正義は六週間後に届く 作:何もない一般人
合同審査会には、ヴァルキューレ、連邦捜査部、生活安全局、百花繚乱紛争調停委員会が出席した。ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナは、暗号回線を通じて参加した。画面の向こうで、彼女は提出資料の頁番号だけを確認した。
審査会は午前九時に始まり、昼食を挟まず六時間続いた。資料は八百四十二ページ。出席者には紙の束が配られ、机の下に回収袋が置かれた。MFIの項目だけは赤い表紙で分冊され、席を離れる際は封筒へ戻すよう求められた。
第三小隊の代理人は出席しなかった。召喚に応じておらず、代理人も選任されていない。審査会は懲戒の最終決定ではなく、部隊解散と身柄確保の必要性を判断する場だと整理された。当事者不在で進めることに、手続き上の問題はないと法務官が説明した。
MFIの正式鑑定は完了していた。曝露した組織では、神秘場結合の回復が認められない。生徒への人体作用はアルタイの試験映像と整合した。
「……確認する」ヒナが言った。「MFIが実在したことと、越境が許されるかどうかは、別の話。ゲヘナの倉庫に残っていた未開封品は、こちらで令状を取って押収し直した。これは証拠として使える。でも、第三小隊が持ち出した散布計画と、アルタイの端末や設備の記録は違う。法廷で、どこから手に入れたのか説明できない」
連邦捜査部の代表が、違法収集資料を情報資料として保持できるか尋ねた。法務官は、捜査の端緒にはなり得るが、それだけを根拠に新しい令状は取れないと答えた。独立した情報源が必要だった。
「独立した情報源を探す間に、工場は移る」カンナが言った。
『移るでしょうね』ヒナは画面の向こうで答えた。『でも、だから違法な証拠を合法にはできない。そんなことは、カンナも分かってるはず』
「……分かっている」
カンナは資料へ目を落とした。本官とは言わなかった。
調停委員会の法務官も同意した。自治区への無通告立入で得た資料を認めれば、自治協定は強制力を失う。証拠の真実性ではなく、制度を維持するための排除だった。
「第3小隊が止めなければ、散布された可能性がある」委員の一人が言った。
「そう。だから、止める必要はあった」ヒナは答えた。「でも、それで次の越境まで認めるわけにはいかない」
決定は、第三小隊の即時解散、関係隊員の職務停止、矯正局での勾留だった。カンナは採決の最後に賛成票を入れた。
採決後、カンナは議事録の自分の発言を確認した。《情状を考慮する》ではなく、《情状については別途検討する》へ修正させた。前者は処分軽減を約束したように読める。約束できる段階ではなかった。
ヒナは回線を切る前に言った。
『ゲヘナ側で押収したものは、こちらで守る。消させない。それは伝えて』
「誰にだ」
『まだ、話を聞く相手が残ってるなら』
通信はそこで終了した。
決定書は午後三時十分に発効した。召喚担当者が第三小隊待機室へ着いたのは三時二十九分。室内には、温かいままのコーヒーと、外された公安局章が四枚あった。
召喚担当者は章に触れず、位置を撮影した。シキ、ミナ、ノエの章は同じ机に並び、リンの面ファスナー式章だけが窓際の椅子に置かれていた。引出しには未使用の装備表と、ミナが数え直した跡のある弾薬受払簿が残っていた。
端末の一台に、先生との面談通知が未読のまま表示されていた。受信時刻はバス襲撃計画の作成時刻より前だった。読んでいなかったのか、通知欄だけ見て開かなかったのかは判定できなかった。
MFIのサンプル一基が、証拠保管庫からなくなっていた。