右眼に邪神を宿せし者   作:名も無き叛逆者

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 前回までのあらすじ

 ディアスタシノス神教国、聖騎士団長、エデン・イータ・ゼウス。彼は自分の正義を信じ、祖国へ叛旗を翻すが、かつての上司であり、この国の最高戦力であるレーゼベッテとの戦闘になり、絶体絶命のピンチに陥ってしまう。そのときエデンの目の前に現れたのは、以前エデンの腹に風穴を開けた男、シアンだった。



第3話 正義

「よく耐えた。後は俺に任せろ」

 

 シアンはそう言うと、レーゼベッテの腹部を蹴り上げ、吹き飛ばした。

 

 レーゼベッテは体勢を立て直すと、不快感をあらわにしながら口を開く。

 

「この神域で平然と立っていられるとは、ただ者ではありませんね」

 

 レーゼベッテは大きく息を吸うと、剣を天にかざし、名乗る。

 

「私は、我が神の矛であり盾である救世主(メサイア)Ⅸ レーゼベッテ・シータ・ポセイドン。神剣ウラノスの使い手です」

 

 レーゼベッテはシアンに剣を向ける。

 

「名乗りなさい」

 

 シアンは槍を地面に突き刺し、堂々と名乗る。

 

「叛逆軍、軍長、シアン。この星を落としに来た」

 

 この星を落とすという宣言。その宣戦布告によって場の空気がより一層凍りつく。

 

 しかし、レーゼベッテが反応を示したのは別の単語だった。

 

「叛逆ですか」

 

 叛逆、その言葉を耳にした瞬間、レーゼベッテの顔から血管が浮き、 怒りに満ちた表情となった。

 

「そんな蛮行、守るものが何もないような輩にしかできない行為。貴方も、そこに転がっている彼らも、革命を掲げて死んだ民たちも、果てしなく愚かなのですよ」

 

 レーゼベッテは感情に任せて言葉を紡ぐ。そこまで叛逆という行為が嫌いなのだ。

 

 対してシアンは感情を見せずに言葉を紡ぐ。

 

「そのように目を閉ざし続ければ真の平和は得られない。だから俺たちは、より良い世界を求めて戦う」

 

 その態度が、その言葉が、更にレーゼベッテを刺激する。

 

「そのような浅はかな考えが、罪なき民を傷つけるのだ。叛逆者よ、教えてあげましょう。絶対的な秩序こそが平和を守るのです」

 

 レーゼベッテは強い言葉を使う。彼の信念にある確かな正義を証明するために。

 

「貴様の言い分も一理あるな。故に」

 

 シアンは槍を両手で握り、腰を落とす。槍使いの基本的な構えだ。

 

「強き者が正義だ」

 

 その言葉とともに、シアンは強い殺気を放つ。

 

 レーゼベッテはそれに素早く反応し、構えを取る。そして、戦いの火蓋が切られた。

 

 最早、彼らに言葉は不要だ。己の正しさを証明するために、彼らは力を行使する。

 

「征圧剣!」

 

 大気を乗せた重い斬撃。その速度は今までで一番早く、シアンはギリギリの判断を迫られる。

 

零冷撃(れいれいげき)!」

 

 シアンはレーゼベッテが振り下ろす神剣の一点に冷気を解き放つ。大きな力がぶつかり合い、強い衝撃波が空間を包み込んだ。やがて力は相殺され、二人は睨み合う。

 

加圧(プレス)!」

 

 レーゼベッテは叫ぶ。それに対してシアンは違和感を感じ、素早くその場から後退する。その刹那、ついさっきまでシアンが立っていた場所にクレーターが出きる。

 

「これを躱すとは、忌々しい」

 

 レーゼベッテは悪態をつく。

 

「ですが、疲れが見えていますよ」

 

 確かにシアンは息が荒く、汗を垂らしている様子だった。

 

「この神域内でも俊敏に動けていたのは、痩せ我慢をしていたから、と言うことでしょう」

 

 レーゼベッテはそう言うと、剣先をシアンに向ける。

 

「そうならば、貴方は詰みですよ」

 

 レーゼベッテは素早く、僅かに剣を下に下ろす。

 

加圧(プレス)!」

 

 圧縮された大気がシアンの上空から降りかかる。シアンはそれを回避するが、回避した先の大気も更に圧縮される。

 

加圧(プレス)加圧(プレス)加圧(プレス)!」

 

 回避、圧縮、回避、圧縮。絶えずに続く追いかけっこ。彼らの周囲の地面はクレーターでボコボコになってしまった。着実にシアンの体力は減少していく。

 

 そしてそれを繰り返していく後、レーゼベッテが技を放つ速度が、シアンが回避する速度を上回った。

 

 激しく音を立て、シアンの体は地面にめり込む。肉や骨が軋み、体の制御が不能になる。

 

「詰みです」

 

 レーゼベッテはそう言うとシアンに近づく。

 

「無様ですね。貴方にはその姿がお似合いですよ」

 

 レーゼベッテはシアンの目の前に辿り着くと、剣を振り上げる。

 

「これが叛逆などという愚行をした者の末路だ。死になさい」

 

 その言葉と同時に、レーゼベッテは剣を振り下ろした。剣がシアンの体に触れる直前、剣が完全に停止する。

 

 いや、剣だけではない。レーゼベッテの腕ごと凍結していたのだ。レーゼベッテは後方へ下がり、距離を取る。

 

型式(モード)零竜之槍(ドラゴン・シャフト)!」

 

 人智を超える力を持つ、絶対零度のシアンの冷気が、神域中を包み込んだ。そしてシアンは、再び立ち上がる。

 

「ここからは全力で相手をしよう」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 同時刻、ディアスタシノス神教国第9宮殿にて。

 

「ここは俺たちが占拠した!勝手に逃げようとした奴は全員俺がぶっ殺す」

 

 年端もいかない少年はドアをけ破ると同時に、刀を振り回しながら叫んだ。

 

 そこには初老の男と、その身の回りを世話する美女が十名ほどいた。

 

「そんな物騒なことを言うんじゃないわい」

 

 40代に見える男性が、そういって少年の頭に手刀を食らわせる。

 

「痛ってー!何すんだよクソ爺」

 

 少年は頭を押さえながら文句を言う。

 

「そう言ってお前はいつもいつも、儂らのイメージを損なうことばっかり言いよって」

 

 男は呆れたような様子で言う。

 

「それにそもそも俺たち叛逆軍だぜ、イメージもクソもねぇよ」

 

 少年のその言葉に男は「ぐぬっ」っと言いたげな表情になってしまった。

 

 その刹那、少年は何かに気づいて刀を右の壁に向けて投げた。

 

「ひぃぃぃ」

 

 初老の男はそう言って、壁に背を当て腰を抜かす。この部屋からこっそり抜け出そうと、企んでいたらしい。

 

「勝手に逃げんなって言ったよな」

 

 少年は瞬く間に男の目の前に移動し、刀を壁から引き抜いた。

 

「貴様!余を誰と心得る!この星の教皇だぞ!こんなことをしてただで済むとでも」

 

 男がしゃべっている途中に、少年は男の顔の真横の壁を蹴る。その衝撃によって、壁は崩壊してしまった。

 

「うるせぇよ」

 

 背もたれが消失したことによって、男は隣の部屋に倒れてしまう。少年のあまりの迫力によって、男は気を失ってしまった。

 

「はぁ、つまんねぇな。入り口にも大したやつはいなかったし、シアンと一緒に行っときゃよかった」

 

 少年は退屈そうな顔で言う。

 

「陽動も突入も重要な役割じゃ、仕方ないじゃろ。それに」

 

 男は虚空を見上げて言う。

 

「行ってもどうせ、儂らは足手まといじゃ」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

冷斬(れいざん)!」

 

 シアンの素早い横振り。レーゼベッテの腹を裂く方向に進んでいく。

 

「征圧剣!」

 

 レーゼベッテは槍が体に到達する前に、その斬撃を叩き落す。

 

 先ほどとは打って変わって、シアンの攻撃にレーゼベッテが対応しているような状況だった。

 

 シアンは槍が叩き付けられた勢いを使い、体を反転させレーゼベッテを蹴り上げる。そして、更に技を繰り出す。

 

零冷撃(れいれいげき)!」

 

 冷気をまとった強力な突き、レーゼベッテに避けるような時間はない。

 

加圧(プレス)!」

 

 レーゼベッテはシアンとの間の空間を圧縮する。シアンがその空間に突入した瞬間進みが遅くなった。その僅かな時間で体勢を立て直し、レーゼベッテは攻撃を回避した。

 

「シアンでしたね。あなたは強い。いや、強すぎる。この国の脅威となりえるほどに。なので私は、貴方を葬らなければならない。命に代えてでも!」

 

 レーゼベッテは力を剣先に凝縮させる。そして勇敢に、シアンに立ち向かった。

 

「天誅奥義-起気塊壊(ききかいかい)!」

 

 レーゼベッテは勢いを落とさずにシアンに突きを繰り出す。シアンは隙だらけのまま前進するレーゼベッテの腹部を貫いた。

 

 鮮血が飛び散る。しかし、その程度でレーゼベッテの歩みは止まらなかった。

 

 シアンの体に剣が突き刺さる。それはあまり深く刺さらず、致命傷にはならなかった。この瞬間レーゼベッテは剣を纏っていた大気の圧縮を解除した。

 

 シアンの体内で気体が膨張する。常人なら、その威力で体内が破裂し、何十もの肉塊となって絶命するだろう。

 

 しかし、シアンの体は破裂しなかった。気体は膨張する前に、シアンの冷気によって凝縮し、液体と化していたのだ。

 

「何故だ!何故発動しない」

 

 レーゼベッテは自らの奥義が不発に終わったことに驚きを隠せない。そんな彼を他所に、シアンは技を放つ準備を終わらせた。

 

「零竜奥義-黎零冷破(れいれいれいは)!」

 

 槍先一点に集う冷気。それが螺旋を描き、吹雪が巻き起こる。シアンはレーゼベッテの体内から槍を引き抜き、最強の一撃を叩き込む。

 

「ぐうぉぉぉぉ!」

 

 レーゼベッテの腹部を吹雪が貫く。大気を漂う雪が血液と混じり、赤く煌めく。彼は血を吐き、地に伏せる。レーゼベッテの身体にはポッカリと穴が空き、凍り付き、所々に霜がくっついていた。

 

 レーゼベッテは気を失い、神域が解除される。そして、シアンの膨大な冷気も抑えられ、彼の体内へと戻っていく。一息つくとシアンはエデンの方へ向った。

 

「助かった。貴様がいなければ、こいつは既に死んでいただろう」

 

 シアンはそう言ってエデンに手を伸ばす。エデンはその手を掴み立ち上がる。

 

「手を、差し伸べたかったんだ」

 

 シアンは相変わらず無表情だ。でも、エデンの言葉を聞いて口角が若干上がった、ような気がする。

 

「貴様も立て」

 

 シアンはそう言ってグロードを持ち上げる。

 

「待てって、そいつはボロボロで動ける状態じゃねぇんだ」

 

 エデンはグロードを気遣ってシアンを制止する。

 

「いいんだ、エデン。そもそも、これは、俺が招いた、ことだ。責任を、果たさなければ、ならない」

 

 喋るのもままならない状態だが、グロードは言葉を発し、立ち上がる。エデンは倒れないようにグロードに肩を貸した。

 

「宮殿に向かうぞ」

 

 シアンがそう言うと彼らは歩き出した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「叛逆を、企てたのは、俺だ」

 

 グロードは懺悔するように口を開く。

 

「叛逆軍を、呼んだのも、俺だ。そのせいで、多くの仲間が、死んだ。でも、成し遂げなければ、ならない。民の、声が、聞こえた、から」

 

 グロードは言い終わり、口を閉ざした。エデンはその言葉を聞いて記憶をたどる。この国おいて一般人の扱いは酷いものだった。

 

 権力者の玩具として扱われ、虐げられていた。エデンは、それが常識だと受け入れていた。良くないとは思ったかもしれない。でも、それ以上の行動は起こさなかった。

 

 エデンは自分を恥じた。自分が情けなく感じた。だから、口を開く。

 

「お前はすごいよ」

 

 その一言で、グロードは涙を流した。何が正しいのかわからない、自分が完全に間違っていたかもしれないと恐れていた。でも、この一言で認められた気がしたのだ。

 

 シアンは左手を横に開き、止まれの合図を出す。

 

「行かせませんよ」

 

 ミハルをはじめとし、何人かの騎士が立ち塞がった。シアンは行く手を阻む者を蹴散らそうと、槍を構える。その瞬間、この星全体を雑音が包み込んだ。

 

『あ、あ~。聞こえてるかのう?』

 

 低い男の声が響き渡る。

 

『聖騎士の諸君、単刀直入に言おう。この星は我々、叛逆軍によって陥落した。ゆくゆくはディアスタシノス神教国から独立し、新たな国家として運営するじゃろう。その場で大人しくしてるのが身のためじゃ』

 

 ブツッという音を立てながら、男の声が途切れた。民や多くの騎士が歓喜し、権力者や一部の騎士は絶望する。

 

 ミハルを含める騎士は膝から崩れ落ち、放心状態となった。

 

「行くぞ」

 

 シアンたちはこの隙に走り出す。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 シアン率いる一行は宮殿へと辿り着いた。そこには40代ほどに見える男性と、中学生ほどの少年がいた。

 

(こう)、セツナ、よくやった」

 

 シアンは2人を労う。

 

「その様子じゃとそっちも上手く行ったんじゃな」

 

 鵼は安堵の表情を浮かべて言う。

 

「俺にかかれば楽勝だったぜ。シアン」

 

 セツナは調子に乗って言う。

 

「あ~あ、俺もシアンと一緒に行きたかったな〜」

 

 セツナはシアンをチラチラ見ながら言った。

 

「その為には更に強くなるしかないな」

 

 シアンは無表情に言い放つ。

 

「はーい」

 

 セツナはそう言われることが分かっていたかのような反応を見せた。

 

「グロード、これは貴様が始めた叛逆だ。つまり、ここからはすべて、貴様が一人で行わなければならない」

 

 シアンはグロードの眼を見ながら言う。

 

「俺たちが手を貸せるのはここまでだ。国内で問題が起ころうと、奴らが報復に来ようと、貴様一人で立ち向かわなければならない。その覚悟はあるか」

 

 シアンはグロードに問う。グロードは迷いを見せずに答える。

 

「ああ。とっくの昔からな」

 

 グロードは力強く答える。彼は叛逆することを決めた時から、その覚悟を決めていたのだ。

 

 シアンはその答えに納得し、目線を変えた。

 

「貴様はどうする」

 

 シアンはエデンの眼を見る。エデンに対する問いだ。エデンは答えに詰まってしまう。

 

「俺は」

 

 そう口にした瞬間、上空からノイズが響く。

 

『我が名は救世主(メサイア)Ⅱ ハルフィア・イプシロン・ヘルメス。神剣アテナの使い手である。神に仇なす愚者どもよ、我らはこの星を取り戻しに来た』

 

 力強い女性の声が響き渡る。

 

『投降するならば殺しはしない。もし抵抗するなら、容赦なく首を切り落とす!』

 

 そのとき、シアンたちの目の前に、数えきれないほどの騎士が地上に降り立った。

 

「ハルフィア様の慈悲だ。おとなしく降伏するのが身のためだ」

 

 高身長の騎士が口を開く。彼は異常なほどに長い鞘を二本帯びていた。

 

「話は後だ、今はここを切り抜ける」

 

 シアンはそう言って槍を構えた。それに続いて鵼やセツナも武器を構える。

 

「ハルフィア様の厚意を無下にするとは、絶対に殺す」

 

 そう言って男は二本の刀を抜刀する。

 

「ゼン。これが貴様らを殺す男の名だ」

 

 そして両者とも敵に向かって走り出す。こうして、開戦の火蓋が切られた。

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