正義は六週間後に届く   作:何もない一般人

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内部告発

 午前零時四十分、公安局特別行動部第三小隊の待機室には、四人分の装具と四人の隊員がいた。

 

 壁際のラックにプレートキャリアが吊られていた。前任者の汗が発泡材に残り、乾くと白い輪になった。空調は二十二度に設定されていたが、除湿機の排水タンクは満水の表示を出していた。誰も捨てに行かなかった。コーヒー保温器の底で、六時間前の液体が煮詰まっていた。

 

 ラックの下には、使用済み吸収缶を捨てるための赤い容器があった。蓋が閉まらず、脇に新しい容器の購入申請書が貼られていた。申請日は三週間前。処理欄には《予算区分確認中》と印字されている。特別行動部の増員予算は通っていたが、廃棄物容器の予算科目は増員前のままだった。

 

 即応待機は二十四時間単位だった。仮眠室は六床、同じ時間帯に詰めている人員は十九人。横になれる順番は暗黙に決まっていた。前夜に出動した者、発熱のある者、狙撃手、残り。第三小隊の順番はまだ来ていない。

 

 ノエは拳銃の遊底を外し、抽筒子の爪に綿棒を当てていた。

 

「三時間十二分」

 

「何が」

 

 ミナは装備表から目を上げなかった。弾倉七、無線予備電池二、止血帯二、化学発光体四。確認済みの欄へ一本ずつ線を引いた。

 

「待機開始から。犯罪者も少しは勤務時間を守ってほしい」

 

「守る犯罪者は帳簿上存在しない」

 

 窓際にリンがいた。海警局山海経総隊からの選抜員で、紺色の作業服の左肩にだけ公安局の面ファスナー式章を付けていた。糸で縫えば正式配属に見える。面ファスナーなら応援要員に見えた。総務がそう判断した。

 

 リンの机はなかった。空いている事務椅子に端末を載せ、窓枠を肘掛けにしていた。海警局から持ってきた装具は公安局の充電器と端子が合わず、変換ケーブルには備品番号がない。紛失しても弁償できず、壊れても修理に出せない。彼女は毎朝、ケーブルを自分のポケットへ戻した。

 

 シキは週次報告の未処理欄を埋めていた。第三小隊は即応、訓練、休養の三交代で回っている。即応日に出動がなければ、訓練時間は不足し、出動が続けば休養時間が消える。どちらでも、月末には同じ様式の報告書を提出する。

 

 午前零時四十七分、当直連絡員がドアを開けた。

 

「一階受付に情報提供者。ブラックマーケットの仲介業者を名乗っています」

 

 ノエは綿棒を捨て、遊底を戻した。シキは端末を閉じた。

 

「ミナ、同席。ノエ、録音と筆記」

 

 リンは自分から言った。

 

「私は外れます。海警局員が聴取に同席した記録は、後で説明が要る」

 

「待機してくれ」

 

 誰も急がなかった。急いだ動作は、相手に緊急性を教える。三人は通常歩行で一階へ下りた。

 

---

 

 情報提供者は動物市民の男だった。濡れていないのに、上着の脇が暗くなっていた。受付で出された水には手をつけず、紙コップの継ぎ目を親指で押し続けていた。

 

「氏名と店名は、供述の採用に必要になった時点で聞く」

 

 シキが言うと、男は三度うなずいた。

 

「取引がしたい。店の名前を記録しないなら、紙を渡す」

 

「内容を見て決める」

 

 男は内ポケットから四つ折りの紙を出した。普通紙だった。四隅のうち二つが汗で半透明になっている。

 

 輸送計画の抜粋。山海経自治区からアルタイ山脈方面へ向かう中継経路、搬入時刻、十二パレット分の重量。品目欄は別紙参照。最終仕向地は空欄だった。

 

 紙には複写機のローラー痕が二本走っていた。左端が斜めに欠け、原本ではなく、束から急いで一枚だけ抜いて複写したものだと分かった。右下に薄い靴跡があった。男は拾ったと言ったが、折り目の内側にだけ指の脂が付いていた。拾った紙ではなかった。

 

「どこから取った」シキが聞いた。

 

「それは取引に入ってない」

 

「紙の信用性を確認している」

 

「倉庫事務所のごみ箱だ。処分前の書類を買った。誰から買ったかは言わない」

 

「買った金額は」

 

 男が答えた額は、紙一枚に払う金としては高かった。盗んだ相手ではなく、紙に書かれた内容を恐れている金額だった。

 

「何を運ぶ」ミナが聞いた。

 

「知らない。知りたくもない。だが運賃が違う。通常弾なら、この重量でこの保険料にはならない」

 

 男は保険料の欄を爪で示した。桁区切りの位置は正しかった。

 

「危険物なら分類コードが付く」

 

「付いていないから来た。危険物として申告できない危険物だ」

 

 ノエが複写紙の折れ目を撮影した。シキは搬入時刻を確認した。十一日後だった。

 

「倉庫はどこだ」

 

 男は住所を言った。ヴァルキューレ圏内の旧貨物ヤードだった。

 

「あれを店の隣に置かれたら困る」

 

「爆発するのか」

 

「知らない」男は初めて紙コップから手を離した。「ただ、運んだ連中が、防毒マスクを外さなかった」

 

 聴取は午前一時十九分に終わった。男には二週間店を閉めるよう伝えた。保護措置ではなかった。保護対象として登録すれば氏名が記録に残る。そのため、助言という形式にした。

 

 待機室へ戻ると、シキは紙を透明袋に収めた。ミナが言った。

 

「令状請求には足りません」

 

「倉庫の使用状況照会と外周監視には足りる」

 

「中を見るには」

 

「別件の保管規則違反を取る。消防検査記録が切れていれば、合同の立入検査にできる」

 

 ノエが端末で住所を検索した。検査期限は四か月前に切れていた。

 

 倉庫の登記名義は三年で四回変わっていた。前の三社は清算済みで、代表者名はいずれも実在する動物市民のものだった。二人は死亡、一人は所在不明。現在の管理会社は電話番号を持たず、連絡先には私書箱だけが記載されていた。

 

「消防検査の名義で入って、武装した三人がいたらどう説明する」ミナが聞いた。

 

「危険物の可能性がある。検査員の安全確保」

 

「検査員は来るんですか」

 

「来させる。来ないなら、不在理由を記録させる」

 

 ノエは新しいコーヒーを淹れた。保温器の古い液体を流しへ捨てると、排水口から酸味のある湯気が上がった。

 

 シキは当直責任者への出動伺いを作り始めた。品目不詳。危険物申告なし。消防検査期限超過。文章にすると、男が持ち込んだ恐怖は消えた。残ったのは三つの事務的な事実だった。それで十分だった。

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