エントランスの出撃ゲート前では、極東支部の主力である第一・第二・第三部隊のゴッドイーター達が集結していた。俺以外の面子は、何故呼び出されたか検討もつかないだろう。
ツバキさんの手には俺が持ち帰った黒い羽が握られていた。鑑定結果を公表するつもりだろう。則ち、リンドウさんの生存を公表するということだ。
「DNAパターン鑑定の照合結果やその他様々なデータを統合した結果、対象をほぼ『雨宮リンドウ大尉』と断定。本日一二○○を以て、捜索任務を再開する!」
その瞬間、地面が揺れるかなような歓声がおきた。
「生存自体は間違いないだろうが、腕輪の制御を失って久しいためアラガミ化の進行等が懸念される。接触には充分な注意を払うように!」
しん…… と静まり返る。アラガミ化が進行している事実に、皆はっと息を飲んだ。
最悪の場合、俺たちがリンドウさんを殺さなくてはいけない。そのことを失念してたようだ。
「……いい歳をした迷子の愚弟を、みんな…… よろしく頼む!」
最後に付け加えられたツバキさんの言葉。その様子は上官というより、弟思いの姉の方がしっくりしていた。
これで気合が入らない訳が無い。その言葉に全員が力強く頷いた。
エントランスには、何とも言えない幸せな空気が満ちていた。
死んだと思っていた人間が生きている。これ程の朗報は無いだろう。かく言う俺も、初めて極甘ジュースを飲んだ以上の衝撃を感じている。
「リンドウが、生きてる……」
「サクヤさん!」
サクヤさんの頬に涙が伝う。
「フン…… さっさと見つけて連れ戻すぞ」
「ええ! 必ず連れて帰りましょう……! 必ず!」
アリサが語気を強める。リンドウさんを追い詰めた事に負い目を感じているのだろう。
しかし、それは俺も同じことだ。今度こそ、今度こそ絶対に助ける……!
「よーし!そうと決まれば早速行こうぜ! アマト」
「勿論だ。お菓子もありったけ持っていく」
リンドウさんの右腕は既にアラガミだ。時間はあまり残されていない。
こうなれば徹夜覚悟だ。お菓子さえあれば3日はいける。
「あ、すいません! 第一部隊は通常の任務を前提として、遊撃的な広域調査にあたって下さい」
「なん……だと……!?」
しかし、ヒバリさんから待機命令が出た。第一部隊全員の動きがフリーズする。
「捜索任務は主に、第二、第三部隊に専念してもらいます」
「え!? 何で!?」
「極東支部の主力である第一部隊は、強力なアラガミへの対処のためにも、なるべく長期間アナグラから離れないで欲しい…… というツバキさんからのご指示です」
「それはわかりますけど……」
確かに最近アラガミが活性化している。俺たちがアナグラから離れるのは極東支部にとっても痛手だろう。
それでも、何もできないって言うのは……
「大丈夫! リンドウさん捜すのは任せとけや! 心配しなくてもすぐ見つかるだろ」
「心配しなくとも、この僕が華麗に救出してみせるさ」
「見つけたらすぐに連絡しますから! ねっ、ジーナさん!」
「ええ、そうね……… リンドウさんに帰って来てほしいのは、あなたたちだけじゃないってことね」
「まあ、新人も入ったことだしな…… 人手もなんとかなるだろう…… な?」
「「はい!」」
そうだ…… ここには頼りになる先輩ばかりだ。心配は無用だったな。それに、期待の後輩たちもいる。
「うん、そうね……… 何か変な言い方かも知れないけど、皆…… 力を貸して頂戴!」
「リンドウさんをよろしくお願いします。お礼に、後でお菓子の家にでも招待しますよ」
「「「……え?」」」
そう言った瞬間、場の空気が一気に冷めた。あれ? 俺…… おかしな事言ったか?
「ま……まあ、任せてくれ! 俺たちも状況次第、随時サポートするからよ!」
タツミさんが苦笑いしながら俺の肩を叩く。
「頼りにしてます、タツミさん」
「よっしゃ! じゃあヒバリちゃ〜ん…… 俺が無事リンドウさんを連れ戻したらよ、食事とか……?」
いつの間にかヒバリさんに言い寄っていた。しかし、いつものように微妙な顔を浮かべている。
「う〜ん、そう…… ですね。考えなくもないので、頑張って下さいね?」
「ええ~………」
いつも通り気落ちしてるタツミさんに耳打ちをした。
「タツミさん…… 裏を返すと、リンドウさんを連れ戻したらデートできる可能性はあるということですよ」
今まで断り続けてきたのに、とうとう『考えなくもない』と答えた。他人からみれば小さな一歩だが、タツミさんからしたら大きな一歩だろう。
文字通りタツミさんが息を吹き返した。
「……! ヒバリちゃん、 早速任務を……!!」
ヒバリさんが『あっ! しまった!!』みたいな顔をしていた。エントランスに温かい笑い声が響いた。
翌日、早速リンドウさんの捜索が始まった。皆が必死になって探しているものの、あまり進展していない。
そんな中、俺はある作戦を思いついた。これさえすればリンドウさんは速攻見つかるという程の……
実践するべく、ある物を持ってエントランスに向かったのだが……
「いける! 絶対にいけるって!」
「絶対ムリです!」
アリサとコウタの二人が言い争っていた。周りの人達も苦笑いをしている。
何があったんだ? まあどうせ、コウタが変なことを言ったんだろ。
「なにしてんだ?」
「あ、アマトさん! 聞いてくださいよ! コウタがまたバカな事を言い出して………」
「バカな事?」
「いや、女の子を連れていけばリンドウさんも出てくるって思うんだけどさ!」
コウタが自信満々に言う。
「ああー…… なんでそれでいけると思った?」
そんな作戦が成功すると思えなかった。大体、リンドウさんはサクヤさん一筋…… あれ? 一筋だよな……
まあ、そんな作戦より俺の作戦を実行した方が……
「 どうにかしてくださいよ…… その内、お酒を持っていくなんてもっとバカな事を言い出しそうで……」
(ーーーーバカな…… 事を…………?)
次の瞬間、手に持っていたビニール袋が地面に落ちた。そして、中身の甘酒がコロコロとアリサの足元に転がっていった。
「………」
「………」
それから察してくれたのだろう。そう、俺の作戦は『甘酒でリンドウさんを誘きだそう』というものだ。
そうか…… 俺は、コウタよりもバカなのか……
「………コクタ! やっぱりそれ、妙案です!!」
「だよなー!」
アリサ・カノンさん・サクヤさん・アネットで寺院周辺の捜索をさせた。勿論、甘酒を持たせてだ。
因みに、ジーナさんを選ばなかったのは胸的に少女と言い難いからだ。そんなことを考えてたら顔の横に穴があいた。
これ以上は自重します。
結果、作戦は失敗だった。コウタは『甘酒じゃダメだったんだ…… もっと本格的なもので……』と言っていたが、失敗の原因は根本的なものだと思う。
「はあ~……」
かなりの日数が経ったが、リンドウさんの捜索は全くと言っていいほど進展がない。
気晴らしに極甘ジュースを買ったが、飲む気にはなれなかった。廊下のソファーにゆっくりと腰を下ろす。
「久しぶりですね」
「………レン」
顔をあげると、神妙な顔つきをしたレンがいた。近づく気配がまったく無かったが、今更気にはしない。
「リンドウさんって、本当に皆さんから慕われていたんですね。数も数えられないようなバカなのにな……」
突然、レンが口を開いた。
「あ…… フフ、そういえば、貴方が初めてオウガテイルと戦った時にもやりましたね。う〜ん……彼にしては上出来な緊張のほぐし方なのかな?」
「なんでその事を………」
「そんなあなたももう、立派なリーダーですよね。新しい神機使いを導き、皆に慕われている……」
「何が言いたいんだ……?」
「だからこそ、あなたに伝えなければならないことがあります。『アラガミ化した神機使いの処理方法』です」
思わずソファーから立ち上がる。誰もが目を逸らし続けた可能性を、残酷に突きつけられた。
「アラガミ化は、偏食因子の定期的な供給が無くなった結果、オラクル細胞が暴走することで起こる急速な変異現象です」
一語一語が、頭の中に入り込んでいく。
「アラガミ化が進行した結果、二度と人には戻れません。また、人間によって培養されたオラクル細胞は、極めて多彩な変化を遂げる傾向にあり、通常の神機が通用しないことが極めて多い」
心に、体に、重くのしかかっていく。
「そんな、アラガミ化した神機使いの処理方法として、最も効果が高いのは。適合した者にしか扱えないという矛盾を孕むため、確実な対策とは言えませんが……」
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ!
「アラガミ化した本人の神機を使って……」
「止めてくれ!!!!!」
自分でも驚くほどの大音声だった。ピリピリと空気が震える。
しかし、レンはさほど気にした様子もなく、再び口を開く。
「リンドウさんの足跡を辿って、運よく彼に出会えたとしましょう…… もしその時、彼がアラガミ化していたらどうしますか?」
「あなたは、『そのアラガミ』を殺せますか?」
体中から力が抜ける。フラフラする足で、なんとかソファーに座り込んだ。
リンドウさんは命を懸けて俺を助けてくれた。きっと、同じ様な恩を受けた人は何人といるのだろう。そんな人を殺すなんて…… 俺には………
「この世界はいつだって我が儘で、理不尽な選択を迫り…… それが現実として連綿と続いていく。あの時のリンドウさんの選択は、皆を幸せな現実に導いたんでしょうか?」
気がつくと、レンは目の前にいなかった。
このままだと、リンドウさんはかつての仲間に武器を向けられるということだ。
そんな酷な事を、アリサ達に…… サクヤさんができるのだろうか? そして、俺にも………
答えがでないまま、時間だけが過ぎていった。
息抜きに書いてみました。
fate/sweet zero(抜粋)
サーヴァント、マスター、その場にいる全ての者の視線が一点に集まる。黒い魔力の奔流の中、一人のサーヴァントが姿を現した。
闇に溶け込みそうな漆黒のコートを羽織り、精悍とした顔立ちは歴戦の戦士を思わせる。しかし、その眼からは光が消えており、とても正気を保っているようには見えない。
つまり……
「バーサーカー…… なのか?」
ウェイバーが疑問の声をあげる。
肌に纏わりつく殺気は本物だ。間違いなくバーサーカーそのものだろう。
しかし、ステータスを透視してみたが、能力値が異常に低い。ステータスの平均はランクDといった所だろう。理性を無くしてステータスを底上げしている筈なのだが、それを考えてもこれは低い。
バーサーカーのマスターはとんだ貧乏クジを引いたものだ。相当な魔力を喰うにも関わらず、このステータスではどうしようもないだろう。
「ふむ……」
しかし、ライダーは興味深そうに見据えていた。何か思う所でもあるのだろうか?
「おい、どうしたんだよ?」
「分からんか、坊主? あの佇まい…… かなりの場数を踏んでおる。凶化して理性を失ってるというのに、一分の隙も感じられん。なかなかどうして見所がある奴よのぉ」
感心したように呟くライダー。ウェイバーから見たら、ただ棒立ちしてるようにしか見えない。同じ英霊にしか分からないものなのだろう。
しかし、ウェイバーとしては堪ったものではない。今回の聖杯戦争ではアーチャーのように出鱈目な火力を持ったサーヴァントがいるのだ。これ以上厄介な敵ができるなど冗談じゃない。
ここは兎に角、バーサーカーの出方を見るのが最善だろう。目を凝らして、じっとバーサーカーの動きを伺ってたのだが……
「フン、余興にもならん」
アーチャーの燃えるような紅い双眸がバーサーカーに向けられた。本当に興味が失せてしまったのか、冷徹な声色で言い放つ。聞く者が底冷えする程の声色だ。
確かにこの場において、バーサーカーは役不足だろう。アサシンを虫のように屠るアーチャーの圧倒的火力の前では、戦闘経験など意をなさない。その事自体、アーチャー自身がよく分かっている。
「塵は塵らしく、此処から早々に消え失せよ」
アーチャーの背後から剣と槍のような宝具の切っ先が現れる。一つ一つに並々ならぬ神秘が内包されている。
ほぼ同時にそれらが放たれ、真っ直ぐにバーサーカーへと襲い掛かった。次の瞬間、とてつもない轟音が鼓膜を揺らした。辺りに爆風が吹き荒れる。
バーサーカーは倒れたと確信した。いかなるサーヴァントと謂えど、アサシンのような末路を辿るのは目に見えて………
「………なんだ、あれは?」
「……余の見間違いか?」
ライダー達が困惑の表情を浮かべる。その口振りは、まるで信じられない物を見たかのようだ。
一体何を見たのか尋ねようとした時……
「ーーー!!??」
ーー喰われる。
全ての生き物の根源に刻まれた恐怖が甦った。人間が永らく忘れていた感情だろう。体中から嫌な汗が流れる。
隣を見れば、ライダーも顔をしかめていた。この感覚は自分だけではないらしい。
深く息を吐き自分を落ち着かせる。隣に自分のサーヴァントが居なければ、立っていることすら儘ならないかもしれない。
(一体なんで…… そうか!)
ウェイバーは一つの可能性に思い当たる。
そう、宝具だ。仮にバーサーカーのマスターが勝つ気でいるのなら、この局面で現界などさせない。少なくとも自分はそうだ。
しかし、バーサーカーのマスターはこの戦場に現界させた。つまり、バーサーカーがステータス差をひっくり返す宝具を持っているという事だ。それこそ、アーチャーに対抗し得る強力な宝具を……
バーサーカーは黒煙の中に確実にいる。相手の得体の知れなさに、思わず固唾を飲む。
(どれだけ強力な宝具なんだ!?)
そして、黒煙を切って現れたのは……
「「「…………………………………………は?」」」
身の丈はある板チョコを肩に担いだ、バーサーカーだった。