テンペスト異世界転移   作:ネネカ大神

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第36話:絶対者の凱旋と、新たなる信仰

魔国連邦(テンペスト)王都、中央指令室。

宇宙空間での次元を超えた死闘――否、一方的な『捕食』を終え、新世界の空に平和な青空を取り戻したリムルは、空間転移によってポンッと指令室の中央に帰還した。

 

「ふぅ、帰った帰った。いやぁ、最後ちょっと無茶しちゃったけど、なんとかなって良かっ――」

 

「リムル様ァァァァァァァッ!!!」

 

リムルが言葉を言い終えるより早く、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしたシオンが、弾丸のような速度で突撃し、リムルの身体を力いっぱい抱きしめた。

 

「うわっ!? ちょっ、シオン、苦し……ッ!」

 

「ああああっ、リムル様っ! ご無事で、ご無事で本当に何よりです! このシオン、リムル様が光線の中で血を流されているのを見た時、心臓が止まるかと思いましたぞぉぉぉ!」

 

「お、おい、ちょっと落ち着けって! ほら、怪我なんて一つも……って、今度は誰だ!?」

 

「クフフフフフ……。素晴らしい。あまりにも素晴らしい蹂躙劇でした、リムル様」

 

いつの間にか、リムルの足元には黒の悪魔――ディアブロが平伏し、恍惚とした表情でリムルの靴のつま先に額を擦り付けていた。

 

「世界を食い破るシステムすらも、リムル様の胃袋の足しにはならないとは。リムル様の無限の慈悲と圧倒的な御力、このディアブロ、感涙を禁じ得ません。ああ、今すぐ新世界全土にリムル様の神像を建立し、一日に十度の礼拝を義務付ける法案を起草せねば……!」

 

「いや待て待て! なんでそうなる! 勝手に変な宗教を作るな!」

 

暴走する秘書たちを宥めていると、静かな足音と共に侍大将が歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様でした、リムル様」

 

ベニマルは深く一礼し、心底安堵したような、しかし武人としての引き締まった表情で主を見つめた。

 

「お身体に傷一つないご様子、安心いたしました。我らが不甲斐ないばかりに、リムル様お一人に世界の命運を背負わせてしまい……申し訳ありません」

 

「気にするな、ベニマル。お前たちが地上を完璧に護ってくれたからこそ、俺は背後を気にせず宇宙のバグ退治に専念できたんだ。誇っていいぞ」

 

リムルが労いの言葉をかけると、ベニマルは「はっ」と力強く頷いた。その後ろでは、ゼギオンが静かに敬礼し、テスタロッサやウルティマ、カレラといった原初の悪魔たちも、満足げな顔で続々と指令室へ帰還してきていた。

 

「皆もご苦労だったな。街や自然に被害を出さずに眷属を処理してくれて助かったよ。……で、ヴェルドラとラミリスは?」

 

リムルが周囲を見渡すと、指令室の奥のソファで、ヴェルドラとラミリスが、何やらゲーム機のコントローラーを握って白熱していた。

 

「クアーッハッハッハ! 見たかラミリス、我の昇龍拳からの真空波動拳のコンボ! 完璧なタイミングであった!」

 

「あーっ、ズルいズルい! 今のガード不可避じゃないか! もう一回、もう一回勝負なのよさ!」

 

「……お前ら、世界が滅びかけてたの知ってるよな?」

 

ジト目で睨むリムルに、ヴェルドラはゲーム画面から目を離さずに笑い飛ばした。

 

「何を言うかリムルよ。お前やゼギオンたちが動いておいて、たかが次元のバグごときに遅れをとるはずがなかろう。我は最初からお前たちを信じて、こうして精神を集中(ゲーム)して待機しておったのだ!」

 

「アタシもアタシも! ま、最悪ヤバくなったらアタシが迷宮の権能でなんとかしてあげようと思ってたけどね!」

 

「はいはい、そいつは頼もしいことで」

 

リムルは呆れながらも、思わず笑みをこぼした。

宇宙で味わった骨が軋むような痛みも、命を懸けた絶望的なプレッシャーも、この騒がしくも温かい仲間たちの顔を見れば、嘘のように吹き飛んでしまう。

しかし、リムルがそう暢気に構えている裏で。

彼が守り抜いた『新世界』の情勢は、彼のあずかり知らぬところで、とんでもない方向へと激変しようとしていた。

 

バハルス帝国、帝都の宮殿。

皇帝ジルクニフの執務室には、帝国の大貴族たち、魔法省の重鎮であるフールーダ、そして近衛騎士団長が緊急招集されていた。

その場の空気は、かつての「強大な他国への警戒」といった類のものではない。全員が全員、何かに取り憑かれたような、異様な『熱狂と畏敬』に包まれていたのだ。

 

「皆の者、モニターの映像は見たな。……そして、今我々がこうして息を吸い、立っていられる理由も理解しているな?」

 

ジルクニフが、震える声で口火を切った。

 

「は、はい、陛下……。あの魔王様……いや、リムル『神』は、我々の世界を護るため、御自ら宇宙へ赴き、星を喰らう怪物を身を挺して滅ぼしてくださりました」

 

騎士団長が、涙ぐみながら深く首を垂れる。

 

「うむ。我が帝国のみならず、王国も、法国も、あの御方とテンペストの幹部たちがいなければ、今頃塵一つ残らず宇宙から消え去っていた。……これは、歴史上のいかなる偉業とも比較にならない、絶対の『救済』である」

 

ジルクニフは、ギュッと胃のあたりを押さえた。

かつてテンペストの力を恐れて抱えていた胃痛ではない。

「文字通りの『神』に対して、一体どのような礼を尽くせば失礼に当たらないのか」という、前代未聞のプレッシャーによる胃痛であった。

 

「フールーダよ! 魔法省の予算を全額引っ張ってこい! 帝都の中央広場に、純金とミスリルを用いたリムル神の巨大な神像を建立する! デザインは最高峰の芸術家を集めろ! スライムの御姿と、あの恐ろしくも美しい人型の御姿、両方だ!!」

 

「承知いたしました、陛下ァ! このフールーダ、残りの寿命のすべてを懸けて、究極の祭壇を構築してご覧に入れますぞ!!」

 

「それと、テンペストへ送る供物だ! ありきたりの金銀財宝など、あの御方の前では石ころと同義! 大至急、帝国領内で産出される最も美味なる食材、極上の美酒、そして世界最高品質の絹織物を集めよ! 魔国連邦の平穏を取り戻した祝賀に合わせ、帝国を挙げての超大型感謝祭を企画するのだ!!」

 

ジルクニフの号令に、貴族たちも狂熱的に頷き、直ちに駆け出していく。

もはや、彼らの中に「テンペストとどう外交交渉をするか」という対等な概念は存在しなかった。あるのは、「いかにして神の怒りに触れず、いかにして神を崇めるか」という、究極の信仰心だけであった。

これは帝国に限った話ではない。

スレイン法国では、既存の六大神の教義を根底から覆し、「真なる救済の神・リムル」を主神に据えるための緊急聖下会議が開かれていた。

リ・エスティーゼ王国でも、国王自らがテンペストへの絶対的な帰順と感謝を示す親書の執筆に徹夜で取り組んでいた。

新世界における『魔国連邦(テンペスト)』の立ち位置は、たった一日の出来事を経て、「強大で豊かな異邦の国」から、「世界の創造主が住まう絶対の聖地」へと、完全にクラスチェンジを果たしてしまったのである。

それから数日後。

バグによる被害状況の確認と、ラミリスの迷宮復旧作業が完了し、テンペスト地下迷宮は探索者たちの受け入れを再開した。

地下二十階層のセーフエリア。

あの絶望の日に、世界敵の眷属によって消去されかけたアイテムショップの山小屋も、ラミリスの権能によって新品同様に復元されている。

カウンターの奥には、いつものように指定のエプロンを着た『白金の竜王』と『常闇の竜王』が立っていた。

しかし、彼らの前に立つ「客」である新世界の冒険者たちの様子が、どうもおかしい。

 

「あ、あの……! も、申し訳ありません、我々のような下賎の者が、このような聖域に立ち入ってしまい……っ!」

 

「ぽ、ポーションを一つ……い、いや! 頂くなど滅相もない! どうか、どうか売ってくださるよう、ひらにお願い申し上げまするッ!」

 

冒険者たちは、かつてのように気軽な「ショップ店員」としてではなく、まるで神社の神主や、最高位の天使にでも接するかのように、地面に額を擦り付けて震えていた。

 

(……やりにくいことこの上ない)

 

白金の竜王は、ポーションの瓶をカウンターに置きながら、内心で深い深いため息をついた。

無理もない。新世界の人々にとって、この地下迷宮はもはや単なるダンジョンではないのだ。

あの恐るべきバグの軍勢を一瞬で灰にした原初の悪魔たちや、絶対の防壁を斬り裂いた蟲皇帝が闊歩する場所。

そして何より、星を食らう怪物を宇宙で丸呑みにした『神』が管理する領域。

そこでエプロンをつけて働いている竜王たちもまた、「神の迷宮に仕える聖なる御遣い」として神格化されてしまっていたのだ。

 

「……よい。ここはリムル様が用意された修練と娯楽の場だ。過度なへりくだりは、かえってリムル様の意に反する。銀貨三枚だ、持っていくがいい」

 

白金の竜王が威厳を込めてそう言うと、冒険者たちは「おおおっ、神の御遣い様から直々のお言葉……!」と涙を流し、銀貨を十枚ほど置いて逃げるように去っていった。

 

「……釣りを受け取らんか。我々がレジの精算で怒られるだろうが」

 

常闇の竜王が、釣り銭を握りしめながら仏頂面で呟く。

かつての世界最強の竜王たちは、今や「神の迷宮の真面目な従業員」として、すっかりその役割に順応してしまっていた。

 

「いやー、なんか妙にみんな礼儀正しくなっちゃったな」

 

指令室のモニター越しに、迷宮内の様子を観察していたリムルは、ポリポリと頬を掻きながら苦笑した。

以前のようにワーワー騒ぐお祭り騒ぎも好きだったが、今は冒険者も観光客も、どこか「聖地巡礼」にでも来たかのような厳かな態度でテンペストを満喫している。

 

「クフフフ……当然です。リムル様という絶対の存在の偉大さを、彼らもようやく正しく理解しただけのこと。むしろ、今までが馴れ馴れしすぎたのです」

 

ディアブロが、紅茶を注ぎながら満足げに微笑む。

 

「まあ、平和に過ごしてくれる分には文句はないけどさ。……そうだ」

 

リムルは何かを思いついたように、パンッと手を叩いた。

 

「新世界の連中も、色々あって肝を冷やしただろうしな。ここらで一つ、パーッと明るいイベントでもやるか! 迷宮の復旧と、世界平和を記念して、『テンペスト超大型・復興祭』の開催だ!」

 

「おお! それは良いお考えです、リムル様! 料理の準備ならこのシオンにお任せください!」

 

シオンが目を輝かせて立ち上がる。(リムルは内心で『頼むから味見はゴブタにさせてくれよ……』と冷や汗を流した)。

 

「よし、じゃあ早速準備に取り掛かるぞ。テスタロッサとディアブロは、新世界の各国の王や要人に、招待状と手紙を手配してくれ。文面は任せるが、あまり脅すような内容にはするなよ?」

 

「御意。リムル様の慈悲深さを、彼らの魂の底まで刻み込むような美しい書状をご用意いたしましょう」

 

テスタロッサが真紅の扇子で口元を隠して優雅に微笑む。

 

「リグルドには、街のメインストリートの飾り付けと、屋台の出店管理を頼む。出し物もいっぱい用意して、みんなに思いっきり羽を伸ばさせてやろう」

 

「ベニマル、お前には迷宮外およびテンペスト全域の警備体制の再構築を頼む。他国からの要人や観光客が一気に押し寄せるはずだ。不届き者が問題を起こさないよう、各軍団を適切に配置してくれ」

 

「はっ。リムル様の御膝元で騒ぎを起こすような命知らずがいれば、速やかに排除いたします。警備と巡回、抜かりなく手配しておきましょう」

 

ベニマルが力強く頷く。

魔王の一言で、テンペストは再び活気に満ちた『お祭り騒ぎ』の準備へと突入した。

宇宙を揺るがす死闘を終え、絶対の神として崇められるようになっても、リムル・テンペストの根幹は変わらない。

誰もが笑顔で、美味しいものを食べ、楽しく過ごせる世界。

それこそが、彼が護り抜いたこの国の、何よりも尊い日常なのだから。

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