スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

43 / 83
三十八品目 リンドウさんの、神機

 

目を開けると全然見知らぬ天井…… などではなく、何十回と見た病室の天井があった。

知らぬ間に、また病室送りになったらしい。

 

体を起こして周りを見ると、椅子に座りながらすっかり舟をこぐアリサとコウタがいた。

その横には、腕を組ながら壁によりかかるソーマもいる。まさか…… 立ったまま寝てるのか?

 

「……お~い」

 

まあ…… 裏を返せば、三人は居眠りするほど俺を看病してくれたんだろう。驚かせないようにゆっくりと声をかける。

 

「っ! よかった…… 気がついたんですね!」

 

「ん…… フン、生きてたか」

 

「ががっ!う〜ん、むにゃむにゃ………」

 

アリサとソーマの二人は起きてくれたが、コウタは気持ち良さそうに眠ったままだった。むにゃむにゃなんて言う奴、本当にいるんだな……

 

「部下のために身体を張るのはいいが、前のリーダーの二の舞だけはやめろよ?」

 

コウタを一瞥してポツリと呟く。それだけ言うと、とっとと病室から出ていってしまった。

 

「本当に、無事でよかった……」

 

「何とかな………」

 

去り際のソーマの言葉を思い出す。コウタを守ることはできたが、この程度の怪我で済んだのは運が良かっただけだろう。

こんなんじゃ本当に二の舞になるな……

 

「あ、ちょっと待ってて下さい…… いつまで寝てるんですか!?」

 

パコンッ! と乾いた音がした。

 

「あべしっ!??」

 

コウタ…… アリサは普通に頭を叩いただけだぞ。

 

「んぁ……ああ! 目ぇ覚めたんだ! よかった〜……」

 

「お陰さまでな。コウタは怪我ないか?」

 

「俺は大丈夫だよ。ゴメンな…… 俺の不注意のせいで、神機溶けちゃったんだろ?」

 

「溶けたっつーか、壊れたな。 つーか溶けたのかよ!?」

 

「そうなんですよ。あのアラガミの一撃で、コアの制御機構に不具合が出たらしくて…… メンテナンスには時間がかかるそうなんです」

 

そういえば、リンクバーストを五段階までやらかした時も溶けてたな。確か、直すまで少なくとも1週間はかかっていた。

まさか病室でずっと寝てる訳にもいかないし………

 

「ツバキさんもどうせ出撃できないなら、休暇の消化も兼ねてしばらく休んでろって言ってたよ?」

 

「……なら、お菓子の家でも作ってるかな」

 

「いや、そこはゆっくり休んでください!」

 

丁度、暇ができたら作ってみようと思っていた。三日ぐらい徹夜すれば完成できるだろ。

 

「そうだ! お詫びにお菓子ありったけ持ってくるからさ!」

 

「さすがコウタだ。付き合い長いだけあるな」

 

「私もスイーツを作ってきますね!」

 

「………アリサ、先ずはサカキ博士にチェックしてもらえ。その後にマウス実験、味見をしてから持ってきてくれ」

 

「それ酷くないですか!?」

 

「全然酷くない。これ以上重症になってたまるか」

 

その時、病室に業務連絡用のアラームが鳴り響いた。

 

『業務連絡… 新型アラガミ、ハンニバルへの対策ブリーフィングを行います。第一、第二、第三部隊の各メンバーは、至急、支部長室に集合してください。繰り返します……』

 

アナグラ主力メンバーのほとんどだな。それだけハンニバルの存在は大きいのだろう。

相手はコアを摘出されても動き続ける…… まさしく不死身のアラガミだ。さすがに第一部隊だけじゃあもて余す。

 

「じゃあ、そろそろ行きますね」

 

「欲しい物があったら連絡くれよな!」

 

「お菓子の城で」

 

「いや、現実的なので頼む」

 

ッチ! お菓子の城は流石に無理か……

起きていても仕方が無い…… 二度寝でもしよう。そう思って横になった時、隣のベットの住民を見つけてしまった。

 

「ショウコさん…… 隣のベットで寝てたんですか?」

 

「…………ん? ああ、起きてたのね」

 

せめて仕事はしろよ……! 批難の視線を向けるが、まったく動じない。

 

「いつも怪我する丈夫な患者を見るほど、暇じゃないのよ」

 

大きな欠伸をしてむくりと起き上がり、デスクの上の整理を始める。悔しいことに、ショウコさんの言ってることはごもっともだった。

 

「あなた私のこと好きなの? 病室に来る頻度が高すぎよ」

 

「ははは、まさか(笑)」

 

自意識過剰すぎる。そんなんだから嫁に貰ってくれる人が……

 

「いい機会だし、糖分の摂取を禁止にしようかしら………」

 

「勘弁してください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時間帯のアナグラは閑散としているが、今日はそれ以上だった。たくさんのゴッドイーターがハンニバルの任務に駆り出されているからだ。

 

博士の見解では、ハンニバルはコアを失うと即座に代用コアを体内で生成して、指令中枢として肉体を動かすらしい。

その働きを阻害する『抗体』を神機に組み込むのが今のところの対策だ。

それまでは倒しては生き返るという繰り返しだ。帰ってきた人達はかなり疲弊した顔をしている。こういう時に戦闘できないのは非常に歯痒い。

 

部屋にいても仕方無いので、とりあえずエントランスに行ってみた。

気づいたら、ヒバリさんとエリナで雑談していた。今の話題は、エリナの宇宙旅行の話だ。

 

「それでね、地球が青くてとっても綺麗だったのよ!」

 

「そうか……」

 

とても嬉しそうな声で話す。話を聞いた限り、アーク計画については一切知らないようだ。

 

「アマトも宇宙旅行にくれば良かったのに」

 

「まあ、任務で忙しくてな」

 

どうやら、エリックは本当の事を言ってないらしい。嘘をついてまで方舟に乗せたようだ。

 

「……エリックが宇宙旅行って言ってたのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

その気持ちは分からないでもない。たとえ憎まれようとも家族には生きてほしいものだ。

 

「後で極甘ジュースでも奢ってやるか……… ね、ヒバリさん」

 

「え……ええ、エリックさんも喜ぶと思いますよ」

 

その時、突然照明が赤く点滅し、アラームが鳴り響いた。

確かこれは…… 緊急用のアラームだ!

 

『緊急連絡! アラガミによる外部からの侵入を第二訓練場にて確認! 速やかにこれを撃退して下さい! 繰り返します!………』

 

「!?」

 

ハンニバルの対応で追われているこのタイミングでか……!? アナグラに戦闘員なんていないぞ!

 

「300秒後、第二訓練場のフロアを隔壁で閉鎖します! 総員、別フロアに至急移動してください!」

 

ヒバリさんが手元の小端末を叩く。瞬時に対応をする所は流石だ。

 

「アマト………」

 

エリナが不安そうに俺の腕を掴む。少しでもそれを紛らわすために頭をくしゃくしゃと撫でる。我に帰ったのか、顔がりんご飴のように真っ赤だった。

 

「私は! べ、別に恐くなんか……」

 

強がってはいても少し震えている。なんとかしてやりたいが、今の俺にはなんの力も……

 

「一番近いのは………防衛班! タツミさん!! 聞こえますか!?」

 

ヒバリさんから連絡がきて喜んでいるタツミさんの姿が、ありありと目に浮かぶ。

 

「……冗談を言ってる場合じゃないんです! 緊急の帰還命令です! 直ちにアナグラに帰投してください!」

 

珍しくヒバリさんが声を荒げる。

タツミさん……… 今それどころじゃないんですよ………

 

「ええ…… 現時点でアナグラには、非戦闘員しか残っていなくて…… はい! すぐにお願いします!」

 

……いや、いつもみたいに重傷を負った訳でもない。神機が溶けているだけだ。そうだ、神機さえあれば十分戦える。

それなら、俺にもやれることがあるんじゃないか?

 

「ヒバリさん、エリナをお願いします!」

 

「あ! アマトさん!?」

 

気づいた時にはもう、神機保管庫に向かって駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターが開く。そこには、沢山の神機が並び立つ中、ターミナルを操作しているリッカさんがいた。

 

「何しに来たの? アマト君の神機なら、まだ溶けているよ!」

 

「……まだ溶けてるんですか」

 

「戦えないのなら戦場に出て来ちゃダメだよ! 私も、神機のロック作業が終わったら避難するから!」

 

蒸気をたてながら赤い機械に収納されていく神機たち。残っているのはもう、血濡れた赤で染まった神機『ブラッドサージ』……そう、リンドウさんの神機がだけだった。

未だに収納されておらず、まるで誰かを待ってるように佇んでいる。

 

「俺が……」

 

手を伸ばすが、どうしても途中で止まってしまう。拒絶反応が起きればオラクル細胞に捕食されてしまう。そうなったら最後、どうなってもおかしくない。

 

「アマト君!? なにやって……」

 

その時、衝撃音と共に扉が揺れた。

まさか………!?

 

「きゃあ!?」

 

「リッカさん!!」

 

爆発で吹き飛ばされたリッカさんは、勢いよく柵に叩きつけられた。

急いで駆けつけて状態を確認する。幸い、大した怪我もない。気を失っているだけだった。

 

『緊急連絡! アラガミが隔壁を破って神機保管庫エリアに移動しました! 繰り返します!』

 

「グオオオオオ!!!」

 

猛々しい咆哮がアナウンスを遮る。煙を切って現れたのは『ヴァジュラテイル』だった。

ヴァジュラもどきなど本来なら直ぐに叩き斬っているが、武器がない今ではとてつもない脅威だ。

 

「くそ……! リッカさん、触りますよ!」

 

ここでもたつくのはマズイ。お姫様抱っこの要領でリッカさんを抱える。

後ろに飛び退いた瞬間、ヴァジュラテイルの尾が空を切った。

 

「くっ………!」

 

なんとか躱せたが、正直言って、このまま逃げ切る自信はない。

打開策! 何か…… 何かないのか……!?

 

ーーリッカさんを置いて逃げる。

論外だ。

 

ーー素手で戦う。

これもダメだ。簡単には死なないと思うが、それでも確実に殺される。

 

ーーお菓子を渡す。

正気に戻れ。

 

「…………はぁ」

 

思わずため息をつく。多分、また病室のお世話になるだろな……

 

「………リンドウさん、やっぱ使わせてもらいます」

 

……かなり多くの人に怒られるだろう。しかし、俺が考える限りこれが最善の選択だ。

覚悟をきめ、ブラッドサージに手を伸ばす。

 

「ぐ、あああああ!!!??」

 

掴んだ瞬間体中に激痛が走る。手から黒いモヤが出てきてる始末だ。

覚悟をきめても痛いものは痛い。なんとかそれに堪え、台座のブラッドサージを無理矢理引き離す。

 

「ギュガアアア!!」

 

その間を隙と判断したのか、ヴァジュラテイルが迫る。

 

「………ッ! なめんな!」

 

渾身の力でブラッドサージを突っ込む。それは見事に胴体に食い込んだ。噴水のように血を噴き出した後、呻き声をあげて力なく倒れた。

 

「ぐうぅ……! があああ!!??」

 

痛みに堪えかね、手を放そうとしたその時……

 

『ザザザザザーーーー……!!』

 

頭の中に流れ込むビジョン。降りしきる雪の中、どこか見覚えのある背中が天に向かって吼えていた。誰だ…… これは?

 

「が……あぁ………」

 

しかし、そんな事を考える余裕はなかった。体中の力が抜け鋼板の床へと吸い込まれる。

………本当に、あと何度同じ経験をするのだろう。視界が暗闇に包まれた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。