カードゲーム世界で考察配信したら、すべての黒幕だと思われた 作:マクロコスモス
「ひゃははは! 俺の”火の鳥”と”サークル・ブレイク”のコンボは無敵だぁ!」
「ほいちょうゆ……”アカシック・マッチング”。”火の鳥”と俺のモンスターで統合降臨」
「まて、”火の鳥”はスペルの発動を無効にする!」
「こいつの発動時、相手は効果を発動できない」
「う、うわああああああああ!」
――とりあえず、俺はチンピラと少女の間に割って入って、少女を逃がしてからチンピラをボコった。
相手の使用デッキは、昔懐かしスペルを全て無効にするお触れとか出してきそうなデッキ。
ある意味で案の定、というか。
洗脳された奴は、こういう相手の行動を封じる陰湿系のデッキを使ってくるようだ。
「う、ああ……ヴェルライト様……ばんざあ……い……」
男が倒れ、意識を失う。
シャツを引っ剥がしてしばらく放置しておけば、勝手に洗脳も解けるだろう。
何にしても厄介なことになった。
ドローンを手元に引き寄せてニュースサイトを確認すると、案の定各地でヴェルライトの信者を名乗る連中が暴れている。
ネットはすごい勢いで大炎上しており、やっぱりヴェルライトは悪の黒幕だったんだ! という声が多数。
「……やってくれたな」
何とも理不尽かつ、的確すぎる一手だ。
ヴェルライトの名声が最大まで高まったところで、オカルトを利用してグッズを各地に配置。
それを買ったファンが暴徒化し、ヴェルライトは一気に正義か悪かわからない黒幕から、悪の黒幕へと転落する。
ただのダークユーザーの一人に成り下がってしまうだろう。
事前の対処はほぼ不可能。
一夜にしてグッズを全国展開する輩に、どうやってそれを未然に防げというのか。
「理不尽だろう、それは」
あまりにも理不尽すぎる。
対処のしようがない一手を、ほとんど一方的に決めてしまうなんて。
もっと伏線とか、そういうのを事前に用意して駆け引きをしろよ!
対話とか……なさらないんですか!?
ああまったく、なんで――
「なんで俺に気持ちよく黒幕をさせねぇんだ!」
――苛立ち紛れに、そう叫んだ。
ふぅ、少し取り乱してしまったな。
まぁ起きてしまったことは仕方がない。
ちゃんと、この状況をどうにかするための策はある。
ある、あるのだ。
正確に言うと、自分に対して先手を打ってくる敵が現れた場合の対処法。
それを俺は、幾つか用意しておいたのである。
今回の状況は、まさしくそれを使うのにぴったりだ。
そのためには少し、コレまで以上に俺が黒幕にならなければいけないが構わない。
俺はライブラリに格納していた黒い”マスク”を取り出すと、それを――身につけた。
■
世間は大混乱に陥っていた。
ヴェルライトのグッズを身につけたものが洗脳され暴走。
洗脳されて暴走するくらいなら、この世界では日常茶飯時ではある。
しかしそれが、今世間が最も注目するあの”黒幕”ヴェルライトに関するものであれば、話は別。
どこもかしこも、大炎上としか言いようのない事態に陥っていた。
普通こういう時はヴェルライトを擁護するものも現れるのだろうが、残念ながらそういう存在は
被害を免れた者がいても、少数派。
実に狡猾としか言えない方法で、ヴェルライトは追い詰められていた。
『やっぱあいつ、ダークユーザーなんじゃねぇか。ライトユーザーじゃないのにダークユーザー追い詰めて、なんか普通じゃないやつが来たってワクワクしてたのに』
『仮にヴェルライトのせいじゃないとして、あんだけ他人の悪事を暴露しておいて、自分に対する悪事は見抜けないとかガッカリだよな』
多くの場所で、そんなやり取りが繰り広げられていく。
『というか、ヴェルライトはまだ姿を現さないのかよ。こんな風に事件が起きたんなら、せめて釈明の一つでもしろよ』
『自分はハメられたんです。調子に乗ってすみませんでした、ってか? それ結局ヴェルライトおしまいだろ。神秘性でキャラ作ってたんだから』
そんなネットの反応を見ながら、アルカナ・クランのジャッジメントは本拠地で難しい顔をしていた。
「……ハロちゃんと連絡取れない。やっぱりハロちゃんも洗脳事件に巻き込まれてるのかな」
さっきから何度電話をかけても、ハイエロファントこと波浪フェニに繋がらない。
合間合間にネット上の反応や他のメンバーからの連絡を確認する。
各地の洗脳されたヴェルライト信者に関しては他のメンバーが対応していて、ハロとの連絡をジャッジメントが担当することになっていた。
「ヴェルライトは、特別なんじゃないか。……そう思ってたんだけどな、私も」
時折思うことがあるのだ。
この世界にはライトユーザーとダークユーザーがいて、それらは日々争っている。
それ自体は、ごくごく自然なことだと思う。
だけど時折、どこかそんな争いの中に
その結果として秩序が守られているなら、それはいいことなのではないかと考えもするが――
「……なんか、とんでもない欺瞞が混じってるような気がするんだよね、なんでだろ」
なんて、事件とはまったくないことを考えてしまっていた、その時だった。
「……ヴェルライトが配信を開始してる!?」
何気なく眺めていたスマホに、確認しなくてはいけない情報が発生した。
これを確認するためにも、一人手の空いた者を用意する必要があったのだ。
慌ててジャッジメントは配信画面を開き――
『よく集まってくれた、俺はヴェルライトだ。今回の件に関して君たちに話すべきことがある。故にこうして配信を開始させてもらった』
――生身のヴェルライトが、おそらくどこかのビルの屋上と思われる場所から配信を開始している。
ライブラリのドローンを使っているのだろう。
口元を隠した一人の男が、そこにいる。
服装は黒のシャツとズボンという、黒幕っぽくはあるけれどごくごく普通のファッションだ。
とはいえ――ジャッジメントは即座に理解してしまった。
「これが……本物のヴェルライト」
コメント欄はすごいことになっている。
いくらなんでもそれはダメだろというレベルの罵倒から、困惑の声まで。
擁護が少ないのもあって、かなり四面楚歌な状況に見える。
『さて、まず此度の暴走事件だが――』
そして、誰もが固唾をのんで見守る中――
『
「は……?」
――その言葉に、ジャッジメントも、そしてチャット欄も騒然となった。
『君たちも、マナと呼ばれる特殊なエネルギーの存在はご存知だろう。マナは人々が強い意思を持ってマギロアバトルを行うことによって発生する。それは時にカードを生み出し、時に
「ま、まってまって、ヴェルライトが犯人!? 嘘でしょ!?」
『加工したマナをグッズに付与し、グッズを入手した人間に作用させることで今回の事件は引き起こされた』
ジャッジメントもチャット欄も、困惑が先に出ていてヴェルライトの説明が頭に入ってきていない。
いや、ジャッジメントは頭の回転が早いから、言っていることは理解できる。
催眠暴走事件の原因について解説しているのだろう。
仲間たちがしてきた報告とも、原因は一致する。
だが、ジャッジメントの困惑はそこではなく、別のところにあった。
「ヴェルライトが、本当にそんなことをするとは思えない!」
それは決して、ジャッジメントが特大のお人好しだから、ではない。
これまでの情報を統合した上で、ヴェルライトが行動を起こすならこんな直接的な手段に出ないと判断したのだ。
彼はこれまで一度も自身の姿を晒すことはなかった。
かなり行動を起こすことに慎重なタイプである。
だからこそ、困惑が勝った。
『では、何故そのような暴走事件を起こしたのか。答えは単純』
――なにか、嫌な予感がする。
これは、世間を騒がす”いつもの”事件とはわけが違う。
『
一体、ヴェルライトは何をしでかすつもりなのか。
ジャッジメントは、食い入るように配信画面を眺めていた。
盛大なおまいう。
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