TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい   作:きうりの魂

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たまには身体を動かそうよ

 憂鬱だ。私は魔王と呼ばれ、私の街は暗黒郷と名付けられていることが判明してしまった。暗黒郷ってディストピアじゃねえか。

 

 野蛮人はどこに目玉がついてるの? 何処からどう見てもユートピアだろう。争いはなく食糧も存在し、無為に命が奪われることも無い。生活するならここ以上の場所はないはずなんだけど。

 

 この世界の人間とは価値観が合わないと思っていたけどここまでだったとは。魔王を探ると言っていたおじさんには悪いが、私が魔王と呼ばれていることは秘匿させてもらう。

 

 これ以上噂が広まれば私の街の評判にも悪影響を及ぼす恐れがある。できれば火消しをしたいのだが、良い案がなかなか思い浮かばないのだ。異能で対処するなら記憶汚染辺りだろうが、身体への負担が大きすぎるから使えない。

 

 商人を洗脳して名声を広めるというのも難しい。私が使える洗脳は分かりやすく言語機能に影響を及ぼすためだ。称賛を叫んで回る人間を野に放てば、却って悪名が広まってもおかしくはない。

 

 犯罪率が低いことを大々的にアピールしてPRを図る? 野蛮人には逆効果だろうね。テレビ広告も却下。そもそも電波塔が二日に一回は壊され撤去されるため基本なにも映せない。この世界、技術に限っては発展しているがソレを扱う文化が根付いていないから。

 

「はあ⋯⋯」

 

 思わず溜息が漏れた。なかなか面倒っちい嫌がらせをしてくれる。直接殴りかかってくるなら殺すだけなのだが、こうやって風評を煽るタイプは対処しにくい。

 

 悪名を拡散してる奴だけでも殺しておきたかったんだけど、犯人の足取りは掴めていないらしい。どうやら無視を決め込むしかないようである。

 

 そう言えば、ここ最近やってなかった日課があったな。朱雀と対峙する可能性があるなら一応やっておこうか。帰宅する気満々で道を行く足の向きを変え、私は郊外へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 実のところ、私がこの世界で表立って戦った回数は驚くほど少ない。強大な勢力を相手取った回数が少ないのもあるが、水面下で動くことが多いのは私の戦闘スタイルによるものだ。

 

 具現化させた異能は攻撃を受けても掻き消えるだけで、異能をロストするといった弱点はない。その為雑に扱える訳で、実体化させた異能をばら撒くだけで敵は死ぬ。

 

 実体化異能くん達は頭が悪いものの、その弱みを突ける人間が殆どいないのだ。ゴリ押しが通るならそれでいいと大分杜撰な戦い方になっていたことは否めない。

 

 しかし今回の仮想敵は朱雀。この世界に街を作るという偉業を成し遂げた勢力だ。殺しと破壊に全力な野蛮人をどうにかして一つの枠組みに組み込んでいる彼らは、強力な異能を持っているだろう。確実に。

 

 規模にもよるけど、国とか街とかを名乗ってるレベルの場所には異能力者がいるのが原則なんだよね。世界規模の異能とかも使ってる人いたし、人間を集めて共同体を作ろうとか考える奴らは大抵ヤバい。

 

 最悪奥の手でどうにかするが、実体化異能ばら撒き作戦が通じない時のために私自身が異能に慣れておこうという腹積もりだ。異能の成長具合も確認したい。

 

 

「この辺でいいか」

 

 街からしばらく歩き、辿り着いたのは静かな野原。落ち着く場所だが、今からここは戦場になる。まず小手調べに私の防衛網でも見ておくか。

 

 足元に黒い炎を放つ。炎は草を焼くことなくゆらゆらと立ち上がり、人型をつくった。左から物理のウドくん、空間操作のお姉さん、雷男、マインドコントロールおじさんだ。

 

 攻撃を始めるよう指示し、私は地べたへ腰を下ろす。するとどうだろうか。ウドくんは私に近づこうとするも、見えない何かに阻まれるかのように進めなくなる。

 

 お姉さんが私から心臓を抜き取ろうと空間操作を行使するも不発に終わり、雷は私に当たり前に霧散し弾かれる。

 

 はははは、君たちがいくら攻撃しようと無駄なんだよ! 私が異能を集めながら作った最強の防衛網だからね。弱々異能は効かないんだよ。

 

 私の周りには物理を拒むバリア、エネルギーを分散させる拡散、内部干渉を防ぐ存在固定、最近追加したばかりの空調が常時展開されている。ありがとう、名も知らぬ異能力者達。君たちのおかげで私は安全に外を出歩ける。

 

 

 不意に身体が跳ねた。

 

「⋯⋯っ」

 

 因みに精神干渉を防ぐ機能は付いてないから気合で耐えなきゃいけない。馬鹿みたいな発想だ。

 

 精神干渉に対するカウンターを持ってないから仕方ないとはいえ、ゴリ押し無策で耐えるのは野蛮人みたいで気分が良くない。異能に抗える理由は分からないけど、多分私の精神性が特殊だからとかだろう。

 

 何はともあれ、全ての攻撃を凌いだ私の鉄壁ぶりは健在だ。私は美少女であるからして、自衛をしっかりしないと食材になってしまう。子供の肉は脂肪が多くて甘い? らしく、私が縄張りに拠点を構えるまでは良く狙われたものだ。

 

 

 次は体を動かしてみよう。異能くんたちはもう要らないのでバイバイして、ウドくんの身体強化と筋力増強、脚力強化を発動。袖をめくって腕に力を入れてみる。

 

 ⋯⋯筋肉は増えないか。相変わらず腕は細いし体も大きくなったりしている訳じゃない。まあ、見た目は変わらなくても力は強くなっている。

 

 多少力を込めて踏み込んでやれば──

 

 ドンッ!!

 

 と地面にクレーターを作れる訳だ。土が舞い上がって汚れた気がするから帰ったら風呂入りたいです。

 

 パーカーを脱ぎ捨てて、野原を駆ける。脚は軽い。地を抉るほど踏み込みバネのように跳ねる。轟々と吹き付ける風が気持ちいい。

 

 ある程度走ったら反転し、ゆっくりと減速しながら来た道を戻る。パーカーが見えたらさらに速度を落とし、ピッタリと止まった。

 

 いやー、髪が痛かった。お下げにしていたから、走っているとペチペチ当たって痛かった。これならお団子とかにしといたほうが良かったかもしれない。女子歴短いからやり方分かんないけど。

 

 

 軽く息を整えた私は、最後に一つの異能を引っ張り出す。多分今の私が持つ異能の中では最も火力が出るものだ。

 

 光を集める虫眼鏡のような異能。持ち主は世界中から光を集めて一つの地域に猛暑をもたらすという遊びをやっていた。

 

 ここまではいいのだが、日照量が減少したことによって農作物が巻き添えを食らってしまい、世界的に食糧不足が深刻化。

 

 作物がないなら肉を食べればいいじゃないと野蛮人が農家を食べてしまい、作物は更に生産されなくなる。農産物が無いため更に農家が食べられるというデススパイラルが発生してしまったのだ。

 

 世界に野蛮人が溢れている理由の一端をこの異能の持ち主が担っていると言っても過言ではない。食糧不足の理由を探っていた昔の私は、ゴミみたいなことで滅びかけている世界に絶望していた気がする。

 

 とまあ曰く付きの異能ではあるが、強力な力であることは確かだ。空に拡散している光を集めて、集めて、集めれば、今手元にあるような、膨大な熱量を擁する物体を生成できる。

 

 あまりの熱に耐えきれず発火し始めた草原を横目に、熱の塊を操作し地面に飛ばす。塊は一瞬の停滞も無く、草や土や岩を光の中に呑み込んでいく。

 

 深くまで光が落ちていった辺りで異能を解除して穴を覗き込んでみる。地表付近は流石に固まっているが、地下は溶岩のようにドロドロと溶けているようだ。

 

 これだけ異能を扱えればいざという時も大丈夫だろう。多分。

 

「はあ⋯⋯」

 

 できれば戦いたくはないのだが、近い内に朱雀は敵対してきそうな気がする。野蛮人だから。

 

 

 最近溜息をつくことが増えた。昔の私は多文化共生なんて考えず、蛮族族滅をスローガンに掲げて生きていたから楽だった。

 

 だが、今の私に同じことは出来ない。テンやバーのマスターのように、品行方正な生き方を送ることができる人間達を見つけてしまったから。

 

 ただひたすらに眩しかった。力無き者がゴミのように踏み躙られるこの世界で、それでもと足掻き、歩み続ける彼らが。

 

 彼らが自由に生きられるように。笑って暮らせるように。私は彼らの生き方を肯定したくてこの街を作った。

 

 だから、私は乗り気ではない戦いでも頑張れるのだ。私が楽しく過ごせるこの場所を守るために。

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