ゴジラ対怪人二十面相   作:マイケル社長

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髑髏怪人の恐怖

 

 

 

 

さて、時分は3月22日の午後8時となりました。

 

普段から人波の多い銀座ですが、今宵は給料日後の会社や商店が多く、いつもよりも多くの人が雑踏を行き交い、屋台や飲み屋で仕事の鬱憤やお互いの与太話をしているのです。

 

そのうえ、新聞社がこぞって、当日の夕刊で二十面相銀座に現るかと報じたものですから、もはや帝都中から野次馬や興味本位の見物人がここ銀座に集まってきたといっても過言ではないでしょう。

 

もとより存在していた帝都高速地下鉄道の銀座~浅草線に加え、今年の正月過ぎに銀座~新宿・池袋線が開通したことから、より都心に人が集まりやすくなったことも大きな理由のひとつです。

 

もはや二十面相の一挙手一投足が一種のショウの如くになっているのです、警備に当たっている帝都警視庁の矢野警部は普段よりも大勢の人々が集まっている銀座の様子に、いささか歯噛みしているのでありました。

 

「警部、前澤氏が到着しました」

 

部下の園田部長刑事がしらせにきたので、矢野警部は窓の外の喧騒から離れ、1階から上がってきたリフトより降りた前澤萬蔵を出迎えました。

 

「矢野警部、ご苦労さまです。いやはや、ここに至るまで警官だらけですな。雑踏に人が多いこともあるが、これだけ警備が厳重なら二十面相のヤツ、近寄りたくとも近寄れんでしょう」

 

大いに満足した様子で、前澤氏は蜂蜜をひとなめします。矢野警部は愛想笑いでごまかしますが、人が集まった故にあちらこちらで軽い衝突事故やケンカが起きていて、街頭警備の警邏隊がそちらへ取られてしまっていることに気を揉んでいるのです。

 

「ええ。しかも、各ビルの屋上には陸軍より調達した狙撃銃を装備した狙撃隊と、独国製の双眼鏡でくまなくみはり、無線を携えた部隊を配備しております。多少街頭で騒ぎが起きようとも、賊の侵入には充分対処できるでしょう」

 

そう強がるものの、こうした大規模な警備実施を指揮するのは、矢野警部も初めてなのです。警備実施の勉学は英国仕込みとはいえ、実際に運用するとなるとまた様子が異なります。

 

もしもまた二十面相と相対することがあれば、犯行予告など絶対に新聞社へは流してなるものか・・・そう決意しましたが、なあに、それより早く、今回でもって二十面相をひっ捕らえてしまえば良いのです。

 

「今日は仰せの通りに、早いうちに店仕舞いをしました。デパートの警備員も引き払ってもらい、夕方より刑事さん方が張り込んでおられるのみです」

 

「ありがとうございます、前澤さん」

 

「どれ、大切な指輪がきちんとあるか、この目で見せてもらいましょう」

 

前澤氏は経営する宝飾店に入ろうとしました。入り口は警邏隊でもよりすぐりの猛者を2名配置しております。そのふたりが厳重な扉を開くと、前澤氏は店の明かりを灯したのです。

 

「おお、おお。いつ見ても美しい」

 

件の指輪ですが、店の中央にあるショウケースに、しっかり収まっています。他にも店内には多様な宝石や貴金属が置かれていて、窓の近くの席は来店した上客をもてなすサロンになっています。前澤氏はここで、自身が経営する農場で採れたコーヒーや欧州より仕入れた葡萄酒を振る舞うのです。

 

「前澤さん、いつ二十面相が現れるかわかりません。灯りを消して、店の外へお願いいたします」

 

何せ店の経営者です、店の中へ入る権利を前澤氏は充分有しておりますが、矢野警部は丁重に頭を下げて、前澤氏を店の外へ出てもらいました。再び猛者2名の鋭い目が、店の入り口を守ります。

 

「あとはわたしどもにお任せくださいませんか。二十面相のヤツ、場合によってはあなたを人質にとるなど、強硬手段を取らないとも限りませんからね」

 

できれば厄介払いをしておいて、警察のみでこの建物を囲んでおきたい、矢野警部はそう考えておりました。

 

「いやあ、それはそうなのだが・・・どうしても気になってしまいましてねえ。いや、あなた方警察を信じていないというワケではありませんがな」

 

矢野警部はそのまま、前澤氏をリフトに乗せて一緒に下り始めました。前澤宝飾店銀座本店は、3年前に完成した銀座東光百貨店という、日本でもっとも新しく大きい百貨店の7階に入っています。ここを利用する人というのは、外国の要人や財閥の経営者たち、はたまた前澤氏のように戦中からの産業転換に乗じた成金や土地持ちの富豪でしょう。庶民はいつかあの百貨店に入りたいという羨望を、いつもこの百貨店へ向けて銀座の街を歩いています。

 

1階に到着すると、出入り口は厳重に見張られ、さらに曲がり角には1名ずつ刑事が張り込んでおります。警察の要請で百貨店は本日の営業を終えており、関係者は誰もいないのです。

 

そのまま外に出ました。地下鉄駅がそばにあるため普段から人でごった返してますが、本日はとりわけ人が多いです。一杯ひっかけたついでに、二十面相のお手並みを拝見せんとする老若男女が非常に多いのです。さらに二十面相目当てに集まった人々を相手に、花売りや辻売りが出しゃばるありさまです。さらには普段禁止しているのに、百貨店わきに露店を出す的屋も現れる始末です。

 

もちろん警邏隊は取り締まろうとしますが、それよりもお客が殺到して店主も物売りも聞く耳を持ちません。それどころかあまりに強く注意するものですから、庶民たちが日ごろの鬱憤晴らしとばかりに警邏に食ってかかる始末です。

 

「キサマらぁ!公務執行妨害でしょっぴくぞ!」

 

「おもしれえ、留置場でクサいメシを食わしてくんな!」

 

「ここにいるみんな捕まえて刑務所足りんのかよぉ!」

 

すぐ近くでそんな小競り合いが起きています。矢野警部は有無を言わさず、懐のピストルで威嚇してやりたい気分になりましたが、これほど人が多くては大変な混乱を招きかねません。普段は官憲に物申す庶民ではありませんが、人が多くなれば気も大きくなるものです。

 

すると、銀座の和光時計台が大きく鐘を鳴らしました。午後9時をしらせているのです。

 

重々しくも甲高い鐘の音に、周囲も一瞬ですが静まりかえります。この静まりかえったときを狙って、二十面相は来やしまいか・・・矢野警部はそんな不安がよぎりました。

 

「お花はいかがですかあ」

 

すると、背の高い花売りの女性がやってきて、一輪の花を手向けてきます。

 

「警備の邪魔だ、あっちへいけ」

 

上流階級出身の矢野警部は、こうした浮浪者のような身なりがきらいなのです。邪険に追い払うと、花売りは前澤氏に声をかけます。

 

「ややっ、花なら道端で摘めば良いのだ。金など払わんぞ」

 

ケチな成金め・・・矢野警部は心の中でそう毒づきます。

 

喧騒から離れ、地下鉄駅そばの派出所へ向かうと、矢野警部は無線で本庁に警備人員増強を要請しました。元々の警備体制に加えて自慢の英国式警備を実施はしているのですが、よもやここまで庶民が集まってくるとは考えていなかったためです。

 

それから百貨店へ戻り、矢野警部は7階へ上がりました。前澤氏も同行を希望しましたが、さすがに犯行予告の時間が迫っており、前澤氏の安全を確保する意味でご遠慮願ったのです。しかたなしに、前澤氏は1階を警備している刑事たちに保護されました。

 

懐中時計を見ると、午後9時40分を回りました。間もなく二十面相が指定した時刻です。

 

百貨店内の灯りはつけませんが、銀座の賑やかな街並みは雑踏をきれいに映し出しています。あの群衆にまぎれて、二十面相は時を待っているのか、はたまた空からくるのか・・・ですが、空は望遠鏡の班が厳重に見張っています。もしも飛行船などで近づこうものなら、たちどころに見つかることでしょう。まさか、百貨店の壁をよじのぼって来るようなことは・・・いくら二十面相でも、そんな蜘蛛男のようなマネはできないでしょう。ですが念のため、各階に警邏隊を配備しております。

 

これほど厳重な警備で、どこからやって来れるというのだ・・・自身の絶対的な準備を、矢野警部は心に言い聞かせました。時刻は、午後9時55分・・・。

 

すると、眼下の街並みが一斉に暗くなりました。とっさに窓へ駆け寄り、矢野警部は辺りを見回します。ビルというビル、建物という建物、みんな灯りが消えたのです。それは銀座の街並みを煌々と照らしている街灯も例外ではありませんでした。見えるのは道路いっぱいに伸びた自動車の列と、道路わきに臨時営業を始めた屋台の灯り程度です。

 

「くそっ!」

 

矢野警部は懐中電灯を灯しました。店を守る警官も懐中電灯を用意します。そうこうしているうちに、銀座一帯は明るさを取り戻しました。

 

「停電か・・・?」

 

おそらく一時的なものだったのでしょう、何事もなく一斉に光が戻りました。群衆のざわめきはより大きくなっています。

 

「監視班、異常はないか?」

 

矢野警部は、最新式の無線機に怒鳴るような声を浴びせます。

 

『こちら銀座松屋屋上、異常ありません』

 

『松坂屋屋上、異常認めず』

 

『東光百貨店屋上、異常発生』

 

「・・・なんだと?」

 

『屋上に誰かおります。いま確認を』

 

「うわあーーーー!!!!」

 

外から大騒ぎする声が聞こえ、矢野警部は窓の外を見ました。

 

「あああ!」

 

なんと、百貨店上空に骸骨が浮かんでいたのです。いえ、ただの骸骨ではありません。はっきりと、それでいて妖しく黄緑色に光る、全身骸骨の男がぽっかりと浮かび上がっています。

 

「出た!二十面相だ!」

 

矢野警部は叫び、再び無線機を手にします。

 

「狙撃班、骸骨に発砲せよ!」

 

『こちら和光屋上狙撃班、射撃します』

 

即座に応答があり、窓越しにまるで風船が破裂したような乾いた音が何度か聞こえました。

 

「うぎゃあああああーーーー!!!!」

 

光る骸骨は、おぞましい声をあげて落下しました。狙撃が命中したようです。矢野警部は骸骨がそのまま路上へ落下していく様を見ました。地上では、落っこちてくる怪人に大騒ぎです。

 

矢野警部は一刻も地上へ降りるべく、リフトへ向かいました。もどかしいまでに時間がかかり、やがてリフトが7階に到着すると、前澤氏が園田部長刑事を伴って現れました。

 

「矢野くん、どういうことかね!とんでもない怪人が現れたではないか!」

 

「はあ!狙撃が成功しました。命中したと思われますが、念のためこれから地上へ降りて確認しなくてはなりません」

 

「なにっ?すると退治できたのかね?」

 

「おそらくは・・・まあ、ライフルで撃たれた上に地上へ落下して生きてはおりませんでしょう。もしも奴が二十面相なら、我々は二十面相を倒したということになります」

 

やや得意げに矢野警部は言いました。

 

「と、とにかく指輪が心配だ。中へ入れさせてくれ」

 

これだけの騒ぎになったのです、前澤氏の不安も理解できます。矢野警部は園田刑事に店の中へ入れるよう命じ、自身はリフトで地上階へ降りていきました。

 

早速、待ち構えていた刑事たちが矢野警部を出迎えます。

 

「賊は!どこに墜ちた?」

 

「はあ、尾張町仙谷通り付近に落下した模様です」

 

「よし、すぐに向かおう!」

 

そういって百貨店の外へ出た矢野警部でしたが、群衆の興奮と悲鳴が最高潮に達していて、普段なら走れば一寸もかからぬところですが人がいっぱいで抜けるのに大変苦労しそうです。

 

「退け、退けー!」

 

矢野警部は力の限り叫び、人をかきわけて走り出します。やがて尾張町の交差点に差し掛かったところで、ひときわたくさんの人の輪ができていました。

 

「警察だ、退け、退くんだ!」

 

群衆をかきわけながら、矢野警部は輪の中心を目指していきます。

 

「ねえ、ごらんなさい。血が出ないのは骸骨だからかねえ?」

 

「まさか、骸骨怪人なんてほんとにいると思えないんだがねえ」

 

周囲は口々にそんなことを話し合っています。輪の中心へ行くと、群衆が近寄らないように警邏隊が押し戻しているところでした。

 

哀れライフル銃で狙撃され、地上に叩きつけられた骸骨の怪人は、手足があらぬ方向に曲がり、蛍光色の身体はところどころ砕けて地面に散らばっています。

 

いくらなんでも、骸骨の状態で生きていられるものなどあるものか・・・意を決して矢野警部が近寄ると、どこか奇妙でした。

 

英国での研修で幾度かこうした状態の遺体をみたことはありますが、骨というものはここまで細かく粉砕するものではありません。矢野警部は違和感をおぼえ、骸骨の遺体へと近寄ります。

 

「これは・・・これは石膏じゃないか」

 

そうです、夜闇でも明るく光るこの骸骨は、なんと石膏でできたものだったのです。とんだまやかしです。

 

「・・・しまった!」

 

矢野警部は反射的に、東光百貨店へ大急ぎで戻りました。このスキをついて、二十面相が店舗へ侵入しているかもしれない・・・そう考えたら、一気に背筋が冷たくなったのです。

 

相変わらずガヤガヤ騒ぐ群衆をかきわけて息を切らせて百貨店へ戻ると、外の騒ぎへすっかり注目していた刑事たちが戸惑いながらも矢野警部を中へ入れました。

 

「だ、誰か・・・怪しいヤツは、いなかったか?」

 

息を切らしながら、必死に言葉をつむぎだします。

 

「い、いえ、誰も入ってきておりませんが・・・」

 

とにかく7階へ向かおうとすると、1階で待機していた前澤氏が大変困惑した様子でやってきました。

 

「や、矢野さん。あの怪人は・・・」

 

「まやかしです。二十面相の野郎、この騒ぎに乗じて・・・」

 

「えっ、まさか・・・!」

 

降りてきたリフトに、矢野警部も前澤氏も慌てて乗り込みました。最新式のリフトなのですが、1階ずつ上がる時間が1時間にも2時間にも思えます。

 

7階に着くと、飛び込むように店舗へ駆け込みました。やはり7階にも怪しいものはいなかった、蟻の一匹すら中へ入れていないというのです。灯りをつけて中へ入ると、ガラスケースの中にしっかりと指輪は保管されていたのです。

 

「・・・ああ、よかった。よかったあああ」

 

前澤氏は指輪の無事を確認して、嗚咽をあげんばかりの声を出します。矢野警部は周囲、そして外の様子を伺いますが、どこにも怪しい影は見られません。時計を見ると、時刻は午後10時を15分ほど経ていました。二十面相が予告した時刻は、もう過ぎているのです。

 

「・・・前澤さん、一緒に来てください。まだ油断はできない。どこかに賊が潜んでいて、あなたを人質にしてこないとも限らない」

 

「ああ、ああ。とにかく、もうすぐ迎えの者が来る手筈になっています」

 

「なんですと?」

 

「もしも10時を過ぎても指輪が無事なら、警備は警察諸君に任せて、松尾鉱山の採掘不足対応を話し合おうと伊藤商事の総帥に言われておったのです。使いの者が間もなくやってくるはずなのだ」

 

「・・・いいでしょう。念のため刑事をひとりつけます。とにかく下へ」

 

そのままリフトに乗り込むと、ちょうど迎えの自動車がついたところでした。まさか迎えの運転手が賊の可能性もありと疑い矢野警部は身元を確認しましたが、幾度か前澤氏を送迎していたお抱えの岡部運転手でした。1階の刑事の中でも特に柔道が強い者を護衛として自動車へ乗せると、自動車は新橋方面へ走り去っていきます。

 

それから矢野警部は骸骨が乗っていた飛行船の追跡を命じましたが、何せ銀座はこの喧噪です。警邏の車がいくらサイレンを鳴らしても、人混みと渋滞でなかなか進みません。監視班の報告では上野方面へ飛び去ったということです。すぐに緊急配備を行いましたが、なにせ相手は空を飛んでいます。

 

そこへ、百貨店前に1台の自動車がすごい勢いで飛び込んできました。中から降りてきたのは、前澤氏だったのです。

 

「おお、これは・・・お忘れ物ですか?」

 

怪訝な顔をして尋ねる矢野警部でしたが、前澤氏は必死な形相です。

 

「お忘れ物・・・なにをおっしゃるのか。わたしはいま、ここへやってきたのだ」

 

「えええ・・・?」

 

「おい、矢野くん、何をボサッとしている?指輪は無事なのかね?」

 

「あ、あの、さきほどご自身の眼でおたしかめになったではありませんか」

 

「な、なにい!」

 

すると前澤氏は大きく取り乱しました。

 

「わたしはたったいま、ここへやってきたのだぞ!」

 

そう怒鳴られましたが、矢野警部はとんとしません。

 

「ま、前澤さん。あなたはさきほどまでここに待機してらして、指輪の無事を確認されて、伊藤商事総帥に呼ばれているからと出て行かれたではありませんか」

 

すると前澤氏は鳩が豆鉄砲を喰らったような、ギョッとした顔になりました。

 

「何を言っている!良いかねきみぃ、わたしはいまのいままで、西大井の蜂蜜倉庫におったのだ。夕刻過ぎに明智探偵から、あなたの所有する西大井の蜂蜜倉庫付近で二十面相の手下をとらえた、指輪を盗み出すことについておたくの金庫に関する重大な秘密を握っているようだから、いますぐ西大井まで来てほしいと、使いの者から連絡を受けて、ウチの者と向かっておったのだ」

 

「えっ!なんですって・・・!」

 

「ところが待てど暮らせど、明智探偵はやってこないのだ。ウチの小泉も見当たらぬから、ワシのみで向かったのだが、とうとう現れず・・・いい加減こちらの様子が気になったので戻って参ったのだが、この道路の混雑は何事だね!まるで盆と正月が一緒になったような騒ぎではないか!警察はきちんと道路整理をしておるものか・・・!」

 

興奮が増してきたのでしょう、前澤氏は甘酸っぱい息をふうふういいながらまくし立てます。そこへ岡部運転手が、取り乱す主人の様子に心配そうな顔をしながら入ってきたのです。

 

「ちょっと・・・さきほど、岡部運転手はここを出られましたよね?」

 

矢野警部の剣幕に、岡部運転手はたいそう縮こまりました。

 

「は?い、いえ・・・わたしは今日1日、旦那さまのお供でハンドルを握っておりまして・・・」

 

ますます、お互いがワケのわからぬという空気になったときでした。7階からリフトが降りてきたのです。

 

「あ、きみたちは・・・屋上の監視班ではないかね」

 

矢野警部が驚きながら駆け寄ります。

 

「いやあ、大騒ぎでした。無線連絡の最中に、我々もあの骸骨怪人を目撃しまして・・・それよりもなによりも、屋上の管理人小屋から、声がしたのです。立ち入ってみると、この人が中に縛り上げられてまして・・・」

 

「あああっ!」

 

前澤氏はより一層、声を大きくしました。寒さでガクガク震えているのは、下着一丁の姿になっている従者の小泉氏だったのです。

 

「おまえ、小泉!何をしておった!今日1日姿を見せずに」

 

「はい、旦那さま・・・今日1日どころじゃございません。ここ7日ばかりでしょうか・・・ずっと悪漢に捕らえられておったのですよ」

 

その寒さに震える姿が気の毒なので、前澤氏は外套を着せてやりました。けたたましく小泉氏はくしゃみが止まりません。

 

「なにを!おまえ、ずっとわたしと一緒だったではないか。今日は昼前、伊藤総帥の頼みで米国帰りの成金・・・いや、富豪が来るというのに、キサマがどこを探してもおらんかったもので、わたしが応接したというのに」

 

「・・・ええ?そんな、旦那さま、わたしは誓ってウソは申しません。7日ほど前、自宅へ戻る途中に悪漢に襲われまして、ずっと捕らわれておったのであります」

 

「なんだと!?」

 

「今日になりまして、悪漢に連れられてここへ戻ってきたのですが、何やら眠り薬のようなものをのまされまして・・・ついさきほどです、あまりの寒さに目をさましましたのは」

 

「・・・ちょっと待ってください、じゃあ、ここ数日の小泉さんは?さきほどまでここにいた、前澤さんは・・・」

 

矢野警部はリフトへ突進するように向かうと、「ちくしょう!」と叫びながらボタンを押します。リフトに飛び乗ると、前澤氏を伴って7階の宝飾店を目指しました。

 

あまりの剣幕にやってきた矢野警部と前澤氏を、何事かと目を見開く警邏ふたりを押しのけ、矢野警部は店舗に入り、灯りをつけました。

 

もしかして・・・そう固唾をのんで、矢野警部は懐中電灯をつけて、よくショウケースを照らしました。

 

「・・・あれ?」

 

ようく目を凝らします。

 

「・・・ああああー!」

 

先に叫んだのは、矢野警部だったでしょうか、前澤氏だったでしょうか。

 

たしかに指輪が入っていたショウケースは、中身が空になっていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

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