TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい 作:きうりの魂
朝起きて、歯磨き途中に考えた。ゲームをやろうと考えた。シングルプレイも乙だけど、やっぱり私はマルチが好きだ。手早くゲームの機材を纏め、知人の元へと飛び出した。
インターホンを押して暫く待つ。家の中から物音が聞こえてきたので、起きてはいるのだろう。ちょっと訪ねるには時間が早過ぎたかもしれない。でもゲームを早くやりたかったから仕方ない。
『は〜い⋯⋯ネモちゃん?』
少し眠そうなテンの声がインターホンから響いてくる。
「ゲーム、やろう」
『ちょ⋯⋯ちょっと待ってねぇ〜』
ソフトを眺めながら考える。何のゲームをやろうかと。アドベンチャー系? それともサンドボックス系? うーむ、テンとやるならアクションゲーじゃないほうが良いかな。あんまり操作得意じゃなかった気がするし。
室内でテンがばたばたと暴れているようだ。急に訪ねてきたのは私なんだから、ゆっくり準備すればいいじゃんとは思う。仕事でもないのに、朝からアポなし訪問してくる奴なんてなんぼ待たせてもいいですからね。
「どうぞ〜」
「ありがとう」
もこもこ寝巻きのテンが室内へ招いてくれたので、お礼を言って上がらせてもらう。そのまま後ろについて廊下を歩いていると、テンの長髪に目がいった。
胸下くらいまで伸ばした白髪はツヤツヤと輝きを放っていて、縺れたり寝癖がついている様子はない。驚くほどのストレート。一体どんな風に寝ればそんな芸当が可能になるのかと、一女子として気にならずにはいられないだろう。
私も自分の髪に悩まされた口だ。何度かショートにしようと考えたこともある。寝る時にナイトキャップを付けることで寝癖などは付きにくくなったが、それでも寝起きには髪のケアが必要になる。
テンは起きてから時間が経ってなさそうだし、軽く髪をとかしたくらいだろうにこの輝きである。何かしら種はありそうだけどね。
酒⋯⋯は無いか。
異能を使ってるとか? どう使うのかはわかんない。髪に何を接続するんだ。
テンの髪を眺めながら短い廊下を抜ければ、いつも通りの無機質な部屋が私を迎えてくれる。勿論テレビなど置かれていないが、私たちは能力者である為なんとでもなるだろう。
「テン、テレビ出して。ゲーム機器は持ってきた」
「いいよぉ~」
テンが室内の空間を割り、別の場所と接続した。倉庫に繋げたっぽいね。ちょっと薄暗いから床に黒炎を蒔いてウドくんを召喚する。
そのままテレビを探してくるよう指示すれば、時間を要さず運んできてくれるだろう。ウドくんが帰ってくるまでにゲームを準備しておこうか。
「そう言えば、メイちゃんは〜?」
「いなかった。多分、牧場を見に行った」
「最近帰ってないって言ってたもんねぇ〜」
メイちゃんね。彼女は私とゲームの腕前を競い合う、珍しい人間だ。人間を甚振るほうがよっぽど楽しいのか、この世界にはゲーム好きがあまりいない。その点メイちゃんは人間を殺すことに快感を抱かないタイプの野蛮人であるため、ゲームをプレイしているのだろう。
メイちゃんとは『ぶち殺! 真っ向勝負!』とか『殺人カート』みたいな対戦ゲーでしのぎを削っているが、偶にはのんびりゲームをやりたくなる。そういう時にはテンに付き合ってもらう。
「何やる?」
手元のソフトを見せながら聴いてみる。
「う〜ん⋯⋯スクラップビルドかな〜?」
ところで手元の瓶は何なのかな? 朝酒って何だよ。珈琲じゃあねえんだぞ。確かに仕事じゃないしプライベートだけどさあ。
それはともかく、スクラップビルドはいい選択だと思う。複数人プレイに対応してるし。破壊と創造を堪能できる中々の良作だ。採掘してモノ作りをする某ゲームを、この世界ナイズした一品と言ったほうが分かりやすいか。
人間の加工や調理など、ゲームならではのゆるふわ倫理観を楽しめるので結構好みの作品である。
ウドくんが持ってきたテレビとゲーム機器を接続してカセットもセット。
「ぷはぁ~〜っ! やっぱり、この時間から飲むのが一番効くよね〜」
マズい! この酒飲み、朝から酔っ払うつもりか?
野放しにするとゲームを始める前にダウンしそうだと判断した私は、テンの酒瓶を取り上げた。器を持ちながら悲しそうな顔をしてるけど駄目だ。返さない。
「このお酒は私が管理する。欲しければ、注いであげるから言って」
「いいの? ネモちゃんありがと~!」
もっと小さい器なら一度に飲む酒の量も減りそうなんだけど、テンは持ってなさそう。今度私がプレゼントしようか。おっちょこちょいみたいな名前の器を。
その後、街を破壊したり、協力して人間工場を造ったことでそれなりに満足した私たちはお昼過ぎに解散した。解散って言っても、集まったのはテンの家だから私が退出しただけなんだけどね。
数日前と昨日、そして今日もテンの家に訪れた訳か。色々立て込んでるとはいえ短期間に通い過ぎてるね。気をつけないと。
本来はメイの家でゴロゴロしながらゲームをやろうとか思っていたのだが、肝心の彼女は北の方で経営している人間牧場へ行っていた。
あと数日もすれば帰って来ていただろうが、ゲーム欲を我慢できなかったのだ。テン、今更だけどあんな早い時間に突撃してすまなかった。
私は適当に街をぶらついていた。昼は何を食べようかと。昼食にしては少し遅いが、おやつタイムには早過ぎる。
⋯⋯うん?
今いかにもな不審者の後ろ姿が見えたな。見覚えのあるケープコートだ。そしてその不審者が絡んでいるのは、いつぞやのおじさん。テンが声を掛けていた野蛮人。
魔王の情報を集めてるらしいけど、さっさと諦めてもらいたい。そんなモノを探っても出てくるのは私だけだし、無駄に噂を広めようとするなら手が滑ってしまうかもしれない。
そう言えばおじさんはあの不審者と少し関わりがあるって言ってたな。そろそろ異能に目覚めそうな人だし、目を付けられたのだろう。可哀想に。
まだ距離は離れてるし、引き返そうか。体を翻してフードを被る。見つかると面倒だから仕方ない。おじさんは私がここを離れる為の生贄になったのだ。
「んん? お~い嬢ちゃん! 久しぶりじゃねえか!」
畜生! あの男、余計なことしかしてねえ。いい加減にしないと家に帰れなくなるぞ。
おじさんの声に釣られて不審者がこちらに振り向く。顔には犬仮面くんが付いていた。
「ご無沙汰だね、領主ちゃん」
「はぁ⋯⋯」
頭が痛い。まあ、見つかったのなら仕方がない。少しくらいは話し相手になってやろう。私からも、朱雀について話さなきゃいけないことがある。
所用のため数日お休みをいただく!
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