正義は六週間後に届く   作:何もない一般人

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蜂起

 第三小隊は公安局庁舎の五階を占拠した。最初に通信室を押さえ、防火扉を閉め、職員を中央事務区画へ集めた。発砲はなかった。逃げようとした二人が転倒し、一人が足首を捻挫した。

 

 庁舎の入退館認証は、解散決定が発効した時点で失効していた。第三小隊は職員搬入口から入った。後方処理班の一人がまだ有効な搬送用カードを持っていた。警備員は顔を知っており、荷物検査を省略した。日常の信頼が最初の扉を開けた。

 

 証拠保管庫のサンプルは、廃棄物搬出容器に入れて運ばれた。容器の封印番号は正しかった。前日に処理班員が未使用封印を一本抜き、台帳には破損交換と記入していた。保管庫の担当者は番号を見て通した。正しい確認手順が、正しく偽装された番号に使われた。

 

 五階を選んだのは通信室と記者会見用回線が近かったからだった。防御しやすいからではない。廊下は二方向、非常階段は三か所あり、八人では全部を守れなかった。占拠が成立したのは、制圧側がMFIを恐れて入らなかったためだった。

 

 占拠側は第三小隊のシキ、ミナ、ノエ、応援要員のリン、後方処理班四名。サキとハルは参加せず、出頭していた。シキはその事実を職員へ説明しなかった。

 

 要求は三項目だった。MFIの実在を全域へ公表すること。散布計画と外部勢力の関与を公表すること。越境審査制度の改定を開始すること。

 

 要求文はシキが書き、ミナが法的に不可能な表現を削った。《委員会の解体》は《制度改定の開始》へ、《関係者の処罰》は《独立調査の設置》へ変えられた。文面は過激さを失い、行政文書に近づいた。その内容が武器を持って庁舎を占拠した者から送られている事実だけは変わらなかった。

 

 通信担当職員に全域回線を開かせようとしたが、最終認証は連邦生徒会側にあった。庁舎から単独では送信できない。シキはその仕様を知らなかった。要求を通すには外部の協力が必要で、その外部は占拠が始まった時点で回線を遮断していた。

 

 サンプルは中央机に置かれた。外装箱の中に、密封された噴霧器が一本入っていた。起爆装置はなかった。シキは何度も、散布する意思はないと言った。

 

 しかし、破損時の危険を示さなければ要求には強制力がない。危険を示せば、職員を人質にしたことになる。シキはその二つを言葉の上で分け続けた。

 

「これは証拠だ。武器ではない」

 

 ノエが聞いた。

 

「なら、どうして皆を帰さない」

 

 シキは答えなかった。

 

「帰せば、向こうは入ってくる」処理班員の一人が代わりに言った。

 

「つまり、入ってこさせないために残してる」ノエは言った。「それを人質と呼ばないなら、何て呼ぶ」

 

「ノエ」シキが遮った。

 

「隊長。名前を変えても、人数は減らない」

 

 中央事務区画では、職員が床へ座っていた。若い職員の一人が泣き始め、隣の者が背中を撫でた。声を上げて責める者はいなかった。第三小隊の制服と装備を見知っていた。何をされるか分からない相手ではなく、何をするはずだったか知っている相手に拘束されていた。

 

 ミナは最初の一時間で、避難経路、換気停止位置、曝露時の搬送順を紙に書いた。人質を取る作戦で、人質を守る手順を作った。矛盾は作業を止めなかった。

 

 糖尿病の職員が一人、定時の投薬を必要としていた。薬は三階のロッカーにある。ミナは外の交渉担当と協議し、防火扉の前で薬を受け取った。引き渡しには十五分かかった。受け取った袋を開封し、内容物を確認する間、職員は手の震えを隠すため両腕を組んでいた。

 

 トイレは二か所しかなかった。行列を十人ずつに分け、処理班員が付き添った。手洗い場の紙タオルは二時間でなくなった。飲料水は自動販売機と給湯室から集めた。硬貨を持たない職員の分は、ノエが機械の鍵を開けて取り出した。後で弁償すると言った。誰も返事をしなかった。

 

 総務の職員が一人、シキに話しかけた。第三小隊の出張精算を何度も処理したことがある職員だった。

 

「隊長。私、あなたの山岳手当を差し戻したことがあります」

 

 シキは覚えていなかった。

 

「標高の欄が空白だったから。あなたは翌日に直して出した。規則だからって」

 

「覚えていない」

 

「そうでしょうね。私には普通の仕事でした。今日も、ここで普通に仕事をしていました」

 

 職員は中央机のサンプルを見た。

 

「私たちが何を見過ごしたのか、公表してほしい。それは分かります。でも、私は何をしたから、ここに残されているんですか」

 

 シキは答えられなかった。委員会、上層部、制度という言葉は大きすぎて、床に座る一人へ割り当てることができなかった。

 

 職員は返事を待たず、自分の場所へ戻った。ミナが水を渡した。職員は受け取ったが、礼は言わなかった。

 

 午後六時、処理班員の一人が職員を窓のない会議室へ移すよう提案した。外からの狙撃を防ぐためだった。会議室は狭く、換気が止まれば二百人を収容できない。ノエが反対し、声が大きくなった。

 

「守るためだ」

 

「何から守る。外か、俺たちか」

 

 処理班員は銃床を机へ当てた。小さな音だった。中央事務区画の会話が止まった。シキは処理班員から銃を預かり、弾倉を抜いた。占拠側の武装管理まで、ミナの紙へ追加された。

 

 リンは海警局の識別章を外し、机の引出しへ入れた。公安局章はすでに待機室へ置いてきた。肩には面ファスナーの毛羽だけが残った。

 

 午後五時前、海警局からリンの私物端末へ着信があった。元の上官だった。リンは画面を見たまま出なかった。三十秒で切れ、短いメッセージが届いた。《生存だけ返答せよ》。リンは《生存》と入力し、送信しなかった。端末の電源を切り、識別章と同じ引出しへ入れた。

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