スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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三十品目 リンドウさんの、置き手紙

サカキ博士がこんな事を言っていた。

 

「神機とは人為的に調整されたアラガミである」

 

確かにGEスイーツの素材になっているのはアラガミの肉体だ。それならば、アラガミの肉体が材料のGEスイーツを捕食すればバーストモードになれるのではないか?

 

結論から言えば、なれた。むしろ普段よりも力が溢れ出している気がする。まさしくこれは逆転の一手だろう。

 

………まさか、まさか本当になれるとは俺も思わなかったが。まあ、神機が神機だったから今更驚いたりしないけどな。

 

「アマト! お前何したんだ!?」

 

話すの嫌だな~……… なんだろう、事あるごとに普通とかけ離れていく。

 

「…………神機にGEチョコを喰わせてバーストモードにした」

 

「………………………………ああ~…………」

 

コウタが微妙そうな表情を浮かべる。俺の神機は普通のとは違うからな。それはもう兵器とお菓子くらいの…… いや、そのままだなこれ………

 

「それより!! お前、動いていいのか!?」

 

「そう……ですよ! 怪我は………大丈夫なんですか………!?」

 

アリサが今にも泣き出しそうな顔で訊ねる。またリンドウさんのような事になるのが不安だったのだろう。そんなアリサを見ると、自分を犠牲にして助けるということがどれ程虚しいものか思い知らされる。

 

「大丈夫だ、心配かけ……あだっ!!」

 

頭が割れるような激痛がはしり、言葉が遮られる。なんだ! 一体誰だ!? ジンジンする頭を擦りながら振り返るとそこには…………

 

とてつもない剣幕のソーマと、超笑顔のサクヤさんがいた。しかし、月並みな表現だが目は笑っていない。二人の鋭く冷たい視線が俺の目一点に集中する。

 

「な、なんでしょうか……?」

 

ただならないプレッシャーに思わず敬語になってしまう。ソーマはともかく、サクヤさんは怖すぎだ!

 

「お前は一人で無茶をし過ぎだ………」

 

「ええ、もっとリーダーとしての自覚を持ってもらわないとね……」

 

一歩づつ、一歩づつ二人が近づいてくる。気分はジェイソンに裏路地で追い詰められた第一被害者さながらだ。ヤバイ、このままだと確実に土に還される。コウタとアリサに救援を頼むべく振り返るが………

 

「「…………」」

 

青い顔をしたまま俯き、目を合わせてくれない。くそ! 薄情者共め!!

 

「二人とも、一旦甘いものを食べて落ち着いたほうが………」

 

無駄だとは分かっているが、手持ちのお菓子を全部だして説得を試みる。まあ、やはりと言うか…… その行動の甲斐無く二人に肩を捕まれた。

 

もうダメだな、これ。

 

 

「わかった? これからはもう無茶しちゃダメよ」

 

「………わかりました」

 

正座のままサクヤさんにしっかりお灸を据えられた。背後にはソーマが腕を組み、威圧するように佇んでいる。そろそろ許してくれないものか…… 足が痺れ過ぎて感覚がない。

 

「よろしい! 反省しているようね!」

 

サクヤさんがにっこりと微笑む。良かった、いつもの優しいサクヤさんだ。これからはもう怒らせるのは止めよう。もうあんな恐ろしい笑顔のサクヤさんなど見たくない。

 

「とっとと立て………」

 

「~~~! 足が痺れる………」

 

ソーマに腕を掴まれて無理矢理立たされた。神機を杖替わりにしてなんとか立ち続けるが、小刻みに両足が震える。なんかもう、休ませる時間すら与えないあたりが悲しくなる………

 

「………それじゃあ、捕食を始めましょうか」

 

それまでの表情は影を落とし、どこか悲壮な決意を込めたような顔をする。

 

「…………そう、ですね」

 

腕輪が見つかったら、認めざるを得ないからな。リンドウさんが死んでしまったことを………

 

「アリサ、ソーマ…… 捕食するぞ」

 

「はい……」

 

「ああ……」

 

俺の命令にそれぞれが神機をプレデターフォームに変型させる。禍々しい顎はディアウス・ピターの肉片へ喰らいついた。腕輪が見つかってほしいが、いざとなるとやはり無いことを願ってしまう。サクヤさんの心境はもっと複雑なんだろうな…………

 

「…………!!」

 

手元に残る違和感。傷口に手を突っ込み内部を探る。機械のように固い物質が手に当たり、それを掴み思いっきり引き抜く。

 

「…………ありました」

 

俺の手には損傷した赤い腕輪が掴まれていた。

 

「………!! こっちも、アタリです…………」

 

アリサの手にもリンドウさんの神機『ブラッドサージ』が握られていた。やっぱりもう、リンドウさんは………

 

「間違いない、これは……… あの人の…………!」

 

サクヤさんが膝をつき涙を流す。ソーマとコウタは無念そうに顔を背け、アリサも泣いてしまっている。リンドウさん…… 置いてきぼりにするなんて、本当にひどい人ですよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナグラの出撃ゲートが開くと、エントランスににはタツミさんやカノンさんなどの先輩方がほとんど集まっていた。

 

「帰ってきたか、お前ら……! どうだったんだ!?」

 

タツミさんの言葉を後に、一気にエントランスが静まる。辛い結果でも、言うしかないよな………

 

「…………リンドウさんの…… 腕輪と神機が見つかりました…………」

 

「…………そうか。でも、お前ら第一部隊はよくやったと思うぜ」

 

覚悟を決めていても、リンドウさんなら還ってくるという期待が何処かにあったのだろう。歯を食いしばる人や、目に涙を溜めている人など様々だ。そんな中、ツバキさんだけはいつもの凛とした表情で口を開いた。

 

「本来私情を挟むべきではないが、リンドウの…… 弟の仇をとってくれた礼を言おう。後はゆっくり部屋で休め。さあ、皆も道を開けてやれ」

 

滅多にないツバキさんの労いの言葉。なんやかんや言って思うところもあったんだな………

 

(アマト君、アリサ。後で私の部屋に………)

 

(………わかりました)

 

誰にも聞こえないようにサクヤさんが耳打ちをする。やっとだ、やっとあの日の手がかりを掴むことができる。でもその前に極甘ジュースが飲みたいな。

 

「待て、桐永。貴様は報告書の提出だ」

 

なんだと…………!?

 

 

扉を開けると、ターミナルの前で作業をしているサクヤさんとリンドウさんの腕輪を持っているアリサがいた。

 

「すみません、待たせました………」

 

「お疲れ様、アマト君」

 

何故遅れたかというと、ディアウス・ピターだけでなくプリティヴィ・マータについての報告書を作成したせいだ。おかげでいつもより数倍の時間がかかった。まさか死んでも尚俺を苦しめるとは………

 

ふと、いい香りが鼻腔をくすぐった。その方向を見てみるとテーブルの上を見ると二つのコーヒカップが置いてある。くそ…… 俺はあんな面倒な目にあってたのに…………!

 

「じゃあ、始めるわね…… アリサ、腕輪を渡してくれる?」

 

「はい、どうぞ」

 

ターミナルを覗き込むとリンドウさんの残したデータがディスプレイに表示されていた。早速サクヤさんがリンドウさんの腕輪をはめる。頼む、通ってくれよ……

 

「………通った!!」

 

ロックされていたデータが開かれる。そこには4つのファイルがあった。

 

「レポートが一つ、リストファイルが一つ、それに…… プロジェクトファイルが一つ。あと、何かのプログラム実効ファイル一つですか………」

 

途中の自販機で買った極甘ジュースのプルタブを開けて、口につけ一気に傾ける。どろどろした甘い液体を喉に流し込み、糖分を補給して頭を働かせる。

 

エイジス計画を隠れみのにアーク計画という別の計画が進行しているということ。

 

そのアーク計画のリストには神機使いやフェンリル職員、それらの血縁者の名簿が記されていということ。

 

本部から実態を探るよう命令されたリンドウさんは、確証を得るために特性のプログラムでエイジス島に浸入しようとしたこと。

 

以上が大まかなデータの内容だ。しかし、アーク計画の全容は明らかになっていない。謎が謎を呼ぶとはまさにこの事だな。

 

「これで私たちが何をするかハッキリしたわ」

 

何かを決意したようにサクヤさんが呟く。

 

「リンドウさんの意思をつぐんですね……!」

 

そうだ、リンドウさんの無念を晴らす為にもアーク計画の謎を………

 

「いいえ、この事は忘れしょう」

 

「え…………?」

 

「は…………?」

 

「オオグルマの件も考えて、極東支部の誰かが絡んでるのは間違いないのよ。ターミナルやこの部屋でさえ、監視されてるかもしれないわ。下手に動けば、あっというまに潰される……」

 

「確かに………って、この部屋もですか?」

 

「いや、それはないわよね………」

 

サクヤさんも自分で否定する。さすがに無い無い、それはもう変態とかストーカーの領域だ。

 

「でも、通信インフラくらいなら押さえられてるかもしれないですね」

 

この計画に関わっているのは相当上の役職の人間なはず。それを考えると下手に動けないのは確かだ。

 

「だから、忘れましょう。私もさっぱり忘れるわ!」

 

「それでも……! このまま黙っているのは……!」

 

「ご免なさい…… 少し、一人にしてくれないかな?」

 

あまりに悲壮な声色に、でかかっていた言葉が喉で詰まってしまう。仕方がないのでアリサと一緒にサクヤさんの部屋を後にした。

 

「本当に、これでいいんでしょうか……?」

 

「さあな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

充満している薬品の臭いか鼻につく。机の上に散乱している薬品のせいだ。ベッドに座りながら一つため息を吐く。

 

「ショウコさん、少しは薬品の整備をしたらどうですか?」

 

「うるさいわね…… それに毎回毎回ここに来すぎなのよ!」

 

大荒れだ。これはまたお見合いが失敗したな。

 

「あんたは怪我ばっかりして! 私の(婚活の)時間が奪われる一方じゃないの!!」

 

………まったく、こんな小言ばかり言っているから結婚できな………

 

「奥義、板チョコガード!」

 

飛来してきた注射器を板チョコで防ぐ。その速度は針がチョコの厚さを貫く程だ。何でゴッドイーターでもないのにこんな動きができるのやら………

 

「ッチ!! さすがに防ぐか!!」

 

不吉な言葉が聞こえたが、気のせいということにしよう。注射器を引き抜き、防御に使った板チョコを咀嚼する。うん、旨い。

 

「失礼します」

 

ん? 誰か入ってきたな………

 

「って、アリサか。お前も怪我をしたのか?」

 

「いえ、今回の任務のお礼を渡しに来たんです。カノンさんに教わりながらお菓子を作ってきました」

 

少し気恥ずかしそうに赤いリボンがついた透明な袋を取り出す。入っていたのは少し黒焦げたクッキーだったが美味しそうだ。

 

「食べてくれますか………?」

 

「ああ、勿論だ」

 

しかし、穏やかでない空気の人が………

 

「リア充死ね!!!」

 

ショウコさんはそのまま走り去っていた。勤務時間もそろそろ終わりだと思うから別にいいが。でも、部屋に戻ってやけ酒でも飲んでいるんだろうなー……

 

「ありがとな。じゃ、いただきます」

 

リボンを解いてクッキーを手に掴み、口の中へ頬張る。奥歯でよく噛み、舌でその味を堪能する。

 

「口に合うといいんですけど……」

 

うん……… 口の中に広がる甘味と、何故か塩味の不協和音。時おり顔をだす焦げた味が舌先を蹂躙する。例えるなら劇薬を口にありったけ詰め込んだような………

 

「………アリサ、心さえ籠っていたら俺はそれで十分だと思うんだ」

 

「え?」

 

「だから、お菓子作りを、諦めるなよ………」

 

「アマトさーーーーーん!!!??」

 

そのまま俺は地に臥した。まさか、GEチョコより不味いなんて……




終わりが少しずつ見えてきました。
頑張って執筆し続けます。
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