スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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三十九品目 新人と、折檻と…?

 

 

 

 

 

目を開けると、毎度見慣れた病室の天井が出迎えた。いや、天井だけじゃない。リッカさんも俺の様子を覗き込んでいる。

 

「あ! 気がついた!?」

 

安心した様子で席につく。柵にぶつけられたダメージは無いようだ。

 

「あー…… ヴァジュラテイルは………」

 

「なんとか倒せたよ。いつも無茶して…… でも、アマト君のお陰で助かったよ。ありがとう………」

 

目に涙を溜めて、力強く抱きつく。あれ? なんかアリサよりゴツゴツするな。

 

「約束だよ? もう絶対、他の人の神機に触らないで。他人の神機を使うと、そのオラクル細胞がアマト君を捕喰し始める…… そうなったら、何が起こってもおかしくないから……」

 

上目遣いで俺を見るリッカさん。普通ならここでどぎまぎするのだろうが……

 

「………リッカさん、オイル臭いです」

 

それが全てを台無しにした。どうせならカノンさんみたいにお菓子の甘い匂いを漂わせ……

 

『バキリ!!』

 

・

・

・

 

「………え?」

 

再び病室の天井が出迎えた。最早シミの位置だけで判断できる。

しかし、気絶した理由がまったく分からない。何故か体中が軋んで痛いんだが……

 

「リッカさんなら皆を呼びにいきましたよ」

 

声の方に視線を向けると、苦笑いをしている男……女? の人がいた。新しい職員とかか?

 

「あ、挨拶がまだでしたね。僕、医療班に配属になります新人の神機使いです。『レン』って呼んで下さい」

 

「新型っすか。まあ…… 知ってると思けど、『スイーツイーター』の桐永アマトです」

 

「はい! 前にいた支部でも有名でした!」

 

だよなー…… 世界は広しと言えど、あんな神機を使うのは俺ぐらいしか居ない。

 

「あ、敬語はつけなくて結構ですよ。ここの支部は、様々な意味で最前線なんですよね。皆さんの足を引っ張らないように頑張ります!」

 

「直ぐ馴れると思うけどな」

 

「順応早いですね…… あ! 僕はそろそろ行きます!」

 

「?」

 

急に席を立つレン。まるで、何かを感じ取って逃げるようだ。

いったいどうしたんだ? そう思った瞬間、俺にも感じる事ができた。これは…… 怒気!

 

「桐永…… 覚悟はできてるか?」

 

「他人の神機を使うなんて、ドン引きですね…………」

 

「アナグラを救ってくれたのは感謝するけど、それとこれとは話が別よね? アマト君」

 

ドアが開いた瞬間、意識が戻った事を本気で呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの精神的疲労で、ベッドに突っ伏していた。コウタとソーマもお見舞いに来てくれたが、引き続きアリサもいる。なんでも、無茶をしないように見張るらしい。

 

「アマトー、生きてるかー?」

 

「……………………なんとかな」

 

やっと説教から解放された。どれだけの時間が過ぎたのかは覚えていない。極甘ジュースが飲みたいが、生憎手元に無いんだよな……

 

「大丈夫なのか?」

 

「ああ。特に後遺症もない」

 

「怪我させた俺が言えた事じゃないけどさ…… 最近無茶し過ぎだと思うんだよな」

「………まあ、俺もしたくてした訳じゃないだけどな。それしかなかったんだ」

 

仮に何もしなかったら、俺どころかリッカさんも死んでいた。一応、正しい選択をしたと思っている。

 

「それでも…… リンドウさんの神機を使うなんてやり過ぎです………」

 

「………すまん」

 

アリサが悲しそうに言う。その点に関しては何も言えなかった。ひたすら謝ることしかできない。

 

「あの、アマトさん…… あ!!」

 

部屋の外から女性の声が聞こえた。扉が開くとお菓子入りのバスケットを持ったカノンさん…… いや、女神が降臨した。

しかし、転んだせいでクッキーが床にぶちまけられた。

 

「ああ!? クッキーが……」

 

「カノンさん! 三秒ルールです!」

 

「は、はい!!」

 

俺の声に弾かれたように、すぐさまクッキーを集めた。この程度なら全然食える。

 

「あれ? カノンさんじゃないっすか」

 

「行くぞ、コウタ」

 

今まで無言を貫いていたソーマがいきなり動き出した。

 

「え? まだ来たばっかだ……痛い痛い!」

 

コウタの襟元を掴みズルズルと引き摺っていく。コウタが言った通り、まだ来たばかりなのにどうしたんだ?

 

「ごめんなさい…… 作り直してきます………」

 

「いや、全然美味しそうですよ。是非ご馳走になりたいです」

 

「アマトさん、嬉しいです………」

 

申し訳なさそうな顔をしたカノンさんがボマークッキーを渡す。それをアリサは微妙な顔で見ていた。アリサ…… このクッキーを見倣ってくれ。

 

「ありがとうございます。本当に…… 旨いです」

 

「アマトさん…… やっぱり私、心配です。このままだと何処か行っちゃうような気がして……」

 

「…………すみません」

 

謝る俺を見て、カノンさんが優しい笑みを浮かべる。

 

「アリサさんも怒っていたけど、本当にアマトさんのことを心配してたんですよ。その黒いクッキーもアリサさんが作ったんです」

 

「なっ…… カノンさん!?」

 

アリサが慌てて立ち上がる。なんやかんや言って心配してくれてたんだな………

 

「………うん、どっちも旨いよ」

 

「本当で……あ! ま、まだ許した訳じゃないですから!!」

 

正直言うと、黒い方を口に入れる度舌が痺れるんだけどな…… 本当の事を言う勇気はなかった。

 




コラボがあります。
GOD DOGS の暁一八君です。


「………っと、ここだったか」

メモ用紙に書かれた地図を確認する。どうやらここがアマトとコウタに指定された部屋らしい。
……所々にお菓子の食いカスがついているが、気にしないでおこう。

「入るぞー」

ドアノブに手をかける。何をするかは知らないが、俺にしか頼めない事があるそうだ。

「おおー! 待ってたぜ、カズヤ!」

「…………コウタ、なんでバガラリーの格好なんだ?」

外部居住区で人気のアニメ『バガラリー』。その主人公であるイサムのコスチュームに身を包んでいた。なんか、本格的に訳が分からないぞ………

「俺が説明しよう」

「うお!? アマト!」

何故か甲冑着を身に付けたアマトが。誰でもいいから俺を現実に戻してくれ……! 状況を説明してくれ……!

「バガラリーの演劇をすることになったんだけどな、ある役にお前がピッタリなんだよ」

「…………ある役?」

「ああ、ある役だ」

………成る程、そういうことか。

「いいぜ、面白そうじゃねえか」

「さすがイチパチ。ノリがいいな。」

「その名前、やめろって言ってんだろ」

アマトの野郎は俺の名前をイチパチと呼ぶ。理由は単純、俺の名前を漢字表記すると一八だからだ。最近、アマトの中ではこれが定着してきて困る。

「んで、その役って何なんだ?」

「残虐な戦士、カラテマンだ」

「……………………ん?」

……聞き間違いか?

「残虐な戦士、カラテマンだ」

(バガラリーってどんなアニメだよッ!!??)

心の中で思いっきり叫ぶ。イサム、ジョニーの次にカラテマンっておかしいだろ! 一人だけ孤立しまくってるわ!

「今からリハーサルを始めるぞ。まあ、初めてのイチパチはそこで見ててくれ」

「そうそう! 感想も聞かせてくれよな!」

そんな疑問など露知らず、二人で向かい合って演技をし始めた。コウタとアマトの目がかつて無い程真剣なものになる。
普段もそういう態度ならいいのに……

「………ジョニー! なんで裏切ったんだ!!」

コウタが迫真の演技を見せる。凄いな…… 本当にアニメの主人公みたいだ。

「御託はいい。かかってこい、イサム」

アマト……いや、この場合はジョニーか。スラリと剣を抜き、イサムに向かって突きつけた。それが口火を切り、イサムも腰からリボルバーを抜き取る。

「「はあああ!」」

二人がほぼ同時に動き出す。

「あたれ!!」

「甘いッ!!」

そこから繰り広げられたのは大迫力の殺陣だった。コウタがリボルバーから銃弾を放ち、アマトがそれを両刃の剣で叩き斬る。
銃音から火薬の匂い、剣の光沢さがこれでもかと言うくらいリアルだった。

( すげえ…… 想像以上だ!!)

『ドギュン!!!』

感動しかけた時、耳元に風を切る音がした。

「…………ん?」

目線を移すと、何故か隣の壁が抉れてた。落ち着いて周りを見渡すと扉やら壁やらがボロボロで蜂の巣だった。
結論を言うと…… コレ、実弾じゃね?

「待て待て待て待て!」

急いで二人を止める。このままだと殺されかねない!

「どしたのー?」

コウタが間延びた声で尋ねる。アマトに至っては少し不満そうな顔だ。いやいやいや、不満そうな顔してる場合じゃないからな!?

「壁! 穴空いてる!!」

壁を指差す。ヘタしたら死んでるぞ!?

「や…… だって実弾だし」

「なんでやねん!?」

まったく悪びれず言い放つコウタ。マジで何考えているんだ!?

「そりゃあ……」

「「リアリティーのため?」」

………ヤバイ。とんでもない魔境に足を踏み入れたかもしれない。

「あっ! カズヤの衣装があるんだぜ」

この流れはもっとマズイ。とても着れないような衣装を渡すに決まっている。いったい、どうすれ……

「…………なにこれ」

両手に渡された衣装を見たとき、俺は驚愕した。
デニム生地の青いパンツに、白一色のT-シャツだった。言い訳程度に黒い字で『空手馬鹿一代』と書かれてある。

「カラテマンの衣装だ」

「休日の服装じゃねえか! なにこのグレードの違い!?」

思いっきり地面に叩きつける。手ぇ抜きすぎだろ!!

「「や、忠実に再現したから?」」

………

「………もう、なにも言うまい」









「さて…… 公演当日か」

血の滲んだ特訓の末、とうとう御披露目となる劇『バガラリー vs 策士カラテマン』。言ってる俺もワケわからん。

「カレルさん、この後のスケジュールは?」

スーツ姿のカレルが手帳を確認する。

「カレル…… 何故お前が…………?」

「マネージャー業ってのは儲かるからな。ガッポリと金を…… 子供たちに夢を届けるためだ」

「ほとんど言ってる!」

「さて、今日は……」

前にも公演してたんだな…… カレルがパラパラと手帳を捲ると……

「……腐れ外道神父の教会だ」

引き吊った口調で苦々しく告げた。

「下手なことは……できないな」

「「「……ああ」」」

・
・
・

「とうっ!!」

「あたれ!!」

銃音が鳴り響く。なんとか実弾を使うのは止めさせたが、それでも十分リアルだった。本気具合が伺えるな。

「がんばれイサムーーー!」

「違う! そこは右ストレートだ!」

「撃つべし、撃つべし!」

なんか変な事を言ってる子がいるけど、まあ…… 楽しんでるならそれでいいか。

「イサムかジョニー、どっちに賭けますか?」

「なに言ってるの? 神父様………」

「私は案パイのジョニーですかね。100Fc賭けますよ」

おい、外道神父! 賭け事を持ち込むな!
……っと、マズイマズイ。そろそろ俺の出番かな。

「フッフッフ…………」

デニムパンツに白シャツ…… 本当にこの衣装でいいのか? そんな不安を抱えながら、ゆったりとステージの上まで歩く。

「…………お、お前は!?」

「カラテマン…… 何しにきた!?」

本気で驚いた顔をするコウタとアマト。

「策略通りに…… クックック! 実に策略通りのに進んでくれた……! 二人仲良く地獄へ堕ちろ!」

コウタとアマト曰く、カズヤが演じてくれたら皆怖がるって言ってたが…… 本当か?

「「「びええええええん!!!!!」」」

「貴様……! カラテマン!!」

(何で!!??)

泣き叫ぶ子供たちに、恨みを込めた目で睨むグレイさん。全てに…… 全てに疑問しかない。
もうどうでもいいや、とっとと終わらせてアナグラに帰ろう。

「喰らえ! 鳩尾パラダイム!!」

鳩尾に拳を叩き込むべく、全力で接近するが……

「てい」

「や~ら~れ~た~」

コウタから頭に軽いチョップを叩き込まれた。わざとらしく倒れ込む。アニメのカラテマンはこれであえなく敗退するらしい。

「はぁ…… はぁ…… 厳しい戦いだった…………」

「後は………お前だけだ、イサム。いくぞ!!」

「来い! ジョニー!」

「「うおおおおおお!!!」」

照明がブツリと切れる。ここで劇は終了だ。続きは次の機会らしい。

「終わりってどういうことですか!? 続きをみせてくださいよ!!」

「神父様、落ち着いて!!」

拍手と喧騒の中、ぼんやりと天井を見る。

(………俺、いらなくね?)

幕が降りていく中、そう思わずにはいられなかった。




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