スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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四十一品目 スイーツイーターと、後輩と

 

フェンリル本部から新型二人が派遣されるらしい。気味が悪い程の大盤振る舞いだが、支部長の計画を止めたとなると妥当なものだろう。

そして、今日はその新型同士で自己紹介をするそうだ。エントランスには新型神機使いが五人もいる。極東支部が最前線とは言え、非常にレアな光景だ。

 

ツバキさんが手に持ったファイルを捲る。

 

「今日から極東支部に配属になった新人を紹介する。待望の新型神機使いだ」

 

目の前には男性、女性、性別不詳のレンの三人がいる。レン以外には緊張が見えるな。

緊張する姿を見ると、何処か懐かしい雰囲気を感じる。

俺もあんな感じだったのか……

 

「初めまして! 私の名前はアリサ・イリーニチナ・アミエーラと言います! よろしくお願いしますね!」

 

随分と嬉しそうに自己紹介するアリサ。表情が緩む一歩手前だな。まあ、前から後輩ができるのを楽しみにしてたから仕方が無いか。

 

「「よろしくお願いします! アリサ先輩!」」

 

さてと…… 次は俺の番か。

 

「第一部隊隊長、『スイーツイーター』こと桐永アマトです」

 

「「よろしくお願いします! アマト先輩!」」

 

先輩か…… 産まれて初めて言われた気がするが、うん、良い響きだな。

 

「さて、次はお前たちの番だ」

 

ツバキさんに促され、新人たちが一歩前に出る。

 

「本日付けで、第二部隊に配属になりまし

た!『アネット・ケーニッヒ』と申します!」

 

「同じく、第三部隊に配属になりました『フェデリコ・カルーゾ』です!」

 

二人とも元気に自己紹介するが、レンだけはニコリッ! と微笑むのみだった。

 

「新型神機の戦術は私よりお前たちの方が詳しいだろう。出来る限り面倒を見てやれ、いいな?」

 

しかし、何故か話を続けるツバキさん。さすがにスルーは可哀想だろ……

それどころか同僚にすら無視される始末。もしかして俺のツッコミ待ちなのか?

 

「まったく…… もう一人いるじゃないですか?」

 

しかし、レンを除く全員が『何言ってんだ? こいつ』みたいな顔をしていた。

 

「いやいやいや、いるでしょ……? ほら…… カルーゾの横に………」

 

「「……えええええええ!!??」」

 

新人二人がその場から飛び退く。カルーゾの顔は酷く青ざめ、ケーニッヒに至ってはほとんど涙目だった。

体中から血の気が引いていく。まさか、本当に見えていないのか……!

 

「み、見えて……ないんですか?」

 

次の瞬間、とても痛々しい顔をしたツバキさんに肩を叩かれた。

 

「すまなかった、桐永…… 私が叩き過ぎたんだな…… 無理をしないで、部屋でゆっくりと休んでくれ」

 

「いや! そんな優しい言葉を望んでないんですよ!?」

 

初めて優しい言葉をかけてくれたが、ちっとも嬉しくない! なんでだ!? 俺の目がおかしいのか!?

 

「………お前たち、桐永は少し疲れているようだ。先にメディカルチェックを受けてこい」

 

「「………は、はい」」

 

ツバキさんが新人二人をエレベーターへと連れていく。まるで、これ以上見てはいけないと言わんばかりに………

エレベーターの扉が閉まった瞬間、アリサの目に涙が溜まった。

 

「アマトさん、ごめんなさい…… わたしが叱りすぎたせいで………」

 

「………」

 

泣きそうな声で謝るアリサ。しかし、俺はそれどころではない。アリサに目を向けた一瞬で、レンは何処かへと消えてしまったのだから……

これはもう認めるしかない。レンは…… 幽霊だ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アマトさん」

 

エレベーターが開くと、ブラッドサージを見つめながら柵に寄っ掛かるレンがいた。息を切らせながら足早に近づく。

散々探し回ったが、ようやく見つけることができた。まさか神機保管庫にいるなんて………

 

「悪霊退散!!」

 

コートの内側から、前もって準備していたビニール袋を取り出す。これこそ対幽霊用秘密兵器『清めの砂糖』だ。

封を開けて、砂糖をありったけ掴む。そのままレン目掛けて思いっきり投げた。

 

「これ、砂糖ですよ?」

 

しかし、まったく効果はなかった。頭に砂糖の結晶が乗っただけである。クスクスと笑いながら頭の砂糖を払う。

やはり塩じゃないとダメなのか……!? しかし、甘党としてのプライドが……

 

「……レン、なんで俺に取り憑いてんだ! 望みはなんだ!」

 

しかし、レンは首を横に振った。

 

「いいえ、違います。僕は生きてますよ」

 

「………生き霊か?」

 

「一旦幽霊から離れましょうか。そもそも、非現実的ですよ」

 

「信じられんな。油断させた所をバクリと……!」

 

「はあ…… もうそれでいいですよ。ただ僕は、これを見せたかっただけですから」

 

そう言って、おもむろにリンドウさんの神機に手を掛けた。次の瞬間、頭の中に様々な景色が流れ込む。

この感覚は…… 感応現象か? 新型同士じゃないと起こらない筈なのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーザザザザ、ザザーー!!

 

気づいたら、目の前にはあの時の景色…… 忘れる事ができない景色が広がっていた。

リンドウさんと俺が贖罪の町の教会でディアウス・ピターに襲われた時の景色だ。

 

ディアウス・ピターとリンドウさんは互角の戦いを繰り広げていた。

俺はというと、地に臥せたままピクリとも動かない。因みに、神機はぐじゃぐじゃに溶けかかっていた。客観的に自分を見るのは変な感じがするな………

 

『■■■■■■!!』

 

禍々しい咆哮が響いた。リンドウさんに鋭利な三爪が迫る。間一髪で飛び退くが、僅かに血が滲んでいる。

 

『中々やるじゃねえか……』

 

リンドウさんの目が変わる。勝負を仕掛ける気だ。

大地を蹴り、ディアウス・ピター との距離を一気に詰める。

 

『■■■■!!!』

 

しかし、ディアウス・ピターの方が一枚上手だった。神機が振り下ろされる刹那、黒い前足がリンドウさんに叩き込まれる。

 

『ぐっ!? う、うおおおおぉぉぉぉおあ!!!』

 

先程の衝撃で破損したのだろう。腕輪から黒い何かが溢れだす。相当な痛みが伴っただろう。しかし、覚束ない足取りながらも踏みとどまる。

そんな様子を見て、ディアウス・ピターは勝利を確信したのだろう。禍々しい笑みを浮かべる。

 

『負けられるかよ……!』

 

痛みで右腕を押さえる中、倒れた俺を一瞥する。本当に凄いリーダーだ…… こんな時にでも部下を心配するなんて……

 

『うおおおぉぉぉ!!!』

 

最後の力を振り絞ったのか、ブラッドサージをディアウス・ピターの口へ捻り込む。リンドウさん…… なんて無茶な事をしたんだ……!

他人の神機を使った自分が言えることではない。それでも、自分の為に無茶をするのは見てられない。

 

ディアウス・ピターが予想外の痛みで退けぞる。そのはずみか、神機だけでなく腕輪ごと持っていかれた。

 

『ぐっ! うおおおおぉぉぉぁぁあ!!!』

 

止めどなく黒い霧が溢れだす。痛みに堪えきれず、そのまま地面に膝をついた。

もう見ていられない。沸々と怒りが込み上げる。リンドウさんが捕食される瞬間を写すなんて…… 何のつもりなんだ!!

「ーー喰われる……!」

 

そう言った瞬間、二人の間に誰かが割り込んだ。ボロボロの布切れに、透き通るような白い体……

まさか……

 

「シオ…… また会ったな………」

 

そう、リンドウさんを救ったのはシオだった。じっ……と、ディアウス・ピターの紅い目を見つめる。何を思ったのか、ディアウス・ピターは教会の窓辺へと跳躍しする。振り返る事なく、そのまま二人のもとから去っていった。

 

 

 

ーーザザザ、ザザザザザーー……!!

 

薄暗い和室の中、リンドウさんが力なく壁に寄りかかっていた。それだけでなく、右腕はアラガミのように変質している。

確かに無事とは言いがたいだろう。それでも、リンドウさんはまだ生きてる……!

 

『…腹…へったな…』

 

部屋の中には黒い羽が散乱としていた。この状態を見る限り、暫く部屋の外に出ていないのだろう。それなら腹が減るのも仕方ない。

 

『ハラ…ヘッ…タ…ナ…』

 

シオが首を傾げてリンドウさんの真似をする。

 

『お腹…空いた…だ』

 

『オナカ…スイ…タ…ダ?』

 

『お腹空いた…』

 

『オナカ…スイタ…』

 

シオがガサゴソと布切れの中をいじり、食べ物のような何かを取り出す。

 

『…………何だ、コレ?』

 

『オナカスイタ!』

 

オナカスイタ=空腹だと分かったのか、リンドウさんに食糧らしき物を差し出した。

…………ん? あれはケーキじゃないか?

 

『どっかで見たことがあるな……… 気のせいか?』

 

………あ、GEケーキだ。

 

『じゃ、いただくぜ』

 

「やめろ! リンドウさん!!」

 

思わず叫んだ。多分、リンドウさんと一緒に持ってきたのだろう。当時はまだ食べれるように調整されてない。そんな物を食べたら………

 

『ぐあああああああああああああ!!!??』

 

部屋中に切ない悲鳴が響き渡る。何気に一番長い悲鳴だった。

 

 

 

ーーーザザザザザ……プツン

 

「見えました?」

 

レンが意味深な笑みを浮かべてる。どうやら元の場所に戻ってきたみたいだ。

聞きたいことは山ほどあるが、一番気になるのはレンの正体だ。リンドウさんの事を知り、その姿は俺にしか見えない。

正直、幽霊よりも異質な存在だと感じた。

 

「お前、いったい………」

 

「リンドウさんは生きていますよ。感応現象がなによりの証拠です」

 

はぐらかすように言葉を続ける。まあ、感応現象について疑う気はない。アリサ然り、グレイ神父然り、どれも本当の事だった。

 

「……信じていいんだな?」

 

「はい」

 

一切の迷いも無く断言する。不思議と、それだけで信じる事ができた。

レンの除霊なんて、頭から完全に抜け落ちていた。はやる気持ちを押さえきれず、レンに質問を投げ掛ける。

 

「今、リンドウさんはどうなっているんだ!?」

 

「かなり危ないですね。腕輪の制御が消えた状態ですから………」

 

「なら急いでサクヤさん達に……!」

 

「いえ、先にサカキ博士とツバキさんに報告するべきでしょう。最悪の場合、彼は既にアラガミとなっているかもしれません」

 

レンの言葉に息を飲む。緩んでいた気持ちが一気に引き締まった。

そうだ…… 何を楽観的になっているんだ。

 

「さあ、行ってください。彼にはもう時間がありません」

 

「………ああ」

 

様々な感情が入り雑じる中、俺は神機保管庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、リンドウさんの捜索は再開されなかった。ツバキさん曰く、『感応現象だけでは物的証拠にならない』だそうだ。

しかし、まったく信じていない訳でもない。リンドウさんの遺留物を手に入れるため、寺院の近辺を中心に任務を回してくれた。

 

これからの任務はとりあえず、あの黒い羽を探すことを目標にしようと思う。そして今日も任務に出たのだが……

 

「「さ、寒い!!」」

 

ヘリから降りたフェデリコとアネットが叫ぶ。新人にこの寺院の寒さはキツいだろう。

そう、今回は新人達の教官役だ。ついでに、アリサもいたりする。

 

「大丈夫! すぐ慣れますよ」

 

「ああ。それに、オウガテイル数匹なら直ぐに終わる」

 

オウガテイルだけと思い安心したのだろう。気の緩んだ顔をする。しかし、俺は『エリック! 上だ!!』を忘れない。

 

「……油断すんなよ。どこぞの御曹司はソイツに殺されかけたからな」

 

油断してオウガテイルに喰われたゴッドイーターも少なくない。

その事を思い出したのか、直ぐに緊張した顔に戻ってくれた。

 

「「は、はい!!」」

 

……そうだ。俺にも言うことが一つある。

 

「さて、任務の前に俺から命令がある」

 

アリサが『あ! アレですね!』といった表情をしている。大方、リンドウさんの三箇条を想像してるのだろう。

 

「黒い羽を見つけたら俺に報告……だ」

 

まあ、全然違うんだけどな。

 

「なんですかソレ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギュゴア!!?」

 

最後の一匹をGEチョコで斬り伏せる。辺りにはオウガテイルの死体が散乱とし、雪は真っ赤に染まっていた。

 

「凄かったです! アマト先輩!」

 

「はい! お菓子神機で戦う姿を見れるなんて、自慢できます!」

 

二人から感動(?)の言葉が次々に飛び出す。何ら特別な事はしていない。ただ俺はオウガテイルに斬りかかっただけなんだが………

 

「それよりも…… アネット、ありがとな。黒い羽に気づいてくれて」

 

戦闘中にアネットが気づいてくれた。

なんと、オウガテイルの歯の間に黒い羽が挟まっていたのだ。

今度、お礼にお菓子でも作ろうか……

 

「い、いえ! 大したことはしてないです!」

 

照れるアネットを尻目に、アリサが不思議そうな表情を浮かべる。

 

「アマトさん、それって何なんですか?」

 

……リンドウさんの遺留物と言う訳にもいかない。少し話をずらすか。

 

「………フェデリコ、アネット。アリサが配属された時って、知ってるか?」

 

「「?」」

 

「ちょっ! アマトさん!?」

 

必死で止めようとするアリサ。自分で『思い出すと顔から火が吹き出しそう』って言ってたからな……

勘繰ろうとした自分を恨んでくれ。

 

「知らないよな。ちょっと今聴かせてやる」

 

懐からボイスレコーダーを取り出す。久しぶりに使うことになったが、アリサも随分と丸くなったものだ。

 

「スタート」

 

そんな思いを込めながら、しみじみと再生ボタンを押した。

 

『…………ハァ、幻滅です。真面目な人と思ってたけど、そんな装備をして戦場に出るなんてふざけてるんですか? ドン引きです』

 

「「…………」」

 

『――旧型は、旧型なりの仕事をしていただければいいと思います』

 

「「…………」」

 

『あの……… さっきは少し言い過ぎました。すみませんでした………』

 

アリサの顔がみるみる赤くなる。

 

「可愛いです! アリサ先輩!」

 

「俺は全然有りだと思います!」

 

あの頃はホントに生意気だったな~

しかし、後輩たちには大評判だった。言われた方はたまったもんじゃないけどな。

 

「や、止めてくださーーーい!!」

 

「ぐはぁ!!??」

 

俺を殴り飛ばし、そのままボイスレコーダーを強奪していった。

 

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