TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい 作:きうりの魂
昔、ここへ来た時疑問に思ったことがあった。
朱雀を朱雀たらしめる広大な結界。独自の文化を築くに至った、世界を隔てる隔離結界は誰が作ったのだろうかと。
門戸を閉ざすと言うよりは、何が入ってきたのか認識するためのセンサーみたいなものだろう。不法侵入を防ぐ機能も付いているのかもしれないけど、私は正規の手段で入ったことが無いから分からない。
歴史書によればここ数百年間は結界が張られたままらしい。継承できるタイプの能力者が維持しているか、核物質的な感じで異能が残り続けているのだと当時の私は考えていた。けれど犬仮面に話を聞いたお陰で、長命の人間が力を行使しているという第三の選択肢が現れた訳だ。
だから何なのって話だけど別に大したことじゃない。異能力者が生きてるなら、その力を渡してほしいだけだ。私の街をより安全に出来る異能は何個あっても良いからね。
「ふぅ⋯⋯⋯⋯」
さて、そろそろ始めるか。
足を止め、新雪に黒い火種を落とした。
雪を飲み込みながら、次々と黒炎が湧き上がるのを見て思う。傍から見ると私、大分柄が悪くない?
黒い人型を引き連れて炎に包まれた街を闊歩してる少女とか、ゲームとかアニメじゃ明らかなヴィランでしょ。実際ここに居るのは、侵攻計画を阻止しに来た健気な人間だから内情は違うけど。
先制攻撃って言う理由付けがある時点で、この世界特有の特に理由もなく始まる戦争よりワンランク上だと私は思います。戦争に格付けもクソもないって言われてしまえばそこまでだ。
炎は鎮まらない。雪を燃料に、どす黒く燃え盛る。魂が目に見えるならこんな見た目なんだろう。或いは邪念と怨念か。
際限なく増えているように感じる人型だが、実体化出来る異能の数には限界がある。四年前の全力は三十体とちょっと。今の私は三十くらいなら片手間で動かせるが、そもそも所持している異能の数が百を超えていないという問題がある。
実体化したところで使い道の無い異能もある為、実際に動かせるのは多く見積もっても五十程度だ。私自身にリソースを割く場合更に減る。賑やかしには十分な量だから、そろそろストップかな。
少しでも絡まれにくいようにローブを着ていたけど、もう要らないから脱ぎ捨てる。身嗜みチェックってことで全身を眺めてみたけど大丈夫そう。ブーツに汚れなし、厚手のタイツも破れてない。インナーニットは言わずもがな。
コートは⋯⋯着たまま寝ちゃったからシワがついてる。異能でチョチョイと直しちゃおう。
熱操作で温めつつ、足元の雪を蒸発させて水分を含ませてみる。伸ばして水分を飛ばせば、即席アイロン成功である。結構良いんじゃない?
髪は乱れていないようだ。良かった。私が編んだ三つ編みじゃないから、緩んでたりしても直せなかったんだよね。
服を選んで髪型をセットしてくれたのはテンだ。手を貸してくれる人間がいるというのは本当にありがたい。記録が残されてもおかしくない外交の場に、パーカー姿で現れるのだけはどうしても避けたかったから。
いよいよ準備は整った。ド派手に宣戦布告をしてあげよう。
暇やなぁ。魔王がこっちに来るっちゅうからプレゼント準備の為に雪を降らしてんけど、まだ手間取っとるんか。
紫はどこぞに行ったし、黄は街を眺めるばかりで話し相手にもなりやせぇへん。手慰みにその辺の人間を解体しとったけど、反応が悪ぅなってきたし飽きてもうた。
ぼちぼち辞めにするかと肉を鼠サイズに圧縮したタイミングで人影がこちらに寄ってくる。黄色やな。
「おーう青ちゃん。あっちに輝きが見えるぜい」
「はっ、やっと来よったか。準備は出来とんのか?」
「勿論」
「ほならええ」
わざわざ祭りの日程を調整してんから、魔王はせいぜいデカイ見ものにしたろか。あのババアからは結局協力を得られなんだが、大したことやあれへん。あんな老いぼれ、飼っとるほうが損するやろ。
頭に何か響いとるけど今はどうでもええ。それなりのところで息を吸うた。視界の端で青い振袖が荒ぶるのを見ながら、ウチは櫓の上で宣告する。
「朱雀の血祭り、始めるでぇ!!」
祭りの幕開けを。
「おいおいこの道は通行どぇ⋯⋯⋯⋯」
行く手を塞いで絡んでくるお姉さんをマインドコントロールでドブに突っ込ませながら進んでいた私は、おかしな雰囲気の街に違和感を抱き始めていた。
いや、野蛮人の街だから最初から様子はおかしいけどそういう事じゃない。あちらこちらに吊るされた提灯に、道の端に建っている屋台。以前来た時とは明らかに違う雰囲気だし、ウツギくんの報告書とも食い違っている。
これではまるで、祭りの様だ。
そう言えば、バーでおじさんが言っていた。朱雀では野蛮人仕様の祭りが開かれていると。血祭りとか巫山戯たネーミングだった気がする。祀られる神様が可哀想⋯⋯
喧騒が絶えないのはそれが理由なのか。この世界は基本的に何処でも煩いけど、今の朱雀は別格だ。私が攻撃していないにも関わらず、轟音と衝撃が響いてくる。祭りテンションで暴れているというなら納得できちゃうね。
「どっかんどっかん! いえーい!」
哀れな幼女が、爆発音に共鳴して踊っている。銃声も騒がしいし本当にここは地獄だ。全部吹き飛ばしたい衝動に駆られるけれど、文明人はそんなことをしないので我慢である。
野蛮人たちを乗り越えて、ようやく辿り着いたのは朱雀の中央広場。当たり前のように死体の山が存在している。近くに屋台があるけど衛生面大丈夫か?
とにかく、こういうのは始まりが大切なのだ。四六時中爆音で話し続けて、広範囲地域に睡眠不足をばら撒くという碌でもない使い方をされていた念話の異能を発動する。
話す内容? 適当でいいでしょ。今から貴方方と敵対しますよって教えることさえできればいいよ。
『私の街を攻撃する計画が確認できた。ので、先制攻撃を行う。投降は自由にどうぞ』
ヨシ! これで、街の幹部に宣戦布告を伝えられたはず。住民にも念話が伝わっちゃったけど、何のことか分からないだろうし大丈夫だ。
突如、空気が切り替わった様な感覚に襲われた。実際に切り替わったのかもしれない。
「朱雀の血祭り、始めるでぇ!!」
遠方から声が響いた。多分、これが原因だろう。住民が沸き立ち、血飛沫が舞っている。
前触れなく浮かび始めた数百軒の家屋。建物に感情があるなら、彼らは何を思っているんだろう。唐突に飛んでいった住居を見ていたからか、トチ狂った疑問が湧いてくる。
高度を上げ続けていた建物たちは、途中でピタリと動きを辞めた。直後、轟音が街に響き始める。頭に響くような衝撃と、実際の振動のダブルコンボ。
この流星群は、戦端が開かれたことを分かりやすく教えてくれる威力をしている。広場を狙っているみたいだけどかなり大雑把だ。細かい制御は苦手なんだろう。
エネルギー拡散と物理防御を重ねた障壁を大きめに展開して実体化異能たちも守っているけど、そろそろバラけさせた方が良いかもね。
流星を受け流していると、大気が激しく震え、遠方で烈火が噴き上がり始める。朱雀重要拠点に忍ばせた異能の同時起動。取り敢えず私からのプレゼントだ。