カードゲーム世界で考察配信したら、すべての黒幕だと思われた 作:マクロコスモス
「――それで、ハロちゃんは一方的に負けて帰ってきた、と」
「申し訳ありません、ジャスティス……」
「ううん、負けてもちゃんと帰ってこれただけよかったよ。今のところ向こうにライトユーザーを害する意思がないって解ったから、それが収穫だね」
アルカナ・クラン。
アルカナをモチーフとした組織であるために、各所にタロットカードやトランプのような意匠を施しつつ、女所帯であるが故の可愛らしい小物が散りばめられた拠点施設。
とある都市の郊外に建てられた屋敷の中に存在するその場所で、二人の女性が話をしていた。
一人は二十になるかどうかという年齢の女性。
長い袖や足元を覆う丈のスカートなど、なんとなく法王っぽい衣装だ。
透き通るような紫の髪を簪のようなものでまとめて、シニヨンにしている。
背丈は百六十に届かない程度で、スタイルはいい。
ハイエロファント――仲間にではハロと略されて呼ばれていた。
「それにしても、ハロちゃんがそんなあっさり負けちゃうなんて――」
「……恐ろしい相手です、こちらの手を全て見透かしているかのようでした」
もう一人は、小柄だ。
背丈は140と少し、だが年齢はハロよりも上に見える。
白髪に、少し癖のある髪、白い天使の輪を思わせるような丸い帽子を身に着けており、全体の雰囲気はさながら魔法少女。
ふんわりとした立ち振舞の、包容力を感じる女性であった。
名を――ジャスティス。
「そんなに凄かったの? ヴェルライトさん」
「ええ……いえ、アレはもはやすごいという形容すらふさわしくないかもしれません……」
二人は先程まで邂逅していた、”黒幕”ヴェルライトとのことを振り返っていた。
目的はライトユーザーへの登録案内、しかしこれは断られバトルに発展。
結果は――あまりにも一方的すぎる勝負内容。
ジャスティスは、ハロが気落ちしていないか少し心配だった。
が――
「彼こそが、もしかしたらこの世界に新たなる秩序を齎す真実の光なのかもしれません……!」
ちょっと別の方向に心配した方が良くなっている――――
ジャスティスはふんわりとした笑顔のまま、ピシっと固まった。
残念ながらジャスティスは、ハロとヴェルライトの戦いを見ていない。
どうしてこうなってしまったのか、さっぱりなのだ。
「ヴェルライトは、私の全てを識っていたのです。そして私は――何もかもを知らなすぎる」
「それは……」
「まだ、知るべき時ではない、と仰っていました」
うわちゃ。
内心ジャスティスは声が出そうになったけど、頑張って抑えた。
確かにそれは、デッキをガンメタされた上で負けたら響く言葉だろう。
何せハロには――
「……あの方はきっと、私に
「どうだろう……」
ハロには、記憶がない。
ある時アルカナ・クランの拠点である屋敷の前に倒れていたのだ。
「何よりあの方は、【狂気魔導書群】を使用していました」
「えっ!? 【狂気魔導書群】を!?」
そして、耳を疑ったのはヴェルライトの使用デッキだ。
理由は二つ、一つは生配信でカード強盗の首魁相手に使ったデッキと違うデッキを使用したこと。
そしてもう一つは、それが【狂気魔導書群】デッキであったこと。
特に後者は、ハロと決して無関係ではないのである。
「倒れた貴方が持っていたカードだよね、【狂気魔導書群】って」
「はい。そして私のデッキは【狂気魔導書群】ではありませんから、私の記憶を消したのは【狂気魔導書群】使いのはずです」
――この世界のカードは人間を選ぶ。
最もふさわしい者のもとに、自然とカードが集まるものなのだ。
だから同じデッキの使い手はそうそう存在しないし、複数のデッキを持つユーザーも少ない。
ごくごく例外として、特定のカードではなく特定の”バトルスタイル”にカードが惹かれることもある。
ヴェルライトがまさしくそれなのだが、いくらなんでも人の記憶を消せるダークユーザーと同じデッキを普通の人間がそうそう持てるわけがない。
ヴェルライトの正体がわからない以上、どうしてもその可能性は捨てきれないのだ。
――それが、この世界の
「つまり……ヴェルライトこそが貴方の記憶を消したユーザーってこと?」
「可能性はあると考えています。ですが……悪意は感じませんでした」
「そう? このバトルログを見ているともっとこう……どす黒い邪悪みたいなものを感じるんだけど……」
「それは私も感じますが……いえそうではなく……」
――なお、お約束を以てしてもヴェルライトの陰湿デッキは陰湿デッキ扱いだった。
「感じなかったのは、カードで人を食い物にしようとする意思です」
「ダークユーザーではない、ということだね」
この世界は、カードが全てだ。
その中で悪意あるものは、カードを手段として人々を自分の思うがままにしようとする。
だが、ヴェルライトに関してはそうではない。
「――本当に、楽しそうだったんです」
「楽しそう、だった?」
「はい。私を一方的に蹂躙しながら、手も足も出ない私を眺めながら、とても、とても楽しそうに……」
「待って? それを悪意がないと判断していいの? ねぇ? ハロちゃん?」
確かにユーザーとしては、悪い人ではないのだろう。
本気でカードを楽しむ人間こそ、この世界では最も”正しい”ユーザーだ。
少なくともジャスティスはそう信じている。
だが根本的に人間としての性格が終わってる……!
そして何故か、そんなヤバ男に対するハロの視線に、どこか憧憬が混じっているのだ。
「彼は、きっと全てを見通しているのでしょう。でなければこうして事件を解決することもできませんし、何より私の真実を識るすべなんてないはずです」
「うんそうだね? 確かに彼はすごく博識だね? でも全ては言い過ぎじゃないかな?」
「そんなことはありません! 私の手札を一枚一枚無力にして行く様は、まるでターンエンド時にスペル破壊で的確に重要なスペルを撃ち抜いていくかのようで……私は、その眼があまりにも純粋で……私は!」
「それはたとえになってない事実だし、相手はアバターすら出してないんだから、眼なんて見えるわけないよ!?」
マギア大戦では、バトル中にアバターを表示させたりすることができる。
生身をスキャンして投影することも可能だが、これを使う人間は公式戦に参加するプロくらいなものだ。
ともかく、ヴェルライトは一切アバターを出していない。
眼を見たというのはハロの妄想だ。
妄想と現実の区別がつかなくなっている……!
「……失礼しました、ジャスティス。ですが、私は思うのです」
「うんうん、何かな?」
「――彼こそが、私たちに本当の”正義”を教えてくださるのではないのか、と」
「正義、かぁ」
少なくとも、あの性格の悪さでヴェルライトが正義だとは思えない。
ただただ単純に、正義より悪のほうが叩いて面白い玩具だから叩いているだけ。
ジャスティスにはそう見える。
ただ同時に、純粋であるというのも――彼が自分たちの知らない真実を識っているというのも、正しく思えてならない。
その二面性があるからこそ、きっとハロは変な方向に性癖がねじ曲がってしまったのだ。
まるで、DV彼氏に暴力を振るわれた後、優しくされた結果深みにハマるダメンズウォーカーのように……!
そして正義の名をコードネームとして与えられた者として、ジャスティスは”正しさ”に人一倍敏感だった。
「どっちにしても、私たちがするべきことは一つだよ」
「……はい、ジャスティス」
「まずは彼を見極めよう。何とかリアルでの正体をしれたらいいんだけどねぇ」
「そしたら、必ずやジャスティスにも真実の光をお教えしていただけるようお願いしましょう!」
「それはやめようね」
多分普通に、向こうも迷惑すると思うから。
とはいえ、この調子だとハロ以外にも被害者がでそうだなぁ、と思いつつ。
ジャスティスもまた、ヴェルライトに対して思いを馳せるのだった。
どれだけ信者になっても陰湿デッキは死んでよ〜のままです。
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