長かった~~…………
二歩、三歩とゆらゆら後ろによろめく。
腹部に違和感を感じ下を見ると、槍のような氷柱が突き刺さっていた。途端に焼けるような痛みが走り、どんどん大きくなっていく。さらに喉元から何かが突き上げる。堪らず口からソレを吐き出してしまった。
「かはぁ…………!」
口の中に広がる不快な鉄の味。アラガミの攻撃を受けて何度も何度も味わった覚えがある。そう、これは血の味だ。
体から力が抜け、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。傷口をからドクドクと血が溢れ地面に広がっていく光景が目に入った。その広さに比例して体の自由が奪われていく。
何でこうなった……? ああ、そうだ。アリサを庇ってこの有り様になったのか。ならこの攻撃はどのアラガミが…………?
「ヴガアアアァァァァ!!!」
アラガミの咆哮が辺りに響く。リンドウさんを襲った時のように、突然湧いて出てきたプリティヴィ・マータが建物の上に佇んでいた。一体だけではない。二体、三体と群れをなしている。
地面に飛び降り、少しずつ俺たちを取り囲む。やられた…… この奇襲を狙って近くに潜んでいたのか……
「アマトさん!!!」
後ろからアリサの悲痛な叫びが耳に届く。良かった、どうやら今回は護りきる事ができたみたいだ。
「う………ぐぅ………」
少しずつ、少しずつ景色が遠くなっていく。俺はこのまま死んでいくのか………?
「■■■■■!!!」
ディアウス・ピターの爪が俺へと迫る。無意識の内に死を覚悟したのだろう、これ迄の記憶が鮮やかに蘇る。思い返してみれば、両親を見殺しにし、仲間も救えず、お菓子ばかり作っているろくでもない人生だった。
様々な走馬灯が走る中、ふと、ゴッドイーターになる理由と覚悟をきめた日を思い出す。
………駄目だ、死ぬわけにはいかない。まだなにも償えていないだろ! 動け…… このまま倒れていれば確実に死ぬぞ………!
生きるため…… その為に体の力を必死に入れるが、神機を持ち上げる力すらない。そして、ディアウス・ピターの爪が………
「…………!!」
青いモッズコートをたなびかせながら、巨大な装甲を展開しているソーマによって止められた。その後ろ姿は誰よりも強く、大きなものに見えた。
「アリサ……! そのバカを連れてさっさとここから退け……!!」
互いの力が拮抗してるように見えるが、僅かにソーマが押し返されている。
「でも…………!」
プリティヴィ・マータの群れが現れたこの現状で二人も戦線離脱すれば残ったソーマ達の負担は大きくなる。アリサだけは戦場に留まらせないと………!
「………ッ!! 早くいけ!!」
「………アマトさん、立てますか!?」
アリサに肩を貸され、フラフラながらも立ち上がる。くそ………! こんな時に戦うどころか足を引っ張って…… 何がリーダーだ……!
「アマト! 絶対無事でいろよ!!」
「大丈夫! 私たちもすぐに退くわ!」
コウタ達の銃撃により退路が拓かれる。アリサ達がスタングレネードを駆使してなんとかプリティヴィ・マータの包囲網を脱出する。神機を引き摺りながら三人に背を向けて、覚束ない足取りで進み続ける。
「済みません………」
聞こえるとは思わないが、そう言わずにはいられなかった。
怪我の治療のため、贖罪の町の一角にある教会に一先ず避難する。ここに居れば暫くはアラガミに発見されないだろう。
神機を手放し、壁に背を預けゆっくりと腰を降ろす。正直休める場所があって助かった。後はこの氷柱をどうにかしないと
、止血頼むぞ……」
それだけ言い、両手で氷柱を掴む。未だに白い冷気を放つそれが掌の熱を奪う。早く抜き取らないと体温を奪う一方だ。
意を決して、氷柱を引き抜く。
「ぐ…………!!」
引き抜いたと同時に痛みが走り、大量の血がドクドクと溢れる感覚を覚える。流石に辛いな………
「ア、アマトさん! 今止血します!!」
慌てた様子でコートと服を脱がし、包帯を巻…………イタイイタイ!!
「ちょ…… アリサ、もっと優しく巻いてくれ…………」
「す、すみません!」
今度はゆっくり丁寧に包帯を巻いてくれた。自分で巻いた方が良かったな………
後は体力を回復させるだけだ。手元にある俺の神機を手繰り寄せる。前歯でパキリッ! と小気味良い音を響かせてGEチョコを食らう。口の中でチョコを味わうが、相変わらずチョコの風上にも置けないグロテスクな味だ。
しかし、その味とは裏腹にこのチョコには回復効果がある。おかげで少し体が楽になった。
「アマトさん………」
不意にアリサが話しかけてきた。
「………なんだ?」
「………ごめんない………… 私、なんにも成長してませんね………」
伏し目勝ちに呟く。俺が庇った事に負い目を感じているのだろう。
なら、俺が言わなきゃいけないことは決まっている。
「………アリサ、お前だけでも戦場に戻れ」
「え…………?」
「俺なら大丈夫だ。早く皆の加勢に行ってこい」
「でも、私なんかじゃ………!!」
自分はなにも成長していないと思っているのだろうか……… すっかり自信を喪失している。だが、それこそ間違いだ。
「成長していない? そんな訳ないだろ。俺がスイーツ作りの時間を割いて特訓してやったんだ。あんな奴等から仲間を撤退させる位、朝パフェ前だろ?」
それでもアリサの様子にはまだ迷いの色が見える。やれやれ、最後にもう一押し必要か………
「俺は、そう信じている」
嘘偽りのない言葉。それはアリサの心にもちゃんと響いたようだ。
「…………わかりました! 絶対皆で戻ってきます! 待っててください!!」
「ああ……」
力強くそう言い、アリサは再び戦場へと駆け出した。そうだ、それでいい。少しでも早くコウタ達を助けてやってくれ。
さて、ある程度神機を食ったら俺も………
「!!?」
急に視界が二重、三重とぼやけて見える。まずい……… 血の抜け過ぎか………!? 意識が……… 朦朧と…………
………血の海の中、無限にお菓子が突き刺さっている奇妙な空間のまっただ中に立っていた。嫌と言うほど見続けたこの風景。しかし、いつもと違い不思議と穏やかな気持ちだった。
目の前の巨大なケーキに座っているあの時の『俺』が話しかける。
〈どうだった、アマト? 死を実感して〉
「そうだな…… まだ、死ねないと思った」
そう、死ねない。父さんと母さんへは一生を懸けて償わないといけない。自分を犠牲にして誰かを助けるなんて、逃げることと同じだ。
その言葉を聞いた『俺』は満足そうに微笑む。
〈そうか…… ところで、アリサ達はどうするんだい?〉
その質問の答えは一つしかない。
「助けるさ。俺も含めて、全員で生きて帰る」
もう、誰かを助けるための犠牲にはならない。全員で生きて帰る為に、最善の方法で全力を尽くして助け出すだけだ。
〈答えは見つかったようだね〉
「ああ………」
〈なら、いってらっしゃい。健闘を祈るよ〉
また意識が奪われ…… いや、この場合戻っていくが正しいか。いよいよ意識が戻る、その瞬間
〈最後に一つ、逆転の一手を教えよう〉
逆転の一手を、教えてもらった。
「グガアアアァァァァ………」
私の放った銃弾によりプリティヴィ・マータが倒れる。ディアウス・ピターはまだ健在だが、なんとか残り一体までには減らすことができた。
「くそ! まだ追ってくるのかよ!!」
「泣き言いうな……! いくぞ!!」
執念深い追跡により全員の体力が限界を越えている。それでも戦い続けるしかない。私たちが諦めたらそれはアマトさんが死ぬということだ。そんな事は絶対にさせない。
それに、約束したんだ……… 全員で戻ってくるって………!
神機を構えて走り出す。最初のような緊張は全くなく、むしろ体が軽く感じる程だった。アマトさんが信じていると言ってくれたおかげなのだろう。こんなに心強い言葉は他にない。
改めて戦う決意を固めたその時、私の横でなにかが空を切る。
「ギュガアアアアア!!??」
それがプリティヴィ・マータに命中して、突如爆発が引き起こされた。その一撃でプリティヴィ・マータは吹き飛び動かなくなった。予想だにしない事態に足を止めてしまう。いったい何が……!?
「あなた、なんでここに!?」
後衛にいるサクヤさんが叫ぶ。そんな…… でも、まさか……
「アマトさん!!」
振り返るとそこにはGEケーキの銃口を向けているアマトさんがいた。あんな酷い怪我をしているのに何で戦場に……!
「あの銃撃、アマトが…………?」
コウタが信じられないといった様子で訊ねる。私もあれほど高エネルギーのオラクル細胞を込めた銃弾は初めて見た。
「すまん、たぶん説明してる時間はない」
神機をGEチョコへと変型する。怪我によるアマトさんの衰弱はまるで見られなかった。
「それじゃあ、いってくる」
一瞬、本当に一瞬でディアウス・ピターとの距離を詰める。最早その速さはバーストモードでないと説明できるものじゃない。アマトさんは一体何をやってこんな………!?
「■■■■■■!!!」
ディアウス・ピターが左脚を振り上げるが
「終わりだ」
それより遥かに速くディアウス・ピターの胸に神機を突き立てた。そのまま体内を蹂躙するようにGEチョコの刃で真横へ斬り抜ける。
「……■■■………■……■…」
夥しい量の血飛沫が舞う。その光景に驚愕の顔を浮かべてディアウス・ピターは倒れていった。