TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい   作:きうりの魂

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とんでもなく苦戦した結果のこの時間


諜報を始めよう

 それじゃテンちゃん。我が異能諜報団の所属隊員を紹介します。

 

「えーっと⋯⋯?」

 

 まずは影に潜る異能を持つお兄さん。私がこの異能を写したとき、能力者本人は何の活躍もできずに死んでいったことを覚えているので、なんとか働かせてあげたいところ。

 

 彼には盗聴と良さげな資料の奪取を命令している。勘が鋭い人間には通じない子供騙しみたいな力だけど、不可視の状態で移動できるというのはそれだけで価値がある。

 

 お次は空間操作のお姉さん。生前は生粋の野蛮人だった。生きた人間の身体でパズルする感じの。

 

 この身体に傷をつけられた経験があるから顔も見たくないくらいには嫌いだけど、能力は本物だ。結界を通過するためのマスターキー兼陽動役として使う。

 

 そして最後が情報開示おじさん。どこかで上級ポストについていた有能おじだ。人間の血で育てたトマトしか食べられないという悪癖さえ無ければ、今頃彼は私と対等な文明人として人生を歩んでいただろう。

 

 彼は知りたいものを一定時間観察することをトリガーに大体の情報を引き出すことができるため、適当に街を彷徨かせて情報を集めさせる。

 

 

 うん。一見完璧に見えるよね。実際には、このグループはある問題を抱えているんだけど。私が抱えている問題と言ったほうが正確か。

 

 まず、具現化した異能は私から離れるほど力が弱体化する。模倣元を10割の力としたとき、私が模倣して行使できる異能の力は7割といった所だろう。数キロ離れた程度であれば誤差だろうが、私の街から朱雀まで離れれば出力は3割程にまで落ち込む。

 

 あとは情報の同期にも時間が掛かったり、思考回路が単調だったりで何らかのフォローが必要となっている。攻撃目的なら適当に暴れさせるだけだけど、隠密行動となるとなかなか難しいね。

 

 ということで。

 

「エージェント、仲介して」

 

「あ~、そういうことかぁ〜。てっきり私、ネモちゃんに殺されちゃうのかと思ってドキドキしたよぉ」

 

 異能を連れ立って家にお邪魔しただけでこれか⋯⋯

 

 殺しに来たのだとしても、テンは街を守る為に働いてくれている人間なんだから一度くらいは警告する。仲間であるのなら殺人のアポくらい取るだろう。野蛮人じゃないんだから。

 

 テンは顔を赤らめ、足早に部屋の奥へと引っ込んでいった。よし、帰ってくるまで暇だし面白いものでも探してみようか。

 

 軽く部屋を見回してみる。白い壁、いくつかの本棚と作業机。後は私がプレゼントした椅子と本棚の奥に隠してある酒瓶。見たところそんなものか。

 

 年頃の少女の部屋にしては無骨な部屋だよねぇ。あれこれ口を挟むのは余計なお世話なのかもしれないけど、楽しく生活できているのかちょっと不安になる。寝室はもうちょい彩りがあったっけ。

 

 人骨家具とか標本みたいな野蛮インテリアは置いていないようだし品性は私より。私が言うのもなんだけど、よくこの世界で文明人的な価値観を持てたよね。

 

 酒か? 酒の力なのか? 世界中をアル中にすることでしか世界平和を達成できないのか? いや、さすがにそれは無いか。そもそも世界中の人間に与えられるだけの酒は用意できないし。

 

 くだらないことを考えている間にテンが戻ってきた。小脇にはファイルを抱えている。

 

「それで〜、どんな人が欲しいの? 全員に連絡は取れるけど、そこまで余裕がない訳じゃなさそうだよねぇ」

 

 エージェント。テンがスカウトした、有望な人間たちの総称だ。普段はそれぞれがそれぞれの生活を送り、要請時には金銭などを対価として働かせるシステムとなっている。

 

 私は野蛮人とのコミュニケーションが嫌いだ。交渉以前に言葉が通じないから。同じ言語を話しているはずなのに、何を言っているのか理解できないし理解されない。

 

 何処まで行こうが野蛮人と文明人は平行線であり、交わることはないのだろう。私が野蛮人側に落ちれば、会話が成立することもあるのかもしれない。その場合はストレスで発狂した私が世界を滅ぼすだろうけど。

 

 まあそう言う訳で異能力者との関係構築はテンに一任している。テンは接続という異能を所持している分、他者と交友関係を結びやすいということもある。

 

 テンちゃんの異能は色々な場面で活躍できるから凄い便利なんだよねえ。ぶっちゃけ私も欲しいから模倣させて欲しい。

 

 受け取ったファイルをパラパラめくっていく。今回欲しいのは、頭がキレて的確な指示を出せる戦術家だ。異能はあってもなくてもいい。

 

「あった」

 

 現れたのはシルクハットを片手で抑え、マントを翻している青年の写真。異能は持っていないが、比較的会話が通じる有能な野蛮人なので重宝している。

 

「またウツギさんかぁ〜。この前バーであったときに、宝物を探しに行く時間がないって愚痴ってたよ〜?」

 

「しらない」

 

 エージェントの派遣を要請するという目的は果たした。後はウツギがこの街に到着次第、事を進めるだけとなった訳だ。二度寝にしてはまだ早いし、適当に時間を潰してから帰りたい。

 

「聞きたいことがあった。魔王って呼ばれてる能力者、知ってる?」

 

 暇を持て余していた私は、ついでとばかりに気になっていたことを尋ねてみる。聞きたいことはもちろん、昨日バーで会った男が言っていた異能力者。私の目を逃れてここに住み着いている魔王とやらについて。

 

 デマだとは思うけど、私の監視をすり抜けて潜伏している可能性があるのだとしたら見逃せない。危ないものはナイナイしようね⋯⋯

 

「え〜っと⋯⋯一応知ってるけど⋯⋯」

 

 どういう反応だこれ。妙に困り顔で言い淀んでるし。何が何だか分からないため、思わずテンに訝しげな顔を向けてしまう。テンは目を泳がせていたものの、注がれる視線に耐えきれずゆっくりと語り始めた。

 

「小柄で綺麗な黒髪の女の子だよぉ。私よりもネモちゃんのほうが詳しいと思う⋯⋯」

 

 テンよりも私の方が詳しい? 小柄な黒髪少女なんて私の知り合いに居ないはずなんだけど────

 

 ふと目線を下げてみると、肩にかかる髪が見えた。黒だ。いやいや、冗談だろう。純白無垢な私が、文明人の私が、魔王と呼ばれることなどあり得ない。

 

 恐る恐る顔を上げると、テンはブンブンと顔を縦に振りながら笑みを浮かべていた。

 

「テン、私を魔王って言った奴教えて。殺しに行く」

 

 待ってろよ今殺しに行ってやるから。

 

 身体強化系の異能を身体に重ね掛けし、目ぼしい異能を全てアイドル状態にセットする。

 

「ちょ、ちょっと待ってよぉ! ネモちゃん、自分がやったこと忘れたの〜!?」

 

「ぐ⋯⋯」

 

 ぐうの音も出ない正論は辞めてくれテンさん。私は敵じゃないから。まあお陰で、少し冷静になれた。殺しに行くのはちょっとやりすぎだから、見かけたら一発殴る程度に収めるよ。

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