Fate/世界で超絶美形と魅了:EXになって転生したった 作:プル山門左衛門
各地の神話、民話に共通する話。
見てはいけない、もしくは触れてはいけないものと言われている事を破ってしまって悲劇が起こる。
この手の話においてこのルールは破る、もしくは破られる為にある。
尚、ルールを守った例は極めて少ないが一応存在する。
代表例は旧約聖書のロト。
後関係無いけど今回ちょっとえっちぃ表現があるよ。
フォスティノスは一日の終わり、寝る前に毎日入って身体を清めている。
その拘り振りは常軌を逸している、というわけではないがかなり美に気を使っていると思われても仕方ないくらいだ。ただそのことを本人に指摘すると最低限の身嗜みと断言していたが。少なくともオリーブオイルで頭髪を整えるのを本人が「嫌」というくらいには拘りが強いのは事実だった。
ただそれとは関係無しにフォスティノスはお風呂好きだった。
アルケイデス達もフォスティノスの入浴の最中は浴槽がある場所には近付かないようにしていた。本人からの頼み、自分の顔を見て迷惑を掛けたくないといった親友からの頼みもあったからである。
気にならないわけではない。
だがあの優しいフォスティノスかあそこまで疎ましく思ってるものを暴こうとする程、アルケイデスは無粋ではなかった。
――――だから、これは運が悪かっただけの話である。
この日は偶然にもケイローンとの修行が早く終わり、手持ち無沙汰になったアルケイデスは洗濯をしようとしていた。
普段はフォスティノスが何も言わずにする為、せめて自分の分くらいは自分で洗おうと考えていたのだ。
そんな時だった――――フォスティノスがお風呂がある部屋から出て来たのは。
「あ、アルケイデス? もしかして、もう戻って来てたの?」
何か忘れ物をしたのか服は纏ってなく、ただ左手に持った服で身体を隠しているだけだった。
だがそれ以上に目を引いたのは普段は仮面で隠されている素顔だった。
――――美しい。
可憐で、華やかで、瑞々しく、艶やか。
それらを並べても尚表現に困ってしまう程に美しかった。
恐らく、フォスティノスの美しさを例える事が出来る言葉をアルケイデスは持っていない。美の女神に勝るとも劣らない美しい容姿、そしてそれ以上の心の美しさが光となって見える。
まるでフォスティノスが星のように光り輝いているみたいだ*1。
そして、それ以上に胸の奥から途轍もない罪悪感が込み上げて来る。
何故か――――そんなの決まっている。
フォスティノスの願いを踏み躙ってしまい友の素顔を見てしまった事、そしてフォスティノスが見せた表情だ。
何かに恐怖しているような、そんな顔だった。
アルケイデスを恐れているわけじゃない。あれは自分自身に向けたものだ。
だが今のアルケイデスにはそんな事はどうでも良かった。
「すまない、フォスティノス。お前との約束を破った事を許してくれ――――!」
アルケイデスは謝罪の言葉を呟き、自身の腕を自らの喉元に近付ける。
そして圧倒的な膂力を持って自らの喉笛を掴もうとする。
「待って、待って!! そんな事しないで!!」
寸前でフォスティノスが止めなければ、今頃アルケイデスの喉笛は引き千切られていた事だろう。
+++
「ふんふんふふふーん♪」
一日の終わり、ケイローン先生の修行で汗を流し疲れ切った身体を洗い流して清める至福の時間。
熱いお湯に肩まで浸かってしっかりと身体を温める。
この快楽には抗い難い。特に娯楽呼べるものが殆ど無い、あっても僕には縁が無いこの時代でこれが娯楽であり趣味になるのは至極当然の話だった。欲を言えば魅了と呪いと女に変わる体質さえなければ万々歳だったんだけどなぁ。
そう思いながら入浴後に着る
「あっ、スポンジ*2持って来るの忘れた」
あちゃーと額を手で抑える。
完全にやらかした。普段ならこんな凡ミスはしない。とは言わないが、普通なら忘れることの方がおかしい。にも関わらず忘れたのはお風呂の前にアスクレピオスに呼ばれたからだろう。
「仕方ない、取りに行くか」
あれでしっかり身体を洗わないと垢が落ちないしスッキリしない。
それに干してる場所もすぐ近くだからすぐ行って戻って来れば良いだけだ。
服は――――着なくて良いだろう。
念の為前を隠せるよう服は持ってくが、別にそこまで距離が離れているわけじゃない。アスクレピオスは今は研究に没頭してるしカリクローさんは夕飯の仕込み中。ケイローン先生とアルケイデスはまだ修行中だろうしすぐには帰って来ない。
そう考えた僕は仮面を付けず、半ば駆け足気味に外へと飛び出してスポンジを取りに向かう。スポンジ、そして洗濯物を干している場所はそう遠くないのですぐに着いた。
そして洗濯をしているアルケイデスとばったり出会してしまったのである。
「あ、アルケイデス? もしかして、もう戻って来てたの?」
改めてついさっきまでの楽観的な考えをしていた自分をぶん殴りたくなる衝動に駆られる中、アルケイデスはじっと僕の顔を見つめていた。
大丈夫――――とは口が裂けても言えない。
だけど生まれ故郷が滅んだのは僕がずっと顔を晒して生きて来たからだ。
顔を晒さずに僕と接していれば耐性が出来るかもしれない、とケイローン先生は言っていた。
そもそもケイローン先生とカリクローさんは僕の顔を見ても魅了されてない*3。
「すまない、フォスティノス。お前との約束を破った事を許してくれ――――!」
しかし、僕の思いとは裏腹にアルケイデスは涙を流しながら謝罪する。
そして自らの首に伸びる手を見て、あの時の光景が脳裏に蘇った。
自ら命を絶つ家族、街の皆。思い出したくなかった、記憶の底に封じ込めていたあの時の出来事。
それらが頭の中に流れた事で全身から嫌な汗が流れる。
頭では呼吸をしなくちゃいけないと分かっているのに肺が空気を取り込まず、身体がガタガタと震えて言うことを聞かなくなっていく。
でも、でも自分が止めなければまたあの惨劇が繰り広げられる――――!
「待って、待って!! そんな事しないで!!」
自らの喉笛を素手で力任せに引きちぎろうとするアルケイデスの腕を掴んで止める。
両目から涙が溢れて止まらない、喉が震えて声も上手く出せない。
止められたことに対する嬉しさは無い。むしろその逆、アルケイデスにそんな選択をさせた事自体が申し訳なく感じてしまう。
「お願い…………一回話を聞いて」
「あ、ああ…………」
困惑するアルケイデスに自分の呪いについて説明する。
幼い頃にアフロディーテに呪われた事、その呪いが何故か変な作用を起こしてしまった事。
そして今のアルケイデスは僕の呪いによって正常な判断が出来なくなってる事も告げる。
「――――だから落ち着いて。僕は大丈夫だから。大丈夫じゃないのはアルケイデスの方で、本当に泣きながら謝らないといけないのは僕の方だから」
「だ、だが私はお前と交わした約束を破ってしまった。ならば命をもって償うしか道は無い!」
「だから僕は気にしてないから! そもそも僕が油断したからこうなっただけなんだよ!!」
「それでも、私は納得できない!!」
だからどうして僕の顔を見た瞬間、そんな反応するんだよ。
命なんか捧げられても全然嬉しくないし、納得なんかしなくて良いから。
って、言っても今のアルケイデスには何も通じない。ケイローン先生は言っていた。僕の素顔は人間が見て正気を保てるようなものではないのだと。前世で遊んでいたクトゥルフ神話TRPGでの
数値以上の美しさは正気度を削る事もある。
あれはクトゥルフ神話の話だし、一概に全てがそうとは限らないがアルケイデスもそんな状態に近いんだろう。あのアルケイデスでさえ発狂するようなものが自分の顔という事実に本当に絶望してしまいたくなるが。
「はぁ…………仕方ない」
幸いなことに見ているだけしか出来なかった当時とは違い、今の僕は動く事が出来る。それにケイローン先生から自分の魅了の特性についてやその対策についてもしっかり学んでいる。
こういった普通じゃない精神状態を元に戻すには心を落ち着かせて平静を取り戻させるか、受けた衝撃以上のショックを与えれば落ち着く筈だ*5。
ただアルケイデスくらい強いと物理的に衝撃を与えても普通に耐えられてしまう。
だから、物理的にではない方法で衝撃を与えよう。
「カリクロー先生の教えがこんな形で役に立つとは思いたくなかったな…………」
叶うのなら二度目の機会が訪れない事を切に願う。
そう思いながらアルケイデスを仰向けになるよう転ばせる。
「ふ、フォスティノス? 何を――――」
「少しだけ大人しくしててアルケイデス。すぐに正気に戻すから」
手に抱えていた服を地面に置いて、しゃがみながら前髪を掻き分ける。
正直な事を言うと僕自身かなり抵抗がある。
でもまあ貞操を失うわけじゃないし弟分を救う為だ、そう自分に言い聞かせながら僕は覚悟を決めて口を開けた。
+++
「どうしたんだアルケイデス? そんな場所にへたり込んで」
汚れた衣服を洗う為に来たアスクレピオスが目にしたのは、地面にへたり込んでいるアルケイデスの姿だった。
顔色は何故かゆだったように真っ赤に染まっており、声を掛けても反応しない。いや、反応自体はするがまともな返事が返ってこない。
「もしや、これは何かの病気か?」
「違うよ」
何かしらの疾患に罹ったのではないかと疑うアスクレピオスの考えを背後から聞こえたフォスティノスの声が否定する。
「何だ、もう上がったのか。今日は早いんだな」
「ちょっとね。今日は長湯する気分になれなかったんだよ」
「…………どうした? 何かあったのか?」
仮面を付けていても尚分かるくらいにフォスティノスは落ち込んでいた。
「ちょっと、ね………我ながら楽観的に考え過ぎたなって……………ああ、アルケイデスの事は気にしなくて大丈夫。ちょっと正気を失ってたみたいだけど、多分その内元に戻るから」
「本当に何があったんだ?」
「アルケイデスの名誉の為に聞かないであげて」
乾き切った笑みを浮かべながら、フォスティノスは溜め息をつく。
「ちょっと口直ししてくる。うー…………口の中濯いだのにまだ違和感がある」
そう言ってフォスティノスはこの場を後にする。
フォスティノスの姿が見えなくなってから数秒後、アルケイデスが両手で自身の頭を抱えて唸り声を上げた。
「ち、違う……………違うんだ、私は……………私はぁああああああ!?」
「…………本当に何があったんだ?」
明らかに尋常じゃないアルケイデスの様子にアスクレピオスは首を傾げるしかなかった。