TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい 作:きうりの魂
プロット?設定?という状況なのでエタってもさもありなんと思ってください
まず結論から話そう。私は転生した。生まれ変わった先は自然法則に喧嘩でも売るような異能が蔓延る超常世界。
どこもかしこも野蛮人が闊歩している野卑世界に生まれ落ちた私を襲うのは理不尽な暴力の数々。先天的に能力を獲得していたから耐えられたものの、赤ちゃんの頃には既にこの世界を嫌いになっていた。
教育を受けているのは力を持った豪族か気狂い野蛮人くらいなもので、文字を書けない人間なんぞ珍しくもない。それでもなお技術が現代レベルまで発展しているという歪さは異能によるものなのだろう。
暴力がモノを言うゴミみたいな世界だけど、そんなルールにも長所はある。強ければいいのだ。異能でも腕力でも技術でもいい。何かしらの力を持っていれば好き勝手が許される。
私はそのルールに則り、一つの街を非戦闘領域と制定した。やり方は褒められたものではないけれど、周辺地域有数の安全地帯となったここは文明人の私にとっては理想郷のようなものなので頑張った甲斐があったというものだ。のんびり過ごせる空間っていいよね。
ここ最近のやることなんて情報収集と蛮族の排除くらいだし、何か新しいプロジェクトを始めてみてもいいかもしれない⋯⋯そんなことを考えていると眠気が襲い掛かってきた。
惰眠をむさぼるのは仕方ないことだ。体がまだ幼いからね。緩やかに降りてくる瞼に抗うことはせずソファーへ寝転がる。おやすみなさい。
「んん? 随分と活気がねぇな。この辺をねぐらにしてた奴らはどこ行ったんだ」
流れ者の男は数年振りに訪れた街の変容に戸惑っていた。男が以前この街を通った時は銃を抱えたチンピラどもが建造物に玉をぶち込みながら練り歩き、そこかしこに火の手と悲鳴が上がるごく普通のビル街であった。
しかし喧嘩と破壊は人類の華と言わんばかりの街に好感を抱き、久々にやって来た男を迎えたのは奇妙なまでの静寂。
話し声や機械音は時折耳に入ってくるものの、罵声銃声一つ響いてこない状況ではそれすらも不気味さを増幅させる雑音である。
「何があったってんだ⋯⋯?」
「色々あったんだよ。色々ね」
男が思わずと言ったふうに零した言葉に一人の人間が答える。ケープコートを羽織り犬の仮面を装備する、不審者という存在を象徴するかのような造形の人間だ。
「君、この場所のことをよく調べずに来た口だろう? 僕が少し教えてあげようか」
絡んできた犬仮面を見て男は咄嗟に剣を抜こうとし、体が動かない事に気が付いた。指先すらも何かに固定されている。
「な⋯⋯クソっ、動け!」
「そんなに慌てなくていい。別に僕は君を取って食うつもりなんてないからさ。ただ小腹がすいているのもまた事実⋯⋯」
犬仮面は言葉を区切り、値踏みするように男の顔をのぞき込む。
「夕食、奢ってくれないかな?」
「あんた、能力者だろ? 薬物にしちゃあ仕込む時間が短すぎる」
解放された男は手首をさすりながら、犬仮面を追って街を歩いていた。
「大正解。それはそれとして夕食を約束して貰ったからね、店選びは気合を入れさせてもらうよ。君は何を食べたい?」
「んー⋯⋯じゃあ鍋が食いてえな。美味いところなら何でもいい」
「いいセンスだね。鍋が食べたいならあの店かな」
意気揚々とビルの一角へと向かっていく犬仮面は一見隙だらけに見える。反対方向へ走れば逃げられるかと考えたところで男はその考えを改めた。
この街の異変は男にとっても関心のある話題であったからだ。男が街に入ってから、未だに一つも争いごとを見ていない。血の匂いがない。歩道を歩く人間が複数いるのにも関わらず、である。
人が居なければこの異常にも納得は出来た。人が居なければ騒ぎは起こらないという道理である。
しかし、いる。人間はいるのだ。
人間が存在する場で自然の営みが行われないという矛盾。それが男に、どうにも拭えない気持ち悪さを感じさせた。
また、男は異能力者である犬仮面を出し抜けるとは考えていなかった。逃げる素振りを見せた時点で首が飛んでもおかしくない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず⋯⋯だっけか? まあ避けられねえってんなら覚悟決めるしかないわな」
「ほらこっちだ。僕は先に入ってるよ」
「へいへい」
男は店の前で手招きする犬仮面の元へ小走りで向かった。犬仮面に続き店内に入ると落ち着いた音楽が耳に流れ込んでくる。店員と入れ違いにそのまま個室に通され、犬仮面の向かい正面席にどかりと男は座り込んだ。
「それじゃあ、この場所について軽く語ってあげよう。君は鍋でもつついてくれればいい」
犬仮面はそう言ったものの鍋はまだ届いていない。ところなさげにテーブルを見回し、男は水を手に取った。
「この場所、というよりこの街は暗黒郷と呼ばれる領域だ。暗黒郷ではいついかなる時も争いが許されない。魔王と呼ばれる異能力者が支配している領域さ」
水に口をつけながら男は問う。
「争い事を許さないつったって街が静かになることはねえだろうよ。力で抑え込んだところで生き方は変えられるもんじゃねえ。魔王とやらはどんな手品を使ったんだ?」
男の言葉に犬仮面は笑いをこぼし、解答を提示した。
「殺したんだよ。逆らう人間も、都合の悪い人間もだ。3年くらい前の大粛清でね」
「はあっ!? とんだイカれ野郎だな⋯⋯確かに殺しちまえば抑える必要も無くなるだろうが⋯⋯」
魔王の行いに驚愕し絶句している男を楽しそうに眺めながら犬仮面は話を続ける。
「邪魔を一掃した魔王はその勢いのままに、街の人間の精神操作を始めた。それが暗黒郷と呼ばれる支配領域の成り立ちって訳」
犬仮面がそう言葉を区切った時、タイミングよく鍋が届けられた。蓋の隙間から時折湯気が上がりよく煮えていることが分かる。犬仮面は箸を手に取り、男にも手を付けるよう促す。
男は犬仮面が仮面を外すのかと豆腐を突きながら窺っていると、仮面を外すことなく肉を食べるという芸当を見せられ思わず咳込んでしまう。
「ゴホッゴホッ⋯⋯どういう仮面だよ」
「ああ、これは異能で作られた仮面くんだよ。いちいち外さなくても食事できるようにって作られているらしい」
犬仮面は仮面を指の腹で撫でながら答えた。それを聞いた男は奇抜な仮面もあるもんなんだなと考えた直後、それよりも聞きたいことがあったのだと気を持ち直した。
「精神操作ってのはなんだ? 俺も影響を受けるタイプのやつか?」
「ああ、それは大したものじゃない。僕には効かないし、君にもほどんど効力を発揮しないはずさ。攻撃性を抑える力が薄く街を覆ってるってだけの事だよ」
男は茸を食べながら考える。確かに、逆らうやつを消して大人しいやつらを洗脳すれば争いは起きないだろう。それが人道的にどうかはともかく。
男が気にしていたのは、魔王がなぜそこまでして一般人の諍いを無くそうとしているのかということだ。全員自分の手で殺したいという真摯な考えの元に起こした行動なのかと考えたが、どうにもそういうことでは無さそうだ。
犬仮面は、魔王が邪魔な人間を殺したのは3年前くらいだと言っていた。この街は広い。一度にそこまで手を伸ばせる力を持っている人間が、ちまちま殺すなどという小規模の闘争を好むはずもないだろうと。
「はあ。異能力者ってのは訳わからん奴らが多いな」
「能力者なんて気狂いしかなれるものじゃないからね。でも、君もどちらかと言うと能力者側じゃないかな」
いつの間にか鍋を平らげた犬仮面が、男のぼやいた言葉に反応を示す。
「冗談だろ? 俺の自認は何処にでもいる一般人なんだが⋯⋯」
「ふふっ、それこそ冗談だよ。一般人は群れずに放浪なんてしないし頭をひねって会話することもない」
犬仮面は笑みをこぼし、男には異能力者の才があると言外に言った。
「そろそろ僕は行こうかな。君がこの街に滞在するつもりなら歓迎するよ。異能に目覚めたら、ここに連絡をくれると嬉しいな」
犬仮面は懐から紙を取り出し、男に押しつける。紙に目を通した男が顔を上げると、既に犬仮面は姿を消していた。
「異能管理局ねえ。まあ、この街もずいぶん変わっちまったが、愉快な場所には違いねえだろうな」
2人分の支払いを済ませた男は、すっかり軽くなった財布を思い、しばらくは金稼ぎでもするかと街へ歩き出した。