正義は六週間後に届く   作:何もない一般人

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綻び

 先生が照会を受け取ったのは同日午後だった。

 

 アルタイへの出動報告はあった。ゲヘナについては一行もなかった。行動しなかったのではない。報告できなかったのだと、先生には判断できた。

 

 照会の写しを持ってきたのはカンナだった。制服の上着は着ていたが、襟の留め具が一つ外れていた。アルタイの報告を受け取ってから、仮眠室へ戻っていない。

 

「風紀委員会が回収した箱は、倉庫で押収したものと同型だ」カンナは言った。「本官の部隊が動いた可能性が高い」

 

「第三小隊へ確認は?」

 

「所在確認中だ。定時報告には応答している。だが、ゲヘナについては報告がない」

 

「直接、聞きに行こう」

 

「待ってくれ、先生。公安局長とシャーレが、記録を残さず同時に接触すれば、口裏合わせを疑われる」

 

「記録を残して行けばいい」

 

「その記録を作るには、まず事案として受理しなければならない。受理すれば、監察と生活安全局が動く」

 

 カンナは照会文を机へ置いた。

 

「……まだ、部下として戻すのか。容疑者として呼ぶのか。本官が決めなければならない」

 

「決めている間にも、向こうは動くよ」

 

「分かっている」

 

 カンナは即答した。分かっていることは、決められることと同じではなかった。

 

 違法な越境と、その未報告は別の事実だった。前者は危険を止めるための判断として説明できる。後者は、その判断をした者を守るための行為だった。

 

 先生はシキとの面談を申し入れた。正式な面談には、指揮系統を通す必要があった。依頼は公安局総務、特別行動部長、第三小隊の順で回る。緊急指定には、シキが捜査対象であることを明示しなければならない。まだ捜査対象とは確定していなかった。

 

 先生は非公式に電話をかけることも考えた。第三小隊の連絡先は端末に入っていた。発信ボタンを押せば、数秒でシキへ繋がる。だが、捜査対象になる可能性がある相手への非記録接触は、後の調査で必ず問題になる。会話内容が正しくても、記録がなければ双方が別のことを言える。

 

 先生は電話をかけず、面談依頼の理由欄を三度書き直した。最初は《MFI捜査の進行確認》、次は《越境出動に関する事実確認》。最後に《隊員の安全確保及び任意の事情聴取》とした。三つ目が最も穏当で、最も緊急性が伝わらなかった。

 

 依頼が総務で受理されたころ、生活安全局は別件の押収記録から第三小隊の後方処理班へ到達していた。

 

 処理班はアルタイから持ち帰った端末と検体を運んだ。ゲヘナからの証拠袋も受け取った。倉庫番号のない受領票、消毒記録にだけ存在する車両、返却時に走行距離が二百十四キロ増えていた化学防護車。個別には記載ミスで済む数字が、時刻順に並べると一つの行動になった。

 

 四名が事情聴取のため拘束された。

 

 最初に拘束されたのは車両整備担当だった。彼女はゲヘナの証拠袋を見ていない。依頼票どおり荷室を洗浄し、フィルターを交換しただけだった。洗浄排水の処理番号を聞かれ、記録端末を開いた。そこに通常手続きにはない高濃度汚染の警告が残っていた。

 

 二人目は証拠保管担当。受領時刻と返却時刻の不一致を問われ、シキから口頭で一時保管を頼まれたと答えた。嘘をつかなかった。三人目と四人目も同じだった。誰も秘密作戦の全体を知らなかったが、それぞれが違う一部分を知っていた。供述を並べれば、全体ができた。

 

 生活安全局は二日後、四名を本部取調施設へ移送すると決めた。移送計画は通常の庁内文書として配布された。閲覧権限を持つ者は百八十六人いた。その中に第三小隊の事務担当がいた。

 

 事務担当は文書を印刷しなかった。画面を私物端末で撮影し、画像をシキへ送った。監査ログには閲覧時刻だけが残った。送信後、画像を削除したが、端末の自動バックアップが走っていた。証拠を消したつもりで、複製を一つ増やした。

 

 先生の面談依頼が特別行動部長の承認待ちになった時点で、シキはすでに移送経路を印刷していた。

 

 承認はその日の午後に下りた。面談場所はシャーレ、日時は翌日午前十時。監察員一名の同席が条件だった。通知が第三小隊の端末へ届いたとき、待機室には誰もいなかった。端末は机の上で受信音を一度鳴らし、五分後に画面を消した。

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