カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:マクロコスモス
始まりは、純粋な好奇心だった。
たまたま視界に入り込んだ配信中のサムネイル。
同接も少なく、見る理由もそんなにない。
だけどたまたま布太梳モエはその画面をタップして――そして、見た。
人とは違うファイトをしている奴がいる。
異次元ゾーンへの除外を利用したり、通常降臨を利用したり。
保管庫利用を封じたり、特殊降臨を封じたり。
一般的には、陰湿と呼ばれるようなカード群。
それらを嬉々として振り回しながら、数少ないリスナーに「死んでよ~」と挨拶されつつ気にした素振りもない。
変わったやつだ。
名を――ヴェルライト。
それが、後に黒幕と呼ばれ、世間を震撼させる男と布太梳モエの出会いだった。
「なぁ、どうしてこんなことをするんだよ」
「こんなこと?」
「悪事を暴露したり、テンバイヤを引きずり出したり……俺をこうして導くこともそうだ」
そんなヴェルライトが現実で自身の前に現れ、干渉してきた。
理由は、自分がヴェルライトのリスナーだったから。
理不尽といえば理不尽で、必然といえば必然的な理由。
だから問いかけたのだ。
どうして、こんなことをするのか、と。
「どうしてって――楽しいからだよ」
「……楽しい?」
正直言って、理解できなかった。
全てを操って、時には世界中を敵に回して。
負ければどんなひどい目に遭うかもわからない。
少なくとも、テンバイヤを引きずり出した時。
一つでもボタンをかけちがっていたら、こいつは地獄に落ちていたんじゃないか?
そう思ってしまうくらい危うい行動を、まるでただの娯楽のように言ってのける。
「人の嫌がる顔を見るのが好きだ。人と違うことをするのが好きだ。人を嘲笑って勝ち誇るのが好きだ。――それが悪人であれば、なおのこと愉快な気分になれる」
「最ッ低だな」
「ああ、最低だ。しかし――俺はこれでも配慮をしているつもりだぞ?」
「……配慮?」
一体何を配慮するというのか。
「俺が行動を起こすのは、そこに悪がいるからだ。あるいは――君のように、本当の望みを心の底にずっと秘めたままでいる人間を前にした時だ」
「……本当の、望み」
何をバカなことを、と思う。
それに、配慮しているのなら子どもを泣かすようなことを、部下に命令するんじゃない。
どちらにしろ、最低だ。
ヴェルライトは偶然だと言うが、偶然で人を傷つける可能性があるなら、それも決して善じゃない。
「善じゃない? 実に結構。俺は生まれてこの方、常に死を望まれ続けてきたからな。俺は
「どう考えても望んだからだろ、でなきゃあそこまで生き生きと陰湿デッキは回せない!」
「まぁ、確かに俺は望んでいるが――きっと運命は、望んでいなくとも俺にこのカードたちを与えていただろう」
それは、そうだろう。
カードは人の好みに惹き寄せられるんじゃない。
その人間の本質に惹き寄せられるのだ。
どれだけ本人が誠実に生きようと思っていても、本質的に陰湿デッキを使うのが最善なら、運命は陰湿デッキをあてがう。
やりたいことに対して適性があっていない、というのは人間ならば往々にして起きるものだ。
――布太梳モエが、そうであるように。
「であれば、それを精一杯楽しむしかないだろう? 運命が最初から決まっているのなら、その運命の中で如何に楽しく生きるのか。重要なのは結果ではなく、過程だ」
「……結果ではなく、過程」
布太梳モエは、自分の守りたいと思う全ての人を守りたかった。
しかし直情的で眼の前のことにしか意識が向かない彼女は、今眼の前に起きている事件を解決することは得意だが、それ以外のことに対する視野が狭くなりがちだ。
そのせいで、大切な人を何度カードにされてきたことか。
何度、守りたかったものを手からこぼれ落ちさせてきたことか。
だから、こうして自分を犠牲に全てを救うことにしたのだ。
たとえどれだけ、周りからそれを咎められようと。
守れるのは、自分しかいないのだから。
――そんな時現れたのが、ヴェルライトだった。
全てを見透かしたかのようにヴェルライトは語る。
自分でも自覚していない、自分の迷い。
それを詳らかにし、そして突きつけてきた。
それは無茶だ――と。
少なくとも、普通の方法で布太梳モエの悩みを解決することは不可能だと、彼は証明した。
時間がいくらあっても足りないのだ。
だから、言う。
人を使え、と。
最初のうちは騙された気分だった。
しかし、布太梳モエのやり方とはまったく違う方法で、自分以上の成果を上げるヴェルライト。
悔しいけれど、その手腕は本物だ。
そんな彼に、手を取れと言われた時。
布太梳モエは――嬉しくなってしまった。
どうしてか、理由はすぐに分かった。
ヴェルライトの手足となって、彼の言われるがままに行動している最中。
彼女は――楽しかったのだ。
そう、楽しかった。
自分で考える必要もなく、それでいて物事が順調に進む状況。
楽で、そして楽しい。
今まで、布太梳モエは足りない頭を足りないなりに動かして、自分の力で運命を切り開いてきた。
だけど実際は、一つの大きな力を動かす歯車となって、余計なことは考えずその場でできることをするほうが彼女には向いていたんだろう。
それが、今、ようやくわかった。
――羨ましかったんだ。
何が?
彼らは自身の効果という限られた手段で、ヴェルライトの指揮の元縦横無尽にバトルしていた。
ああいう風に、なりたかったんだろう。
自身を最善に
だから布太梳モエは、ずっとあの配信を見続けていたんだ。
そして今闇に堕ちた――あるいは、光に目覚めた――布太梳モエは、テンバイヤの手先とバトルしていた。
先ほどヴェルライトが始末してみせた、黒い鼠。
それを再び、マナの中から探し出し、今度は布太梳モエがそれを倒す。
上司がやってみせ、それを今度は部下がやる。
バイトの研修みたいだ、今までこれを自分はやってこなかったんだな。
……なんて、場違いなことを思いながら。
「――“メタルテック・フレイムヘッジ・ドラゴン”の効果により、“メタルテック・タートル”を特殊降臨!」
『ジジ、ジジジ! やめろ、やめろ!! 貴様、まだ
「……それが、どうしたっていうんだぁ?」
そしてバトルは、既に最終局面に入っていた。
新たに手に入れた“メタルテック・フレイムヘッジ・ドラゴン”により、ループを組んだ布太梳モエが先行ワンキルを決めようとしている。
『それに、なんだその姿はぁああ!
「――あはっ♡」
――布太梳モエの姿は、先程までとは大きく異なっていた。
衣装はどこか露出が激しくなり、顔つきも少し淫靡になっている。
なにより露出した腹の辺りに、何やらマークが発生しており――
ちょっと、ホビアニでは描写しちゃいけないタイプの悪堕ちを果たしていた。
いやなんか……こういう悪堕ちホビアニで見たな……いやホビアニじゃなくてカード筐体だっけ? とか現実逃避気味にヴェルライトが考えていることを、この場にいる他の者は知らない。
「俺は、ご主人様に教えてもらったんだぁ♡」
『な、何を……』
「思うがままに全てを巧くことを運ぶためには、
『ジジ……!』
「相手に何もさせず、先行で片を付ければ――もう、何も考える必要がないだろぉ?」
そうだ。
自分が何も考えず手足となればいいと悟ったように。
使えるものは手足とし、使えないものは何もさせなければいい。
そうすれば――
「ご主人様ぁ♡ 俺、決めたよ! 使えるものは何でも使って、俺は俺の理想を体現する! ご主人様が俺を使いたいなら、俺は喜んで手足になる!」
そして――
「“メタルテック・タートル”の効果で“フレイムヘッジ”を保管庫へ! そしてその攻撃力の半分のダメージを……くらええええええ!」
『ジジ――――!』
何もさせずに、布太梳モエは黒い鼠を退治した。
消滅する寸前、鼠は彼女に問いかける。
『ジ、ジジ! ……こ、後攻になったら……どうするつもりだ』
その問いに、布太梳モエは、とてもとても妖艶な笑みを浮かべて――
「それは――その時また、きっとご主人様が考えてくれるよ♡」
――思考を放棄し、その身の全てをヴェルライトに委ねた。
■
「――モエ!」
全てが終わったと思った、その時だった。
不意に少女の声が、バトルをしていた路地裏に響く。
クールな印象のスレンダーな少女。
「あはっ♡ 来たんだぁ――シオン」
「君が……怪しげな奴と行動をともにしていると聞いて、探したんだ……それで、やっと……みつけて……」
シオン。
布太梳モエのライバルにして――無二の親友。
「……なんだその格好は、ハレンチすぎるぞ」
「そぉか? 俺は似合ってると思うんだけど……」
「それに、隣にいるのは――ヴェルライト!? そうか、お前が……!」
「あーいや、衣装は別に何もしてないっていうか……いや俺が原因なのはそうなんだが、抗弁はしたいというか……」
睨むシオンに、ヴェルライトは何やらぶつぶつつぶやいている。
要領を得ないので、スルーしてシオンは布太梳モエに視線を向けた。
「君の纏うマナ……それは危険だ、手放したほうがいい!」
「危険でも――俺はずっとこれを求めてたんだよ。だから、嫌だ」
「それは……」
「――じゃあな、シオン。俺はこれから――ご主人様のモノになるんだ♡」
「なっ――」
艷のある笑みを浮かべたモエと、顔を真っ赤にするシオン。
あらぬ誤解――否、どう考えても誤解ではない――に内心頭を抱えるヴェルライト。
そして――
「じゃあな、シオン」
「モエ! 待つんだ。モエ――――ッ!」
布太梳モエは、闇へと消えていく。
なんかちょっと思った方向とは違う方向に覚醒したなぁ、と考えるヴェルライトと共に。
後には、一人シオンだけが残された――
なんだその、しれっとテーマ名称が与えられたカタパルトな亀は。
というわけで闇落ちの話は一旦ここまで、次回からはまた別のお話。
面白いと思っていただけた方は、高評価いただけると励みになります。
よろしく願いいたします。