「それで、ユウとはその後どうなんだ?」
「え? あ、うん……」
クロノ・ハラオウンは、久方ぶりに会う義妹のフェイトとの食事中、機を見てその質問をぶつけた。
お互いの近況や仕事の相談など、話すこともなくなり、満を持してと言う気持ちであったが、返ってきた答えは素っ気ないものだった。
「どうって言われても……特に何もないかな……。それより、今度また子供に会わせてほしいな。エイミイにも会いたいし」
「構わないよ。エイミイにも言っておく」
快諾しながら、クロノは考える。
この反応は一体どういうことだろうと。
いくつか可能性が考えられたが、真っ先に思ったのは、ついに愛想を尽かされたかというものだった。
ミッドチルダに移住してからこちら、紐生活を謳歌していると聞くあの年下の友人は、仕事を紹介すると言うクロノの申し出にも碌な返事をよこさなかった。
ちょっと前までは努力家で勤勉な男だと思っていたのに、一度紐に落ちてしまえばこの体たらく。
移住した当初は就活が上手く行っていなかったと聞いており、可哀想に思ってフェイトやなのは、はやてを経由して仕事を紹介すると何度となく提案したにも関わらず、答えは決まって「考えておく」というものだった。
考え続けた結果が二年の紐生活である。正直に言って、フェイトに限らず、なのはにだって愛想を尽かされても仕方がないと思っていた。
そうした中、久し振りに会ったフェイトに紐について尋ねてみれば、そのことには触れて欲しくないと言う反応を示した。
ついに捨てられるのか、とあの変態を哀れに思う。
昔はもっと真面目だったのに、と出会った頃を懐かしむ。
「彼はまだ仕事が見つからないのか?」
「……多分」
「もう二年だ。君たちの家を転々とするのは止めさせて、そろそろ働かせたほうがいい。僕の方で紹介できる仕事がいくつかある。相変わらずユーノも人手が足りないと嘆いているし、選り取り見取りとは言わないが、選べるだけの職は紹介できるはずだ」
「うん……」
「君と彼の関係に口を挟む気はない。しかし、この状況が続くのは彼のためにもならない。君ももう立派な執務官だ。例の新設部隊の件もある。余計な面倒事を抱え込む余裕はないだろう」
クロノの言う通り、フェイトは執務官としていくつもの事件を担当している。その傍らで部隊新設にも関わっているため、ユウと会う頻度は目に見えて減っている。
「いい加減、君も愛想が尽きてきたんじゃないか?」
「そんなことないよ……」
口では否定しつつ、どこか歯切れの悪いフェイトの態度に、クロノはもう一歩踏み込むことにした。
「一度、彼と直接会って話がしたいんだが、取り次いでくれないか?」
「え……?」
フェイトの顔色が明確に変わった。
罪を犯している人間が、それがばれそうになって焦っている。
クロノにはそう見えた。
「何か問題があるのか?」
「な、ないよ何も……聞いておくね……」
「いつ頃なら会えるだろうか。正直、僕もそれほど暇があるわけじゃない。出来れば僕の予定に合わせてほしいんだが」
「う、うん……。伝えておく……」
フェイトの態度がおかしい。
クロノはそれに気づいた。愛想が尽きた云々ではなく、もっと別の隠し事があるように思えた。
「……なにか、僕に言わないといけないことはあるかい?」
「え!? な、なに? よく分からない……」
問い詰めるべきだろうか。
悩んだが、やめておく。近々、はやてと会う予定があった。そちらから切り込んで見るべきだと判断した。
もしかしたら、あの友人はとんでもない苦労を背負っているのかもしれない。
◇ ◇ ◇
「クロノからそんなことを言われたんだけど……」
「無視していいよ。面倒だから」
その日の晩。通信越しに事の次第を打ち明けたフェイト。
聞かされたなのはは即答する。無視しろと。
「いいのかなあ……」
「よくはないけど、良いってことにしちゃえばいいよ」
あっけらかんと言ってのけるなのはに、はやてが異を唱えた。
「せやかてなあ。クロノ君にはお世話になってるし、いつかはバレるんやし、いっそ打ち明けたほうがええんちゃう?」
はやての言葉は正論だった。
無理に隠し通すメリットはない。ミッドチルダにいて、誰よりもクロノの世話になっているからこそ、そう思うのだろう。
「ちょっと待ちなさい。それ、仮に打ち明けたらどうなるの?」
地球から通信を繋いでいるアリサが問う。
「ゆうくんが定職につくね」
「そうしたら、地球に来る頻度が減るじゃない!」
「クロノ君がどう言う仕事を紹介するつもりなのかも問題だよ。管理局員なんて絶対に認めないから」
前線だろうと裏方だろうと認めるつもりはない。なのはの固い意志を前に、はやてもフェイトも何も言えなくなった。
「……執務官補佐にするって話は……」
「フェイトちゃんが一緒に仕事したいだけでしょ?」
「そんなことするって言うなら、こっちも手段を選ばないわよ」
二人の強硬姿勢を前に、押しの弱いフェイトは黙るしかなく、はやてはドン引きしていた。
「……なんや、ユウ君も可哀想やな」
「どうしてはやてちゃんは自分は関係ないって顔をしてるの?」
「押し倒したのはどこの誰なのよ」
「ちゃ、ちゃうねん!」
痛いところを突かれたはやてが慌てて言い訳を始める。
「あれはユウ君との口喧嘩が白熱しすぎて、周りが見えてなかった言うか、気づいたらユウ君に覆い被さってただけで、押し倒そうなんて欠片も思ってなかったんや! 大体ユウ君も悪いやろ! 普通やられたらやり返すやろ! それをやられっぱなしでやり返してこないから、私は……。私は無実や!」
「犯人は決まってそう言うのよねえ」
「ゆうくん、怖かったって言ってたよ」
「ちゃうねん……ちゃうねん……」
二人がはやてをいじめる様子を眺めていたフェイトは、押し倒すと言ったらすずかもだなあ、とここにいない友人の顔を思い浮かべた。今頃はユウと一緒にいるんだろうなあ、と羨ましく思う。
「話を戻すわよ。ユウとクロノは会わせない。これは確定ね」
「今は色々忙しいから、それを口実にすればいいよ。実際忙しいし」
なのはは教導業務の合間を縫っての通信であり、フェイトとはやてもそれぞれの執務室で通信を開いていた。
唯一、アリサだけが部屋着にゆったりとした姿勢で通信に臨んでいる。
「あんたら、そんなに忙しい忙しいって言うぐらいなら、あいつのことは一旦忘れて仕事に集中したらいいじゃない」
「ゆうくんのことも大事だから」
「二兎を追う者は一兎をも得ずって言うじゃない? 別に、暇ができるまでこっちで預かってもいいのよ? なんなら一生でも」
「それは、ゆうくんが嫌がると思うの」
通信越しに二人の睨み合いが始まり、はやてが仲裁に入った。
「二人とも落ち着きいや。こないことで喧嘩しても何の得にもならへんって」
「喧嘩なんてしないわよ」
「うん。私とアリサちゃんは友達だから」
「……さよけ」
友達にも限度があるやろと言う内心はさておき。
早く話を終わらせたほうがいいと判断したはやては纏めにかかる。
「現状維持っ言うことで、みんな異論ないな?」
「そうね」
「うん」
「……わかった」
フェイトだけはその結論に不満を持ちつつ、なのはとアリサがそこまで言うなら仕方ないと諦める。
「ユウは明日戻ってくるんだよね?」
「……そうね。あんたの家に行くんでしょ?」
「うん。その予定」
久し振りの休日はユウと過ごすと決めていた。
明日は朝からユウを迎えに行って、そのまま家に戻る。その後、どこかに出かけるつもりはなかった。
「ま、クロノの件はよろしくね。何かあったらまた連絡ちょうだい。おやすみ」
「おやすみ」
アリサが通信を切ったのを皮切りに、はやてとなのはも仕事に戻った。
フェイトも今日までに片付けなくてはいけない仕事があり、帰宅するのは深夜を回るだろうと思っていた。
うんっと背筋を伸ばしてストレッチする。
明日、ユウにマッサージをしてもらおうと思いつき、そのために頑張ろうと気合を入れなおした。