スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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二十八品名 野獣の、黄昏

 

「桐永、すこし話がある」

 

エントランスのとある一角でツバキさんに呼び出された。別段リーダーに就任してから珍しいことではないのだが、こんな険しい顔で迎えられたのは初めてだ。背中には冷や汗だらだらである。

 

「…………なんかしましたっけ?」

 

恐る恐る尋ねる。あれか、命令違反の罰で極甘ジュースを飲ませまくったのがいけなかったのか。パワーハラスメントで粛清されるのか。

 

「早とちりするな。リンドウの腕輪の反応が先程確認された。例の黒いヴァジュラ…… いや、ディアウス・ピターの可能性が高い」

 

「………! とうとう、ですか」

 

ようやく……… ようやくリンドウさんの仇をとる事ができる。救えなかったのは俺の責任だったんだ。ヤツは絶対に倒す…………!

 

「贖罪の町周辺に出現したと調査隊から報告があった。リーダーである貴様には先に話しておこうと思ってな」

 

ツバキさんの声が一気に険しくなる。

 

「確実にヤツを仕留めろ。他の隊員が感情に流さそうな時、引き留めるのがお前の役目だ。頼んだぞ」

 

まるで俺の心を見透かしたような忠告だった。そうだ、感情に流されて勝てる相手じゃない。第一部隊とは因縁深いアラガミだが、俺はその部隊のリーダーなんだ。俺が一番冷静にならないとな………

 

「了解です………!」

 

「よろしい、それでは一二○○に任務開始だ。それまでに準備をしておけ」

 

あ、スタングレネードも補充しとくか。そういえばよろず屋のおっさんがあの日以来、生まれ変わったように真面目になったって言ってたな。価格が絶賛デフレ状態だ。まあ、正当な価格になっただけだが……… おかげでスタンの原材料が安くなり作りやすくなると言う効果があった。よかったよかった。

 

任務の準備をして暫く、第一部隊の全員がツバキさんに召集された。急いで向かうと既に全員が集合していた。人数が揃ったのを確認して、ツバキさんが任務の概要を説明し始める。

 

大体は分かっているが、やはりツバキさんの前だと二回目でも緊張してするな………

 

「今回のターゲット、ディアウス・ピターから前リーダーの腕輪信号らしきものが確認された」

 

ふと、横を見てみると見事に全員衝撃が走ったような顔をしていた。いや、当たり前だが。

 

「調査隊によると、ターゲットは現在単独で行動しているとのことだ。現存の戦力を鑑みて十分勝てると判断した。確実に仕留めろ、いいな」

 

「「「「了解です」」」」

 

返事をした俺たちとは対照的に、ソーマは相変わらず俯いたままだ。なにも言わないのを許されるのはもうこいつくらいだな。

 

「よろしい、それでは健闘を祈る」

ツバキさんが階段を降りて去っていく。心なしかすれ違う瞬間、「頼んだぞ」と言われた気がした。あんなことを言っても、やはり思うことがあるのだろう。

 

(絶対に仕留めますよ、ツバキさん)

 

待ってろよ、 ディアウス・ピター…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊れかけたビルが並び建つ贖罪の町、ここにディアウス・ピターがいる。そいつを討伐するためのメンバーは俺、コウタ、アリサ、ソーマ、サクヤさんだ。第一部隊全員出動か…… 初めてだな。

 

「俺たち勝てるかな………」

 

コウタが不安そうに呟く。確かにディアウス・ピターは強敵だ。少なくとも初めて会った時には勝てる気がしなかった。

 

「俺たちも成長してるんだ。あいつにだって勝てるさ」

 

「そうだよな! 俺達なら勝てるよな!!」

 

俺の言葉に自信を取り戻してくれたのか、いつものコウタのテンションになってくれた。コウタはこうじゃないとな。

 

「おい、そろそろ行くぞ」

 

っと、もうそんな時間か。ソーマの言葉をきっかけに任務を開始した。さてと、俺も気合いを入れなきゃな。

 

 

少数でディアウス・ピターに遭遇するのは非常に危険なので全員で固まって探索をする。ヤツとやるからにはそのくらい用心しないとな…………

 

そんな中、アリサの表情が優れないのに気づいた。両親とリンドウさんの仇をとろうと思っているのか、無駄に力が入っている。

 

「アリサ、大丈夫か?」

 

「…………」

 

反応せず。重症だな……

 

「…………おーい」

 

「あっ! はい!!」

 

ようやく気づいたのか慌てて返事をする。ディアウス・ピターに対するアリサの復讐心はまだ健在だ。恐怖を克服しただけで、両親を殺された憎しみを捨てたわけじゃない。

 

「アリサ、これは復讐じゃない。任務だってことを忘れるな」

 

感情に流された時、人は冷静な状況判断ができなくなる。そして、それはそのままチームの危険に繋がる。

 

「り、了解です……」

 

いや、それだけじゃないな。リンドウさんを死へ追い詰めてしまったという責任感か………

 

「アリサ、リンドウさんが死んだのはお前だけの責任じゃない。救えなかった俺にもあるんだ」

 

「そ、そんな………!!」

 

「ほら、わかったら集中しろ」

 

「…………はい」

 

しかし、緊張が解けたように見えない。まあ、力を抜けというのが無理な話か。長年追っていたアラガミなのだから………

 

「…………! いたよ!」

 

先頭にいたコウタが足を止める。かなり遠い距離だが俺もディアウス・ピターを捉えることができた。ここからでも分かる。その風格は正しく王者のソレである。

 

「各員、狙撃準備………」

 

先手を取れるのはついていた。GEケーキの銃口を悠々と徘徊しているディアウス・ピターに向ける。この距離なら狙撃は可能だし、気づかれることはな……

 

「(ギロリッ!!)」

 

禍々しい赤い両眼が此方に向けられた。その顔は確実に臨戦態勢に臨んでいる。これは…… 気づかれた!!

 

「嘘だろ!?」

 

コウタが驚愕を孕んだ声で叫ぶ。しかし、コウタだけではない。声に出してないだけで全員が戦慄の表情を浮かべていた。直感でわかる。こいつは今迄戦ったアラガミで一番ヤバい!

 

「■■■■■■!!!」

 

「コウタ! サクヤさん! 後退!!」

 

雄叫びをあげながら迫ってくる。速い……! 一気に接近戦に持ち込まれる!! 急いで神機をGEチョコに切り換える。

 

「■■■■■!!!!」

 

強靭な四肢で地面を蹴り、漆黒の巨体が宙を舞う。その高さはヴァジュラの比ではない。あまりにも出鱈目な脚力に全員の回避行動が遅れる。それなら…………!

 

「ソーマ!!」

 

「わかってる!!」

 

避けきれないなら受け止めるまでだ。GEキャンディーを展開して頭上に構える。ソーマもリジェクターという黒色の巨大な盾を展開して同じ様に構えていた。身体能力の高いソーマがいるとはいえ、止めきれるか……!?

 

「ぐ……!!!」

 

「があ……!!!」

 

ディアウス・ピターの全体重をかけた右脚を俺が、左脚をソーマが辛うじて受け止めた。しかし、圧倒的な重量が体に襲いかかるる。地面は両足がめり込んで陥没し、体中から悲鳴があがる。ソーマの方もだいぶ辛そうだ。これは……… 少しでも気を抜いたら潰される!

 

しかし 、直ぐ様ディアウス・ピターは飛び退いた。その直後に無数の銃弾とレーザーが空を切る。この銃撃、アリサ達か!!

 

「ゴメン!! 外した!!」

 

「いや、十分助かる………!」

 

正直あと少しでも長引いていたら、堪えきれずに潰されていただろう。

 

「後は俺達が前衛で斬り込む……… ソーマ、いけるか?」

 

「てめえの方こそ、気を抜くなよ」

 

軽い言葉の応酬の後、ディアウス・ピターに向かって走り出す。

 

「■■■■■■!!!」

 

咆哮と共に、バチバチと青白い電流がマントのような部位に流れる。雷球を発射するヴァジュラと同じ動作だ。いつでも避ける事ができるよう、神経を研ぎ澄し脚に力を入れる。

 

「■■■■■!!!!」

 

「「!!」」

 

数十にも及ぶ青白い雷球が列をなして発射された。あれだけの量を形成するなんて………!

 

方向から考えて、どうやら狙いは俺のようだ。 右上へステップして雷球を躱す。バチン! と耳をつんざく音がしたと思うと、地面が黒焦げていた。これだけでもかなりの高電圧だとわかる。

 

しかし、それだけではない。少しずつ雷球の軌道が近づいてくる。これは…… ホーミング機能か! そんなの反則だろ!? 堪らずGEキャンディーを展開して防ぐが、あまりの威力と手数に弾き飛ばされる。

 

「………ぐっ!!」

 

地面に叩きつけられる前に受け身をとる。なんとかウロヴォロス戦のような醜態は晒さなかった。

 

「アマト君! 大丈夫!?」

 

怪我の心配をしてか、サクヤさんが駆け寄ってくる。だが、大した怪我ではない。直ぐに起き上がって神機を構える。

 

「大丈夫です。ただ、相当キツい任務になりそうですね………」

 

そして、ディアウス・ピターとの死闘が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ! 通らねえ!!」

 

後方にいるコウタが叫ぶ。それもそのはず、ディアウス・ピターのマントに阻まれ銃弾が肉体まで届かないのだ。稀にサクヤさんの放ったレーザーが当たるがダメージを受けた様子もない。

 

そうなると神機の刃で致命傷を叩き込むしかないのだが、流石帝王の名を冠するアラガミ、俊敏な動きと怒涛の猛攻で攻めこむ隙を与えない。

 

「はああああ!!!」

 

アリサが紅の神機『アヴェンジャー』で左脚を横一閃に斬りつけるが、黒い骨格を僅かに削るのみだった。

 

「■■■■■■!!!」

 

ディアウス・ピターの巨大な口が開けられた。何人ものヒトを喰い千切ったのであろう、鋭利な牙がアリサへと襲いかかる。

 

「くっ!!」

 

後ろに飛び退いて躱すが、その表情には僅かに疲れが見える。それもそのはず、さっきからヒット&アウェイの繰り返しだ。だが、黒い骨格も大分削れてきた。もう少しで致命傷を叩き込める………!

 

地面を蹴りディアウス・ピターとの距離を詰め、勢いそのままにGEチョコで右脚を斬り抜く。

 

「■■■■■■■!!??」

 

パキィン! と漆黒の骨格が砕ける。痛みで怯んだディアウス・ピターに、更に追撃を加える。

 

「うおおお!!」

 

反撃する隙なんて与えない。禍々しい顔面に一太刀、二太刀と連続で斬りつける。このまま致命傷を与え………

 

「(ニタァ…………)」

 

斬撃を受けているにも関わらず、口角が持ち上がり歪んだ笑顔を見せる。これはヤバイ! 戦場で培ってきた勘が逃げろと叫ぶ。

 

全力で飛び退き距離をとる。しかし、入れ替わるように人影がディアウス・ピターの前へと躍り出る。すれ違う瞬間視界の端に赤色が映った。ということは……

 

「下がれ! アリサ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力の限り走り抜ける。やっとだ、やっとあのアラガミを殺す事ができる。パパとママ、そしてリンドウさん。私から大切なものをたくさん奪ってきた。その復讐の為にどんなに辛い訓練も堪えてきたんだ…………!

 

目の前にディアウス・ピターを捉えた。これで皆の仇をとれる!

 

「はあああああ!!!」

 

万感の思いを込めて神機を振り上げる。その時

 

「きゃ!!」

 

襟元を捕まれて思いっきり後ろに引っ張られた。突然の出来事に思わず尻餅をついてしまう。

 

「な、なにするんですか!?」

 

せっかく止めを刺すというときに邪魔をされ、思わず言葉が荒くなる。顔をあげたそこには

 

「そんな…………!?」

 

巨大な氷柱に貫かれている、アマトさんがいた。





分割します。長くなりそうなので。
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