正義は六週間後に届く   作:何もない一般人

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バス襲撃

 移送車は小型バス一台、護衛四名、運転員一名。経路は十七・六キロ。午前八時台の平均所要時間は四十二分だった。

 

 シキは信号周期と渋滞記録を重ねた。高架下の交差点で、車列は平均三分十四秒停止する。監視カメラは西側一基。保守会社の型番まで調べた。

 

 道路幅は片側二車線。歩道には防護柵があり、車両で逃げる方向は東西に限られる。午前八時半は通学者が多い。シキは近隣校の始業時刻を調べ、襲撃時刻を七分遅らせた。通行人を減らすためだった。遅らせれば渋滞は増え、撤収は難しくなる。安全と成功率は同じ方向を向かなかった。

 

 ノエはヘルメット団の映像を十七本見た。銃の持ち方、合図、車の停め方。模倣すべき特徴は技術ではなく雑さだった。

 

「わざと下手に動く訓練は受けてない」

 

「撃つ位置だけは外すな」ミナが言った。

 

「それをやったら、もう下手には見えない」

 

 誰も解決策を出さなかった。

 

「ここで処理班を回収する」

 

 待機室で、ミナは作戦図を見た。

 

「何から守るんですか」

 

「調査から」

 

「調査は敵ではありません」

 

「あの四人は私の指示で動いた」

 

「なら、隊長が出頭してください」

 

 シキは答えなかった。

 

「アルタイではMFIを止めました。ゲヘナでも止めた。今度の相手は生活安全局です。バスを襲っても、MFIは一グラムも減らない」

 

「私たちが拘束されれば、次のロットを追う者がいなくなる」

 

「それは、私たちが必要だという主張です。私たちが無罪だという根拠ではありません」

 

 ミナは反対を記録するよう求めた。シキは、この作戦に記録はないと答えた。

 

 ミナは装具を着けた。反対と不参加を同じことにできなかった。シキを監視するためだと自分に説明した。その説明は、作戦参加の事実を変えなかった。

 

 リンも参加理由を書類には残さなかった。海警局へ戻れば、無許可飛行について事情を聞かれる。第三小隊を離れても、アルタイの共犯であることは変わらない。参加は忠誠ではなく、すでに切れていた退路の結果だった。

 

 ノエは覆面を配った。量販店で同じものを八枚買い、四枚を別々のごみ箱へ捨てた。購入記録から人数を推定されにくくするためだった。残した四枚にはサイズ違いがあり、ミナのものだけ顎がきつかった。

 

---

 

 襲撃側はヘルメット団の覆面、量販店の衣服、違法市場で流通する小銃を使った。制式品は無線機と防弾手袋の下に隠した。

 

 午前八時三十一分、移送車が赤信号で止まった。前後を二台の車で塞いだ。閃光弾を一発、ビーンバッグ弾を六発使用した。護衛一名は鎖骨骨折、一名は左眼の角膜損傷、二名は打撲。運転員はハンドルへ額をぶつけ、五針縫った。

 

 最初の閃光弾はバスの右前方へ転がる予定だった。縁石に当たり、車体の下へ入った。爆発時、運転員は反射的に身を伏せ、額をハンドルへ打った。計画書に運転員の負傷は想定されていなかった。

 

 ビーンバッグ弾の一発は護衛の胸部を狙い、相手が振り向いたため左肩へ当たった。鎖骨が折れた。別の一発は防護眼鏡の縁へ当たり、割れたレンズ片が角膜に入った。非致死弾は、致死しない結果を保証する弾ではなかった。

 

 後部扉の蝶番を切り、処理班四名を車へ移した。所要三十八秒。

 

 薬莢は回収した。西側監視カメラには前夜、偽の保守予約を入れた。ナンバープレートは盗難車のものを複製した。

 

 護衛の胸に付いたボディカメラは確認しなかった。

 

 車両内で処理班の一人が過呼吸を起こした。自分たちを助けに来たのか、口を塞ぎに来たのかと何度も聞いた。シキは保護すると答えた。どこへ連れていくかは答えなかった。

 

 覆面を外したミナの顎には、布の縁が赤く食い込んでいた。彼女は救急無線を傍受し、護衛四名が全員生存していることを確認した。左眼の負傷については、その時点で重症度が分からなかった。

 

 映像には、覆面の集団が互いの射線を一度も横切らずに動く様子が残った。ノエの左手首が三秒映り、上着の袖口から防弾手袋の留め具が見えた。ヴァルキューレ制式品のうち、特別行動部へ配備された型だった。

 

 偽装は外見を変えた。訓練までは変えなかった。

 

 回収地点でノエは使用した服を化学処理袋へ入れた。焼却すれば繊維は消えるが、焼却炉の使用記録が残る。一般ごみに混ぜれば回収される可能性がある。最終的に、アルタイから持ち帰った汚染物として正規の焼却便へ載せた。虚偽の処理番号を一つ増やした。

 

 処理班は閉鎖された訓練施設へ移された。窓に板が打たれ、暖房は動かなかった。備蓄食は四人分で二日。シキは外へ出ないよう指示した。

 

「いつまでですか」車両整備担当が聞いた。

 

「状況が落ち着くまで」

 

「生活安全局へ戻れば、私たちは何をされるんです」

 

「事情を聞かれる。記録を押さえられる」

 

「それだけですか」

 

 シキは答えるまでに間を置いた。

 

「それだけでは済まない可能性がある」

 

「ここにいれば、済むんですか」

 

 今度は答えなかった。処理班を奪還したことで、四人は事情聴取の対象から護送襲撃の共犯候補に変わっていた。保護は、帰る場所をなくす方法で行われた。

 

 ミナは施設の外で会話を聞いていた。中へ入らず、扉の脇に救急箱と水を置いた。反対した者が、襲撃後の後始末をしていた。

 

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