紐になりたいといったな。あれは冗談だった。   作:紺南

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本日三話目の投稿かつ今話が最終話です
読んでない人は前の話からどうぞ


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「おやすみ! また明日!」

 

「……おやすみ」

 

バタンと扉が閉まる。

ユウはソファに崩れるように座り、昔のことを思い出していた。

フェイトと同居することになった経緯。なぜ喧嘩などしてしまったのか。

 

色々あった学生時代。様々な困難を経て、今に至っている。

怒って行ってしまったフェイトのことを思いながら考える。

そもそも、同居すること自体が間違いだったと。

 

長くとも一ヶ月と定めていた同居期間も、気づけば三ヶ月を過ぎている。

なぜ、今なお共同生活を送っているのか。

それは、未だに仕事が見つからないからだった。

 

ミッドチルダは地球とは違う世界だ。

当然、ユウの知らない仕事は山のようにある。高望みしたことは否めない。管理局員にならいつでもなれるという驕りもあった。

空を飛べる魔導士は珍しいと聞いていたし、公式記録にはなくても、それなりの実戦経験はある。

採用試験なんていつでも受かるだろうと思い、滑り止め程度に考えていた。

一ヶ月を過ぎ、二か月が過ぎて、他の仕事が見つからなかったため、ついに管理局員の採用試験を受けたが、まさかの不合格。

 

自分より年下の少女や少年が受かったのに、ユウは受からなかった。

その時のショックは相当なもので、ユウは真面目に枕を濡らした。自覚こそなかったが、魔法を使えるというのはユウにとっては相当の自信に繋がっていた。それで不合格だったのだから、かなり落ち込んだ。

 

落ち込みつつも別の仕事を探す。

しかし、管理外世界で育ったユウに、ミッドチルダで役立てられる技能はない。文明格差があまりに大き過ぎた。

唯一役立てられそうな魔法すら、管理局にNOを突きつけられてしまったのだから、ユウはこの世界では何の役にも立たないと言うことになる。

 

一から学ぶことを考え、必要とあらば教育を受け直すのも手段の一つだったが、それを思いついた時には無一文になっていた。

 

三ヶ月近いニート生活は、ユウの貯金を空っぽにし、これ以上の日常生活を困難にした。

 

やむなく、二人に頭を下げることになり、ユウの自尊心は大いに傷ついた。そんなものはないと思われたユウにも、自尊心はあったのだ。

 

ユウが正式に紐になった時、フェイトは大層喜んだ。

以前から準備してあった計画書を持ち出して、小遣いの額や家事当番を決めたぐらいだ。

私こんなに収入があるんだよと、源泉徴収票を見せびらかしもした。無職のユウには何よりきつい精神攻撃だった。

 

かくして、ユウは紐へと至り、短期バイトなどで小銭を稼ぎつつ、学校に行くための資金を貯めている最中である。

 

振り返れば、全てが間違っていたとユウは思う。

同居とかそれ以前の問題だった。結果的に見れば紐になりに来ただけだった。誰が進んでそんなものになるのだろう。ユウには空を飛ぶ適性はあっても、紐になる適性はなかった。

 

ユウは溜め息を吐く。

現状に関する分析はさて置いて、フェイトと喧嘩した件について考える。

衣食住の全てを握っている絶対君主に対し、決して頭が上がらないユウがなぜ背いてしまったのか。

それは、フェイトからユウに対して、譲れない要求があったからだった。それに従うぐらいなら、追い出された方がマシと思えるぐらいの要求だった。

 

ユウは改めてそれについて考える。

考えた末、やっぱり無理だよなと結論する。それをやったら今度こそ一線越えかねないよなと。

責任の一言が伸しかかる。男にとって、何より重い言葉だった。

 

「ゆうくん?」

 

ガチャリと扉の開く音がして、我に返ったユウが顔を上げると、パジャマ姿のなのはがリビングに入ってきたところだった。

静かにユウを見据えるその視線に、どこか責めるような意志を感じ、ユウは身を縮こませる。

 

ゆっくりと、決して視線を外さずに歩み寄るなのは。

ユウの隣に腰を下ろし、横顔を見つめたまま尋ねる。

 

「フェイトちゃんと喧嘩したの? ぷんぶん怒ってたけど」

 

「いや、喧嘩というか、言い争いと言うか、そんな大層なもんじゃないけど……」

 

「……理由は? 今言うなら許してあげる」

 

「そんな、俺が一方的に悪いみたいな言い方……」

 

「ふーん」

 

なのははゆっくりとユウに近づく。

肩に手を置き、耳に口を近づけた。小さく囁く。

 

「すずかちゃんの脚を舐めたって聞いたけど?」

 

即座にユウはソファを滑り落ち、土下座の体勢になった。

額をカーペットに擦り付け、許しを請うた。

はっきり言って、なのはに許しを請うようなことではないのだが、なぜかその胸は罪悪感で一杯だった。

 

「相変わらず、こういう時は機敏だね」

 

「……」

 

「土下座より、質問に答えてほしいんだけど」

 

「……」

 

ユウの後頭部を足の裏で軽く叩きながら、なのはは詰問する。

 

「すずかちゃんの脚、舐めたの?」

 

「舐めました!」

 

ドスッと後頭部が踏み付けられる。

都合二回、踏みつけが続き、呆れた声音が降ってくる。

 

「なにしてるの? ゆうくん?」

 

「違う……違うんだ……。テンションが上がり過ぎて、うっかり口走っただけなんだ……」

 

「でも舐めたんでしょ?」

 

「舐めました!」

 

最後の一撃が一番痛かった。

痛めたかもしれない首を抑えながら、ユウは顔を上げる。

 

「一応、どうしてそんなことになったのか教えてくれる?」

 

「すずかが猫耳をつけてだな。にゃ~って言ったんだ。身体をスリ寄せてきて、俺はもう耐えきれなくて……思わず舐めさせてくださいって言っちゃった」

 

月村忍案、すずか実行の猫耳攻勢は成功裏に終わった。

出来ることなら、そのまま行き着く所まで行き着かせる予定だったが、ユウが理性を取り戻したおかげでそっちの方は未遂で済んだ。

反省を生かし、次は酒を仕込んでおく予定である。勿論、無断で。

 

事の次第を把握したなのはは、「すずかちゃん……」と呟いた。

小学校からの友人が猫のコスプレをして男に媚を売る姿を想像してしまった。

想像するだけでも見るに堪えないのだが、脚を舐めさせた件は本人からの自己申告で発覚しているため、格好を気にしてはいないようである。

 

「じゃあ、フェイトちゃんはどうして怒ってたの?」

 

「……私に脚を舐めさせてって言わないのはなんでって怒られた」

 

「フェイトちゃん……」

 

なのはは哀れに思った。

そんなに脚を舐めさせたいのかと。舐めさせてどうしたいのかと。

幼馴染二人がよく分からない世界に足を突っ込んでいる。正確にはユウの口に突っ込もうとしている。

 

「念のために言っておくけど、フェイトちゃんにそんなこと言ったら」

 

「言わない言わない。絶対言わない。言ったらどうなるか分からない」

 

「……舐めるのが脚だけで済んだらいいね」

 

「怖いこと言うなよぉ……」

 

なのはは溜め息を吐いた。

事情は把握した。すずかの脚を舐めたと知った時の怒りも大分収まった。

次から地球に預ける時はアリサの家に預けないといけない。少なくとも、すずかとユウを二人っきりにはさせられない。

月村忍が厄介だった。兄の恭也曰く、本気でユウとすずかをくっつけようとしているらしい。面白そうだからと言う理由でそんなことをされても困るのだが。

 

一先ずの方針を決め、これから仕事も忙しくなるのになと嘆息する。

なのはとアリサが緩い協力関係なのに対し、フェイトは天然で、すずかは一直線に走っている。影の薄いはやてですら、なのはの目が届かない時に家に泊まらせていた。

いっそのこと、ここで勝負を決めるのもありかもしれない。そう思い、ユウの顔の前に足を差し出す。

 

「舐める?」

 

「は?」

 

ユウが呆気にとられている。視線がなのはの顔と足を往復する。

次の瞬間、きりっとした顔になり、「舐めてよろしいんですか?」と尋ね返してきた。

瞬時に悟る。あ、これ無理だ。

 

「やっぱりなし」

 

「まあまあ。味見ぐらい」

 

「なしって言ったの……もうっ!」

 

やむを得ず、蹴った。

同時に、扉が勢いよく開く。

 

「だめえっ!!」

 

フェイトが立っていた。

どうやらのぞき見していたらしい。

 

「なのはの足を舐めるなら、その前に私の足を舐めて!?」

 

「舐めねえよ」

 

蹴られたユウが起き上がる。

その変態性もフェイトに対しては顔を引っ込める。洒落にならないからだ。冗談で言った言葉を真に受けられて、おかしな方向に突っ走られては皆が困る。紐の件など、まさしくその一例だった。

 

「いいか、フェイト。俺が本気で人の脚を舐めたがってるって思ってるのか?」

 

「違うの?」

 

「ただの冗談だよ」

 

穏やかに話しかけるユウを見て、フェイトも落ち着いていく。

 

「でも、すずかの足は舐めたんでしょ?」

 

「冗談を真に受けられて……そういう空気感で……なんか逆らえなくて……」

 

「だから、もしそう言うことがしたいなら、私でして? 私、なんでも協力するから……」

 

ユウが遠い目をして言葉に迷った。助けを求めてなのはを見たが、なのははゴミを見る目で応じた。

 

「俺はよく冗談を言うんだ……例えば、前に紐になりたいって言ったけど、あれは冗談だったから」

 

「でもユウは今紐だよね?」

 

「ひ、紐です……はやく仕事を見つけないと……一刻も早く……」

 

「別にユウは紐でいいよ……私が一生養ってあげるから……」

 

「ひぐうっ」

 

「もういいかな? 二人とも」

 

いつまで経っても終わらない二人の会話に業を煮やしたかのように、なのはが割って入る。

本心では、ここで止めておかないとユウが押し切られる可能性を察していた。

 

「明日からの予定だけど、私とフェイトちゃんが忙しくて暫く帰ってこれないから、その間、ゆうくんははやてちゃんの家に行ってくれる? はやてちゃんも三日後に出張があるみたいだから、その後はアリサちゃんの家に行ってもらって……」

 

「あの、いいですか?」

 

ユウが手を挙げる。

「なに?」となのはが訊ねた。

 

「どうして俺は女の子の家を転々としないといけないの? 紐じゃん。まさしく紐じゃん」

 

「私もフェイトちゃんも忙しくて、ゆうくんの面倒を見る人がいないから」

 

「俺はペットじゃねえんだぞ。せめてミッドチルダにいさせろよ」

 

ユウの言い分は最もなのだが、出来る限りユウを地球に戻すと五人の中で決められているので、こういう機会に戻ってもらっている。

目を離した隙に仕事を見つけられたら厄介だと言う理由もあった。地球とミッドチルダを行き来している限り、定職なんて絶対に見つからない。そんな人材を欲しがるのはユーノぐらいだろう。

 

「はやてちゃんにご飯の作り方教わって来てよ。私、日本食が食べたいの」

 

「あ、私はカレーが食べたい。日本のやつ」

 

「いくらでも教わって来るけどさあ……俺だって仕事探したり色々と……」

 

ぐちぐちと文句を言うユウに、なのはが冷酷に言い放つ。

 

「どうせ受からないんだから、しばらく短期バイトだけしてれば?」

 

「……先の予定がよく分からないから、バイトの予定立てたくても立てられないんだよ!」

 

「あっそう……大変だね。頑張って」

 

いくら文句を言われても、衣食住を握っているなのはは強い。

フェイトも最低限は弁えているので、必要以上の現金は渡していなかった。

おかげで、ユウが姿をくらます心配も消えた。

 

「何かが間違っている……どこかで間違えた……どこで?」

 

ぶつぶつと呟くユウを見ながら、なのはは考える。

綱渡りだが、安定はしている。ユウがデバイスを持っていないから、クロノもユーノも、リンディでさえ直接連絡を取れていない。

ユーノからのヘルプコールは握りつぶしているし、クロノからの仕事を紹介すると言う提案もスルー出来ている。

安定している。そう、自分に言い聞かす。

 

「じゃあ、ゆうくん。明日からはやてちゃんの家だから、よろしくね」

 

「……はあい」

 

なのはは微笑む。

一先ずはこれでいい。

ユウが誰かを選ぶまで、この緩い関係が続いてくれるのが望ましい。既成事実は、出来ればなしの方がいい。

 

ユウが誰を選ぶのかは、まあ、分からないが。

とりあえず、この状況を維持し続ければいい。

その内、ユウは選ぶだろう。ただ一人の女の子を。

それが自分であるなんて、そんな確証はないけれど。でも、そうだったらいいなと漠然とそう思う。

 

高町なのはは微笑んで、未来に夢を馳せた。

 




おわり

終わりです。
実はもっと続く予定でしたが、キリのいいところで終わりにしようと思い、今話を最終話にしました。

なんとなく最終話時点での六人の関係性は察していただけると思います。
最終的に、主人公が誰を選ぶのか、誰も選べないのかは不明です。なるようになるでしょう。

今更ですが、この二次創作は旧アニメ版を元に書いています。
リリカルなのはの最新アニメが放送中ですので、興味のある方はご覧になってください。

お読みいただきありがとうございました。
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