スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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三十六品目 つながりと、希望

 

ーーーザザ、ザザザーー……!

 

目の前には見知らぬ風景が広がっていた。

アナグラではないな…… どこかのフェンリル支部の外部居住区か?

ピリピリと殺気のような物が肌を突き刺すが、現実感が有るようで無い…… この感覚には覚えがある。アリサとの感応現象の時と同じだ。

 

『グレイ隊長! アラガミ防壁、突破されました!!』

 

神機を構えた女性がグレイさんのもとへ駆け付ける。目に見えて分かる程の慌てっぷりだった。

それとは対照的に、グレイさんは冷静な態度を崩さなかった。

 

『住民の避難は間に合いませんね…… 一先ず教会で匿いましょう。私がアラガミを駆逐してきます。他は教会の警護に当たってください』

 

『了解です!』

 

 

 

ーーザザ……ザザザザザーー!!

 

次第にノイズが取り払われ視界がクリアになっていく。目に映ったものはそう、辺り一面に広がる血の海だった。

オウガテイルやヴァジュラなど、大小問わず様々なアラガミが血まみれで臥せている。

それはもう、巨大な鈍器でぐしゃぐしゃに潰されたようなあり様だった。

 

『はあ…… はあ………』

 

墓石之剣・御影で崩れそうな体を支えている。これだけの量を一人で相手取っていたのだ。無理もない。

 

『ズズゥン……!!』

 

『!!』

 

地響きと同時に、一筋の黒煙が立ち昇る。かなり遠くの場所のようだ。

それを見たグレイさんは、血相を変えて爆心地の方向に駆け抜けた。

 

 

 

ーーーザザザザ、ザ………!

 

目の前に広がっていたのは、そう…… 惨状だった。崩れかけた教会。そして、かつては人間であっただろう肉片が辺りにベッタリとこびりついている。

その先には第二種接触禁忌種。『ゼウス』がいた。

邪悪な眼に墓石之剣・御影が突き刺さっている。その姿は、十字架に貼り付けられたイエス・キリストさながらだった。

 

激闘の末、だろうか……

砕かれた神機が辺りに散らばり、グレイさんの神機も所々に亀裂が入っている。

 

教会の中、血濡れたグレイさんは必死に誰かを抱きしめていた。その腕の中にいるのは、まだ10歳くらいの少女だった。ほんの少しエクレアさんの面影がある。それじゃあ、この子はエクレアさんの幼少期か……

 

『すみません………… すみません………』

 

気を失っているのか、エクレアさんがそれに応えることはなかった。

教会ではグレイさんの謝罪だけが響いた。

 

 

 

ーーーザザザ、ザザ……ザーー!!

 

ベッドの上に横たわるグレイさんと、その横にある丸イスに腰を下ろすエクレアさんがいた。

 

『神父様、大丈夫なの……?』

 

『はい、この通りピンピンしてますよ』

 

そうは言ってるが表情には生気がない。両目は黒く濁り、視線は常に下を向いている。

 

『でも、悲しそうだよ……』

 

あまりに多くの人を死なせてしまった。その悲しみはエクレアさんにも伝わったらしい。

 

『信じていた神様も、私達を救ってくれませんでしたよ……』

 

ポツリ……ポツリ……と、弱々しく告げる。

 

『私にはもう、守る力が無いんです。それに、力があっても皆を助けられなかった………』

 

そんなグレイさんが見ていられないのか、勢いよく肩に抱きついた。

 

『そんなことないよ! 神父様は私を助けてくれた!』

 

『………しかし』

 

『神父様は私にとって、命の恩人なんだよ! ヒーローなんだよ! だから…… だからそんな顔しないで!』

 

目に涙を溜めながら、エクレアさんは自分の思いの全てを口にした。グレイさんの目にも少しずつ光が灯っていく。

 

『約束して、神父様。ずっと皆を助けるヒーローでいるって』

 

 

 

ーーザザ、ザザザ……ザザーー!!

 

傷だらけの訓練所の真ん中に、神機が収納された赤い機械が置いてあった。その直ぐ側ではグレイさんが佇んでいる。ゴッドイーターには、特に俺には忘れる事ができない風景だ。

忘れはしない。あの神機に適合した日は……

 

『本当にやるのかい?』

 

ガラスの向こうにはサカキ博士と支部長の姿がある。

 

『勿論です』

 

『元々が君の神機だからといって、適合する確率は極めて低いよ?』

 

『博士、くどいですよ』

 

赤い機械の中には墓石之剣・御影に、新しく墓石之銃・斑糲が付け加えられていた。

 

『止めよう、博士。彼の意思は固い。恐らく私たちが何を言っても止まらないだろう』

 

『………そうだね。それじゃあ、グレイ・ヴァンガード君。成功を祈ってるよ』

 

その言葉を聞いたグレイさんは、躊躇うことなく神機に手を伸ばす。適合しなければ、『死』が待っているにも関わらずだ。

 

『ぐがああああああ!!!??』

 

瞬間、グレイさんの絶叫がこだました。ただでさえ適合する確率が低いのだ。その痛みは通常より遥かに大きいだろう。

 

『っ!! はぁ…… はぁ………』

 

それでも、神機に喰われることなく耐えきった。ガラスの向こうにいるサカキ博士が驚いた表情を浮かべている。

 

『………まさか、本当に成功するなんて』

 

しかし、支部長は相変わらずの薄ら笑みをしている。

 

『おめでとう、今日から君は新型ゴッドイーターだ』

 

 

 

ーーザザザ……ザ! プツン………

 

意識が現実へと引き戻される。気づいたら既に神機を振り抜いた後だった。

グレイさんはどうなったのだろうか……?

痛む体に鞭を打ち、ゆっくりと後ろを振り返る。

 

「………グレイさん、わざとくらったんですか?」

 

そこには、仰向けで臥せるグレイさんがいた。

戦ったからこそ分かる。グレイさんが勝利を譲ったとしか思えなかった。

 

「………ええ、そうですね」

 

体には一筋の赤い線が引かれており、そこからドクドクと血が溢れだしている。神機も手放し、とても戦える状態ではなかった。

 

「約束を、思い出しただけですよ」

 

感応現象で見た病室での場面だろう。皆を助けるヒーローでいるという……

 

「貴方の過去も見ましたよ……… 感応現象というやつですかね……… 初めてですよ」

 

グレイさんがポツリ、ポツリと話し続ける。

 

「やはり、私はヒーローになれないようですね」

 

GEチョコの背をむしり取り、グレイさんの手に握らせる。これを食えば動ける程度にはなるはずだ。

 

「行きなさい……… 桐永アマト」

 

グレイさんの最後の言葉が、背中を押してくれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さすが支部長と言ったところか。俺を除く第一部隊全員であろうと互角……いや、それ以上の激戦を繰り広げていた。

これまでのダメージが、いっそのこと今倒れてしまえと訴える。それでも、まだ終われない!

 

「撃ち抜け!」

 

銃弾が女神の天輪へと吸い込まれる。

 

『ぐあっ!? グレイ…… しくじったのか!!』

 

「アマトさん!」

 

ひとまず奇襲は成功した。後はもう畳み掛けるだけだ。

 

「はああああ!!!」

 

神機をGEチョコに変型させ、全力で鋼板を蹴り支部長たちとの距離を詰める。

動きが鈍い。これなら殺れる!

 

力の限り天輪にGEチョコを突き刺す。女神のアラガミはとうとう膝をついた。しかし、神機を握る手に力が入らない。ここが体力の限界だった。

 

「決めろ! 皆!!」

 

コウタ、アリサ、サクヤさんが支部長目掛けて雨のような銃弾を浴びさせる。女神のアラガミが倒れた影響か、銃弾が肉体を削っていく。

 

『ぐがぁ………!?』

 

銃撃に耐えきれず地面に墜ちる。そして、それを待ち構えていたかのようにソーマが神機を構えていた。

 

「くたばれ!」

 

空かさず、全身全霊の一撃が叩き込まれた。

 

『バカな… この私が、人の業から目を背ける愚か者どもに破れるなど……ガハァ!』

 

ヨロヨロと揺らめきながら、掠れた声をあげる。そして、とうとう支部長が倒れた。しかし………

 

「ちくしょう………… あのデカブツ、止まらないよ!!」

 

確かに支部長は倒した。それでもノヴァは止まってくれない。

 

「いったいどうすれば……!?」

 

「諦めないで! 何か、方法があるはずよ!」

 

ノヴァの発光がより一層強くなり、地面が揺れ始める。何か手はないのか……!?

 

『フフ…… 無駄だ。覚醒したノヴァは止められない』

 

支部長……! まだ喋れたのか……!

 

「この私が珍しく断言する。不可能です」

 

「博士!」

 

「なんとかならねえのか博士!」

 

「支部長の言った通りだよ。溢れ出した泉は、ノヴァは止められない」

 

「そんな………」

 

「ふざけるな……! そんなの認めねぇぞ!」

 

なにか、なにか手はないのか!? このままじゃ終末捕食が始まってしまう!

 

『これで分かっただろう。ソーマ、お前たちは早く方舟に………』

 

「支部長…… あなた、もう……!」

 

支部長はもはや、生きていける状態ではなかった。戦闘のダメージもあるが、アラガミとの一体化なんて無茶なことをしたせいだ。

 

「 なんでここまでして………」

 

『余計な心配は無用だ。元より、あの席に私の席は………ない』

 

「!?」

 

『世界にこれだけの犠牲を強いた私だ。次の世界を見る資格など、ない。後はお前たちの仕事だ…… フフ、適任だろう?』

 

見かねたソーマが神機を構えて歩み寄る。

 

「……親父、俺が楽にしてやる」

 

せめて息子である自分の手で…… とでも思っているのだろう。俺はそんなソーマの肩に手を置き……

 

「せい!!」

 

そのまま投げ飛ばした。

 

「がはぁ!」

 

受け身も取れず、背中から思いっきり叩きつけられる。少し申し訳ないが、こればかりは仕方がない。

 

「どんな理由でも、家族を殺すことだけは駄目だ。こんな汚れ仕事は俺で十分だろ?」

 

「アマト君…… あなた……」

 

支部長のもとへ歩み寄り、黒い顎をつくりだす。

 

「支部長、最後に言い残す言葉は?」

 

『…………そんなものは、無い』

 

いいや、あるはずだ。サカキ博士のディスクに映っていた支部長は、どこからどう見ても父親の姿なのだから……

 

「……最後くらい、自分に正直になっていいんじゃないですか?」

 

暫く流れる静寂。自分にそんなことを言う資格があるのか……? と、口にするのを躊躇っているのだろう。

 

『……………ソーマを、私の息子を、よろしく頼む』

 

「………それこそ、余計な心配ですよ」

 

『そうか…… ありがとう』

 

黒い顎を解き放つ。そして、鮮やかな鮮血が舞い散った。

支部長はそれ相応の覚悟を持ってアーク計画を実行したのだろう。事実、その決断が間違ってると言えなかった。

 

「………くそ! 親父のバカヤローが…………」

 

「………ええ、最後まで立派な父親だったわ」

 

ある意味、誰よりも人類の為に生きた支部長。それに敬意を表し、支部長だった残骸に極甘ジュースをかける。せめて、せめて安らかに眠ってくれ………

 

「アイーシャ、すまない。私たちはこんな争いの結果でしか答えを見出だせなかったよ。君に、償えたと言えるのかな………」

 

「ゴメン…… 母さん、ノゾミ………! 約束、守れなかった………!」

 

もうだめだ…… 誰もが諦めかけたその時、シオの体から根のようなものが現れた。

 

「シオ!!」

 

ノヴァ自体にも変化が起きた。黄色い光が突然途切れる。

そして、エイジス島の揺れも止まった。

 

『ありがとね』

 

ノヴァの額から、優しい青い光が放たれる。そして、いつも聞きなれた明るい声が響いた。

 

「え……?」

 

「まさか…… ノヴァの特異点になっても、人としての意識が残っている……?」

 

「シオ、お前……?」

 

圧倒的な重力を持つ筈のノヴァが、どんどん上昇していく。

 

「おそらの、むこう。あの、まあるいの…… あっちのほうが、おもちみたいでおいしそうだから……」

 

シオ……? まさか、月まで飛ぶ気か!?

 

「シオ! あいつ、まだ生きてるんだろ!? サカキ!!」

 

「私にも分からん! だが、そんなことが!」

 

『いまなら、わかるよ。みんなにおしえてもらった………』

 

エイジス島に張っていた触手が引き離されていく。

 

『たべることも。だれかのために、いきることも。だれかのために、しぬことも。だれかを、ゆるすことも。それが、どんなかたちをしてても…… みんな、だれかとつながってる……!』

 

「何言ってるんだよ。戻ってこいよ、シオ!」

 

『シオも、みんなといっしょにいたいから。だから、きょうは「さよなら」するね。みんなのかたち、すきだから………』

 

また、また誰かに救われるのか……

ゴッドイーターと呼ばれていても、ちっぽけな存在だと改めて実感してしまう。

 

『……えらい、かな?』

 

「全然、偉くなんか、ないわよ……っ!」

 

『えへへ、そっか。ごめんなさい……』

 

突然、ノヴァの上昇が止まる。

 

『もう、いかなきゃ……』

 

「シオ……」

 

『おきにいりだったけど…… そこの、おわかれしたがらないじぶんのかたち…… たべて』

 

地面と一体化したシオが、ノヴァを引き留めていた。

 

「そんなこと…… できるわけないだろ!」

 

それでもやるしかない。シオの想いに応えるには……

 

「ソーマ、おいしくなかったら…… ごめん」

 

「一人で、勝手に決めやがって……」

 

ポツリ…… とソーマが呟く。シオの傍まで歩み寄り、黒い顎をつくりだす。

そして、眠っているようなシオに、黒い顎が放たれた。

 

『グシャア……!』

 

一瞬、ほんの一瞬でシオの姿は消え去ってしまった。次の瞬間、鎖がほどけたように、ノヴァの上昇が加速していく。

 

「持ってけ、シオ! 餞別だ!!」

 

せめて、今までのお礼に、神機でも食わせようと思った。GEチョコを可能な限りの大きさでむしり取り、ノヴァに目掛けて投げつける。クルクルと回転しながら、そのまま口元に突き刺さった。

『おいしいよ、あまと……!』

 

ノヴァ…… いや、シオが宙へと上がっていく。空へ、そして宇宙へと……

 

『みんな、ありがとう!』

 

白い花が開き花弁が月を包み込む。そして、光輝くノヴァの細胞が雪のように降り注いだ。かざした手の上にヒラヒラと落ち、静かに消えていく。

そして、シオは月へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドドドドドド!!!』

 

土砂崩れでも起きたかのような、重厚な音が響き渡る。瞬間、鉄骨やら瓦礫やらが降り注いできた。

恐らく、ノヴァがエイジス島を支える役目を担っていたのだろう。支えを失った建物は、必然的に崩壊していく。まさしく今がその状況だ。

 

「悲しむ暇もないってか……」

 

「皆! 早くここを離れるわよ!」

 

ここに残ったら確実にお陀仏だ。サカキ博士をコウタが背負い、急いでエレベーターの入口まで駆けつける。

 

「博士! 自分で走れよ!!」

 

「ゴッドイーターの身体能力と比べないでくれるかい?」

 

一刻の猶予もない。はやくエレベーターに乗り込んで……

 

『ズドドドォオオオン!!』

 

轟音が響く。音の発生源に目を向けると、鉄骨が俺達の真上をゆっくり… ゆっくりと迫ってくる。

 

「……!」

 

GEキャンディーを展開して衝撃に備える。所詮気休め程度にしかならないだろう。それでも…… それでも何かせずにはいられなかった。

 

( このまま…… シオの想いを無駄にしてたまるか……!)

 

こんな事で死ぬわけにはいかない! 覚悟を決め、体中の筋肉を強張らせる。

次の瞬間、何故か頭上で更に爆発音が鳴り響いた。鉄骨が爆風により吹き飛ばされる。

 

「どういうこと!?」

 

こんな銃撃をできるのは、考える限りただ一人だ。

 

「……グレイさん!」

 

周りを見渡すがグレイさんの姿はない。探しに行こうと瞬間、ソーマが俺の腕を掴んだ。

 

「今の内に乗り込むぞ……!」

 

「ちょっと待て! グレイさんがまだ……」

 

あの人にも助けられたんだ……! 置いていける訳がない……!

 

「……あの外道神父が死ぬと思うか?」

 

そう言われると、一気に頭が冷めた。アレに俺達の助けは要らないだろう。

 

「………確かに、殺しても死ななそうだしな」

 

エレベーターに乗り込み、崩壊していくエイジス島をなんとか脱出した。

こうして、一人のアラガミの少女により地球は救われ、アーク計画はついえることとなった。

 

ここに至るまで多くの人たちの助けと、あまりに多くの犠牲を強いた。この悲劇を、俺は一生忘れないだろう。





無印編…………終わったーーー!
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