カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:マクロコスモス
そこは、真っ黒な場所。
一面に広がる闇。
何もない空間をそのまま出力したかのような場所は、ここ最近「テンバイヤ」と呼ばれている組織の拠点の一つ。
空間と空間の間、組織の人間しか入り込めない場所である。
そこで、二つのシルエットが頭を抱えていた。
真っ黒な空間に、真っ黒なシルエット、見づらい。
「どうしたものかのう……」
「まさかこのようなことになるとは……」
原因は、言うまでもなく自分たちの存在が、世間に知られてしまったこと。
これまで、何千年もの間彼らは存在を知られることなく、この世界で暗躍し続けてきたのだ。
だというのに、どうして”アレ”は自分たちの存在にたどり着いた?
何より最悪なのは、その引き金を引いてしまったのが自分たち一派であること。
この組織は、複数の派閥からなる組織なのだ。
「……他の派閥からの突き上げが厳しいのう。すぐにでもあの男を始末しろ……と言っておるのじゃ」
「気持ちはわかります。しかしだからといってどうすればいいのですか……」
シルエットの一つは、爺口調、もう一つは何故かメガネをかけているかどうか不明なのに、メガネをかけていると声だけで理解できてしまう口調。
仮に片方をジジイ、もう片方をメガネと呼称する。
「だって、思わないでしょう」
そして彼らが頭を抱えている一番の原因は、存在が知られてしまったこと。
――ではない。
「まさか、我々の中で一番強い彼が、バトルすらできず消滅してしまうなど――」
はい。
「奴は我々の中で最強です」
「しかもリーダーシップもあり、策謀も得意で、飲み会の幹事もこなし、書類業務も完璧。奴ほど頼りになる存在はそういまい……」
「どうすれば彼をカードとして降臨させ、相性最悪のデッキに飼い殺しさせるとか、そんな非道なことを思いつけるのです、奴は!」
「せめて……せめてバトルくらいはさせてやってほしかったのう……」
この派閥は、実質既に消滅した”彼”の存在によって成り立っていると言っても、まったく過言ではない。
だというのにそんな彼がバトルすらできず消滅した。
しかも、彼の行った策が原因で自分たちの存在を暴露されてしまったのだ。
他の派閥からすれば、今回の件は完全にジジイとメガネの派閥が原因だろう。
――そして、それは何一つ間違ってはいない。
本当に、どうしたものだろうか、これは。
「そして最近、儂のカワイイ鼠達まで、”奴”に狩られとるというではないか。奴め、天命に選ばれし者を手駒に加えたようじゃ」
「ああ、なんと可哀想な……!」
天命に選ばれし者、すなわち主人公のことである。
ジジイとメガネが責任の擦り付け合いをしている間に、向こうが動きを見せたのだ。
それに対し、メガネは悲痛とも言える叫びをあげた。
「どうして天命の者に、そのような非道なことをするのです! 彼らは四六時中正義について考えさせ、死ぬまで運命の奴隷とするのが正しい在り方だというのに!」
「睡眠時間三時間で働かせただけなのに、なぜあのような扱いを受けねばならんのじゃ!」
死んだほうがいい発言だ。
「我々の善意を、何故彼らは享受しないのでしょう。あまつさえそれをテンバイヤ呼ばわり、ふざけているにもほどがあります」
「まったくじゃのう。これだから人間という存在は無知で蒙昧なのじゃ。我々が導き、救ってやらねばならん」
もういい黙れ、と言われそうな発言だ。
「――ゆえにこそ、我らは我らの正義を貫かねばならぬ!」
「今こそ、動く時ですね」
「我が派閥の主はもうおらぬ! 我らが乗るは泥舟! さりとて、降りるわけには行かぬのだ!」
「我々が、我々であるが故に!」
そうして二人は互いの意思を確認すると、最後の作戦会議にはいる。
ここまで、準備を終えるのに手間取ってしまった。
その間に配下の鼠が襲撃を受け、彼らは損害を被りつつある。
ここを逃せば、もはや彼らにこの状況をひっくり返す手段はないだろう。
故の、乾坤一擲。
「儂が持ちうる全てのマナを総動員し、ダークユーザーの中でも指折りの実力者である”マギロア・キラー”を奴の活動が報告されている地域に惹き寄せた」
「おお、成功されましたか!」
「うむ、マギロア・キラーのバトルにおける腕前は、派閥の主たる彼の者にも匹敵する。これで、失われたユーザーとしての実力を補うのじゃ」
マギロア・キラー。
近年最大にして最悪のダークユーザーとも言われる。
特徴としては、組織に所属しないダークユーザーで、その中では最強とすら謳われる実力者だ。
気に入ったものをバトルで刈り取り、コレクションすることを至上の楽しみとしている。
中でも、とあるライトユーザー組織の構成員がまとめてバトルを挑んできた際、一対多の状況で一度もライフを削られることなく勝利してみせたという。
間違いなく、かのヴェルライトとて苦戦を強いられる強敵のはずだ。
この派閥の主は油断と、マナの中に潜むという特性が重なって、カードとして降臨することとなってしまった。
しかし人間ならば、そのような失敗をする可能性も低い。
「儂の保有するマナも、マギロア・キラーの招集により枯渇しつつある。鼠達が狩られるようになり、もはや補充する手段が乏しいのだ。だからこそ、儂もまた
「期待しております」
彼らはテンバイヤだ。
本来ならば必要のないマナの徴収を行い、さらには人々に負担を押し付け自分たちは都合の良い部分だけを手にする連中だ。
それでも、自分たちが運命を操作し、この世界を掌の上で転がす存在であるという自負はある。
伊達や酔狂で、テンバイヤをやっているわけではない。
自身の使命のためなら、命を燃やすことも、何とも思わないのである。
それはそれとして、死ねとしか言いようのない存在であるだけで。
「それに、奴は非常に恐ろしい男じゃ。配信では年がら年中陰湿デッキをぶん回し、リスナーからは常に死を願われておる」
「恐ろしいですね……」
「こちらの用意した策を乗っ取るという形で利用し、あまつさえ自分への悪印象を、我らへの悪印象で塗りつぶすなど、正気の沙汰ではない。普通ああいう運命を辿ったら、禍根が後々まで残るものじゃろうに」
ジジイとメガネは、ヴェルライトに対して危機感を募らせる。
「はい、市民に嫌われたらその後挽回しても、賛否が分かれるのが普通です。一度ついた悪評をああもあっさり拭ってしまうとは……」
「何より、ここ最近は天命の者をたぶらかし、いかがわしい格好をさせ連れ回しておる! あのようなやつを放って置くわけには行かぬ!」
それはそう。
「しかし仮にもし、万が一、ありえない話ではあるが、儂が敗北した時。その敗北は必ずやお主の助けとなるはずじゃ」
「それは……」
「億が一にもありえない可能性だろうと、そのありえない可能性によって派閥の主が敗れた以上、儂は油断することはない。そのうえで、もし儂が負けたのなら――」
そして、どこか慈しむようにしながら――
「お主が、儂を礎とせよ」
「……!」
「命とは、運命とは、未来につながるものなのだ。それを手繰り、導くのが我らの使命。であるなら、儂がお主を導いてもよいじゃろう?」
「……ええ、ええ!」
どこか、互いに覚悟を決めた様子でうなずき合う。
その姿は、まさに風格溢れるライトユーザーそのもの。
意志を受け継ぎ、繋いでいく。
その言葉自体は、とても正しい発言だった。
まぁ、彼らは結局のところその意志を自由自在に捻じ曲げて、自分たちの好き勝手に操り、それを当然と言って憚らない連中なのだが。
他人に必要のない苦労を押し付けて、それによって得られた成長を導きのおかげだと嘯き、さらには成長によって発生した副産物を懐に入れるカス以外の何者でもないのだが。
この世に存在してはならない異物、間違い以外に他ならないのだが――
「では、征くぞ!」
「はい!」
「天命をあるべき姿に!」
「天命をあるべき姿に!」
彼らは高らかに自身の組織の名を口にする。
「天命媒介を導く者たちの夜会に栄光を!」
「天命媒介を導く者たちの夜会に栄光を!」
後に、ながったらしくてしゃらくさいから略してテンバイヤでいいだろ、と切って捨てられる組織の者たちは、かくしてさらなる暗躍を開始するのだった。
辛辣地の文さん!
次回から新展開です。
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