Fate/世界で超絶美形と魅了:EXになって転生したった 作:プル山門左衛門
アフロディーテにとってフォスティノスは子孫にあたる。
だからといって美の女神と比較する事が出来る美貌を持ったフォスティノスに対し嫉妬しないという事はない。むしろその逆で子孫だからこそより嫉妬したのだといわれている。
幼いながらも聡明で誠実で美しく勇気があり博愛に満ち、されどそれ以上に無欲なフォスティノスを誰もが讃えた。
その事実がよりアフロディーテの嫉妬を掻き立てたのだと言われている。
一方、フォスティノスは自らの美貌を誇る事は無かった。
彼あるいは彼女が己が美貌を、他者をも魅了するその相貌を使う逸話は事欠かないが自ら素顔を晒す事は控えていた。それは全ての話に共通する記述である。幼い頃から数多の婚姻を申し込まれても受け入れなかったフォスティノスは、自分の美しさに対しあまり良く思っていなかったのだと言われている。
それが事実であるかは定かではないが、美の女神であるアフロディーテからしたら面白い話ではなかったのかもしれない。
だからこそ、そんなフォスティノスにある呪いをかけた。
――――それは心の醜さを顔に映す呪いだった。
アフロディーテが嫉妬から呪いをかける例はいくつか存在する。
一つがプシュケーに関する逸話である。
嫉妬した美の女神アフロディーテは息子であるエロースに卑しい男に恋をさせるよう命じたという。結果として言うのなら失敗し、エロースがプシュケーに恋するようになってしまったが、アフロディーテの嫉妬深さを象徴するエピソードでもある。
もう一つがアドニスの母、ミュラに関する逸話だ。
一説ではミュラがアフロディーテよりも美しかった事から呪いをかけ、実の父親に恋をするよう仕向けさせたと言われている。
その結果産まれたアドニスにアフロディーテが恋をするというのだから皮肉な話である。
話を戻すがアフロディーテの嫉妬から行われた行動は基本的に上手くいかない、仮に上手くいってもその後で予想外の事が起きてしまう。そもそも、無欲で誠実なフォスティノスに何故そんな呪いをかけたのか疑問である。
当然の話だがフォスティノスの呪いはプシュケーやミュラの呪い同様、アフロディーテにとって都合の良いものにはならなかった。
かといってフォスティノスにとって良いものになったかと言われればそうではない。
アフロディーテの思い通りにならなかっただけでプシュケーもミュラも相応の苦難と不幸を味わった。
そしてフォスティノスも彼女等と同様か、それ以上の苦難を味わったのである。
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人工的な光に満たされた現代とは異なり、神代ギリシャの夜空は沢山の星々が散りばめられてとても美しかった。
闇色の絨毯に宝石を敷き詰めればこんな感じになるのだろうか?
とはいえ、この光景が見られたからこの時代に転生出来て良かったとはとても思えないが。
一部の王族や魔術師なら現代日本にも負けない生活水準を維持出来るのかもしれないが、僕達家族のような普通の町、あるいは村に暮らす家族には不可能だ。
星が輝いているからといって全てが照らせる程、夜は明るくない。
むしろその逆で夜は暗くて怖い。一寸先は闇としか言えないように、この時代で夜出歩くのは自殺行為だ。
いくら住み慣れた町の中であっても、もしかしたら獣が入り込んでいるかもしれないし悪人が隠れて様子を伺っているかもしれない。特に神秘に溢れたこの時代なら、想像を絶するような力を持った魔獣が居るかもしれない。
何せここ『Fate/』世界のギリシャ神話時代だからね。
空にはワイバーンが普通に飛んでるし魔猪や人狼にしか見えない獣人のような化け物とかも跋扈してる。
それでも、空に浮かぶ星を自宅の屋根の上から見上げるのが好きだった。
「本当に奇麗だ」
満天の星を見ていると今の自分の悩みがどうでも良くなってくる。
沢山の人に求婚される事も、夜女の身体に変わる事も、この雄大な自然の美しさの前では全てが些末事だった。
いや、やっぱり求婚され続ける人生は嫌だし夜女の身体になるのも嫌だな。
前者は前者で嫌だし、後者も後者で嫌だ。
毎回性別が変わるの嫌なんだよ。あるものが無くなると本当に違和感が凄くて変だし。
かといって、世捨て人になろうにもなぁ。この世界普通に怖い魔獣とか沢山いるから人里離れた山奥で暮らすとか戦闘力無いと生きていられないだろうし、そもそも人里離れた山奥で暮らしていても神が現れてカイニスされる*1かもしれん。
うーん、やっぱりギリシャ神話って恐ろしいところですわ。
やっぱり目立たず質素に暮らし、普通に老いていくのが一番だろう。
この求婚騒ぎも結婚適齢期が過ぎれば自然と収まるだろうし、皺だらけになれば誰だって好き好んで近寄って来なくなる筈。
「はぁ、こんな顔しか取り柄の無いような奴の何処が良いんだか」
「あら? 見た目の美しさは重要よ。美しいっていうのはそれだけで人を惹きつけるのだから」
「神様なら兎も角、僕は人間だよ。顔の美しさなんて歳を取って皺だらけの顔になれば失われるものに過ぎないし内面の方が大事だよ。ずっと一緒に居るのならどんなに美人でも我儘で自分勝手で常に怒っている人よりも、不細工でも話が合って一緒に笑い合える人の方がきっと素敵な未来を築けると思うから。その点、僕はダメだよ。どんなに顔が良くても中身がそれに見合ってないから、きっと相手が不幸になる」
前世という経験があるせいか、僕の中での基準が大分枯れ果てている気がする。
まあでも独り身の気楽さを知っているから仕方ないとは思う。
自分が結婚していたかはちょっと思い出せないけど、仕事でストレスを貯めるのに自宅でもストレスが貯まるなんていうのは嫌過ぎる。
そもそも前世と違ってそこまで長生き出来ないだろうし――――今、誰と話をした?
ここは僕の家の屋根の上だ。
周囲に人が居ないのは把握しているし、そもそもこの町は見張りの人以外夜はあまり出歩かない。僕がこうして家の屋根の上に居る事を知っているのは家族ぐらいしか知らないし、そもそも人やそれ以外の存在が近付いたらすぐに家の中に入れるよう周囲を警戒している。
にも関わらず全く気が付かなかった。
――――一体どうして?
不思議と呼吸が荒くなり、全身から嫌な汗が流れ始める。
どうしてかは分からない。いや、理由は分かる。
たった今話をした女性、聞き覚えのある声をした何者かの存在に気付いてしまったから。
いや、聞き覚えは無い。この身体になってからその声を耳にしたことは一度も無い。
だけど魂は覚えている。忘れられない思い出として刻みつけられた魂の記憶がこの声の主を知っていたから。
「…………振り返り、お顔を拝見させて頂いても構わないでしょうか?」
「へぇ、殊勝ね。良いわよ。私の顔を拝謁する事を許すわ」
背後に向き直り、床に頭を擦り付けながらゆっくりと顔を上げる。
視線の先には赤い髪のとても美しい女性が居た。
背中から翼のようなものが生えていて、左手にはタバコを持っている。
人間的な美しさと非人間的な美しさが同居しており、笑っているように見えて目は全く笑ってない。
僕は、彼女を知っている。
この身体になってから姿を拝謁した事は一度も無い。けど魂の記憶と、身体に刻まれている本能が彼女の事を知っていた。
「あ、アフロディーテ、様…………」
オリュンポス十二機神。否、この時代ではオリュンポス十二神の一柱である美の女神。
アフロディーテがそこに立っていた。
「ふぅん、貴方が私に並びかねないと言われてるフォスティノスね」
「な、何故このような辺鄙な場所に」
「誰が喋って良いと言ったかしら?」
氷のように冷徹な視線を浴び、身体が動かなくなる。
その身から溢れ出る神威とも言える魔力を前に身体が呼吸をするのを忘れる。
死ぬ、自分はこの後死ぬ。この女神は自分の命に興味が無い――――いや、興味はあるのかもしれない。
ただ死んで欲しくない。出来うる限り苦しんで苦しんで絶望してほしい。
そんな暴虐的な意思を秘めているのが理解できた。
「確かに見た目は美しいわね。私の子孫だからなのかしら? 面影はまるで無いけど、その美しさだけは引き継いでいる。それにその身体、アレスの力も引き継いでるわね。男女の性別が入れ変わるのはハルモニア―の力が関わってるのかしら?」
アフロディーテは僕の事を値踏みしているような眼で観察する。
彼女を前にして、僕は何も出来なかった。
蛇に睨まれてる蛙の気持ちが分かった気がする。
今にも胃の中にある物をぶちまけてしまいそうだった。
「まあ良いわ、所詮は些末事ね。ああ、何で私がここに居るのか知りたいって顔をしてるわね」
僕の事を品定めしながら、彼女は語る。
「私ね。自分より美しいものがあると聞かされるとどうしても我慢ならないの。だから私、貴女に呪いを掛けに来たのよ」
神話においてアフロディーテの嫉妬、というかギリシャ神話の女神の嫉妬は有名だ。
ペルセポネがハデスの愛人であるメンテーを踏みつけて殺したり、アフロディーテが自分よりも美しい者に呪いをかけたり、ヘラなんか言わずもがなだ。
何で分からなかった?
アフロディーテに並びかねない程の美貌なんて、彼女が目を付けないわけがないのに。
いや、分かったところでどうしようもないじゃないか。
この町で産まれて育ってきた時点で、顔を町の人にずっと見られて生活してきたんだから。
「最初は実の父親に懸想する呪いをかけたり、この世で最も卑しい男と結ばれるようエロースに矢を射抜かせようと考えていたわ。でもここ数日ずっと貴女の事を見ていてそれじゃあダメだと気付いたわ。だって、貴女…………誰にでも優しいもの」
ここ数日観察されていた。
その事実を聞いて恐怖で身体がすくみ上りそうだった。
「浮浪者の男に優しく笑いかけながら嫌な顔一つせず施し、財に興味を示さず、挙句の果てには大して知らない親子の為に自らの命を危機に晒す。相手が間違っていたら正しく導こうとする貴女に卑しい男をあてがっても意味は無いし、実の父に恋心を抱いても理性が強過ぎて己を律する事が出来る」
さらりと言われた僕の尊厳を踏みにじるような内容に何も言えなくなる。
言葉を吐き出す許可を貰っていないから言葉に出来ないが、多分平常時であってら言葉を失っていただろう。
「そして今話を聞いて確信した。貴女に掛ける呪いをどんなものにしたら良いか」
アフロディーテの右手に禍々しい魔力が集まっている。
それは、呪いだ。単なる呪いではない、美の女神が僕専用に編み出した僕の為の呪い。
「自身の美を自覚しない貴方にはこの呪いこそ、心の醜さを顔に映し出す呪いこそ相応しい」
彼女はその呪いを僕の顔に翳す。
どす黒い魔力が仮面のように顔に絡みつき、染み渡る。
「もう喋っても良いわよ。さぁ、フォスティノス。貴女の罪、貴女の傲慢と向かい合う時が来たわよ」
アフロディーテがそう告げると圧力が消えた。
呼吸する事を思い出した身体は荒く酸素を取り込もうとする。
当然、落ち着かない。軽く三分ぐらいは息を止めていたかもしれない。それだけ長い時間が過ぎた気がした。
だけど今の僕には大して気になる事じゃなかった。それどころじゃなかった。
僕はアフロディーテに何の呪いを掛けられた?
彼女の言を信じるのなら心の醜さを顔に映し出す呪いだ。
だけど、何故そんな呪いを掛けたんだ?
僕は聖人なんかじゃない。前世があるだけの、普通ではないかもしれないが何処にでも居る俗物的な人間だ。心の醜さなんて当たり前のように持っている、そもそもそんな呪いを受けたって僕にとっては嬉しいだけだ。
自分の容姿を一番疎んでいるのは僕自身だから。
「フォスティノス!! 大丈夫か!?」
異変に気付いたのか、父と母、弟までもが屋根の上に上がって来た。
それどころか村中の人達が全員家の外に飛び出して来ていた。
神の降臨、その異常事態に村中が騒ぎに包まれる。
「あ、アフロディーテ様…………!? どうしてここに―――――」
父はアフロディーテの姿を見た後、言葉を発さなくなった。
視線は僕に向けられ口を大きく見開いて呆然としている。いや、父だけじゃない。母も弟も、村の人々も全員僕を見ていた。
「と、父さん…………?」
明らかに様子のおかしい皆の様子に困惑する。
もしかして呪いのせいで僕だと認識できないのだろうか?
まあ、いきなり美しい顔を持つ子どもが醜くなったら信じられない――――。
「う、美しい…………」
「――――えっ?」
父の言葉に思わず耳を疑った。
「と、父さん?」
「私は、今まで何を見ていたんだ…………? 子どもなのに、フォスティノスの顔しか見ていなかったじゃないか」
様子のおかしい父に声を掛けるも声は耳に届いておらず、虚ろな目で涙を流している。
父だけじゃない。母も、弟も、村の人々も、全員同じように泣いていた。
「やっぱり、思った通りね」
「あ、アフロディーテ様…………?」
「フォスティノス。貴女に掛けた呪いは心の醜さを顔に映し出すもの。でもね、心の醜さと呼べるものが無かったらどうなると思う? 答えは簡単、穢れなき心をそのまま映し出す。貴女の人を魅了する美しい相貌よりも美しい心をそのまま、ね」
「なに、を言って…………」
「ここまで言っても分からないの? それとも分かりたくないの? 自分の事に鈍感だったものね貴女。皆が皆、貴女の顔だけを見て求婚してたわけがないじゃない。貴女の美しい心から生じる行いに惹かれた者も多いのよ。私はただその力を表面化させただけに過ぎないわ」
慈愛に満ちている様にも、冷徹に見下している様にも見える顔をしたままアフロディーテは笑う。
非人間的な、機械的な笑みがそこにあった。
「心の美しさって目に見えないじゃない、でも見えるようにしたらこうなるの。だから、これから起こる事は全部貴女が悪いのよフォスティノス」
アフロディーテが告げた瞬間、村が熱狂に包まれた。
一瞬で、火が付いたように騒ぎ出す。
女神が降臨した事実が嬉しくなった――――違う。
怒りに我を忘れているような、深く絶望しているような、そして心の底から謝罪したいという気持ちが村中から湧き上がっていた。
視線を下に向けて村人達を見下ろし絶句する。
村中の人々が自分で自分を傷付けて、その命を終わらせていた。
槍を持っている人は槍で自らの心臓を突き、刃物を持っている人は自らの喉を自分の手で切り裂き、何も持っていない人は自らの指で目を潰しその奥にある脳を壊していた。
「な、何をやってるの皆!!」
「止めないでくれフォスティノス。皆、自分が許せないんだ。お前の見た目しか見ず、内面を分かってやれなかった自分が…………この罪は命を持ってしてしか償えない」
そんな事は無い、と父に対し言おうとする。
この村の人は外側だけじゃない。内面を、心をちゃんと見ていた。
だけど口に出す事が出来なかった。
ナイフを手に持ち自らの喉を突こうとする父の姿を、自らの首を絞めようとする母の姿を、自ら屋根の上から飛び降りようとする弟の姿を、眼を見て理解してしまう。
自分が何と言おうが、皆の耳には届かない。
「アフロディーテ様! アフロディーテ様!!」
「何かしら?」
「お願いします! 皆を止めて下さい!! 僕の存在が許せないなら自害します! 貴女が望んだ男と結婚だってします! 何だってやります! だから、どうか皆を――――」
「なら大人しく見てなさい」
冷たく突き放すように告げるアフロディーテの言葉に身体が硬直する。
「貴方が悪いのよフォスティノス。だって、そんなに自分の美に無自覚なんだから」
「――――――――っ」
助けを乞う事は出来ない。
そう判断した僕は自分で動いて町の人達の蛮行を止めようと動こうとする。
「言った筈よ。大人しく見てなさいって」
だけと、アフロディーテが僕の身体の動きを止めた。
一歩も動かず、ただそこに居たまま僕の身体から自由を奪った。
「あ、ああ…………」
何もする事が出来ない、その事実に涙を流しながら目の前で行われようとしている事を黙って見ている事しか出来なかった。
「ごめんなフォスティノス。お前の父親失格な私を、どうか許してほしい」
そんな事は無い、そう否定する間も無く鮮血が飛び散った。
「あ、ぁあああああああああああああああ――――っ!!」
目の前で繰り広げられる惨状を止める事が出来ず、ただ黙ってみているしか出来なかった僕はただ叫ぶ。
そして、父も母も弟もあの時助けた赤ちゃんも、生き残りと呼べる存在は僕を除いて存在しなくなった。