正義は六週間後に届く   作:何もない一般人

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制圧と発見

 旧貨物ヤードには、錆びた引込線が三本あった。枕木の隙間から生えたセイタカアワダチソウが、貨車の床面近くまで伸びていた。中央倉庫の北側に雨樋がなく、コンクリート壁へ黒い水跡が垂れていた。

 

 午前三時五十八分、第三小隊は二台の車両で現着した。消防局の検査員は来なかった。危険性が排除されるまで警察側で安全を確保する、という回答だった。書面には合理性があった。

 

 突入班は五名。シキ、ミナ、ノエ、サキ、ハル。リンは百八十メートル離れた無人事務所の屋上から小型機を飛ばした。

 

 消防局から届いたのは検査員ではなく、立入検査権限を公安局へ一時委任する電子文書だった。有効時間は午前四時から六時まで。対象は防火設備と危険物保管状況に限定され、犯罪捜査への転用を禁じる但し書きがあった。法務担当は、現認した犯罪については別だ、と余白に注記していた。

 

 救急車は二ブロック離れた大通りに待機させた。化学防護車は片道四十五分かかる。現場で容器が破損した場合、最初の四十五分は小隊の携行装備だけで持たせる必要があった。全員が陽圧式マスクを携行したが、酸素ボンベはなかった。未知物質が吸収缶を通過する種類なら、マスクは顔を重くするだけだった。

 

『中央棟に三。座位二、歩哨一。奥に十二パレット。覆いあり』

 

 赤外線像では、人間は白く、屋根材は灰色に見えた。パレットの中身は外気と同じ温度だった。

 

 リンは十分間、三人の動きを記録した。歩哨は七十二秒ごとに北側の窓を見た。座っている二人のうち、一人は六分おきに立って湯を注いだ。もう一人はほとんど動かなかった。机の下に長い熱源があり、銃身か暖房管かは判別できなかった。

 

『南側に犬型市民が一人通過。新聞配達。こちらを見ていない』

 

 シキは突入を二分遅らせた。配達車のエンジン音が消えるまで待った。作戦記録には《第三者退避待ち》と書いた。

 

 ノエは通用口の錠前に油圧スプレッダーを掛けた。シキは録画開始時刻を読み上げた。午前四時十七分三十二秒。扉が開いたのは三十七秒だった。

 

 最初の二人は机から立ち上がり、照明を向けられると両手を見せた。三人目は金属バットを持って通路から出た。シキは銃口を胸郭へ合わせたが、撃たなかった。ミナとハルが左右から腕を取り、床に伏せた。右の頬骨がコンクリートへ当たり、皮膚が二センチ切れた。止血にはガーゼ一枚を使った。

 

 突入から拘束完了まで四十六秒。発砲なし。隊員の負傷なし。被疑者一名に軽傷。

 

 ミナは拘束した三人の手首を確認した。結束帯は指一本分の余裕を残し、二重ロックした。バットを持っていた男の頬に生理食塩水をかけた。傷口へ砂粒が入り、ピンセットで三個除いた。男は礼を言わなかった。

 

 机の下にあった熱源は散弾銃だった。薬室は空で、管状弾倉に五発入っていた。最後に触れた者を確定するため、その場では抜弾しなかった。銃口を安全方向へ固定し、箱ごと後続の証拠班へ渡した。

 

 倉庫の奥に青い防水布があった。下には黒い樹脂製コンテナが十二個、四個ずつ三列に積まれていた。ラッチは鉛封印され、側面には差圧計が付いていた。針は外気圧より三十ヘクトパスカル低い位置を指していた。

 

「弾薬箱を負圧にはしない」

 

 ノエは定規を差圧計の横に置いて撮影した。ミナが事務机から納品書を回収した。

 

 品目は《非致死性訓練弾薬》。返送先はアルタイ地区製造施設。危険物分類は空欄。十二個すべての総重量は、情報提供者の紙と二キログラム以内で一致した。

 

 シキは箱を開けなかった。外面を拭き取り、検体管へ封入した。ラッチ、封印、差圧計、パレット番号を別々に撮り、撮影者と時刻を記録した。コンテナそのものは化学防護車両が到着するまで移動させなかった。

 

 外面拭き取りは、上面、ラッチ周辺、差圧計、底面の四か所から行った。検体管を開ける者と綿棒を持つ者を分けた。手袋は採取点ごとに交換した。使用済み手袋は一組ずつ袋へ入れた。十二箱すべてを終えるまで一時間二十七分かかった。

 

 その間に夜が明けた。倉庫の採光窓から入る光で、床の埃に靴跡が増えていくのが見えた。ノエは現場へ入った全員の靴底を撮った。消防局の委任文書には、現場保存の方法までは書かれていなかった。

 

「法務へ照会」シキは無線で言った。「アルタイ地区施設の捜索許可に必要な書類を確認。緊急扱いで」

 

『了解』

 

 午前五時十二分、雨が降り始めた。波板屋根に落ちた水は、会話を聞き取りにくくする程度の音量になった。拘束された三人は車内で黙っていた。十二個の差圧計だけが、同じ数値を示していた。

 

 化学防護車が着いたのは午前五時四十九分だった。荷室の固定具はコンテナの規格と合わず、木製パレットごとラッシングベルトで締めた。一本目のベルトは摩耗検査期限が切れていて使えなかった。交換品を倉庫まで運ぶのにさらに十五分かかった。

 

 撤収は午前七時十二分。通勤時間帯にかかり、護送車は本部まで一時間三十八分を要した。情報提供者が言った十一日という期限から、半日近くが消えた。

 

 本部の証拠搬入口は通常の押収品で埋まっていた。違法銃器二十七丁、偽造医薬品の箱、盗難車両から外したナンバープレート。MFIのコンテナは同じ列へ並べられず、車内で待機した。

 

 危険物保管庫の空き区画を作るため、前月に押収した発煙剤を別棟へ移した。移動許可の署名者は出勤前だった。電話で起こし、電子署名を得るまで三十三分かかった。コンテナの差圧はその間に二ヘクトパスカル上がった。外気温の変化によるものか、密封低下かは判別できなかった。

 

 正午前、十二箱は保管庫へ入った。入庫担当者は封印番号を一桁ずつ読み、シキが復唱した。十一箱目で数字を読み違え、最初からやり直した。危険物の前でも、記録の誤りは声の大きさでは修正されなかった。

 

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