エレベーターが開く。
天井から生える無数の触手。そして、それで逆吊りにされた女神像のようなもの。
それらの物体が圧倒的な存在感を放っていた。
あれが終末捕食を引き起こすと噂されているアラガミ『ノヴァ』………
「でかい……!」
コウタが驚愕の声をあげる。それもそのはず、かつて俺が戦ったアラガミ『ウロヴォロス』より数段でかい。
あれだけのサイズならこの星を喰らうことは容易いだろう。
「 くそ! シオはどこだ……!?」
……見つけた! 額の部分にシオが囚われている!それに、すぐ横でクレーンみたいな機械に乗ってるのは支部長か!?
こんなことをしてる場合じゃない。急いでシオの元へ向かわないと……
「シオ!!」
シオの元へ駆けつける。
ソーマが叫ぶも、シオの反応はない。くそ! まだ無事でいてくれよ……!
「涙の手向けは、我が渇望する全てなり……か」
見下すような視線を俺たちに向ける。
「ソーマ? 随分このアラガミと仲がよかったようだな。それは愚かな選択というものだぞ、我が息子よ」
「黙れ! てめえを親父と思った事は一度も無い…… シオを解放しろ!!」
「良いだろう。特異点を手に入れた 今、抜け殻などに用は無い」
ノヴァの額が黄色く光りだした。それに触発されてか、周りに張り巡らされている触手も光りだす。
既に要済みになったのか、シオを絡めとっていた触手がほどけ始めた。
支部長め…… あのままシオを落とす気か!
「走れ! ソーマ!!」
神機を放り出しソーマが駆け出す。しかし、その甲斐なく頭から落下した。
ゴッ! と鈍い音が響く。ソーマが慌てて抱き抱えるが、やはりシオは反応しない。
「長かった…… 本当に長かった。緻密に計画された捕喰管理により、ノヴァの母体を育成し、世界中を駈けずり回って一年の使用に耐えうる宇宙船を探し出し、選ばれし千人を次世代へと運ぶ計画が、今! この瞬間を持って成就する!」
支部長の言葉を合図に、複数のロケットが宇宙へと打ち上げられる。
滅び行く地球を見届ける人たちには、その目にどう映っているのだろう………
「今回こそ私の勝ちだ。そこにいるんだろう? ペイラー !」
「…………やはり、遅かったようだね」
「博士!」
何処からかサカキ博士が現れる。
一体いつから来てたんだ………?
「我々は今この瞬間ですら 、存亡の危機に立たされている。日々世界中で報告される、アラガミによる被害など微々たるもの…… 地球を喰らうアラガミ・ノヴァが出現し破裂すれば、すべてがこの地上から消えてしまう! それは数百年後か !? それとも数分後か!? 何時かは朽ちる運命にあるエイジスに隠れ、その瞬間を待つなど、私は御免だ!! 避けられない運命だからこそ、そ れを制御し、選ばれた人類を! 次世代へと残すのだ!! 君がやろうとしていた事も、結局は終末を遅らせる事でしかない。違うかね」
「………どうかな」
「一体、何の話をしているんですか!?」
「私は、限りなく人間化したアラガミを生み出す事で、終末捕喰の一歩手前で世界を維持しようと考えた。そのためにシオと君たちを利用してしまったんだ、すまない………」
アラガミと、手を取り合う世界…… それがサカキ博士が目指した、もう一つの可能性……
「アラガミとの共存…… 昔からそうだ。君は科学者として、少々ロマンチストすぎる。歴史を振 り返ればわかるはずだ。己の欲望を制御した、真に自立的な人間など、これまで一人として存在しなかった事を! 人間は脆弱な存在であるということを!」
支部長の言葉が胸を締め付ける。己の欲望、そのせいで両親を殺してしまった。そう、俺は願ってしまったんだ…… 間違いなく俺は弱い人間だろう。
それでも、人は!
「ここまで…… エイジスまでの道を開くのに、沢山の人が命を懸けてまで力を貸してくれました。そんな人たちが弱い筈がない! 人は、貴方が思っているより強い存在です!!」
「アマトさん………」
しかし、支部長の目には落胆の色が見えた。
「それでも、私は自分の考えを変えるつもりはない。私は知っている。アラガミやノヴァとなんら変わらない…… その飽くなき欲求の先にこそ、人の未来が切り開かれてきた事を!」
「これ以上は平行線だね……… しかし、終末捕喰のキーである特異点が摘出された今、私に打つ手は無い」
「そう悲しむ事は無い。この特異点は、新たな世界の道標として、新たな摂理を指し示すだろう。 そして、その新しい世界の、摂理の頂点に立っているのは『人間』であるべきなのだ!!」
橙色の繭のような物が昇っていく。そして、支部長の側で静止する。
まるで花が開くかのようにそれが取り除かれ、中身の物体があらわになった。
あれはアラガミ……なのだろう。女性のような姿を持つアラガミ。そして、それを守るように包み込むアラガミ……
他のアラガミとは一線を画している。捕食するためと言うより、戦うために産まれたような……
「そう! 人間は、いや! 我々こそが! 神を喰らうものなのだ!!!」
アラガミの真上に移動する支部長。
何を思ったのかそのまま飛び降りた。そして、男のアラガミの背中から巨大な口が現れる。
驚く暇もなく、その口は支部長を飲み込んだ。
「人が神となるか、神が人となるか……… この勝負、とっても興味深かったけど負けを認めるよ。今、君はアラガミと変わらない。だけど、それも承知の上なのだろうね」
サカキ博士の目には悲しみ、そして後悔の念が滲んでいた。
「科学者が信仰に頼るとは皮肉な事だが……… ここは君たちを信じよう、ゴッドイーター達よ」
そのままサカキ博士は去っていた。あくまで博士は『スターゲイザー』だ。傍観に徹するのだろう。
そう、ここからは神を喰らう者『ゴッドイーター』同士の戦いだ。
後ろにいた大きなアラガミが両手を広げ、それと同時に2体のアラガミが宙に浮かび始める。
シオをそっと寝かせるソーマ。神機を拾い上げて俺たちの元まで足を進める。
ソーマも戦う決意ができたようだ。たとえ父親でも……
「リンドウ……見てる? やっとここまでたどり着いたわ…… ここにいる皆のおかげよ……」
「俺…… これまでずっと、家族や皆が安心して暮らせる場所を誰かが作ってくれるのをずっと待ってたんだ! でも気づいたら簡単なことだった…… 自分がその居場所になればいいんだって! それを作るために、俺戦うよ!」
「私も、みんながいてくれたから、アマトさんがいたから気づけたんです! こんな自分でも、誰かを守れるんだって……」
「俺を信じてくれた人たちがいるんだ。贖罪のためなんかじゃない。その人たちためにも、他の誰かのためにも、俺は戦い続ける……!」
「お喋りはここまでだ…… お前ら、背中は預けたぜ!」
それぞれの決意を胸に、神機を構える。
『降り注ぐ雨を、溢れ出した贖罪の泉を止めることなどできん!』
アラガミ…… いや、この場合は支部長か。ゆっくりとエイジスの鋼板に足をつける。
皮肉なことに、その景色は神の降臨のようにも見えた。
『その嵐の中、ただ一つの舟板を手にするのは……… この私だ!!』
たちが悪い。今回の戦いはその一言に尽きる。
無数の光弾や頭の輪から放たれるレーザーなど、圧倒的な物量で攻めてくる。
さらに、非常に堅い外殻で神機の刃が通らない。
だが、攻めいる隙が無い訳ではない。攻撃する瞬間、その外殻が全体的に脆くなる。
「ぐ……!」
迫り来る光弾を躱しながら接近する。
「らあ!!」
GEチョコを女神のようなアラガミへと叩き込む。手応えも十分、支部長たちの方もダメージを受けている。
このレベルのアラガミにはヒット&アウェイが定石だ。だが、ここで一気に体力を削る!
このまま更に斬撃を与え続けて………
『なめるな!!』
女神型のアラガミの、光を帯びた両腕が円上に振り回される。
躱す術なく横腹に叩き込まれた。そのまま横に向かって弾き飛ばされ、地面に這いつくばる。
『喰らえ!!』
男神型のアラガミが光弾が放つ動作を見せる。まずい! このままじゃ直撃……
「当たれぇ!!」
間一髪、コウタの銃撃がそれを妨げた。
「アマトさん! 無茶しないで!」
「悪い……」
立ち上がり神機を構え直す。元よりダメージは覚悟していた。つーか、俺の神機さえ食べればいつでも回復できる。
『…………桐永アマト君。君はその神機の性能を十二分に発揮し、どんなアラガミも喰い尽くしてきた。認めよう。立ち塞がった敵の中で、一番厄介なゴッドイーターだ』
支部長が動きを止める。いや、支部長だけじゃない。突然の言葉に全員が動きを止めている。こんなときに一体何を………
『ならば、全支部最強のゴッドイーターの相手になってもらおう!』
ドン! と鈍い音が響く。
「ヨハネスさんの邪魔はさせませんよ」
クレーンの上には、漆黒の神機『墓石之剣・御影』を担いだグレイさんがいた。
方舟に乗っていなかったのか……!
次の瞬間、いつの間にか『墓石之銃・ 斑糲』が俺に向けられていた。
切り替える速さが尋常じゃない。マズイ……!このままだと確実に撃たれる!
反射的にGEキャンディーを展開する。そして、とうとう銃弾が空を切った。
「ぐがあっ!!」
「アマト!!」
着弾と同時に爆風が吹き荒れる。そのままエイジスの鋼板から突き落とされた。重力に従い、エイジス最下層へと落下していく。
「っ!!」
何とか足をつき着地する。
バシャリ! と水飛沫があがる。下を見ると、足首まで黄色い液体が浸かっていた。
「やはり、来たんですね」
後ろからグレイさんの声が響く。
振り返ると神機『墓石之剣・御影』を構えているグレイさんがいた。
「グレイさん…… あんた……!」
次の言葉を紡ごうとした瞬間、水が弾けた。
水場とは思えない程の速さで俺に接近するグレイさん。
振り上げられた墓石之剣・御影が俺を砕こうと迫る。
反射的にGEチョコで受け止めるが、圧倒的な腕力によりそのまま弾かれた。
怒濤の斬撃に、実力の差をまじまじと見せつけられる。
「……私はね、神の存在を信じていますが、祈る事で救われるとは思っていないんですよ」
喋りがらも斬撃を続けるグレイさん。しかし、俺には応える余裕はない。
弾かれたGEチョコを無理矢理引き戻し、墓石之剣・御影と斬り結ぶがやはり弾かれる…… という繰り返しだった。
一歩づつ、一歩づつ押されていく。
「いくら祈っても、いくら尽くしても、救われることは一度も…… 唯の一度もなかった………!」
神に対する見解を独白するグレイさん。その言葉には並大抵でない憎しみが伝わってきた。
「同時に、感謝もしているんです。守る力を授けてくださったのですから………」
「なら………くっ! その力を、なんで……!」
「ええ、わかります。私がすることはどれだけ罪深いことなのか………」
抜刀するように構えられた神機が、一気に加速して俺へと襲いかかる。
なんとか受け止めたが、これまでとは比べ物にならない威力を感じた。
神機だけじゃない。体ごと後方へ吹き飛ばされる。そのまま液体の中をゴロゴロと転がり回った。
「それでも、神を信じる子供達の…… シスター・エクレアの為なら、私は神の代わりに救済へと導きます」
神機を支えに立ち上がる。確かに、グレイさんにも譲れないものがあるのだろう。だがそれは、俺も一緒だ!
GEチョコをむしり取り、上空へと投げる。
神機本体も上空へ突き上げ、プレデターフォルムへと変型させる。そして、その顎はGEチョコを噛み砕いた。
「うおおおお!!」
一気にグレイさんとの距離を詰め、神機を振り降ろす。
金属と金属がぶつかり合い、甲高い音が響く。
バーストモードになりやうやく同等の力で斬り結ぶ事ができた。
「擬似的なバーストモード…… ですか?」
「はああああ!!」
喋らせる暇など与えない。バーストモードが持続するまでに、この人を倒す!
二合、三合、四合と斬り結ぶ。
その刹那、とうとう僅かな隙が産まれた。
(獲った!!)
GEチョコを無防備な脇腹へと走らせる。勿論殺したりはしない。再起不能なくらいまでの深傷を………
「!!?」
しかし、目に写ったのは墓石之剣・御影で受け止められる景色だった。
「フェイクですよ」
そうか…… あの神父がこんな隙をつくる訳ない。誘い込まれたんだな。
黒い刃がゆっくりと迫る。しかし、体はまったく動かない。まるで感覚だけが先走っているような………
次の瞬間、俺の視界は暗闇で包まれた。
次第に目に映っていくものは黄色い液体だった。グレイさんの一撃で倒れたのだろう。無様な姿を晒しているのが見なくてもわかる。
体が軋む。思うように手足が動かない。それだけグレイさんの攻撃は重く、鋭く、強力なものなのだろう。
…………それでも、立ち上がらない理由にはならない!!
「………っ!! はあ……… はあ…………」
「驚きましたね…… まだ立てたのですか。流石はスイーツイーター」
立ち上がったとは言え、グレイさんのダメージはほぼ0だ。依然としてピンチなのは変わらない。
「…………何が貴方を、そこまでさせるのですか?」
「………約束だからですよ。立つ理由は、それだけで十分です」
「約束……ですか」
墓石之剣・御影を構えるグレイさん。
「全力できなさい、スイーツイーター。この一撃で終わらせます」
バーストモード継続時間もあと僅かだ。この効果が切れたら勝ち目はない。
なら俺も、ありったけを…………!
「うおおおお!!」
「はああああ!!」
全力でその場から駆け出し、神機を振り上げる。全てを懸けて打ち倒すべく、それぞれの神機が振り下ろされた。