スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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四十品目 甘党と、初恋と

 

神機の修復が終わり、ようやく謹慎も解除された。今まで休んでいたつけが回ったのか、かなり多くの任務が舞い込んできた。

 

その中にはハンニバルの任務もあったが、GEスイーツを強化したお陰で溶けることはなかった。抗体も組み込んだし、対策はバッチリしてある。たった今、ハンニバルを討伐しアナグラへ帰った所だ。

 

ちなみに、本部の方でもハンニバルが確認された。一人のゴッドイーターがハンニバル相手に無双したらしいが、十中八九グレイさんだろう。マジで常人離れしているな……

 

「ただいま戻りましたー」

 

出撃ゲートが開く。エントランスに戻ると、コウタが「待ってました」といった感じで出迎えた。何の用だ?

 

「お疲れ、アマト!」

 

渡されたのは、『初恋ジュース』とピンクのラベルに書かれた缶だった。

 

「なんだこれ?」

 

「新発売のジュースだってさ。飲んでみなよ!」

 

サカキ博士がメールで断水と節電の協力を申し込んでいたな。スイーツ作りができなくてストレスが溜まったが、この為だったのか……

 

「初恋ジュースか…… なるほど、甘酸っぱそうな感じがするな」

 

こういうのなら大歓迎だ。さっそくプルタブに手をかける。

 

「いただきます」

 

缶を傾けて中身の液体を流し込む。うん、いったいどんな味を…… あれ? なんか、こう……?

 

「甘酸っぱ苦しょっぱ辛殺してくれ!!!」

 

「うわあああああ!!??」

 

味覚の殺戮大パレードや!!

 

 

気がつくと、ソファーで横になっていた。あの地獄のような不味さは何だったんだ……?

アリサの手料理よりも格段に酷かったぞ…… 作った意図がまったく解らん。

 

「大丈夫ですか? アマトさん」

 

横を見ると、カノンさんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。心配をかけないため起き上がろうとするも、体が震えて動けない。

 

「カ、ノンさ…………」

 

それどころか、舌先が痺れて上手く喋れない。恐ろしい……! どんな威力を持っているんだ………!

 

「突然倒れたって聞きました。 大丈夫ですか?」

 

「そ、それは……、!?」

 

カノンさんの手に、例のジュースが握られていた。今ではもう黒い障気が見えるほど恐ろしい。

 

「コウタさんがジュースをくれたんです。新発売だそうですよ?」

 

プルタブを開け、あろうことか口に付けてしまった。くそ! 動け舌! カノンさんを被害者にする訳には……

 

「待っ………」

 

しかし、全てが遅かった。カノンさんが両手で可愛らしく缶を傾ける。そのまま喉を鳴らして飲み込んでしまう。

 

「…………」

 

「カノンさん…………?」

 

俯いて表情を伺えない。大丈夫なのか………?

次の瞬間、カノンさんが勢いよく顔をあげた。そう、任務中のように狂暴な顔を……

 

「キャハハ! 久しぶり…… アマト!」

 

「出たな裏カノンさん……!」

 

何故か任務中のカノンさんが表に出てきた。まさか、初恋ジュースにこんな作用があるとは……

 

「……ははーん。あんた今、動けないんだね!」

 

妖しい笑みを浮かべながら、ジロジロと俺の体を見る。何故か人生トップクラスの嫌な予感がするんだが。

 

「な、何を………」

 

「チャーンス! それじゃあ私が食べちゃおっと!」

 

洒落にならない事をサラッと言い放つ。しかも非常に嬉しそうな顔だ。

いつもの冗談だよな? それか、都合よくここで戻るとか……

 

「………え? ちょっと待っ」

 

その願いは届かず、襟元を掴まれた。地獄の門に連れ込まれるかの如く、ずるずると引きずられていく。

本能が告げている。ここで逃げないと、大切な物を失ってしまうと……!

しかし、悲しきかな。抗う体力は無かった。

 

「さあ、私の部屋で良いことしよ!」

 

誰か…… お菓子を全部あげるから、助けてくれ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

任務から帰ってきた時、私は目を疑った。出撃ゲートが開いた先はまささく地獄絵図だった。タツミさんとソーマが地面に臥せ、その近くには淡いピンクの液が広がっている。

しかし、一番目を引いたのは……

 

「I can't do it…… I can't do it……」

 

ソファーに体育座りをして、永遠にそう呟くアマトさんだった。

虚空を見つめており、目はいつもより更に黒く濁っている。

 

「どんな状況ですかコレ!?」

 

近くにいたコウタの肩を掴み、思いっきり揺らす。こうなったのは絶対コウタが原因だ!

 

「揺らさないで! 揺らさないで! タツミさんとソーマは俺がやったけど、アマトは知らないって!」

 

「どういう事ですか!?」

 

「二人には初恋ジュースを飲ませたんだよ。でも、アマトは最初からあんな状態だったんだ!!」

 

「I can't do it…… I can't do it……」

 

表情を一切変えず『私にはできない』と呟くアマトさん。いつものアマトさんは、そこには居なかった。

 

「アマトさん! しっかりしてください!」

 

思わずアマトさんに抱きつく。いったい…… アマトさんの身に何が……?

 

「Boys, be ambitious…… Boys, be ambitious……」

 

「何に大志を抱けば良いんですか!?」

 

私が抱きついた事で、寧ろ悪化してしまった。

 

「ア、アマトさん…………」

 

「やべえ…… 俺、なにしたっけ………」

 

もしも、もしもこのまま戻らなかったらどうなるのだろうか? アマトさんには沢山助けてもらったのに、私には何もできないなんて……!

 

絶望に打ちひしがれていた時、突然エレベーターの扉が開いた。そこにいたのは極甘ジュースを手に持ったサクヤさんだった。

 

「アリサ、極甘ジュースを買ってきたわ! 飲ませたらどう!?」

 

「サクヤさん、それです!」

 

サクヤさんから極甘ジュースを受け継ぐ。アマトさんはいつもこれを飲んでいた。これならアマトさんの意識を戻せるかもしれない!

「アマトさん…… 極甘ジュースですよ?」

 

プルタブを開け、アマトさんの口にゆっくりと流し込む。お願い……! 戻ってきて、アマトさん……!

 

「………!」

 

僅かに、アマトさんの目に光が灯った。

 

「あれ? 俺、なにして……」

 

「アマトさん! 戻ったんですね!!」

 

もう一度思いっきり抱きつく。戻ってくれて本当によかった………!

 

「あー…… どうしたんだ?」

 

「アマト! いったい何があったんだ!? 様子が凄い変だったぞ!!」

 

「確か、初恋ジュースを飲んだ後……」

 

何かを思い出したのか、顔が紅くなり…… 青くなり…… 白くなり…… まるで旧世代の信号機のように顔色が変わっていた。

 

「……ガクガクガクガクガクガク」

 

遂には小刻みに震えてしまった。

 

「アマトさーーーーーん!!!!」

 

そういえば…… カノンさんも部屋から出て来ないらしいけど、関係があるのだろうか?

ジーナさん曰く、突然顔が真っ赤になって『きゃああああ!!』状態らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナグラのとある一室。アマト、ソーマ、俺でとある作戦会議を開いていた。それは……

 

「第一回『コウタに甘美なる地獄を見せよう大作戦』の会議を始めます」

 

そう、コウタによる初恋ジュース被害者が集まっている。その中でもアマトのキレ様は半端なかった。なんでも、コウタのせいで大切な物を失ったらしい。

 

だがしかし、コウタに同情する気はないぜ! あんなゲテモノジュースを飲ませやがって……!

 

「はい」

 

「タツミ君」

 

「初恋ジュースをたらふく飲ませるというのは………」

 

これならコウタも十分反省するだろ!

 

「………少し生ぬるいですね。却下です」

 

「生ぬるいか!?」

 

これでもまだ温いのか…… 雲行きが怪しくなる中、ソーマが無言で手を上げた。

 

「はい、ソーマ君」

 

「四の五の言わずにぶっ殺す」

 

「それもいいですね」

 

真顔で言うソーマとアマト。すまん、コウタ…… 俺には止める事ができねえ……! 同情しないと言ったが、前言撤回するぜ……!

 

「…………あ、俺からも一つ意見を」

 

アマトが突然コートの中を探った。何をする気なんだ……?

 

「左手に初恋ジュース……?」

 

「右手に極甘ジュースだと……?」

 

俺が知る限り、最悪なジュースのワンツーフィニッシュ。そんな禍々しいジュースなんて、何に使うんだ?

 

「「……!!??」」

 

ポーカーフェイスのソーマですら驚愕の色が見える。

いや、仕方ねえ。だって…… まさか……

 

「二つを混ぜ合わせるなんて……!!」

 

この時ばかりは、アマトがガチで悪魔に見えた。コップの中で淡いピンクと濃いピンクが混ざりあい、何故か紫色の液体が完成していたからな………

 

「……少し飲んでみましょう」

 

効果の程を確かめるべく液体に人差し指をつけ、ゆっくりと舐める。

すると、目を大きく見開き………

 

「…………甘ッ!!!」

 

吹き出しただと!? アマトはアマイ・アマイの攻撃にも耐えきれるんだぞ!?

 

「馬鹿な…… アマトが甘くて悶えるだと……!?」

 

未だにゴロゴロと床を転げ回っていた。俺たちは恐ろしい兵器を造ったと認めざるを得ない……

 

「マズイぜ…… 俺たちは、とんでもないものを作ったぞ……」

 

むっくりと起き上がったアマトが口を開く。

 

「極甘と初恋の出会いによって混沌に陥る…… そう、名付けて『不倫ジュース』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその後の2日間、コウタの姿を見た者はいなかったそうな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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