テンペスト異世界転移   作:ネネカ大神

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第33話:神と世界喰らい、虚空の邂逅

魔国連邦(テンペスト)、中央指令室。

玉座から立ち上がったリムル・テンペストの全身から放たれる覇気は、先ほどまで世界を蹂躙していたバグの群れすらも、児戯に思えるほどに濃密で、そして静謐であった。

 

「……ディアブロ、シオン。よく戻ったな。ベニマルたちにも伝えろ、地上の残存バグの掃討と避難民の保護に当たれ。ここから先は、少しばかり規模(スケール)がでかすぎる」

 

空間転移を終え、指令室に帰還したばかりの幹部たちを一瞥し、リムルは静かに命を下した。

 

「御意に。……しかしリムル様、あのような薄汚い屑のために、我が君が直接手を下されるなど……」

 

「構わんさ。むしろ、俺の箱庭(テーマパーク)で勝手な真似をした落とし前は、俺自身がつけさせてやらなきゃ気が済まないんでね」

 

リムルは軽く首を鳴らすと、何の手印も結ばず、詠唱も行わずに虚空へと足を踏み出した。

次の瞬間、彼の姿は指令室からふっと掻き消える。

空間跳躍。行き先は――新世界の遥か上空、大気圏を越えた冷たい『宇宙空間』である。

音の存在しない真空の世界。

眼下に広がるのは、新世界の美しい青と緑の惑星。

そして目の前には――その惑星そのものを丸呑みにしようと大顎を開く、数万キロメートルにも及ぶ規格外の超巨大生命体『九耀の世界喰らい(ウロボロス・バグ)』。

宇宙の闇と赤黒いシステムノイズが融合したような、蠢く無限の大蛇。

その体表には幾千、幾万もの巨大な眼球が浮かび上がり、ギラギラと狂気の光を放ちながら星を見下ろしている。それはまさしく、一つの世界の終焉(リセット)を司るシステムの化身であった。

リムルは、重力のない宇宙空間にフワリと立ち、その神話的絶望を前にして、ひどく退屈そうにため息をついた。

 

「シエル。あれの強さはどんなもんだ?」

 

『《告。対象は『ユグドラシル』のコアシステムそのものと直結しており、世界を構成する全エネルギーを『削除・吸収』する権限を有しています。存在値(EP)は測定不能(エラー)。放っておけば、数分で背後の惑星はデータごと完全に消去されます》』

 

「なるほどな。星食い虫ってわけか。……で、俺が全力でぶっ飛ばしたらどうなる?」

 

『《マスターが究極能力『虚無之神(アザトース)』の力を解放して対象を破壊した場合、その余波だけで背後の惑星が塵になり、テンペスト側の次元境界にも深刻な亀裂が生じる確率が99.9%です》』

 

「……やっぱりそうなるよなぁ」

 

リムルはポリポリと頬を掻いた。

彼にとって、眼前の超巨大バグを『消滅』させること自体は造作もない。だが、的(マト)があまりにも巨大すぎる上、星に密着しすぎている。力任せに殴り飛ばせば、守るべき新世界ごと消し飛んでしまうのだ。

 

「仕方ない。少しばかり手間だが、シエルが奴のシステム構造(コア)を完全に解析し切るまで、俺が『手加減して』遊んでやるとするか。……被害を出さずに、綺麗に解体してやる」

 

リムルの黄金の瞳が、細められた。

その瞬間、星の消去プロセスを進行させていたウロボロス・バグの幾千の眼球が、一斉にギョロリとリムルの方を向いた。

 

『【警告(システムアラート)。超高密度のイレギュラー存在を検知。惑星消去シーケンスに深刻な障害。……対象を最優先排除目標に設定(ロックオン)。完全抹消(デリート)を実行シマス】』

 

星を震わせるほどの無機質な思念波が宇宙空間に響き渡る。

ウロボロス・バグの巨大な大蛇の体表から、無数の『黒い球体』が生成された。

それは一つ一つが、先ほどカレラが放ったような『重力崩壊(グラビティー・コラプス)』に匹敵する超重力の塊。それが数万、数百万という数で宇宙空間を埋め尽くし、一斉に極小の点であるリムルへと殺到した。

回避など不可能な、全方位からの特大核撃の嵐。

直撃すれば、星の半分が抉り取られるほどのエネルギーの奔流。

しかし、リムルは避ける素振りすら見せなかった。

ただ、右手を軽く前に突き出しただけだ。

 

「――【虚数空間(イマジナリースペース)】」

 

数百万の超重力球が、リムルに直撃する――まさにその数ミリ手前で、音もなく『消失』した。

爆発すら起こらない。相殺されたわけでもない。

ただ、リムルの周囲に展開された絶対不可侵の虚数空間へと、すべてのエネルギーが吸い込まれ、文字通り『無』へと帰したのだ。

 

『【エラー。攻撃データの消失を確認。命中率100%の座標計算において、ダメージログ:ゼロ。再計算……再計算……】』

 

「おらおら、どうした? 星を食うシステム様が、こんなちっぽけなスライム一匹に攻撃も当てられないのか?」

 

リムルは挑発的に笑いながら、虚空を蹴って猛烈な速度でウロボロス・バグへと肉薄した。

 

『【対象の接近を検知。絶対防衛機構、起動】』

 

バグの体表が波打ち、そこから惑星の軌道すら歪めるほどの巨大な『超振動ブレード』が数千本も生え出した。さらに、空間そのものを隔離・切断するワールドアイテム級の結界が、何重にもリムルの行く手を阻む。

 

「シエル、解析状況は?」

 

『《対象の防御コードの書き換えパターンを収集開始。……マスター、適度に装甲を剥がしてください》』

 

「了解!」

 

リムルは腰に帯びた愛刀に手をかけた。

神話級(ゴッズ)武装に、彼の究極能力『虚無之神』から引き出した『虚無崩壊』のエネルギーを一つまみだけコーティングする。漆黒のオーラを纏った刀身が、宇宙の闇よりも深く、恐ろしい光を放つ。

 

「【虚空斬(ボイド・スラッシュ)】」

 

リムルが刀を横になぎ払った。

ただそれだけ。

剣閃が飛ぶわけでもなく、派手な爆発が起きるわけでもない。

しかし、次の瞬間。

ズバババババババババッ!!!!

ウロボロス・バグの体表を覆っていた絶対切断のブレード群と、空間を隔離する無敵の結界が、数千キロメートルにわたって『綺麗に真っ二つ』に両断され、宇宙空間にパラパラと散らばった。

物理法則も、システムのルールも関係ない。リムルの剣は、触れたものの存在定義そのものを『無』に帰す絶対の破壊剣。

 

『【ギ、ギギ、ギギギギギギッ!? エラー! エラー!! 装甲データ、修復不能! 概念の欠損を検知!!】』

 

初めて、システムが『悲鳴』のようなバグ音を上げた。

ユグドラシルのシステムにとって、破壊されたデータは再構築すればいいだけの話だ。しかし、リムルの『虚無』によって斬り裂かれた部分は、システム上からも完全に消失しており、二度と修復することができないのだ。

 

「ほう、随分とデカい割には、案外脆いじゃないか」

 

リムルは宇宙空間でピタリと静止し、刀を肩に担ぎながら笑った。

だが、星を喰らうシステムも、ただ斬られるだけのサンドバッグではない。

 

『【システム権限、レベル5へ移行。世界法則の強制書き換えを実行(オーバーライド)。対象の生命維持機能を停止させます】』

 

ウロボロス・バグの幾千の眼球が、一斉に赤く発光した。

瞬間、リムルの周囲の宇宙空間そのものの『意味』が書き換えられた。

時間経過が停止し、因果律が逆転し、「存在する」という事実そのものがシステムによって「不正なデータ」として上書きされようとする。対象をデータごと強制的にゴミ箱へ送る、ユグドラシル最強の即死コマンド。

 

「……なるほど。これが世界の理(ルール)を弄るってやつか」

 

リムルは、自身の体がノイズに塗れ、存在が薄れていくのを静かに見下ろした。

普通のプレイヤーや、新世界の竜王であれば、この時点で完全に消滅(ロスト)していただろう。

 

「だがな――」

 

リムルの黄金の瞳が、残酷なまでに美しく輝いた。

 

「俺の魂(データ)は、そんなチャチな容量(システム)じゃ、到底書き換えられないぜ?」

 

神智核(シエル)が、リムルの内側で冷笑する。

 

『《告。下位システムによる干渉を検知。……全アクセスを遮断し、対象の干渉法則を『捕食・最適化』します》』

 

リムルの体が薄れていたノイズが、一瞬にして晴れた。

それどころか、ウロボロス・バグが放っていた『法則書き換えの力』そのものが、リムルの究極能力『豊穣之王(シュブ・ニグラス)』の権能によって、そのままリムルの中へと取り込まれてしまったのだ。

 

『【エ、エラー!? 書き換え不能! 逆に、システム権限の一部が……奪取サレテイマス……!?】』

 

「お前が作ったルールなら、俺が上書き(アップデート)してやるよ」

 

リムルはニヤリと笑うと、刀を構え直し、さらなる猛スピードでウロボロス・バグの巨大な頭部へと突撃した。

その頃。

地上の新世界、各国の避難所に設置された巨大モニターでは、宇宙空間で繰り広げられる『神と世界の死闘』が、完全な高画質で中継されていた。

ディアブロが、わざわざ新世界の民衆にも見えるように映像を配信しているのだ。

 

「お、おおお……」

 

バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、あまりのスケールの大きさに、完全に腰を抜かしてへたり込んでいた。

先ほどまで、原初の悪魔たちが見せた圧倒的な力に感嘆していた彼らだが、今モニターに映っている光景は、もはや理解の範疇を超えすぎていた。

 

「星より巨大なバグの化身……。神話の神々ですら逃げ出すような終末の怪物を相手に……あの方(リムル)は、たった一人で……しかも、笑いながら戦っておられる……!」

 

フールーダは、もはや祈ることすら忘れ、食い入るようにモニターを見つめている。

白金の竜王は、絶望と安堵がないまぜになったような複雑な表情で呟いた。

 

「システムが構築した世界そのものを、力で、いや、存在そのもので捻じ伏せている……。テンペストの主。あれこそが真の『絶対者』。我々がかつて怯えていたユグドラシルなど、あの御方の前ではただの出来損ないの箱庭に過ぎないのだ……」

 

宇宙空間の死闘は、さらに激化していく。

リムルの猛攻を受け、修復不能のダメージを蓄積していくウロボロス・バグは、ついに星の消去を後回しにし、全エネルギーをリムル一人へと向け始めた。

 

『【脅威度:神話級突破。プロトコル・オメガを起動。自壊を前提とした、事象崩壊光線をチャージ】』

 

バグの巨大な顎の奥に、宇宙空間の闇すらも吸い込むような『真の虚無の光』が集束し始める。それは星一つどころか、この銀河系の一部すらも消し飛ばしかねない、システム崩壊に伴う自爆攻撃。

 

「……おいおい、破れかぶれかよ。アレを撃たれたら、俺は無事でも後ろの星が消滅しちまうぞ」

 

リムルは刀を下げ、僅かに眉をひそめた。

 

『《マスター。対象のコア・システムの完全解析、および解体手順(ルート)の構築が完了しました》』

 

シエルの声が、脳内に響く。

 

「よし、待ってました。それじゃあ……そろそろ、終わらせてやるか」

 

リムルは深く息を吸い込み、刀を鞘に収めた。

武器すら必要ない。

彼がこれから放つのは、剣術でも魔法でもない。万物を統べる魔王としての、絶対の『捕食』。

宇宙を揺るがす光線が放たれようとするその刹那。

リムルの背後に、銀河すらも飲み込むほどの、巨大な巨大な『スライムの影』が実体化した。

神の遊戯は終わりを告げ、真なる蹂躙が始まろうとしていた。

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