TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい 作:きうりの魂
書類の整理を粗方終わらせて準備も済ませた私は、テンに街の維持を任せて朱雀へ向かっていた。出発したのは朝方だったが、空に浮かぶ太陽はとうに沈んでおり月がピカピカ輝いているのが見える。
ローブを目深に被って月の下を歩く。しばらく前から文明の気配は足元の道を残して消え去っていた。少し道を逸れれば森に突入しそう。草木は枯れ気味だけど。
冬の寒さにやられたとかかな。私は異能で暖房的なのを纏ってるから寒さを感じないけど、この辺りは結構冷えるみたいだ。植物は前世と強度が変わってない気がするね。
ところで、綺麗な道があるのに歩いて移動しているのには理由があったりする。この世界に車はあるし、私の操縦が下手なわけじゃない。ここで登場するのが野蛮人だ。
彼らは早く動くものを攻撃しなきゃ気が済まないようで、一度道路に車を走らせれば銃弾に砲弾、火炎瓶やら剣が雨あられと振り注ぐのだ。速度を出せば振り切れるけど、今度は挨拶代わりの地雷を踏みつけてしまうだろう。
それでも車を走らせたいなら、光を集める異能で地面を抉り溶かしながら進むデスカーを運用するしかない。環境破壊とかそういうレベルじゃないんだよね。
異能での移動も今の私は使いたくない。敵の本拠地に乗り込むって時に消耗するのはちょっと⋯⋯
粛々と歩いていると突然辺りが暗くなってきた。部屋の電気が消されたみたいに薄暗い。なんだなんだと見上げれば視界に映るのは闇。月は雲に隠されてしまったようだ。少し前まで天気良かったんだけど、雲行きが怪しい。
あと風が煩い。身体へ触れる前にカットしているから寒くはないけれど、嵐でも来てるのかって感じの風が吹き付けてくる。
⋯⋯うん? 何か落ちてきたな。雨?
「いや、これは⋯⋯」
雪か。
私の街で見てなかったから思いつきもしなかったが、確かにそうか。冬真っ只中なんだから雪の一つや二つ降るだろう。道中で降り積もった雪を見ていない為どうにも違和感が拭えないが、自然現象から意図を汲むことなど出来やしない。
優しく積もってはくれなさそう。はらはらじゃなくて轟々と落下してくるのが遠目でも分かるからね。
さて、どうしようかな。
今の私は身体強化の異能を自身に適用しているため、成熟していない少女の身でもそれなりの速度で移動できた。しかし、この大雪の中で同じ速度を保つのは厳しそうだ。方向を見失って遭難とか私ならやりかねない。
都合よく方位磁石の異能持ってたら良かったんだけどね。仕方がないから雪が落ち着くまで野宿しちゃおう。どっかで休憩を挟むつもりではあったから丁度いいでしょ。
道路は熱を伝達しやすいから避けたほうが良いんだっけ? 体温を維持できるような立ち回りが大事だとか言っているのを聞いたことはあるが、それくらいだ。
風が音を鳴らして雪を運んでいる。障壁無かったらフードが捲れるどころか私ごと飛んでいきそうだ。森も横殴りにされて曲がっているように見える。
休めそうな場所を求めて道を逸れると、丈夫そうな幹が目に入った。私が五人で抱き着いても一周できないくらい大きな木だ。人が入れそうな穴はないが、ここをキャンプ地にしよう。
空間操作で幹の一部を消し飛ばす。スパンとブロック状の木を抜き出してやれば、簡易休憩所の完成である。お邪魔して最初に感じたのは木の香り。独特な木の香りが鼻に広がる。湿り気もあるかな。こういう秘密基地みたいなの良いよね。ギリギリ寝そべる空間を確保した木の休憩所。
というか切り抜いた後だから水分が多い。このまま寝たらびちゃびちゃになりそうだ。乾燥させるなら熱操作⋯⋯いや、表面だけ焼くことにしよう。ひたすら森林に火を放っていた野蛮人から貰い受けた力を、今こそ使うときだ。
火炎放射器になったつもりで手から火を吐き出し、幹内部を焼いていく。炎が這っている姿には、見ていて退屈しない不思議な魔力があった。単純に私が火を好んでいるだけかもしれない。
幹が急激な温度の変化に耐えきれず、大きな音を立ててひび割れるが許容範囲だ。真っ二つに裂けるとかじゃ無ければ何とかなる。
一通り火を通したら、熱操作で幹内部の熱を道路の方へ投げ捨てる! これで木の中に火種は残ってないはず。ゴロゴロしてたら急に発火して蒸し焼きになる少女は居ないのだ。炎なら常時展開の異能で防げるけど、酸素不足はどうしようもない。
宿はかなり無骨な仕上がりとなった。これでもいいけど、もう一手間欲しい所。使えそうな異能を思い出しているとアイデアが浮かんできた。毛布は無いけど、布があるじゃないかと。
ローブを脱いで穴に敷いてやる。
「いいね」
いい感じ。さっきよりもよっぽど宿っぽい。
ついでに、切り出した木材をカットして焼いたら蓋が出来た。ブーツを引っ掛けないように気を付けながら穴に乗り上げたら、内側から蓋をする。熱で変形しちゃってぴったりとは行かないけど換気口ってことで。
隙間から見える外の世界は、短時間で真っ白に染まっていた。起きたときには結構積もってるだろうなあ。
サクッ サクッ
ブーツで踏みつけた雪が小気味よい音を鳴らす。
私は、朱雀への移動を再開していた。起きたら吹雪がマシになってたからね。チャンスを逃したくないと飛び出してきた。あそこから何時間か歩いたから、もう一度吹雪に襲われたとしても今日中には朱雀に着くだろう。
それはそれとして、さっきから人の気配がする。攻撃は仕掛けられてないけど、雪に人の足跡があったから野蛮人が居そうだ。近くに集落があるのかもしれない。ただの見張りって線もあるし、あっちから接触してくるまではノータッチかな。
「はぁ⋯⋯」
シュッ
甘いことを考えていたそばから矢が飛んできた。障壁に弾かれて落ちた矢を横目に、それが飛んできた方向へ目を向ける。
「えー? 当たったように見えたんだけどな〜」
そこには茶色のベストを身にまとった青年がいた。年は私より四つ上くらいか。まだ成人してない気がする。人に弓を向けちゃいけませんって、教わらなかったのかい? 世が世なら刑務所行きだよ。この世界なら処刑だけど。
「何がしたいの?」
「何って決まってるだろ? 俺は猟師だから獲物を獲るんだよ。しっかし、声からして女の子供かあ。ドロップはレアだけど肉が少ないから渋いな〜」
駄目だこの野蛮人⋯⋯世界の為に早く殺さないと!
いや、まだ言動が狂ってるだけの野蛮人である可能性を否定できない。発言的に明らかな経験者だが、それらが全部妄想で、私に弓を引いたのが初犯なら取り返しもつくだろう。
「今までに、どんな獲物を獲ってきたの?」
そう尋ねると、青年は待ってましたとばかりに弓を構えながら語り出す。
「先ずこの弓を使ってた親父だろ? 俺のベストになった大男、ポーチに入ってる──」
身体強化と腕力増強を重ね掛け。道端の木を引き千切って思い切り振りかぶった。
青年はまだ何かを話そうとしていたが、続きを語る頭は高速で飛来する棒切れによって吹き飛んでしまった。釈明の余地なしとして正当防衛である。
ドシャリと崩れ落ち、雪を赤く染め始める物体。埋めるのも面倒だし放置しよう。ウドくんを実体化させて森の方に投げさせる。春が来れば森の肥料になるでしょ。
それから更に歩くと、ようやく朱雀が見えてきた。朱雀というか朱雀の結界が。ここからは異能使い放題だから、手際よく攻撃していこう。頑張るぞ!