このフワフワカード草量産法は、かねてよりフワフワカード草を管理してきたフワフワカード草愛護団体が開発していたことが判明。
愛護団体は、自身の既得権益を守るためこの方法を隠匿。
開発に成功しそうな団体が存在すれば、襲撃しそれを妨害してきました。
今回、かの”黒幕”ヴェルライトによりその真実が暴露され、愛護団体はダークユーザーに認定。
ライトユーザーがこれを撃退したことが判明したのです。
詳しくは現場のリポーター――』
――俺と布太梳モエは、ライブラリのテレビ機能を使ってそのニュースを確認していた。
布太梳モエは、なんとも複雑そうな表情をしている。
「……なんか、ずりいな」
「ダークユーザーとは、そういうものだ」
「それはそうだけどよ……!」
「――そしてこれが、俺のやり方だ。危険を冒さねば手に入らぬ物は、危険を取り除いてしまえばいい。そうすれば、誰もお前の手を借りずとも目的を達成できる」
場所は、あの洞窟。
なんとなく、雰囲気が密会するのにちょうどいいという理由で、ここが俺達の集合場所になった。
どっちからいい出したわけではないんだけど、これもまたマナの導きというやつだろうか。
雰囲気は大事だ。
「ってか、特殊なマナの生み出し方も……なんかずるいだろ!」
「ここは俺の改良点だな。本来、愛護団体のやり方では、マナを生み出すためのデッキを用いてユーザーが延々とバトルし続ける必要があったが――」
テレビの方は、育成法について簡単に解説している。
俺の言う通り、愛護団体の方法はかなり面倒だったが、俺の提案によってそれが改善されているのだ。
「
「そうだけどよ……」
「まぁ、BOTを酷使しすぎて、BOTに自我が芽生えた結果反乱される生育者はでるだろうがな。定期的に入れ替えれば問題ないのだが、世の中にはそういう発想のないブラックな連中もいる」
「なんだよそれ……」
ともかく。
これが俺のやり方というわけだ。
他にも、色々と布太梳モエに俺は話していく。
「それで、試した結果はどうだった? ずいぶんと楽になっただろう」
「……っ」
布太梳モエは、片方の手でもう片方の手を掴み、視線をそらす。
なんかこう、色々といかがわしく感じられるポーズなのは気のせいか?
「お前が普段から相手をしている子供達の中から、お前が”似ている”と思った奴に、いいことを一つしたらパックを一つ渡すと伝える。簡単なことだろう」
「…………びっくりするくらい、成果がでたよ」
それは、布太梳モエの普段の人助けの負担を軽減する方法だ。
布太梳モエと”似ている”子ども――すなわち主人公の卵。
彼らは善良で、真っすぐで、そして行動力に満ちている。
困っている人がいればすぐに助け、いいことをするだろう。
これまで布太梳がやってきたようなことは、ほぼほぼ彼らが負担してくれる。
「でも、ずるいだろ、これ! カードパックはヴェルライトが用意したものだし、パックを上げるのは全員平等じゃない、贔屓だ! 何より……お前は俺を騙した!」
「ああ、そうだな。俺はいいことをしたらパックを渡せと言っただけだ」
熱血主人公は色々と単純(オブラート的な表現)なので、こうやって簡単に騙すことができるのだ。
それによって、自分の善行を彼らが負担するとは思ってもみなかったのだろう。
「コレが、お前の選択の結果だ」
「くっ……」
そしてなんか、黒幕感を出す俺。
これで黒幕感を出していくのか……
ともかく、最後の一押しだ。
「――だけど、
「なっ――」
「ちょっとした”ずる”で、物事を効率的に解決するのは」
その言葉に、ありありと布太梳モエは否定できないという表情をした。
掴んだ――後は、闇に引きずり落とすだけだ。
「人はこれを――裏ワザという。裏ワザはな、気持ちいいんだよ」
「そん……なの……っ!」
「それに君は本来、そういう裏ワザが嫌いじゃないんじゃないか?」
「えっ……!?」
「――でなきゃ、俺の配信なんて好んで見ないだろ」
裏ワザの気持ちよさは、陰湿デッキの気持ちよさに通じるところがある。
普通なら取らない行動、人が好んで使わないデッキで、人とは違うことをする優越感。
それこそが、裏ワザと陰湿デッキの肝。
「今の君は強迫観念に囚われ、自分で全てを成し遂げないとと思っている。しかし本来の君はそうじゃなかったはず。かつて俺がただバトルをしているだけの配信をしていた頃のお前の発言――俺は見ていたぞ」
「……それ、は」
「――なぁ」
さぁ、最後の仕上げだ。
「――俺の手を取れ、布太梳モエ」
「――――え」
そう言って、手を伸ばす。
この手を取れと、ささやきかける。
待っているのは、闇へと堕ちていく茨の道。
しかし、もう自分だけがどうにかしなきゃいけないという思いからは逃れられる。
だから俺は――
「
――そこにちょっとだけ、私欲を混ぜる。
だって、折角闇堕ちさせるんだから。
闇堕ちしたら、闇っぽいカードを使うのは定番だ。
すなわち――
「それって……陰湿カードを!?」
「そうだ! 君にはその資格がある!」
俺の配信のリスナーだった布太梳モエには、適性がある。
だから、お前を俺と同じ――陰湿デッキ使いにしてやるよぉ! 遊馬ァ!
あ、違った。
生真面目すぎる黒幕(?)がちょっとだけ見せる私欲……
死んでよ~