Fate/世界で超絶美形と魅了:EXになって転生したった 作:プル山門左衛門
アルケイデスはゼウスとアルクメネの間に産まれた半神半人の子である。
義父アムピトリュオンとアルクメネの間に出来たアルケイデスの双子の妹であるイピクレスと共に育てられた彼は、一言で言えば化け物と呼ばれる程に強かった。
不死を与える為にゼウスによってヘラの母乳を与えられ、これに怒ったヘラが遣わした二匹の毒蛇も素手で握り殺したとも。
産まれながら持っていた強靭な肉体は成長を経る事で更に強大に成長した。
同世代の子どもどころか大人でさえ比較にならない化け物の存在を人々は恐れた。
しかし、今
手に持っていた筈の木剣は少し遠くに離れた地面に突き刺さっており、疲労の色を隠せない。
顔に突き付けられた木剣とそれを持っている相手を見て、アルケイデスは爽やかな顔で笑う。
「強いな、フォスティノス」
「今日は僕の勝ちだね」
向けられていた木剣が降ろされ、仮面を被った少年フォスティノスはアルケイデスに手を差し出す。
賢者ケイローンの弟子となって早二年。
決して短くは無いその時間はアルケイデスにとってかけがえの無い日常そのものだった。
ここでは自分が化け物と怪物と呼ばれる事も無い。
先生の教えは分かりやすく、実力がついていくのが実感出来る。
昨日までの自分とは比べ物にならないくらい、今の自分は成長していた。
そして何より、同じ環境で切磋琢磨する友人にして好敵手の存在が嬉しかった。
――――フォスティノス。
自分よりもケイローンに教えを受けている兄弟子。
彼、あるいは彼女は極めて特異な体質であり昼は男、夜は女になる身体を持っている。
加えて他者を虜にする圧倒的なまでの魅力だ。
仮面を被り素顔を隠しても尚、どんな感情であれフォスティノスに惹かれてしまう。そこに育ちの良さと他者を慈しむ優しさが態度に出てるのだから尚更だった。何故仮面を付けているのか、その詳しい事情を語る事は無かったが大体の予想はつくし本人も語りたがらなかったから聞く事はしなかった。
アルケイデスにとってそんな事は瑣末ごとに過ぎなかったからだ。
フォスティノスは強かった。力も比較できるぐらいには強く、速さに至っては自分を超えている。槍術は同格で弓術はなんとか自分が勝っている。が、剣技に関しては負け越している。
一回勝ってもその後は連続で負ける。そんな展開ばっかりだ。
自身の持っている全てを注ぎ込んでも上回られる。
悔しい、そう思う気持ちがあった事実がアルケイデスには嬉しかった。
一生懸命努力して届きそうな距離に居て、切磋琢磨出来る好敵手の存在。
「次は、負けないぞ」
「そっか、なら僕ももっと強くならなくちゃね」
差し出された手を握りしめて立ち上がる。
小さく小柄な体躯、アルケイデスに比べれば一回りも二回りも小さな身体でありながら容易く持ち上げる事が出来る怪力。
初めて自分が化け物なんかではなく一人の人間なのだと告げられているような気がした。
この時のアルケイデスは間違いなく幸せだった。
+++
新たにケイローン先生の弟子になったのはアルケイデス――――後にヘラクレスと呼ばれる事になる男の子だった。
齢は未だ子どもの身、僕と大差は無かったがその実力は凄まじく子どもながら大人を優に上回っている。怪力無双、金剛の身体、そして武芸万能。
ケイローン先生からの教えを受ければ枯れた大地の如く吸収して自分のものにする。
ずっと教えを受けて来た僕が努力の末に立つ事が出来た場所にアルケイデスは簡単に立つ事が出来る。努力しているのも分かる、血の滲む特訓をしているのも分かってる。でもこうもあっさりと立たれると違いというのが理解出来る。
アルケイデスは大英雄になるべくして産まれて来た子だ。
ゼウスがギガントマキアに勝利する為に作り、数多の試練を乗り越える存在だ。
魅了と顔が良いくらいしか取り柄が無い僕なんかとは違う、本当に才能に溢れている人。
嫉妬、しないわけではないけどここまで来ると完敗したって気分になる。
清々しささえ感じるくらいの敗北だ。とはいえ、先輩である事の矜持くらいは僕にもあるからアルケイデスの前ではそんな姿を見せるつもりは無いが。
「アルケイデス。剣を振る時に力み過ぎだよ。それだと腕を痛めるよ」
「むっ、こうか?」
「そうそう。やっぱりアルケイデスは覚えるのが早いね。僕なんかすぐに追い越されちゃうよ」
剣の振り方を教えると
仮面をつけているから僕は今、どんな顔をしているのか分からない。
自分の顔なんだから見れるわけがないのはそうなんだけど、常にこうして仮面をつけているから他人の反応から探る事が出来ない。
自分はちゃんと笑顔でいれてるだろうか?
アルケイデスの才能に理不尽に嫉妬してないだろうか?
僕の心は醜くなってないだろうか?
正直な話、僕は自分の心が醜くなっていてほしいと思っている。そうすれば自分が過大評価されることも無くなるから。
だけど、最近は少し違う。
アルケイデスに失望されたくないって思うようになっていた。
「貴方に追いつこうと思って努力すれば努力する程、距離が縮まってる感じがしないと自分の非才を嘆くばかりさ」
「まあ、僕も負けないよう努力はしてるからね。でも、アルケイデスならきっと僕なんかすぐに飛び越えていけるさ」
こんな無邪気に慕ってくれる彼の信頼を向けられるだけの価値が
「むっ――――」
「どうしたのアルケイデス?」
視線を僕から逸らして別の方向に向けるアルケイデスに尋ねる。
「鹿を見かけてな。ほら、あそこに居る」
「あっ、本当だ。結構大きいね。群れから離れたのかな?」
アルケイデスが指を向けた先、目測で1キロくらいの距離が離れた所に一頭の角が生えた鹿が居た。
角が生えているから多分雄だろう。
「あの鹿を捕って帰ればケイローン先生も喜ばないか?」
「うーん。あの人は僕等が捕って来たものなら何でも喜ぶんじゃないかな?」
ケイローン先生は弟子の成果を喜ぶし褒めてくれる人だ。
自分の為に捕って来てくれたのならきっと喜ぶと思う。
そう考えているとアルケイデスが背中の弓を手に持ち、矢を引こうとする。
「待ってアルケイデス。きみはさっきの模擬戦で疲れてるし僕がやるよ」
模擬戦とはいえ何度か木剣が身体に当たってしまっているわけだし、もしかしたらその時のダメージが残ってるかもしれない。
僕は手でアルケイデスに静止を促す。
「そうか。なら今弓を――――」
「これがあるから大丈夫だよ」
弓を僕に差し出すアルケイデスに木剣を見せる。
右手に持った木剣を軽く振るって鹿の首を落とす。
「ほらっ、仕留めたし取りに行こう」
「ああ…………やはり、世界というものは広いものだな」
「大丈夫大丈夫。アルケイデスならその内僕なんかよりももっと凄い事が出来るようになるだろうからさ」
感慨深そうに呟くアルケイデスに笑いながら言う。
たかが飛ぶ斬撃程度、きみが将来ヒュドラとの戦いで会得するナインライブスに比べれば大したこと無い。
そう思いながら首が斬り落とされた鹿の下まで移動し、命を失った彼の下でしゃがみ手を合わせる。
「フォスティノス。それは、なんなのだ?」
「ん、ああ。食べる為とはいえ命を奪ったんだ。ならせめて祈るくらいはしなくちゃ……………命を奪ったことに対する責任で、僕なりの弔い方かな?」
身勝手な考えかもしれないし、余裕があるだけなのかもしれない。でも彼だって生きたかっただろうし、その命を奪った以上責任はある。その責任から目を背ける事は彼の命を侮辱する事になるのだから。
手を合わせて祈るのをやめ、懐から刃物を取り出す。
木剣でも捌けないわけじゃないけど、こういうのは鋭い刃物の方が良い。
それにとっとと捌いて血抜きをしないと味が落ちちゃうし。
どうせなら美味しく食べたいから。
「ごめんね。きみの命はありがたく頂く、決して無駄にはしない」
左手で鹿の身体を抑えてそのまま刃物を振るった。
+++
ケイローンから見てフォスティノスは非常に優秀な生徒だった。
1を覚えれば10の成果を出し、その成果を惜しみなく他の者へと教える。
作ったものを他者へと無償で分け与えて見返りを求めない。
そしてアルケイデスが来てからは前以上に勤勉になった。
アルケイデスという凄まじき才能の持ち主、自身に比肩するライバルの出現はフォスティノスに更なる成長を齎した。
今更ではあるが、ケイローンでさえ二人の今の成長速度は末恐ろしく感じる。
「いかがでしょうか先生、カリクローさん」
フォスティノスが振る舞った料理は鹿肉と貝と野菜のスープ、焼き立てのふわふわのパンに
そのどれもが素材の味を生かしつつ、美味な仕上がりだった。
スープは野菜の甘みと貝の味が染み出しているし、パンそのものの触感が良い上に果物で作ったジャムで甘く美味しいものに仕上がっている。
そして
「とても美味しいです。料理に関しては教わる前から上手でしたものね」
「ええ。花嫁修業でも料理で教える事は無かったわ。教えがいが無くてちょっと嫉妬しちゃうくらい」
「そうですね。こちらも貴方に教える事が少なくなってきましたよ、フォスティノス」
妻であるカリクローの気持ちも分かる。
恐らく、というよりも間違いなく自分達はフォスティノスに魅了されていた。
何故アフロディーテがこんな面倒な呪いをかけたのか、何故アレスが自分の下に竜を使ってこの子を連れて来たのか。
きっと、この子がどこまで行けるのかを見たくなったのだろう。
「そんなことは無いですよ。むしろ、まだまだ教わらなくちゃいけないことは山程あります。苦手な事も多いですし。それよりもお代わりはないですか?」
「すまないフォスティノス。おかわりだ」
「大丈夫です。まだまだ沢山ありますから」
スープが入ったお皿を差し出すアルケイデスにフォスティノスは笑いながら受け取る。
アルケイデスが来て以来、フォスティノスは作る料理の量を増やしていた。
彼が独自で作っている畑も広くしたし、料理の仕込みもする時間を多くしている。
フォスティノスはその事実をアルケイデスには言わないし見せることは無い。それが当然の事だと言わんばかりに、アルケイデスの笑顔が報酬だと言わんばかりに無償で働いていた。当然ケイローンやカリクローも手伝っているが、最近では「自分に任せて」と言わんばかりに動いている。
そんな彼が本当に嬉しそうだったから、ケイローンは何も言えなくなった。
「今、貴方は幸せなんですね」
嬉しそうにアルケイデスにスープを注いだお皿を渡すフォスティノスを見て、ケイローンは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
願わくば彼等の行く末が幸福に満ちたものであってほしい、そう思わずにはいられなかった。
――――しかし、悲しきかなギリシャ神話。
英雄である以上、彼等の人生は苦難に満ちているのが約束されていた。
そしてそれはフォスティノスも例外ではなかった。
フォスティノスの仮面は食事の際は変形し口の部分が開きます。
これで仮面を外さなくても大丈夫だね。
でも身を清める時は外します。