カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:マクロコスモス
テンバイヤが世界にその存在を知られてから、かれこれ一か月。
俺が布太梳モエを闇落ちさせている間も、ヴェルライトの活動は続いている。
昼は大学に通いつつ布太梳モエにちょっかいをかけ、夜は適当に暴露配信をする感じだな。
暴露する相手には事欠かない世界だ。
それもこれもテンバイヤがマナ回収のために、火種をばらまきまくってるのが悪い。
とはいえ、暴露する相手を見繕う時間は正直、ない。
布太梳モエを闇堕ちさせるのもそうだが、ほかにもやることがあったからだ。
適当に悪い奴がいたら、それがメタ的にどういう存在かを考察して、正体を言い当てているだけだ。
なんなら考察相手の正体に見当がついてないことすらあるぞ。
しかし、それで問題はないのだ。
「さて、次はどうするかな」
俺は現在、ライブラリを使ってネット上から情報を集めていた。
布太梳モエを闇落ちさせたことで、一つ目の布石が終わったのが現在。
彼女には鼠退治を任せている。
その結果がどうなるかは、これからのお楽しみ。
まあ……一旦これは置いておこう。
俺もどうしようか迷って……もとい、この件には時間が必要だからだ。
目をそらしたいわけじゃないよ、うん。
あの衣装は目に毒だけど。
こほん。
とにかく今は、次の布石を打ってテンバイヤをたたく。
そのためのある”仕込み”をするための情報集めだ。
で、何をしているのかといえば――
『しかしヴェルライトのとんでもないところは、すべての暴露につながりがあるってことだよな。
テンバイヤを表舞台に引きずり出した時も、事前にテンバイヤの介入を確認するためのテストをしてたし。
今だって、一見すると何の関係もないように見える暴露が、よく見ると全部古参のダークユーザー組織につながってるんだ。
札闇武会って聞いたことあるかもしれないけど、何百年も前からこの国の裏側で暗躍するダークユーザーがいるんだけど、ヴェルライトの潰した組織って全部ここの取引先なんだよな。
つまり、ヴェルライトは札闇武会を少しずつ、真綿で首を締めるように追い詰めてるんだよ』
たとえば、俺はSNSでこんな書き込みを発見して、つぶやく。
「へぇー、ヴェルライトってそんなこと考えてたのかぁ」
マジかよ、びっくりだよ俺。
黒幕さんそこまで考えてないと思うよ。
なんてこと言うの多田敷くん。
どういうことかといえば、簡単。
俺はテンバイヤの暴露以降、無秩序に暴露配信をしてきた。
そこに思想的な意図や狙いはなく、とりあえず適当に悪をさばきましたってだけだ。
けど、そんなことをリスナーや一般市民が知るはずもない。
だから彼らは考察する。
俺の意図を探ろうとするのだ。
次に打つ一手は、俺の暴露に対する説得力が必要だ。
しかしその説得力をどうこねくり回すか考えている時間はないので、ほかのやつらに考えてもらったわけ。
いやぁ我ながら悪い黒幕ですまんね。
:死んでよ~(幻聴)
うーん、幻聴が心地よい。
これだから暴露はやめらんねーぜ!
というわけで、さっそくこの考察をもとに、札闇武会には消えてもらおう。
これから俺が起こす事件のための――
■
アルカナ・クランのメンバー、ジャスティスはその日も事件の対応に追われていた。
ヴェルライトが登場してからというものの、彼の暴露配信によって多くの悪が裁かれている。
これは民衆にとってはよいことなのだが、治安維持を担当する警察やライトユーザーにとっては一大事だ。
何せめちゃくちゃ忙しい。
こんなにも忙しいのはアルカナ・クランとしては初めてのことで、メンバーは各地を飛び回っている。
唯一、ジャスティスだけはクランの本拠地がある屋敷に残って、周辺の事件を担当していた。
何しろこの本拠地の近くで、初めてヴェルライトが世界にその姿をさらしたのだ。
多くのヴェルライト信者もこの場所に注目を集めており、また情報収集のためか各地のダークユーザーも偵察を派遣している。
「やっちゃって! <マジカルバトルホッパー・ライナーガール>!」
「ぐああああ!」
今日も、ジャスティスは偵察をバトルでぼこぼこにしていた。
電車をモチーフにした、魔法少女と呼ぶには若干プロテクターがゴテゴテしている少女の蹴りがダークユーザーを打ち抜き、ダークユーザーは爆散。
いや、一応生きているのだが、動くことはできないだろう。
ジャスティスはそれをささっと捕縛すると、警察に通報。
ライトユーザーの役割はカードバトルでダークユーザーを制圧するまで。
それ以降は、警察の領分だ。
「……はぁ、これで今日四件目。まだ昼前だっていうのに、数多すぎだよ」
と、そこで通信。
相手はハイエロファントことハロ……いや、今は”教皇”と呼ぶべきか。
で、出てみると何やら後ろですさまじい歓声が聞こえる環境から、教皇は電話をかけてきていた。
「はーい、どうしたの?」
『あ、ジャスティス。お久しぶりです!』
「うんお久しぶり……ってなんか、そっちうるさいね……どうしたの」
ハロこと教皇と電話で直接連絡を取るのは久しぶりだ。
彼女はここ最近、教皇として熱心にヴェルライトの情報を追い続けている。
やっていることはネット中をエゴサしまくっているダメなオタクのそれなのだが、手に入る情報は馬鹿にならない。
何しろ教皇は現在、ヴェルライト信者の中でも最も有名な信者。
同じ信者から情報提供を受けるのに、最適な立場といえる。
なので、電子上における文章でのやり取りは綿密に行っているのだが、わざわざ電話をかけてくるとなると稀な事態だ。
何があったのだろう。
『じ、実は今……ヴェルライトの扇動で信者達が札闇武会に襲撃をかけることになってまして!』
「え!? そんな情報きいてないよ!? っていうか、無茶すぎるでしょ! 止めなきゃ!」
『慌てて私も現場に駆けつけて、今から介入するところなのです!』
「そもそも札闇武会の拠点を見つけたってこと!? 今まで全然見つからなかったのに!」
恐ろしきは、ヴェルライトの情報収集能力。
実際にはメタ的に考えて、この地形終盤の決戦に映えそうだよな……という場所を割り出してそこを起点に調査をしているだけなのだが。
まぁ、さすがにそんな調査方法をしている人間がいると想像するのは無茶な話である。
ともあれ、場所はジャスティスの活動している近くだ。
だからこそハロもジャスティスに連絡を取ったのだろう。
急いでジャスティスはバイクにまたがると、目的地に向かって移動を開始した。
■
移動中にクランメンバーへ調査を依頼。
目的地に到着したタイミングで、結果が出た。
これにより、ジャスティスはヴェルライトのこれまでの暴露が闇札武会を追い詰めるための布石なのだと理解。
「そりゃ、取引先を少しずつ削っていったら闇札武会も自分たちが追い詰められてるって気付きにくいし、気付いたら行動を起こすよね。そして、状況的にどうしても焦ってるから、そこを信者たちに攻撃させる……と」
まったくもって用意周到だ。
後からハロによって送られてきた情報によると、集められた信者も実力者ぞろいらしい。
ハロが教皇として活動するなかで、注目していたユーザーばかりが集められているそうだ。
ともかく、到着したジャスティスは、ヘルメットをとって現場のほうに視線を向ける。
その時――拠点と目される場所が
「なっ……!」
一体何が起きたのか、慌ててジャスティスはそちらに向かう。
すると、上空を何かが飛んでいく。
「どひーーー!」
見上げるとそれは、おそらくヴェルライトの信者だろうユーザーだ。
実力のあるユーザーは爆発で吹き飛ばされてもそう簡単には死なない。
何故かごくまれにあっさり死んでしまう場合もあるが、あの吹き飛び方なら問題ないだろう。
今はスルーして先に進むと、そこには木っ端みじんとなった拠点の跡地があった。
周囲には黒服の男たちとヴェルライトグッズに身を包んだ者たちが倒れている。
中には、教皇ことハロの姿もあった。
全員服はボロボロだが、傷はない。
意識を失っているだけのようだ。
しかし、その中に一人だけ――無傷で立っている者がいた。
それは、地味な雰囲気の青年だ。
コートを羽織り、サングラスで目元を隠している。
雰囲気からして、変身したライトユーザーかダークユーザーだ。
「こ、これは一体……」
「ああ、来ましたね? ライトユーザーの方ですよね」
「う、うん……アルカナ・クラン所属のジャスティス……だよ」
「おお、あなたが。お初お目にかかります。俺はトゥルーホープ、ライトユーザーです」
「トゥルーホープ? 聞いたことない名前だね」
「ライトユーザーになったばかりの新人ですから」
いいながら、ライブラリを使ってライトユーザーとしての登録ライセンスを見せてくるトゥルーホープ。
どうやらライセンスは本物のようで、ライブラリの上にホログラムでライセンス証が表示されていた。
「それで、これはいったいどういうことなの?」
「ああ、これですか」
しかし、続けてトゥルーホープはとんでもないことをいう。
「
「――は?」
なんて言った? こいつ。
「俺が到着したとき、ヴェルライトの信者たちと闇札武会の構成員はバトルを行っていたんです。彼らのマナの量を見る限り、爆弾で吹っ飛ばしても死にはしません」
「だ、だから吹っ飛ばしたっていうの!? 何だってそんな……!」
こいつ……厄介なタイプのライトユーザーだ。
ジャスティスは警戒を強めた。
ライトユーザーの中には、強引な方法で事件を解決しようとする輩が時折現れる。
今目の前のトゥルーホープのように。
そんな奴にライセンス渡すんじゃねえ、と思うがライトユーザーは万年人手不足。
悪を許さない正義の心を数値化し、それが一定量を超えれば過激なユーザーでも資格を手に入れることができてしまう。
ヴェルライトがライトユーザー資格を手に入れることに同意していれば、問題なくライトユーザー資格を手に入れられるくらいには。
まぁ、それ以外にもバトルの実力やら筆記試験やらが必要だが。
ともあれ、それでもジャスティスは問わずにはいられない。
「ど、どうしてそんなことをしたの!?」
「そうですね、理由はいろいろありますが、あえて一言で言うなら――」
それに対して、トゥルーホープはいたって落ち着いた様子で語る。
「――良かれと思って、ですかね」
かくして、ジャスティスとトゥルーホープ――に変装したヴェルライトはこうして邂逅した。
ここに新たなヴェルライトの暗躍が始まる。
その行く末を知るものは――はたして。
登場人物にこの後の流れがわかる人はほぼいないのに、何故か読者は一瞬で理解できるトゥルーホープの今後の行動。
不思議ですねぇ。
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