カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:マクロコスモス
俺は思うんだ。
人類は、本当は陰湿デッキが大好きなんじゃないかって。
だって使っててあんなに気持ちいいんだぞ?
そりゃ友人は無くすし、周囲から死んでよ〜と言われる。
でもその死んでよ〜が心地いいんだ。
最高のスパイスなんだ。
とはいえ、わかってはいる。
これは言うなれば純愛好きに「君、寝取られ好きの素質あるよ」と言うようなもの。
いやそれは普通に殺すしかないのでは?
殺すか……
こほん。
要するに、一般人に陰湿デッキを勧めるのはよろしくない。
でも、素質のある人間なら違うんじゃないか?
少なくとも、布太梳モエの場合は才能がある。
俺の配信を見てる稀有なリスナーであることもそうだが、実は使用デッキも結構先行して妨害を立てるタイプのデッキだ。
相性は悪くない。
なら……ちょっとくらい闇堕ちに際して、俺の好みを織り交ぜてしまっても……いいんじゃないか?
:死んでよ〜
はい……
あれ、なんか違和感あったな。
まぁいいかぁ。
「さて、気づいているかは知らんが、そもそもお前がこうして無茶をするようになったのはテンバイヤどもの策略だ」
「えっ」
じゃんじゃじゃーん!
今明かされる衝撃の真実ゥ!
「今からそれを、テンバイヤをボコすことで解決する」
「えっえっ」
あの後、布太梳モエは迷いながらも俺の手を振り払わなかった。
まだ完全にこちらへ堕ちたわけではないだろうが、ここまでくればもう殆ど堕ちているようなものだ。
なので俺は、布太梳モエに渡すカードを準備することにした。
手持ちのカードを渡してもいいのだが、それよりももっといい方法がある。
この世界のカードは運命によって惹き寄せられるのだ。
ならば、
「つ、つまり……俺が大変な思いをすればするほど、そいつらに力が取られるってことかよ!」
「ああ、だからこそ奴らはテンバイヤなのだ。この世に存在するべきではない染み。消さなくてはいけない欠陥そのもの。存在することが間違いでしかない連中だ」
「そうだな……」
あらん限りの語彙で罵倒したら普通に同意された……
まぁいいか、所詮テンバイヤだし。
「でも、どうやって探すんだよ。今まで、全然そんなふうにマナが取られてるとか、感じたこともなかったぞ」
「あいつらは、認知されないことで、自身の姿を隠しているんだ」
俺みたいなメタ的な認識がなければ、巧妙に隠された痕跡を見つけられない。
そして俺みたいなイレギュラーの前に姿を現すことはないのだ。
だからこそ、主人公の力が必要になる。
「布太梳モエ、君はマナを察知できるか?」
「い、いちおーできっけど」
「ならいい。一度、普段通りに人助けをしてみろ、そして人を助けた時に発生したマナから違和を感じ取るんだ。それがテンバイヤにつながっている」
よかった、探知できて。
まあできなかったら、できるように“覚醒”してもらうだけなんだけど。
主人公だからな、ちょっと危険に放り込めば勝手に覚醒するのだ。
ただいくらなんでもこのお労しい布太梳モエに、これ以上危険を冒してほしくはない。
俺にもそれくらいの情はある。
と言うわけで、問題は解決したため、俺たちはテンバイヤを追いかけることとなった。
■
それから、俺と布太梳モエはマナを探知しつつ人助けを行った。
もうなんというか、数歩歩けば困っている人に出くわすレベルで、布太梳モエはトラブルを引き寄せる。
一時間のうちに三件ほど事件を解決し、それですぐに布太梳モエはコツを掴んだようだ。
「そうして違和感のあるマナを集めていけ。そうすれば、奴らが眼の前に顕現する」
『……わかったよ、やってみる』
未だに布太梳モエには迷いが見えるが、それでももう俺の言葉を疑うことはない。
これまでずっと、俺の言葉が真実であると刷り込み続けてきたのだ。
自分では考えているつもりでも、実際には俺の手足と化してしまっている。
くくく……布太梳モエが闇堕ちするのももうまもなくだ……
『……なんかさ、こうやってアンタの手足になってると、すっごく気が楽なんだよ。今までみたいに、ああしなきゃ、こうしなきゃって急かしてくる自分がいないんだ……あはは、こんなに気楽な気分になるのって、いつぶりだろ……』
「そうか……」
もういい……休め……!
コレが終わったら、闇堕ちできるから、後少しだから!
こほん。
「――どうやら、集まったようだな」
「……うん」
ちなみに、ここまで俺と布太梳モエは少し離れた場所で、ライブラリを通して通信をしていた。
集まったのを確認して、今は俺が布太梳モエの眼の前までやってきている。
そうしないと単純に俺が不審者すぎるからな……
「この後は、どうすればいいの?」
「まぁ見ていろ、この間やったように、マナを用いてモンスターを降臨させるようなイメージで……」
俺はマナに手をかざし――すると、マナから黒い光がごおっと溢れ始めた。
それらは俺達の眼の前で形をなし――一言で言うと、黒い鼠のシルエットに変化する。
俺達の腰辺りまでの大きさの鼠だ。
ハハッ。
……じゃないぞ? 普通の鼠である。
ただし、手にはライブラリが装着されていた。
『――――ジジ! ジジ! 見つかった! 見つかった! 排除する! 排除する!』
「……っ、これは!」
「ダークユーザー特有の強制バトルだ。アンティも当然発生するぞ!」
今回は俺が対応するため、布太梳モエを下がらせる。
そして――
「アンティだ! 俺が勝ったら貴様をカードとして捕獲する!」
『ボチュが勝ったら、お前をカードにする! ジジジ! ヴェルライトをカードとして献上すれば、大手柄だ!』
「――マギロアバトル、エンチャント!」
『エンチャント!』
――バトルが始まった。
先行は俺だ。
今回は後攻でも先行でも対応できるようにしてあるが……よし、先行ならコレだな。
「俺のターン!」
俺は何体かモンスターを降臨させ、準備を整える。
「現われろ! “アイス・ガーディアン・ドラゴン イージス”!」
そうして呼び出したのは、盾のような両手を持つ一匹の竜。
「“イージス”の降臨時効果! 手札、フィールドのカードを一枚ずつ破壊する! フィールドにカードは存在しないが、手札は破壊させてもらうぞ!」
『ジジ!?』
両手の盾からミサイルが発射され、手札とフィールドに着弾。
片方は不発だが、手札は失われた。
『だ、だが、一枚手札を削ったところで……!』
「俺は墓地の“無限獄卒 レッド・オーガ”の効果を使用! 自分のフィールドの異界降臨モンスターを手札に戻し、特殊降臨!」
異界降臨……エクストラなデッキから行う特殊降臨全般を指す。
つまり戻すのは、“イージス”だ。
「エースを戻した!?」
『ジジ! 折角のエースを、実にもったいない』
「そうかな? エースを戻したってことは――」
俺は、さらにカードを使用しながら告げる。
「もう一度、あいつを場に呼び出せるってことだぞ? ――お前の手札が全てなくなるまで」
「あ――――」
『ジジジ――!?』
その言葉に、黒い鼠はあきらかに恐怖に顔を引きつらせ――次のターン、何も出来ずにターンを終了した。
■
「さて、俺の勝ちだな」
『ジジジ! おのれぇええええ!』
黒い鼠が消滅し、後には一枚のカードが残る。
それは、表面に何も描かれていないカードだった。
「これは……カードが誕生しようとしている?」
「そうだ。このカードに初めて触れた人間に反応して、カードが形成される」
この世界では、比較的ありふれたカードの入手方法である。
主人公であれば、経験するのは初めてではないだろう。
ただし――
「ただし、そのカードを手にすれば――お前はもう、後戻りできなくなるぞ」
「……解ってるよ」
俺の言葉に、布太梳モエはためらうことなく頷いた。
迷いが消えている。
きっかけは……俺のバトルか? どうやら、アレがはからずも最後の一押しになったようだ。
というか、迷いが消えているどころか――
「これが俺の……俺のために――」
――――
「
……ん?
今なんか……
とか思っていたら、布太梳モエはカードを手に取った。
白い光が溢れ、布太梳モエの姿に変化が見られる。
そして、カードにもモンスターとその名前、効果テキストが記された。
近くにいる俺にも、その効果テキストが目に入る。
ユーザー特有の超視力で確認するとそこにはこう書かれていた。
攻撃力は主人公のエースに相応しい打点で、特定条件でフィールドのモンスターを手札に戻し、特定条件で手札からモンスターを降臨し――――
……またやべーカードを生成したな?
由緒正しい主人公のエースカードです、大切に使ってあげてくださいね。