TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい 作:きうりの魂
「まさか青ちゃんが押し負けちゃうなんてねえ」
黄色の衣に身を包んだ青年が心底驚いた様子で言葉をかける。相手は、つい先程影も残さず消滅した青い振袖の少女であった。怪我一つ無く無傷で佇んでいる彼女は、少し前とは打って変わって冷静さを取り戻している。
「はっ、死んでもうたわ。ありがとさん」
「んにゃ、気にしなくていいぜい。依代ならまだ沢山いるからな」
それよりも青年が問題視していたのは、少女が魔王の装甲を抜く事が出来なかったという事実だ。青年は考える。このまま青をぶつけた所で、魔王にダメージを与えることは出来ないだろうと。
しかし、自らが表に出るのも論外である。致命打を与える術を持っているとはいえ、ある程度近づかなければならないからだ。先程青を消し飛ばした力が自分に向けば、六番館という組織が再起不能に追い込まれてしまうだろうと青年は見通していた。
ならばどうするか。
「何をそないに考えとるんや。あんたなら魔王やれるやろ? ウチがアイツを抑えて、あんたが潰すでええやないか」
「いや〜厳しいなあ。力と技で負けてるなら、先ずは頭数を増やさなきゃ」
「頭数言うたってウチら以外碌な能力持ち居らんやろ。まさかあのババアを呼ぶわけないやんな?」
眉をひそめる少女に対し青年は相槌を打つ。
「そのまさかだあ。僕が赤を呼んでくるぜ。あん人、手伝わないとは言ってたらしいけど朱雀はできれば手放したくない筈だ」
その言葉を聞いた少女は怒り心頭といった様子で詰め寄るが、青年は飄々と言葉を投げる。それは、少女の憤りを受ける価値が無いという青年の思いであった。何も考えずに突き進んでも意味がないという忠告でもある。
「僕らだけじゃあ魔王を倒すのは難しいんだから助けを呼ぶ。理の当然だと思うぜい。人間の代わりは効いても、僕ら能力者の代わりはいないから大切にな〜」
気に食わぬ人間の助けを借りようとする事に対し怒りが収まらない少女は、青年を殺してしまおうと腕を動かした。しかしギリギリの所で立ち止まる。冷静に考えてみれば、確かに黄の言うことが間違っている訳ではないのだと。
そんなんどうでもええから殺してまえとも考えた彼女であったが、不愉快が勝る魔王を殺してからにしようという大人の処世術で殺意を抑え込んだ。
そんな少女の胸の内を推し量った青年が温かい目で見守る中、殺意を薄く漂わせる少女が疑問を問う。
「あのババアをどないして引っ張り出すんや? 戦いとうないとか、カスみたいなこと抜かしとったで」
今思い出しても腹立つわと地団駄を踏む少女。蹴り上げられた砂煙に紛れて、遠方で色とりどりの光線が舞っていた。
「あの人が血祭りを見逃すとは思えないな。地獄温泉で捕まえられるだろうから、ちょっくら行ってくるんだ。青ちゃんは今やり合ってるっぽい紫と一緒に足止め頼むぜい」
青年はそう言うと、巡回している魔王の配下から逃れるように、路地裏へと姿を消していった。少女もやれやれと動き出す。
「全部終わらせたら、今度こそ殺したるわ」
「えいっ!」
掛け声に合わせてビームがくねる。目標地点は私だ。咄嗟に地面を蹴って退くと、丁度私が立っていた場所にビームの群れが直撃する。
「止まっ──」
「やっ!」
話聞いてね。
ちょっと近すぎて避けられないので、ウドくんを実体化して受けさせる。ちょっと逸れたからその隙に後退! ウドくんの身体は悲惨な事になっちゃったけど、必要な犠牲だから仕方ない。ウドくんを選んだことに他意はないよ。
この野蛮な子供はどうしようかな。マインドコントロールで抑えつつ逃亡が丸い気がする。第二候補は幼女の蒸し焼きだけど、多分死んじゃうよね。
まあマインドコントロールが効くとは限らないんですけどね。敵意が強くないこと、とか私を知っていること、みたいな条件を付けておかないと発動できないじゃじゃ馬なんだよコイツ。もうちょい条件が緩ければ、取り敢えずマインドコントロール精神で世界獲れてたと思う。
「えいやー!」
元気な掛け声と共に、再びビームが放たれた。数本は空から。左右からも私を囲むように。高速で迫る大量のビームを避けるのは難しい様に見える。
とはいえ、それはそれぞれのビームが追尾性能を持っている場合の話。実際にこのビームを操作しているのは幼女だから、挙動もそれ相応のモノとなっている。横に動く振りをしてやれば、ビームは騙されて追従するのだ。その隙に反対側へステップを踏めば攻撃は当たらない。
じゃあマインドコントロールを発動しよう。対象は幼女に絞って、適用効果を盛っていく。先ずは定番の服従でしょ? 後は暴れないように静止。ついでに思考停止を入れて適用だ。
「⋯⋯ぅ⋯⋯ぇ」
ぐでんと身体を倒す幼女。効いたんじゃないか?
グヘヘへ、身体の主導権を奪い取ってやったぜ。これでこの子供は私の指示を待つだけの人間になった訳だ。私が帰る時に解除して上げるから我慢してね。
異能を直に喰らい動けなくなった幼女の元へ歩み寄る。うーむ、やっぱり近くで見てみるとなーんか引っ掛かるな。矢絣柄の着物にえんじ色の袴って、何もおかしくない服装の筈なんだけど。髪色も鮮やかだけど、気に留めることではないような⋯⋯
顔を見ようと覗き込んだ所で、唐突に幼女の身体中から黄金のビームが射出され周囲を破壊し始める。勿論一番近くにいた私は顎を撃ち抜かれて、背中から地面へと叩きつけられた。
「嘘でしょ⋯⋯?」
そもそも効かないならまだしも、術中の人間に反撃された事など無いのだ。堂々と幼女の前に行ったのも制圧したと確信してたのが理由だし。それがどうだ。今の私は足をすくわれ、地面にぶっ倒れている。
さっきから無様を晒しまくってるし、やっぱ現代っ子に戦闘なんて無茶だったのかもしれない。下手に容赦するからこうなるのだ。今まで通り、実体化異能の物量作戦で街を破壊しないか?
でも戦闘経験を積むチャンスなんて中々ないしなあ。オートの異能よりも、私が行使した方がよっぽど力を引き出せる。この力が必要になることはあるだろうし、戦闘センスというより意識の問題な気がする。慢心とか驕りみたいなそういう類いの。
普通に幼女が動き始めたので、何時までも寝転がっている訳にはいかない。ゴロゴロ転がり、距離を取ったら立ち上がる。
「はーっ! もくもくはダメ!」
背中からド派手な黄金ビームを放つ幼女を前に、私はどうにも攻めあぐねていた。マインドコントロールはビームに衝突して消滅しちゃうし、殺傷力の高い異能では普通に殺してしまう。逃げに走ることも考えたけどビームがしつこく追ってくるから諦めた。
何なのこのエクストリーム幼女は。黄色の幹部を殺しに行こうって所で邪魔しやがって。私は前途ある子供を殺したかないんだよ。
物理攻撃だったらまだマシなんだけど、マインドコントロールを弾く辺りただのビームでは済まされない。不意打ちとはいえ私の障壁にダメージを与えてたし。
「おねーさん。ペカーってやつやろう?」
ビームで推進力を得て急接近してきた幼女が言う。彼女は私が先程ブッパした光の収束砲をお望みらしい。敵の提案に従ってプラスになった試しが無いからやりたくないんだけど。光線の操作権限持ってかれたりしないよね?
まあ、光線を見せるだけで大人しくなるなら考えなくもない。子供殺しとか言う野蛮も野蛮な手法は出来るだけ取りたくないからさ。命の危険があるってんなら話は別だけど、そこまでの脅威を感じてるわけでも無いし。
「見たら、大人しく出来る?」
「出来る! だから出して〜!」
興奮気味に手足をわちゃわちゃ動かし、幼女は私に光線をねだる。仕方ないなあ。子供のお強請りに応えてやるのも大人の役目だ。大人しく出来ると言ってるし、ちょっとだけ見せて上げるか。
見世物にするだけなら軽めでいいよね。青幹部ちゃんに放った様な光は、集めるのが結構大変なのだ。今回は周辺地域全てからではなく、大気から光を集めていく。
空に漂うエネルギーを、クルクルクルクル巻き取って、一つの塊に押し込める。渦を巻いて絡み合う光の束に、薄く光を継ぎ足していく。気分はまるで綿あめ屋さんだ。
子供が喜ぶモノを頑張って造るという意味では、私と綿あめ職人の間に大した違いは無いのかもしれない。私の綿あめはちょっぴり危険だけど、精々ビル一棟を溶かし尽くす位のエネルギーしか込めていないからお子様でも安心の設計である。
「これで満足?」
「わぁ〜! キラキラ!」
勢い良く幼女は光の球体に飛び付く。話を全く聞いてないだろうけど、私への攻撃は止まったから万々歳だ。異能で熱操作してるから、光球に触れたら発火するハプニングは発生しないよ。
そう言えば前世で、小さい子はキラキラしたものが好きだと聞いたことがあったな。野蛮が溢れるこの世界でも、子供の感性は似通っているのだと思うと感慨深いよね。
一ヶ月くらい忙しくなりそうなので更新は不安定です
取り敢えずキリのいい所まで進めたい⋯⋯