紐になりたいといったな。あれは冗談だった。   作:紺南

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時は過ぎる。

季節は冬。あっという間に12月に差しかかっていた。

 

師走の候、世間は慌ただしく動いている。

この時期特有の音楽とイルミネーションが街を彩っていた。

学校も冬休みを間近に控え、校内にはどこかソワソワとした雰囲気が漂っている。

 

そうでなくてもこの時期は子供にとってはイベントが多い。

25日にクリスマス。1月1日はお年玉。年が明ければすぐに三学期だが、二ヶ月もすれば春休みがやってくる。

この時期に落ち着いて何かに打ち込んでいるのは受験生ぐらいだろう。

 

例に漏れず、受験生であるユウは、週末に予定しているクリスマスパーティのためのプレゼントを求め、町に繰り出していた。

 

天気は曇り。予報では午後から雪が降るらしい。

本当かなと半信半疑なユウの頬に冷たい感触があった。

顔を上げ、曇天の向こうを見つめる。白い点が無数に降ってきている。

ユウは考える。冬だな、と。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

フェイトの紐受け入れ発言から数ヶ月が過ぎている。

その間、件の話題に進展はない。

 

発言の張本人であるフェイトとくれば、ユウの顔を見た途端に様子がおかしくなっていたし、他の幼馴染たちもわざわざそこに触れるようなことはしなかった。

 

なんとなく時は過ぎ 、なんとなく話は流れてしまった。

そうこうする間に受験である。ユウはアリサやすずかと同じ高校を受験することになっており、そのための準備は着々と進められていた。

 

事ここに及んでは、紐の件は掘り返す方がマズイのではないかと言う空気になっている。

クロノもエイミイもリンディでさえも、その件は詮索を控えていた。

 

そうこうするする間にクリスマスがやって来て、毎年恒例のクリスマスパーティが開かれる。

高町なのはの実家である翠屋で開催されるパーティは、各々がケーキやオードブルを持ち寄ることになっていた。

ユウとしては鍋を持ち寄ろうとしていたのだが、前日にアリサの臨検に遭い、鍋禁止令が発布されてしまった。

 

やむなく、ユウはすずかに頼んでオードブルを作ってもらうことになったのだが、「貸し一つだよ?」と言ったすずかに世知辛いものを感じざるを得なかった。

世の中とはそういうものだと涙を堪えて当日を迎えている。

 

流石のユウもすずかに全てを押し付けるのは気が引けて、スーパーに立ち寄り子供が飲めるシャンパンを購入した。

どこかで見たことのあるキャラクターがプリントされたパッケージを見つめ、果たして中学生がこれに喜ぶのだろうかと疑問を抱かざるを得なかったが、他に目ぼしい物もなく、六本ほど購入して翠屋に向かう。

 

翠屋では既に飾り付けが済んでいた。

クリスマスツリーと煌びやかな文字。赤、緑、金色の風船。

まさしくクリスマスと言う雰囲気の翠屋に入店し、待ち受けていたかのようにその場にいた高町なのはにジト目を向けられる。

 

「なんだ、その目は」

 

「さっきすずかちゃんがあれを置いていったんだけど」

 

なのはの指さす先にはオードブルがある。

人数分以上の量があると思えるそれは、本来であればユウが用意すべきだったメイン料理だ。

 

「料理の準備、すずかちゃんに投げたの?」

 

「お前は俺が自分の役目を放棄したと言いたいのか?」

 

「うん」

 

別の意味で信じ切っている瞳に、ユウはやれやれと頭を振った。

 

「お前、パーティでオードブルと鍋どっちが食いたい?」

 

「オードブル」

 

「やっぱりそうなんだ……つまりそういうことだ」

 

「ふーん」

 

救いようがないと言いたげな目に、ユウは堪らず視線を逸らした。

 

「あの、これ。シャンメリー。流石に手ぶらで来るのは気が引けたから買ってきた……」

 

「ふーん。やっぱり手ぶらだったんだ」

 

弱みを見つけたら、そこをネチネチと突くのがなのはの流儀である。

これは最早切り札を切るしかない。

ユウはその場に膝をつき、片手を胸に当て、恭しく尋ねる。

 

「脚、舐めましょうか?」

 

「……」

 

答えはみぞおちに蹴り一発。

痛みにうずくまるユウの背中に腰掛けながら、なのははシャンメリーを物色している。

 

「なにこれ、子供用?」

 

「それしか売ってなくて……」

 

「私はいいけど、アリサちゃんは悪口言うと思うよ」

 

「仕方ない。シャンメリーの悪口ぐらいなら聞き流すよ」

 

「ゆうくんへの悪口だけど」

 

「だって鍋が……」と言い訳を重ねるユウの言葉を聞き流しながら、なのはは天井を見上げていた。

 

「今年ももう終わりだね」

 

「そうだな……来年には高校生か」

 

「私は管理局に正式に入隊することになるから、しばらくお別れだね」

 

「……寂しくなるな」

 

しみじみと呟くユウ。

体勢は変わらず、うずくまった背中になのはが座っている。

故に、ユウからもなのはからも、互いがどう言う表情をしているかは見えていなかった。

 

「ゆうくんは管理局に入らないの?」

 

「管理局って字面が気に食わなくて」

 

ぱしりと背中が叩かれる。

不真面目な返答に対する制裁だった。

 

「前にも言わなかったっけ?」

 

「もう一回聞いておこうかと思って」

 

「痴呆かな?」

 

「遅報かもね」

 

真面目なことを言うのだから、真面目な体勢であろうと思ったユウが立ち上がりかける。しかしなのはがそれを許さず、一切退く気がないことを悟ったユウは、その体勢のまま言葉を続けた。

 

「世界の何処かにいる、顔も名前も、人間かも分からない奴らのことなんて、助けたいって思わないからさ。目の前の人だけ助けられれば充分なんだわ」

 

「不真面目だなあ」

 

「普通だと思うけどなあ」

 

なのはは顔を顰めて不満を露わにする。

二言三言、説教というか、説得というか、そういうことをしようと思ったが、すんでのところで口を閉ざした。

 

何を言っても変わらないのは分かりきっていたし、結局のところ、ユウに助けられた人が大勢いて、助けられた恩をまた別の誰かに繋いでいくと言うのなら、それも悪くないのだろう。

 

なのはは頷き、立ち上がり際に一発蹴りを入れる。

 

「フェイトちゃんのこと、ちゃんと決着つけておいてね」

 

「なになに。どういうこと?」

 

「フェイトちゃん、ずっと待ってるから」

 

まさかと身体を起こすユウを横目に見ながら、なのはは厨房へと向かう。

ユウから受け取ったシャンメリーを冷蔵庫に入れている途中で、父に声をかけられた。

 

「もう誰か来たのかい?」

 

「ゆうくんが来たよ」

 

なのはの父は微笑みを浮かべてユウに会いに行く。

一人残された厨房で、なのははシャンメリーのパッケージを指先で撫でた。

思うに、長い付き合いだった。幼馴染たちの中で誰よりも付き合いが長い。

一緒にお風呂に入ったことがあって、一つの布団で寝たことだってある。

流石に、ここ数年はそんなことはしていないが、悪いところも良いところも全部知っている仲だった。

 

今年でその関係にも一つの区切りがつく。

物理的に疎遠になるのだから、関係が薄くなるのは仕方がないだろう。

 

もしも仮にユウがなのは達にくっついて来たら、それはそれで楽しいのだろうが、どことなくしっくり来ない感じもあった。

 

もう何年も前からユウは高校に行くと言っていて、なのはは管理局員になると言っていた。

 

言ってしまえば予告されていた進路であって、今更それをひっくり返されては戸惑いが先に立つ。

なのはにとっては、ユウには予定通りの進路を進んでもらったほうがいいのだ。

 

例えそれでフェイトが多少悲しむことになったとしても、その時はその時なのだから。

 

「なのはー、アリサちゃんたちがいらっしゃったわよー」

 

「あ、はーい!」

 

母の声に、なのはは冷蔵庫を閉めて店に向かう。

アリサがユウに何やら説教をしている声が聞こえた。

オードブルがどうとか聞こえる。

 

これは自分も加勢しなくてはならない。

そう思って、僅かに歩を速めた。

 

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