スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

39 / 83
三十四品目 奪われた、特異点

 

アナグラは今、疑心暗鬼に刈られたような状況だった。方舟に乗るか、乗らないかの議論があちこちで巻き起こっている。おかげでギズギスした空気がはびこっていた。

ベテラン区画のソファーに腰を下ろす。こんな場所でもないと、ゆっくり落ち着けないからなあ……

(………ん? あの緑色は……)

 

曲がり角から出てきたのは、我らが誤射姫カノンさんだった。

 

「どうも、カノンさん」

 

「…………あの、アマトさん。相談したいことが………」

 

ゆっくりと俺の隣に座る。チラリと目をやると、今にも泣き出しそうな顔だった。

優しいカノンさんのことだ。どうすればいいか迷っているのだろう……

 

「支部長から……アーク計画の話、聞きましたよね。シュンさんも、カレルさんも、ブレンダンさんも、方舟に乗るそうです……」

 

「そうですか……」

 

それでも、悩みに悩んだ結果なのだろう。見知らぬ大勢の人の命を踏み台にして、自分と家族の命を繋ぐか……

それとも、最後までゴッドイーターとしての職務をまっとうするのか……

 

「………アマトさん! 私、どうすればいいんですか………!? もう、何が正しいのか!!」

 

カノンさんの悲痛な叫びが響く。何が正しいのかは俺にも分からない。それでも、なにか言わずにはいられなかった。

 

「カノンさん、俺はアーク計画を潰そうと思ってるんです」

 

「え………!?」

 

「あなたにそんな業を背負わせません。だから、安心して方舟に乗ってください」

 

「でも! もし失敗したらアマトさんは…………」

 

やはりカノンさんの顔は浮かないままだった。俺の身まで安じているのか……

本当にどこまでも優しい人だ。だからこそ、アーク計画を潰すことをカノンさんに話せたんだろうな………

 

「心配しないでください。カノンさん、また一緒にお菓子を作りましょう」

 

「は、はい……」

 

カノンさんに別れを告げ、エレベーターの横についているスイッチを押す。

やはり、最後までカノンさんの顔が晴れることはなかった。結局はお菓子作りの約束をしただけだもんな………

エレベーターに乗る途中、心の中でカノンさんに謝罪する。分かっていたが、口下手な俺には無理だったらしい。

扉が閉まる瞬間、振り返えるとそこには………

 

「アマトさん! お菓子作り、楽しみにしてます!」

 

カノンさんの優しく微笑む姿があった。やがて完全に扉が閉まる。僅かな重力を感じながら、エレベーターが下がっていった。

扉が開いたので外へ踏み出す。それを見届けたように、再び扉が閉まった。

一つ、大きく息を吐く。カノンさんの笑顔を見たあのとき、何故か俺の方が救われた気がした。

これは是が非でも生きて帰らなくちゃな。

「………行くか」

 

サカキ博士の部屋を目指して足を進める。何人かのゴッドイーターは特異点……シオを狙って動き出している。

そんな状況の中、シオが目覚めたという連絡があった。今は安定しているそうだが、暴走して壁でも壊したら確実に見つかる。なので、もしものときの歯止め役がほしいとのことだ。

 

「入ります」

 

ラボラトリの扉を開ける。早速、大の字でゴロゴロしているシオが出迎えてくれた。もしかして二度寝か? まったく、呑気なものだ。

 

「やあ、アマト君」

 

「どうも、博士」

 

その時、シオが目を開けて起き上がった。ああー、起こしちゃったか……

 

「おや、お目覚めだね…… 今の君はシオかい? それとも、星を喰らい尽くす神なのかい?」

 

椅子から立ち上がり、身を屈めてシオに問いかける博士。しかし、シオは質問の意味をあまり分かってなさそうだ。

 

「ほしは…… おいしいのかな?」

 

「し●コーン? そりゃ美味しいだろ」

 

「アマト君、星形のお菓子といったら『ほした●よ』だと思うけど」

 

「お菓子な訳ねえだろ!」

 

まあ、確かにあれも旨いけどな。でも、断然●みコーンだろ。あのサクサク感と甘味の絶妙なハーモニーがたまらない。食べたらしたらそう……やめられない止まらない、だ。

 

「なんでかな〜…… たまに、きゅうに、タベタイー! って……」

 

そんなに食べたいなら持ってきて…… って、また青い紋様が!

 

「ううぅっ!!」

 

「あーーー! ご飯ならそこに置いてあるからね!」

 

暴走しかかるシオ。博士が急いでテーブルの上を指差す。そこにはアラガミのコアで作ったであろう、フライドチキン的なのがバケツの中に入っていた。

なんかどっかで見たような……?

あ、そういえばノルンで見たことあるな。白い眼鏡のおじさんが持っていたのと同じ感じがする。

 

「おお! はかせ、いいやつだなー!」

 

青い紋様が薄れていき、正気を取り戻したようだ。頭をバケツに突っ込んで美味しそうに食べている。

まあ、何はともあれ落ち着いてくれて良かった。博士やソーマも安心した表情をしている。

「おい、一体いつまでこの状態が続くんだ」

 

「うーん…… せっかく人らしさが出てきたところだったのに、あれ以来一気に不安定になってしまったね」

 

考えられる要因は一つだ。それは……

 

「特異点だから、ですか……?」

 

「ああ、そうだ。彼女のコアは、特異点と呼ばれ、終末捕喰の発動に不可欠の要素だ………」

 

やっぱりそうなのか……

星を食べたいとうのも、アーク計画に触発されてのことだろう。

 

「もうわかっていると思うけど、私はまだ彼にそれを渡したくはない…… 私は私で、彼女に感じているもう一つの可能性を試してみたいと思ってるんだ」

 

「おい博士」

 

壁に寄り掛かっていたソーマが口を開いた。

 

「アンタらがそれぞれ何を考えてるのか知らねえが、俺はあんたの側についたなんて思っちゃいねえ…」

 

ギロリッ! と博士を睨み付ける。あいつ、怒っているな。

 

「俺やアイツをおもちゃにするようならどっちも一緒だ……!」

 

ソーマの怒気がピリピリと空気を震わせる。思わず俺も竦み上がってしまった。しかし、流石博士といったところか。いつもの態度をまったく崩さない。

 

「フフ、心配しないでいいよ。私は彼女に何もしちゃいない……」

 

俺達のことを知ってか知らずか、まだバケツの中に頭を突っ込んでいるシオ。それに目をやったサカキ博士が微笑む。

 

「こうしてみんなと一緒にいてもらえさえすれば、それでいいんだよ。そう、それがいずれは……」

 

ドオォォォン…… という、小さな爆発音が聞こえた。結構近いな。一体何があったんだ?

 

「って、暗!」

 

フッ…… と照明が消えてしまった。多分、あの爆発のトラブルのせいで電源が落ちたのだろう。

ともかく、隣にいるサカキ博士が見えないほど研究所は真っ暗になっていた。

 

「なんだ?」

 

「分からない…… だけど心配ない。もうすぐ中央管理の補助電源が復旧するはず………」

 

そういえば補助電源があったな。ん、待てよ? 何か引っ掛かるような……

 

「あ!!!!!」

 

博士が珍しく声を張り上げた。それと同時に非常灯が真っ赤な光を放つ。いきなり声をあげるなんていったい…… あ!!

 

『やはりそこか、博士!』

 

響くのは支部長の声。それを聞き、博士の顔がみるみる青くなっていく。

 

「ぐうああぁぁぁぁ!!しまっあぁぁぁぁ!!」

 

サカキ博士はとうとう綺麗な海老ぞりを披露していた。ソーマ、大変な事だから変な目で見るのは止めてやれ。

 

「ど、どうしたんだ………?」

 

「………博士も言ってただろ? この補助電源は中央管理。つまり、この部屋の情報も持っていかれるんだ」

 

「ってことは、まさか親父の野郎に!」

 

「ああ…… 絶対ばれたな。早くここから離れないとまずいぞ……!」

 

そのとき、突然研究所のドアが吹き飛んだ。くそ! 神機も持っていないこのタイミングでか!

 

「……久しぶりですね、アマトさん」

 

煙が立ち込める中、巨大な何かを担いだ人影が佇んでいた。

この声はまさか……

 

「グレイ神父……」

 

煙を切り現れたのは、漆黒の神父服を身に纏うグレイさんだった。その目は普段と似ても似つかない、戦場で戦う者の冷酷さに溢れている。

黒く角張った神機『墓石之剣・御影』をシオに突き付け、歩き始める。

 

「なんでここに……!」

 

「支部長の命令ですね。特異点を戴きにきました」

 

「懐かしいね、グレイ・ヴァンガード君。旧型から新型神機へと適合した、唯一にしてフェンリル本部の最強のゴッドイーター。まさかヨハンが君を引き入れていたとは……」

 

「いえいえそんな。買い被り過ぎですよ」

 

博士、ナイス時間稼ぎだ……! 俺とソーマがほほ同時に地面を蹴る。ソーマはグレイさんを足止めするため、俺はシオを連れて逃げ出すために動き出す。

って、まだご飯を食べてるのか…… シオ。

 

「くたばれ!」

 

後ろに回り込んだソーマが右拳をグレイさんの頭へ叩き込み、鈍い音が響いた。

よし、クリーンヒットだ。この隙にシオを連れてできるだけ遠くへ………

 

「狙いはいいんですがねえ」

 

信じられないことに、前を向いたままソーマの拳を右手の掌で受け止めていた。

 

「ぐぁ……!!??」

 

振り向き際に右足がソーマの脇腹へ叩き込まれ、その衝撃で壁まで叩きつけられる。どんだけハイスペック神父なんだよ……!?

 

「少し、眠っていてください」

 

グレイさんが目の前に現れたのを最後に、そのまま意識が刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーが……」

 

誰かが話しかけてくる。まだ意識が朦朧としているのか、上手く聞き取れない。なんて言ってるんだ……?

 

「お菓子のーーが………」

 

お菓子のーー、なんだ?

 

「お菓子の城があるぞ!」

 

「どこだ!?」

 

一気に覚醒し、跳び跳ねるように起き上がる。しかし、目に映ったのはいつもの研究所の風景だった。いや、違うな。ドアが吹き飛んだり、瓦礫が散乱したりと悲惨な事態になっている。

……そうだ、思い出した。確かグレイさんがシオを拐いに強襲してきて……

 

「やっと起きたか……」

 

「………ソーマ、なんださっき起こし方」

 

「てめえがとっとと起きないからだ」

 

お菓子の城なんて言う必要あったか? まったく、変な起こし方しやがって……

 

「どのくらい寝ていたんだ?」

 

「三時間丸々だ。くそ! まさかあの外道神父、親父の命令で動いてたのか……」

 

極東支部に出張してきたのも、多分このためだろう。支部長め、あんなのを味方に引き込むなんて質の悪いことを……

 

「シオはやっぱ連れていかれたのか?」

 

「ああ、博士もどこに行ったかも分からねえ………」

 

多分、グレイさんの行き先はエイジス島だろう。もたついていると支部長の手にシオが渡ってしまう。いったいどうすれば………

 

「シオが連れていかれたのね!」

 

突然、扉があった場所から女性の声が聞こえた。急いで振り向くと、そこにはサクヤさんとアリサの姿があった。

 

「お前ら! ……勝手に縁を切ったんじゃなかったのかよ」

 

「あなたたちだけじゃ心細いと思って、戻ってきたんですよ」

 

あれだけ長く調査していたんだ。きっとエイジス島への侵入方法が見つかったのだろう。

 

「再侵入の方法を探ってたんだけどね。エイジス計画が発動した後、外周が完全にシャットアウトされて打つ手なしなの」

 

な! 外周までシャットアウトされたのか!?これじゃあ本当に打つ手がない…… シオを助けにいけないぞ……

 

「きっと、アナグラの地下にエイジスへの道があるよ………」

 

再び後ろから声をかけられた。この声は……

 

「コウタ!」

 

「あなた、エイジス計画に乗ったんじゃ!?」

 

アリサが驚いた声をあげる。それに対してコウタは少し気まずそうな顔をしてしまう。やれやれ、まず最初に言うことがあるだろう。

 

「違うだろ、アリサ」

 

アリサも気づいたのだろう。普段のコウタには絶対に向けることが無いような、優しい顔で微笑みかける。

 

「はい、そうですね。コウタ、戻ってきてくれて、ありがとう」

 

安心した表情を見せるコウタ。何か言われるとでも思ってたのか? 俺が、俺たちがお前を責めるわけがないだろう。

 

「行こう! たぶんこっちだよ!」

 

コウタの掛け声と共に、一斉に走り出した。

 

 

すっかり人気がなくなったエントランス。今じゃ俺たち以外誰もいない。そう思っていたが………

 

「あなたたち、方舟に乗らなかったの!?」

 

サクヤさんが驚いた声をあげる。それもそのはず、何故かタツミさん、ジーナさん、ヒバリさん、リッカさんの四人がいるのだから……

 

「俺は船酔いが酷いっすからね! そんなもん乗りませんよ!」

 

「ええ、私はあんな狂った舟になんか乗る気がしないわ」

 

「いろいろ考えたんだけど、やっぱり方舟に乗るのは止めたよ。私は舟を直す側。先に逃げ出すのは流儀に反するから………」

 

「はい、私も自分の仕事をするだけですから………」

 

四人とも後悔の色がまったくない。本当に大した人たちだ。自分の命より、『人を守る』という使命をまっとうするなんて……

 

「それに、俺らだけじゃないぜ」

 

階段を降りる足音が響く。他にも残った人たちがいるのか……

そして、俺たちの前に現れたのは……

 

「カノンさん!?」

 

そう、カノンさんだった。

 

「カノンさん! なんで…… 方舟に乗れって言ったのに……!」

 

「ごめんなさい、アマトさん…… でも私は、アマトさんなら皆を助けれるって信じたから残ったんです! それに、アマトさんの力にもなりたいんです!」

 

普段のおどおどしたカノンさんからは、想像のできないほどの力強い断言だった。

そうか、俺を信じてくれるのか………

 

「ありがとうございます…… カノンさん」

 

負けられない。世界や、この人のためにも絶対にエイジス計画を止める! 改めてそう決意し、拳を強く握りしめた。

 

「あれ? なにか重要な地位を奪われている気が………」

 

『ビー! ビー!』

 

「アラガミか!?」

 

アリサのよくわからない発言を掻き消すように、アラガミ出現のアラートが鳴り響いた。外部居住区のアラガミをこのまま放っておく訳にもいかない。くそ! どうすれば…………

 

「俺達に任しとけ!! アマト、お前らはやることがあるんだろ!!」

 

タツミさんが力強く言い放った。体の芯が熱くなるのを感じる。俺がヒバリさんなら確実に惚れているな。それほどまでに男らしかった。

 

「行って! 皆の神機の整備ならバッチリだよ!!」

 

「ええ、これは私たちの仕事だわ………」

 

「……みなさん、ありがとうございます! 絶対、支部長を止めてきます……!」

 

「アマトさん、絶対…… 絶対、帰ってくださいね!」

 

「はい………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナグラの地下には旧居住区予定地という場所がある。

エイジス計画の話が持ち上がったせいなのか、大分前に工事が中断されている。今はもう巨大な穴が空いてるのみの場所だ。

そんな場所にポツリとあるエレベーター。コウタが言うには、これがエイジス島へ続いているそうだ。

しかし、パネルを操作しても起動しない。どうやら解除キーが必要なみたいだ。

 

「だめだ……キーを解除できない」

 

仕方がない。こうなったら銃弾で無理矢理吹き飛ばすしか………

 

「結局全員集合したようだな」

 

「ツバキさん!」

 

後ろではツバキさんが佇んでいた。

 

「心配するな。だれもお前たちを捕らえたりしない。方舟賛成派はとっくに行ってしまったよ 」

 

此処に残っているツバキさんは、やっぱり反対派ということか。

 

「それにしてもコウタ、どうしてここがエイジスの道だときづいた?」

 

「扉を見つけたのは、地下の旧居住区予定地を見たくて忍び込んだときです」

 

ああ……! そういえば一緒に誘われたな。

あの後、結局ツバキさんに見つかって拳骨をくらったっけ……

 

「ほんとは確証があった訳じゃないけど、博士がアナグラのプラントのリソースがエイジス建設に使われてるって講義で言ってたから」

あー…… アナグラの工場で使う資源を、エイジス島にも使うってことだな。

成る程、道理で地下に来たわけだ。

 

「きっとその輸送路が地下にあるはすだと思って」

 

「コウタ、ちゃんと講義聞いてたんですか!?」

 

驚くアリサ。だが、コウタは居住区系の講義の時は積極的に質問してたからな。気づくのは必然だったか。

 

「解除キーなら私が持っている。勝て。そして、生きて帰ってこい!」

 

ツバキさんの激励と共に、カードキーが渡される。

 

「「「「はい!」」」」

 

「……ああ」

 

エレベーターの扉が開かれる。第一部隊全員が躊躇うこと無く乗り込んだ。

 

(………ありがとうございました)

 

沢山の人の支えでエイジス島への道が拓かれた。心の中で、これまで関わってきた全ての人たちにお礼を言う。

そして、犠牲になったリンドウさんにも………





カノンさんのヒロイン力が上がっていく。
なんでこうなった?

~ヒロイン力数値~

カノンーーーーーーー
アリサーー
エリナーーーー

的な。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。