古びた駅のホームで、終電が行ってしまったはずなのに、もう一度だけ列車の音が聞こえた。
その車両は普段見かけない黄色の車両だった。
シャリシャリと音をたてながらゆっくりとホームを通り過ぎていく…
思わず時刻表に目をやったが、そこには終電の時刻しか載っていない。
黄色い車両は停車する気配もなく通り過ぎるかと思われた、その瞬間、最後尾のドアが「プシュー」という音とともに、ほんの数秒だけ静かに開いた。
車内には誰の姿も見えない。ただ、一番奥の座席にだけ、古びた革の鞄がぽつんと置かれていた。
とても珍しい光景を見た。
その車両は噂に聞く整備車両というやつだろう。
いつも私達が寝静まった間に線路を整備している隠れた働き者である。
しかし、あのカバンは整備士さんの忘れ物だろうか?
ホームに残っていた駅員に「あの車両、忘れ物みたいなんですけど」と声をかけようとした。
しかし、改札を閉めていた年配の駅員は黄色い車両の走り去った方向を一瞥すると、不思議そうな顔で首をかしげた。
「黄色い車両……? 今日は保守作業の予定なんて入ってないよ。」
そう言って駅員は運行管理の画面を確認したが、終電の記録で止まったまま、私が見たはずの列車はどこにも表示されていなかった。
私は思わず線路の先を見つめた。
闇の中にはもう何もない。
ただ、さっきまで確かに聞こえていたシャリシャリという音だけが、耳の奥にいつまでも残っていた。
ということは駅員も知らないシークレットサービスとでもいうのだろうか?
借りぐらししてそうなどこかのAさん*1もびっくりである。
駅員は私の冗談に苦笑いを浮かべた。
「もし本当にそんな秘密組織があるなら、うちも人手不足で困ってるから手伝ってほしいくらいですよ。」
その言葉に少し安心し、私も笑ってしまった。やはり見間違いだったのかもしれない。
……そう思った矢先、ホームのベンチの足元で、何かが小さく光った。
拾い上げると、それは親指ほどの大きさしかない黄色いヘルメットだった。精巧に作られているが、人間がかぶるにはあまりにも小さい。
内側には、虫眼鏡でようやく読めるほどの文字で、こう刻まれていた。
「夜間線路保全部 第七班 返却期限:日の出まで」
どうやらJ〇は妖精さんにも雇用の門を開いていたようである。人知れず夜の為に働く妖精さん達に敬礼を送った。
翌朝、ニュースでは「昨夜未明、○○線で線路設備の異常が発見されるも、始発前に復旧したため運休・遅延はありませんでした」と短く報じられていた。
「すごいなあ。誰が直したんだろうね」
職場でそんな会話を耳にしながら、私は思わず笑みをこぼす。
もちろん、本当のところは誰にも話さなかった。話したところで信じてもらえないだろうし、何より彼らは"見つからないこと"も仕事のうちなのだろう。
あの日拾った小さな黄色いヘルメットは、気がつけば机の上から跡形もなく消えていた。
ただ、一枚だけ、名刺ほどの大きさの紙が残されている。
「ご協力ありがとうございました。 線路は今日も、誰かの見えない仕事でつながっています。」
その下には、小さな線路のマークと、米粒ほどの字でこう添えられていた。
「※夜行性のため、お礼は月明かりでお願いします。」
私は思わず夜空を見上げ、小さく敬礼した。どこか遠くで、あの「シャリシャリ」という音が、少しだけ誇らしげに響いた気がした。
チャッピーがホラーに持っていこうとするから
そうはさせるかと路線変更しようとしたらこのざまだよ
明らかにAさんのせいだろうなぁ