カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:暁刀魚
――ハイエロファントがそこにいたのは、偶然だった。
ここ最近、自分と信者を爆発させていたのがトゥルーホープを名乗るヴェルライトだったと、先日の戦いでハイエロファントは知ったのだ。
何故かヴェルライトがジャスティスとあんなことやこんな事をしていたことについて、脳みそが一度爆発したものの、すぐに再生したハイエロファントは悟る。
きっと、ヴェルライトは次の一手を打つはずだ。
だからテントを張って、例の屋上に張り込んでいた。
ヴェルライトが事件を起こす時、決まって例のビルの屋上が舞台になる。
それから世間では、ムキムキ小学生がどうとかよくわからない事件が起きたそうだが、ハイエロファントには関係ない。
ただただ待ち続けて、待ち続けて、待ち続けて――
そして誰かがビルにやってきたと感知した瞬間、ハイエロファントはビルに向けて飛翔した。
――結果、テンバイヤの一味と出くわしたのである。
「何故ここがバレているのですかあああああ!」
「なんでヴェルライト様じゃないんですかあああああああ!」
二人は同時に叫んだ。
どうして――――
「私がこれから行動を起こそうとしているのを、読んでいたというのですか!?」
「ここで待っていれば、ヴェルライト様が来てくださると思っていたのに……!」
これから事件を起こそうとしているテンバイヤ。
あまりにもヴェルライトを狂信しすぎた結果、ある種のメタ読み染みた境地に到達したハイエロファント。
本来なら交わるはずのない二つが、不運にも交通事故をおこしてしまったがゆえの事態であった。
「く、まあいいでしょう……ここにいるのがヴェルライトでなければ、何ら問題はありません」
さて、ともあれハイエロファントの前に現れたのは、先日出くわした鼠の男と同じ黒い影。
背丈は鼠爺よりも高く、シュッとしていてイケメンな雰囲気がある。
なんというか、蛇のような男だ。
狡猾で、それでいて用心深い。
だが、何よりもこの男を一言で表現できる言葉があった。
それは――
「――それにしてもこの人、黒ずくめで顔なんて一切わからないのに、明らかにメガネをかけてる声をしていますッ」
「何を言っているのですか、貴方は」
メガネをかけている声。
そうとしか言えない声を、蛇のような男はしていた。
「ええい、狂人の相手をしている暇はありません。消えていただきましょうか、ハイエロファント……いえ、教皇と言ったほうがいいですか?」
「私のことを……把握しているのですね」
「ふん、我々は天命を司るもの、この世界のありとあらゆる事象は我らの掌の上――」
「ヴェルライト様に、いいようにされていますよね?」
「だまりなさい!」
インテリメガネが青筋をたててメガネを白く曇らせるような声音で叫びながら、蛇のような男――もう蛇男でいいや――は続ける。
「第一、貴方のようなまがい物が、ヴェルライトのためだなどと、片腹痛い」
「……何がいいたいのです?」
「先日、鼠の翁との戦いで、貴方はヴェルライトに踏み台とされて捨てられたではないですか」
「……っ!」
ハイエロファントは目を見開く。
「あの戦いで貴方は、ジャスティスに正体を明かすための踏み台としてヴェルライトに呼び出されました。なんて可哀想なのでしょう。貴方はジャスティスがヴェルライトに出会う以前からずっと彼のことを狂信していたというのに、彼は貴方ではなくジャスティスを選んだ」
「……」
「これほどまでに理不尽なことがそうありますか? あの男は、決して正しき光を齎す存在ではないのです。混沌を生み出し、この世界を破滅へと導く!」
仰々しく、蛇男は語る。
時折、メガネをかけているか定かではないはずなのに、メガネをクイッとしているとしか思えない所作を見せながら。
メガネをかけている蛇のような男でなければ許されない類の、厭味ったらしい声音でハイエロファントに呼びかける。
「しかも、奴は貴方の知らないところで、自身の手足を作っていたのです」
「手足……?」
「そう! 奴は幼い少女を甘言によって闇へといざないました。あまつさえハレンチな服を着せて、ご主人様などと呼ばせている始末! ここ最近は、その少女にヴェルライト・レディなどと名乗らせている変態、それがヴェルライトの正体なのです!」
全く以て最悪な男だ。
というか本当にやってることは外道よりちょっとマシ程度の存在でしかない。
何より陰湿デッキ使いだし、陰湿デッキ使いだし、陰湿デッキ使いだ。
死んでよ~。
「そんな存在に、信仰を捧げる理由がどこにあるのです! 貴方の信仰は、今こそ正しい存在に捧げるべきだ。なぜなら貴方は私たち天命の――」
「――あの、一つだけお聞きしたいのですが」
「――チッ、なんですか。人の話にいきなり割って入るものではないですよ」
蛇男は、演説のように語る自分自身に浸っていた。
そんな蛇男に、ハイエロファントは――
「――どうして、ヴェルライト様の素晴らしいところをそんなにも列挙するのですか?」
なんてことのない様子で、そう問い返した。
「…………………………は?」
ちょっと何言ってるかわかんないですね……
蛇男は首を傾げる。
アホが自分の仲間を罵倒された時に、アホにとってその罵倒は、仲間のいいところを言っているように感じられる……というのは時折ある。
この世界は脳筋熱血お馬鹿系主人公が多い――というかなんなら布太梳モエもその一人――なので、蛇男はそういう光景をそこそこみてきた。
けれども――
「今の話に全くそういう要素はなかったですよね!?」
流石にヴェルライトの所業でそれをやる奴がいるとは思わなかった――――
「何故って、ヴェルライト様は手段を選ばないお方なのです。それこそが、あの方の真の素晴らしさなのですよ」
「何を……」
「何があっても、自身の目的を成し遂げる意志の強さ。私はバトルの中で、それを確かに感じたのです。彼だけが、どのような犠牲を払おうと真実にたどり着ける存在なのだ……と」
ハイエロファントには記憶がない。
自分という存在が、あまりに希薄だ。
だからこそ、ヴェルライトという自我の塊が――正しさの極致があまりにも眩しかったから、憧れた。
楽しそうだったから――手を伸ばしたく成ったのだ。
それがハイエロファントにとっての、信仰の始まり。
「で、ですが! ジャスティスはどうなのです! アレはまさしく裏切りだ。貴方を踏み台に、ジャスティスはヴェルライトに取り入ろうとしているのですよ!」
「喜ばしいことです」
「何故!」
蛇男の叫びに、ハイエロファントは力強く応えた。
「だって、
「な――!」
「そのヴェルライト・レディという方も、よくぞヴェルライト様の真実に気付いてくださいました! 私は、それが……とても、うれしい」
――そうだ。
この女は”教皇”なのだ。
彼女はヴェルライトにはじめて存在を認知された信者だ。
ヴェルライトの信者は彼女を教皇と呼び、信者の中で彼女はもっとも高い地位にある。
もしもハイエロファントが推しに認知されたいと思うのであれば、その立場はあまりにも特別なものだ。
絶対に手放すべきではないし、ヴェルライトに近づく存在を許容するべきではない。
しかしだというのに、彼女はそれでも布教を続け、正しく教皇であり続けた。
ならば、むしろ踏み台にされることこそが、ハイエロファントにとっては
「――それに、なんだか他の方がヴェルライト様と仲良くしているのを見ると、ゾクゾクしてしまい……それがちょっと”癖”になっているのもありますし」
「こいつ……!」
それはそれとして、ハイエロファントは寝取られ性癖にも目覚めつつあった。
目覚めてから少ししか経っていない、純粋無垢な記憶喪失少女が狂信者で寝取られ性癖の変態になってしまったのである。
やっぱヴェルライトは悪なんじゃないか?
死んでよ~。
「何より、それ以上に――」
そうして、思いの丈をぶちまけたハイエロファントは告げる。
「――あなた達がテンバイヤである時点で、あなた達の言葉に価値などありません」
この世のもっとも正しい真実を告げた。
テンバイヤなどクソのゴミ以下のカスでしかない。
存在してはいけない汚物なのだ。
今すぐ滅却し、消し飛ばさなくてはならないのである。
「くっ……まぁいいでしょう。どちらにせよやることは変わりありません! これより、我々が世界を正しき姿に戻します!」
蛇男はそう言いながら、ライブラリからドローンを展開した。
ハイエロファントもライブラリを構え、叫ぶ。
「このファイトを、ヴェルライト様への忠誠の証といたします!」
意気込むように、啖呵を切った。
なお実際はもっと変態みたいな言い方になっている模様。
「――この配信を見ている皆様、はじめまして。我々は”天命媒介を導く者たちの夜会”。この世界の秩序を導くもの」
:死ね
:死ね
:死ね
「我々はこれより、世界をあるべき姿に戻します。今、私の前に立つのは教皇。かのヴェルライトが信者の筆頭。――これより我々が行うヴェルライトの断罪、その余興として」
:死ね
:死ね
:死ね
「――これより、彼女を処刑します!」
いくらなんでも死ねというコメントが多すぎる、と思う内心をおくびにも出さず。
口上を口にした蛇男と、怪しい笑みを浮かべるハイエロファントこと教皇は――
「マギロアバトル、エンチャント!」
「エンチャント!」
かくして、バトルを開始した!
ただの事故――
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