正義は六週間後に届く   作:何もない一般人

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尋問

 三人のうち二人は日雇いだった。募集は匿名求人アプリ。日当は前払いで、倉庫に午前六時までいればよいと指示されていた。端末のやり取りは自動消去設定だったが、通知履歴に時刻だけが残っていた。

 

 三人目は身分証を所持していなかった。照会用に採った指紋は、午前中のバッチ処理に回された。回答予定は最短四日後だった。

 

 取り調べの前に医療確認が行われた。頬の傷は表皮裂創、全治三日。男は頭痛を訴えたため、簡易画像検査を受けた。異常なしの所見が出るまで二時間、聴取は始められなかった。弁護人の立会い希望はなし。黙秘権と供述拒否による不利益がないことを、ミナが定型文で読み上げた。

 

 取調室の時計は実際より一分半進んでいた。録画装置の時刻は標準時に同期している。調書には録画装置の時刻を使う。壁の時計だけを見ると、休憩時間が規定より短く見えた。ノエは始める前に電池を抜いた。

 

 取調室で、男は納品書を見た。

 

「書いてある。訓練弾だ」

 

「訓練弾に圧力管理が必要な理由は」ミナが聞いた。

 

「荷主に聞け」

 

「荷主は」

 

「知らない」

 

「返送先の施設名は」

 

「知らない」

 

 男は同じ答えを、語尾まで変えずに繰り返した。供述拒否ではない。質問に答えているため、調書には《不知と供述》と記載された。

 

「倉庫に何日いた」

 

「二日」

 

「食料は誰が持ち込んだ」

 

「自分で買った」

 

「レシートは」

 

「捨てた」

 

「散弾銃は誰のものだ」

 

「知らない」

 

「あなたの寝袋の横にあった」

 

「寝袋が俺のだと、誰が言った」

 

 ミナは質問の順を変え、同じ時刻を三度聞いた。男の答えはすべて一致した。用意していたというより、余計な情報を一つも作らない訓練を受けていた。

 

 ノエは壁際に立っていた。途中でポーチからビーンバッグ弾を一発出し、机へ置いた。

 

「これも非致死性だ」

 

 男は弾頭の布袋を見た。

 

「七メートルで肋骨が折れる。心臓の上なら止まることもある。製造元は、人が死なないとは保証していない。致死を目的にしていない、としか保証しない」

 

「講習なら新人にしろ」

 

「箱の中身も、同じ言葉の使い方か」

 

 男は二秒、ノエを見た。そのあと椅子の背へ戻った。

 

「知らない」

 

 それ以上は動かなかった。

 

 午前九時、勾留延長の見込みは低いと法務から連絡が来た。コンテナの内容が危険物だと確定しない限り、男に適用できるのは倉庫管理上の軽微な違反だけだった。外面残留物の速報は二日後。指紋照会は四日後。輸送は十日後。

 

 日雇いの二人は同日夕方に釈放された。生活安全局が所在確認を続けることになったが、担当班は連続放火事件へ人員を取られていた。見張りは付かなかった。一人は翌朝、登録住所からいなくなった。部屋には借りた家具と、洗って乾かした食器だけが残っていた。

 

 三人目も翌日には釈放される見込みだった。シキは任意での接触監視を申請した。承認は下りたが、追尾車両が足りず、公共カメラによる断続監視になった。男は釈放後、駅のトイレへ入り、清掃員用通路から出た。映像上ではそこで消えた。

 

 廊下でミナが調書を閉じた。

 

「嘘はついています」

 

「嘘を立証する資料がない」シキが言った。

 

「四日あれば余罪が出るかもしれない」

 

「四日使えば、残りは六日になる」

 

 ノエは机に置いた弾をポーチへ戻した。布袋に男の指紋は付かなかった。男は触れていない。

 

 第三小隊はその日、すべての手順を守った。守った結果として、待つことになった。

 

 待機室へ戻ったのは午後六時過ぎだった。昼食用に配られた弁当が四つ、保冷箱に残っていた。米は固くなり、揚げ物の衣が油を吸っていた。ノエは自分の分を電子レンジへ入れ、加熱終了後も取り出さなかった。

 

「あの男、箱の中身を知ってたと思うか」シキが聞いた。

 

「知識の種類による」ノエは電子レンジの窓を見た。「製剤名までは知らない。効果は知ってる。たぶん、使った後に何が起きるかも」

 

「根拠は」

 

「俺がビーンバッグ弾を出したとき、弾じゃなくて俺の手を見た。脅されると思ったんじゃない。俺がどこまで知ってるかを見てた」

 

「調書に書けるか」

 

「書いてもいい。顔を見た感想だ。証拠にはならない」

 

 電子レンジが保温終了の音を鳴らした。ノエは弁当を取り出し、ごみ箱へ捨てた。手を付けていない食品は別の廃棄区分だったが、分別しなかった。

 

 ミナは取調べ録画を最初から見直した。二時間十一分の映像で、男が水を飲んだのは一回、姿勢を変えたのは六回。質問に答える前の間は平均一・八秒だった。発注主を聞いたときだけ、〇・七秒だった。答えを用意していた可能性はある。その数値も、単独では何も証明しなかった。

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