互いの信念の為に戦う叛逆軍シアンとゼン。シアンはあと一歩の所までゼンを追い詰めるが、
「なんじゃこいつら。攻撃が通らんくなったぞ」
その斬撃と騎士の間には破ることのできない何かが存在し、騎士は守護される。
「多分ハルフィアの神域だ。地面の紋章内にいる騎士に生半可な攻撃は通用しないぜ」
エデンが敵の攻撃を防ぎながら言う。
「倒す方法はないのかよ」
セツナは相手に激しく攻撃を繰り出しながら言った。
「顕力の消耗が激しいって聞いたぜ。時間さえ稼げれば解除されるはず」
エデンは騎士の猛攻に対して防戦一方だ。
「長くは持たんぞ」
鵼の刀が敵の攻撃によって弾かれる。鵼は根性で敵の攻撃を逆の刀で防ぐ。
「もっと手っ取り早いのはねぇのか」
セツナは苛立ちながら騎士の腹部を蹴っ飛ばす。
「オススメはしないが、ハルフィア本人を倒せれば解除される」
エデンは剣で相手の攻撃を受け止め、押し返す。
「その肝心のハルフィアは何処じゃ」
エデンは紋章の中心を探す。そして、彼はハルフィアを発見した。
「あそこだ」
エデンは迫りくる騎士の猛攻を耐えながらハルフィアの方角に指をさす。
そして2人もエデンが示す方向に視線を変えた。そこにはハルフィアにレーゼベッテ、ゼンと名乗った男。そして、
「「「シアン!?」」」
そこには大量の血を吐きながら心臓を押さえ、地面に伏せるシアンの姿があった。
――――――――――――――――――――
体の力が抜けていく、出血も止まらない。
「貴様はここで終わりだ」
ハルフィアはシアンを見下ろしながら言う。
他の傷ならば凍らせることで対処することができただろう。しかし、心臓ならそうはいかない。心臓を凍らせるということは心臓の動きを停止させることだ。そうなれば全身に血液が回らなくなり、壊死してしまうだろう。
シアンは覚悟を決める。
秘めた力を行使することへの。
「—
シアンがそう口にした瞬間、シアンの左胸部が光放ち、その場の温度が上昇する。
「あれだけの力を持ちながら、奥の手まであったとは」
ハルフィアは少しだけ驚きを見せる。シアンは立ち上がった。
胸の傷跡は火傷後によって完全に塞がれており、彼の右手には紅蓮の鞘に納められている刀が握られていた。。
「ここで使うことになるとは」
そして、シアンは刀を前に出し、鞘から引き抜こうとする。その瞬間、
「
鉄でできた塔が地面から斜めに建ち、レーゼベッテに直撃する。そして彼をハルフィアの神域の外側へと吹き飛ばした。
レーゼベッテの神域による圧力が消滅した。
「
さらにセツナは螺旋を描きながら、時速三万キロでハルフィアに向かって直進する。
「ハルフィア様!」
ゼンはハルフィアを庇って彼女の前に出る。セツナの攻撃を透明な盾が受け止めるが、止まらない彼の嵐によってひび割れ、砕けた。
そのままセツナは前進し、ゼンに傷を負わせる。
「ぐはっ、」
ゼンは吐血する。
大軍の中を切り抜け男が2人、ようやくシアンのもとへ駆けつけた。
「「俺達が来たぜ!」」
――――――――――――――――――――
数刻前。
「助けに行かねば」
鵼は大軍の攻撃を受け流しながら言う。
「どうやって?」
エデンは騎士たちに押されながら言葉を返す。
「エデン、剣を百本造ってくれんか」
鵼の要求を受け、エデンは攻撃の隙をついて地面に神剣を突き刺す。
「
エデンは大地から鉄を抽出し、剣をちょうど百本精製した。そして周囲の騎士に対してそれを放つ。
通常なら騎士たちに剣が突き刺さるが、透明な盾によって防がれてしまう。
しかし、彼らを数メートル押し返し、少し時間を稼ぐことには成功した。
「これでどうするんだ?」
エデンは鵼に視線を向ける。鵼は集中に入ったようでエデンに何の反応も示さない。
そして、エデンが精製した剣がゆっくりと宙に浮いた。
「疲れるから本当はやりたくないんじゃが」
鵼の真上に百本の剣が整列する。それに対して、エデンは驚きの表情を浮かべる。
「これがジジイの
不思議がるエデンのためにセツナは鵼の能力の名を教えた。
手顕、それは顕力によって
「俺が道を作る、その間に進め」
鵼はそう言って剣をシアンの方向へ整列させる。
「行雲流水-百花繚乱!」
水が流れるように剣が漂う。流れる剣が騎士たちに降りかかり、彼らを押し出す。
そして、シアンへと続く道ができた。
「行け!」
この鵼の声を合図に、2人は走り出した。
しばらく走ると、いきなり体が重くなる。レーゼベッテの神域内に入ったのだ。
熟練度や、顕力量によって神域の大きさは大きく変わるのだ。
「俺が対処する」
エデンはそう言うと、地面に神剣を突き刺した。
――――――――――――――――――――
ハルフィアの神域の効果は大まかに二つ存在する。
一つは神域内の味方だと判断した者に
もう一つは、神域内の者と言葉を介さずに会話できるというものだ。
ハルフィアはレーゼベッテに言葉を送ろうとする。しかし、レーゼベッテに届くことはなかった。
(神域外にまで飛ばされたか。3対2、レーゼベッテが戻ってくるのに30分掛かるだろう。そして、私の顕力が尽きるまで15分。対処法を考えなければならないか)
戦況の変化に応じてハルフィアは新たな戦略を立てる。
「エデンではないか。まさか裏切るとは思わなかったぞ」
ハルフィアは含みを持った笑みを浮かべてエデンに話しかける。
それに対してエデンは全力で目を逸らす。
「知り合いか?」
セツナはエデンに質問した。
「まあ、育ての親みたいなもんだ」
エデンは気まずそうに言う。
「提案だエデン、こちら側に戻ってこい。そうすれば、お前に相応の待遇を与えてやろう。そうでなければ、殺すしかない」
ハルフィアは真剣な表情でエデンに選択を与える。叛逆か、服従か。
「悪いがそれだけは出来ない」
エデンは即答した。彼は自分の信じる正義のために叛逆した。彼の信念はそんな安っぽい言葉に踊らされることはない。
「残念だ」
ハルフィアは微かに悲しそうな顔を浮かべた。そして彼女は不敵な笑みを浮かべ、口を開く。
「そうそう言い忘れていた。ここはあと一分もすればレーゼベッテの神域内になるだろう」
この言葉はハルフィアの真っ赤な嘘だ。しかし、シアンたちにそれが嘘だと見破ることはできない。
「俺が食い止める。ここは任せた」
エデンはそう言い、神剣を地面に刺す。
「
エデンの足元に鉄の塔が建ち、彼はレーゼベッテを吹き飛ばした方向へ向かった。
「ゼン、あの子供を相手してやれ」
その言葉を聞いて、セツナはハルフィアに怒りを見せる。
「ババア!お前俺をガキ扱いして」
セツナがハルフィアに抗議している途中、ゼンがセツナに対して斬りかかった。
セツナは間一髪でその攻撃を刀で受け止める。
「お前、何すんだよ」
セツナは急に攻撃を加えてきたゼンに抗議する。
「クソガキ。ハルフィア様を侮辱するならば、容赦しない」
ハルフィアを慕うゼンにとって、セツナのババアという言葉が許せなかったのだろう。
「はっ、殺れるもんなら殺ってみろ」
セツナはゼンを煽る。ゼンの怒りが限度を超え、2人の戦いが始まった。
そしてハルフィアは、視線をシアンに移す。シアンの手には槍だけが握られていた。
(刀を仕舞ったのか。出来る限り奥の手は使いたくないということか)
こうしてハルフィアはどうやってシアンを倒すのかを決めた。
「あとは貴様か」
ハルフィアはそう言いながらシアンの背後にいる騎士に指示を送った。
一人の騎士がシアンに奇襲を仕掛ける。
シアンはその殺気に反応し、剣が体に触れる前に槍で騎士の体を突いた。騎士は
(容易く防ぐか)
戦況が進展したことによって、シアンは竜のような殺気を放ち、敵を威嚇する。
これによって騎士たちは立ちすくんでしまう。
「奴の刃は我らに届きえぬ!臆せずに進め!」
ハルフィアは彼らを鼓舞する。その言葉を聞いて、騎士たちはシアンに走り出した。
シアンの四方八方を、騎士たちが取り囲む。それはまるで、牢獄のようだった。
――――――――――――――――――――
「ハルフィアのやつ、俺を騙したのか」
エデンは周囲を見渡しながら言う。ハルフィアの神域の外側まで出てきたがレーゼベッテの姿は何処にもなかった。
「仕方ない。とりあえずシアンの場所に戻るか」
エデンがそう言った瞬間、強い風がエデンに吹き、その風に乗った男がエデンの目の前に現れる。
「
エデンの真上の大気が、力強くエデンを襲う。
エデンは間一髪で地面を蹴り、攻撃を避けた。
「これを避けますか。忌々しい」
レーゼベッテ怒りに満ちた声色で言う。
「レーゼベッテ、結局居るのかよ」
エデンは苦虫を嚙み潰したような顔で言う。
そしてエデンは神剣をわずかに地面に触れさせた。
「エデン、忌むべき叛逆者。再び相まみえるとは」
レーゼベッテはエデンを見下ろす。
「ああ、かなり気まずいな」
エデンは顔を引きつらせて言う。
エデンの軽口に対してレーゼベッテは少しため息をついたが、その後少し顔を緩めた。
「貴方のおかげで、私のやり方は古いのだと気付かされました」
レーゼベッテは空を見上げて言う。今、彼の眼には何が写っているのだろうか、エデンにはわからない。
「意外だな」
エデンは警戒しながら言葉を返す。
「じゃあ、それに免じて退いてくれないか」
エデンは無用な戦いなら避けようと、ダメ元でレーゼベッテに聞いてみる。
「駄目です。どんな理由があろうとも、私は叛逆者を許すことはできませんので」
レーゼベッテは険しい表情で拒絶する。
「ですよね」
そしてレーゼベッテは勢いよく地面に神剣を刺す。
「神域開放!」
地面に紋章が刻まれ、光り輝く。
「征圧神域-
遥か上空の大気が地面に迫りくる。このままレーゼベッテの神域が完成してしまったらエデンに勝ち目はない。
エデンは思考を巡らせ、一つの打開策を思い付く。
そして、エデンは能力を行使した。
「
エデンとレーゼベッテを囲うように、風の通り道すらない金属の牢獄が精製された。
鉄の牢獄は
エデンの体は微かに重くなるが、動きに支障をきたす程ではない。
神の力は、存在する物体を操ることを得意とし、無から有を生み出すことは基本できない。
つまり、エデンを押しつぶすことができるのは、牢獄内の大気だけだ。
「体が軽いぜ!」
エデンはさらに能力を行使する。
「
レーゼベッテ側の空間全体に鉄の槍を精製する。
レーゼベッテは攻撃から逃れるため、エデンの方向へ跳躍する。
そして、そのまま神剣を振り上げた。
「征圧剣!」
大気を纏い、重くなる剣。エデンは敢えて、ギリギリまで斬撃を引き付け、紙一重で回避する。
その瞬間に、エデンはレーゼベッテに斬撃を与える。
飛び散る鮮血。エデンは初めて、レーゼベッテに有効な攻撃を与えた。
エデンは追撃を与えようとするが、神剣ウラノスによって防がれてしまう。
単純な力比べではエデンが劣ってしまう。そこでエデンはレーゼベッテの腹部を蹴り上げた。
槍に向かって飛ばされるレーゼベッテ、それを掴んで速度を殺すことで串刺しは免れた。
「
降り注ぐ十数本の刃。レーゼベッテは何本か防ぐが、何本も体に突き刺さってしまう。
「ぐはっ」
それはレーゼベッテの臓器を傷つけ、彼は吐血してしまう。
「このまま押し切る!」
エデンはトドメを刺そうと、レーゼベッテの方へ駆けた。
勝利への兆しが見えた瞬間、牢獄が大気の圧力に耐えられなくなり、穴が開いてしまう。
太陽の光が牢獄内を照らし、尋常ではない速度で空気が流れ込む。
エデンは大気の重みに耐えきれず、地面に伏してしまう。
「ぐはっ」
急激な圧力差によって、エデンの体中が押しつぶされ、臓器が破裂する。
エデンは吐血し、力を失う。
「かなり苦戦を強いられましたが、これで終わりです」
負傷したレーゼベッテは、エデンにゆっくりと近づく。
(このまま終わるのか)
今までのエデンならここで諦めていただろう。
(諦めてたまるか)
しかし、シアンたち叛逆軍と出会い、副団長グロードの覚悟を知った今は違う。
彼にも大きな夢ができた。この国を
それがエデンの、
(動け)
エデンは手を伸ばす。
神の力は、存在する物体を操ることを得意とする。
(動け)
ならば、今まで精製した物質も動かせるのではないだろうか。
(動け!)
地面に突き刺さる一本の剣が、レーゼベッテに襲い掛かる。
レーゼベッテはいとも容易く、それを切り伏せる。
「そんな能力を隠していたのですか。しかし、それだけでは何の意味もありません」
レーゼベッテは鼻で笑うように言う。
「これで終わりな、わけねえだろ!」
エデンは手で、力強く地面を抉り握る。
槍や剣、牢獄までもが振動し始めた。
エデンは根性で、折れ曲がりそうになりながらも手を振り上げる。
そして、エデンが精製した物体すべてが宙に浮かんだ。
牢獄も例外ではない。大量の物体が宙を舞い、影が踊りだす。
「馬鹿な!いつこれ程の力を」
レーゼベッテは驚きを隠せないでいた。
そんなことに構うことなく、エデンは最後の力を振り絞って手を下し、叫ぶ。
「フルメタル・ディストラクション!」
すべての金属が回る。そしてそれが嵐を起こし、レーゼベッテに降り注いだ。
激しい金属音、飛び散る火花、数々の金属がレーゼベッテの体に衝突し、傷を負わせる。
そして嵐がしばらく続いた後、エデンの体は軽くなる。
エデンは全身の痛みを堪え、立ち上がる。
その目の前には、高く積みあがった屑鉄の山があった。
「やったか」
エデンがそういった直後、山の一部が崩れ、一人の男が這い出た。
「嘘、だろ」
それはレーゼベッテだった。彼は全身血まみれで、全身の肉が切り裂かれている。呼吸音もおかしい。
それはいつ死んでもおかしくない状態だった。
しかし、レーゼベッテは立ち上がる。
「排除、せねば。無垢なる、民のため。はぁ。叛逆者を、排除、せねば」
レーゼベッテはふらつきながら歩く。殆ど進めていない。
それでも彼は、決して歩みを止めなかった。
(お前にはお前の
エデンはその行動に彼の信念を見出す。
しかし、2人の正義は決して交わることはない。
(これじゃ、虐殺者と変わらねぇじゃねえか。)
全身に寒気がし、脱力感が増す。自分は間違ったことをしたのではないかと、エデンの心が揺れ動く。
(でも、進まなきゃいけない)
エデンは神剣を強く握る。そして、レーゼベッテのもとへ歩き出す。
(これは俺の身勝手だとわかってるけど、言わせて欲しい)
「ごめん」
神剣ガイアが、レーゼベッテの心臓を貫いた。更に血が溢れ出す。
「私を、、、のは。貴方、では、なかった、のか」
絵空事のように、レーゼベッテは呟く。彼のその瞳には、エデンではない別の誰かが写っていた。
そして、レーゼベッテは完全に力を失い、地面に倒れてしまう。
そしてもう、動くことはない。
彼は出血多量によって絶命した。