スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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終わりまで突っ走るぜ!
ヒャッハーーー!!

ただ、詰め込み感が半端ない。


四十三品目 決断する、覚悟

エントランスにかなりの人数が集まっている。しかし、リンドウさんが見つかったという訳ではない。

リンドウさんの捜索に勤しむ中、タツミさん・アネットがボロボロになりながらも帰還してきたのだ。俺の記憶だと、任務に赴いたのは四人だった筈だ。そう、ブレンダンさんと…… カノンさんが帰っていない。

 

「……青い人型のアラガミが現れて…… それで、ブレンダンさんとカノンさんが囮になって………私、何もできなくて!」

 

リンドウさんの捜索中に、突如青い人型のアラガミが出現したらしい。アラガミの名は既に割れている。第一種接触禁忌アラガミ『ツクヨミ』。

撤退したはいいが逃げ切れず、結局ブレンダンさんとカノンさんが囮になったそうだ。

 

「アネット……」

 

涙を堪えきれずその場に崩れ落ちるアネット。

ふと、サクヤさんの姿と重なった。理由は分かっている。

囮になって隊員を逃がす…… まるで、リンドウさんの時と同じ状況だ。

 

「心配すんな! あいつらはそんなに柔じゃねえ。きっと上手くやり過ごしてるさ!」

 

タツミさんが明るく励ます。それでも、アネットが泣き止むことは無かった。

 

「ツバキさん…… 俺が行っていいですか?」

 

リンドウさんと同じ結末にする気はさらさら無い。ツバキさんに救援許可を求める。

しかし、ツバキさんは静かに首を横に振った。

 

「腕輪反応の近辺に強力なアラガミ反応がある。おそらく同種のアラガミだろう。単独の救助ではあまりに危険だ。他の隊員が帰還するまで待機するように」

 

運悪く、アナグラには俺以外の戦闘員はいなかった。他の隊員が帰還するまでなんて、到底待つことはできない。事態は刻一刻を争う。今もまだ、カノンさん達はアラガミと戦っているかもしれない。

 

「他の隊員を待つなんて、そんな時間はありません……!」

 

「くどいぞ」

 

しかし、俺の提案はバッサリと切り捨てられた。

 

「なら、私が!!」

 

アネットがすがるように訴えたが、それでもツバキさんの表情は変わらなかった。

 

「それも認めん。貴様はまだ神機使いとして日が浅い。あのアラガミとはまともな戦闘すら困難だろう」

 

「そんな……」

 

「タツミ、貴様も同じだ。その負傷した状態で救援に向かわせる訳にはいかない」

 

「…………ッ!」

 

二人とも悔しそうな感情を滲ませる。しかし、その点に関しては賛成だ。タツミさんは兎も角、まだ新人のアネットを行かせられない。

 

「でも! それじゃあブレンダンさんとカノンさんが……」

 

「………やめろ、アネット」

 

ツバキさんの拳がギリリ…… と、力強く握り締められているのを見逃さなかった。きっと、ツバキさんも気持ちは同じなのだろう。

 

「以上だ。全員、持ち場に戻れ」

 

その言葉を最後に、エレベーターに乗り込んでしまった。しかし、そのまま持ち場に戻れる筈もなく、全員が暫くその場を動けなかった。

 

確かにツクヨミは強力なアラガミだ。『単独で討伐できるか?』と言われても、簡単には頷けない。それでも、今、俺がやるしかない。

 

周りを見渡す。皆と同じ様に、心配そうな表情を浮かべるリッカさんがいた。

 

「リッカさん」

 

「どうしたの? アマト君」

 

「ヘリの操縦、できますか?」

 

「うん…… 多少ならできるけど」

 

………よし、やっぱりできたか。

 

「少し、頼みがあるんです。カノンさん達の腕輪反応がある場所まで運んでくれませんか?」

 

「え!? でも、それは……」

 

エントランスがどよめく。それもそのはず、堂々と命令違反をしようとしてるのだから。

 

「おねがいします……!」

 

リッカさんに頭を下げる。ツバキさんに烈火の如く叱られるだろう。それでも……! 助けられるのは俺達しか………

 

「リッカ…… 俺からも頼む」

 

「タツミさん!? 」

 

突然、タツミさんが俺と一緒に頭を下げた。

 

「タツミさん…… なんで………」

 

「情けねえが、今の俺にあいつらを助ける力はねえ…… だから、お前に懸けてみようと思ってな」

 

「………タツミ、さん」

 

「リッカさん…… 私からもお願いします!」

 

「アネット………」

 

タツミさんとアネットの思いを無駄にする訳にはいかない。このままヘリを出せないようなら、走ってでも腕輪の発信地に……

 

「はあ~……ここまで言われたら、私も一肌脱ぐしかないか……」

 

「……! ありがとうございます!」

 

リッカさんも協力してくれた。これで足は確保した。後は腕輪の反応がある場所へ向かうだけだ。

 

「ツバキさんは俺が何とかする! 頼んだぜ! アマト!!」

 

「アマト先輩、お願いします…… ブレンダンさんとカノンさんを助けてください!!」

 

二人の思いを胸に、ヘリポートまで駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小規模のヘリコプターに乗り、腕輪の反応があったエイジス島へと向かう。

大型のヘリコプターならもっとスピードが出せたのだが、それだと準備の段階でツバキさんに勘づかれるからだ。

エイジス島までの道のりは数十分ほどなのに、この日ばかりは何時間と長く感じた。

 

「ここか……」

 

ようやくエイジス島についた。ホバリングしたヘリコプターからエイジス島を見下げると、遥か下にヘリの着地地点がみえた。

 

「今更だけど、本当に一人で大丈夫なの?」

 

相手はあの『ツクヨミ』だ。リッカさんの心配がヒシヒシと伝わってくる。

 

「………はい」

 

短く返事をし、ヘリコプターのドアを開ける。

着地する時間ですら今は惜しい。神機を片手にそのまま飛び降りた。

 

「アマト君!?」

 

落下しつつ神機をGEケーキに変型させる。地面に叩きつけられる寸前にトリガーを引いた。銃弾が放たれた衝撃により、落下の速度が緩和される。そのまま難なく地面に着地した。

今回ばかりは、こんなバカな事を発案したコウタに感謝した。

 

急いでエイジス島の内部に侵入した。半壊した状態なので苦労したが、休んでる暇はない。

途中、点々と続く血の跡を見つけた。その間隔はどんどん狭くなっていく。つまり、どちらかが重傷という事だ。

血の跡を追って走り出す。嫌な予感がして仕方がない。

 

「ブレンダンさん……!?」

 

「…………ッ! アマトか」

 

壁に背を預け、すでに息絶え絶えのブレンダンさんがいた。その傍らには血に濡れた神機が転がっている。

急いで駆け寄って怪我の状態を確認する。

 

「よかった…… 命に別状はなさそうです。急いでアナグラへ……!」

 

ブレンダンさんの肩を担ごうとしたその時、何故か俺の腕を振り払った。

 

「いや! 俺の事はいいッ!! それよりもカノンがこの先でアラガミと……!」

 

「!!」

 

「頼む…… カノンを救ってくれ………」

 

「はい……!」

 

その言葉を聞いた瞬間、最悪のビジョンが頭に浮かんだ。第一種接触禁忌アラガミ『ツクヨミ』と、遠距離型神機のカノンさんが一人で戦えばどうなるだろうか。

足に一層力を入れる。頼む、間に合ってくれ……!

 

「焼け焦げな!!」

 

「カノンさん!!!」

 

エイジス島の中心に辿り着く。そこにはツクヨミと必死に応戦するカノンさんがいた。凶暴な性格に変わっているが、それでも心底安心したような表情を浮かべてくれた。

 

「アマト!!」

 

その一瞬が隙になったのか、疲労で動きを鈍くしたのか分からない。

 

槍のような青い腕が

 

カノンさんを

 

貫いた……

 

「………………あ」

 

思わず間の抜けた声が口からこぼれる。

ゆっくり…… ゆっくりと時間が過ぎていく。そのままカノンさんは真っ赤な血の中へと沈んでいった。

 

「…… アマトさん…………」

 

倒れる瞬間、そんな声が聞こえた気がした。

 

その声で一気に我に帰る。ツクヨミまで数歩で接近し、その華奢な体にGEチョコを渾身の力で叩きつけた。

 

「邪魔だ!!」

 

怯んだ所で空かさずスタングレネードを発動させた。眩い光の中、カノンさんを担ぎ急いで撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物陰に身を隠す。カノンさんの傷口はかなり深い。俺の神機や治療キッドを駆使してなんとか応急処置を終えたが、それでも予断を許さない状況だった。

 

「夢じゃないんですね…… よかったあ……」

 

弱々しい口調のカノンさん。救えなかった罪悪感からだろうか、心がキリキリと締め付けられる。

 

「ごめんなさい…… 私、アマトさんのことを言えないですね………」

 

「ッ! 喋らないで!」

 

「帰ったら、また…… 一緒にお菓子を作りましょう。それに…… お菓子の家、楽しみにしてたんですよ………」

 

「ええ……! 俺も、ずっと楽しみでしたよ……! だから…… だから!」

 

カノンさんの冷たい手が、そっと俺の頬に触れた。

儚い微笑みを浮かべた後、ゆっくりと、その手が落ちていった。

 

「カノンさん……!」

 

気づいたら、一筋の涙が伝っていた。涙なんて…… もう枯れていると思っていたのに。

 

「………殺す」

 

アレだけは生かしておけない。カノンさんの苦しみを味あわせてやる…… 手足がもがれようと、絶対に殺しきってやる!

 

「あああああああああ!!!」

 

ここまでの疲労など、まったく気にもならなかった。叫びながら、ただただ走った。

 

「■■■■!」

 

俺の声を聞きつけてか、ツクヨミが現れた。俺達を捕食しようと現れたのだろう。

逆だ。お前は俺に喰らい尽くされる為に現れたんだ。

いや、まだ生温い。跡形もなくグシャグシャに叩き潰してやる。なんの意味もなく、無惨に、惨めに、消えていけ……!

 

「うあぁあああぁぁあ!!!!」

 

たった一つの感情に身を任し、GEチョコを振るう。ツクヨミの攻撃などどうでもいい。吹き飛ばされようものならば、また立ち上がるだけだ。

 

「ぐッ……!!??」

 

体を酷使しすぎたのか、思うように動かない。それでも、俺はツクヨミと戦い続けた。

ツクヨミの足にGEチョコを叩き込む。これまでのダメージが積み重なった結果か、簡単に膝をついた。

ーーここでお前を終わらせる。

神機をGEケーキに変型し銃口を頭に突きつけ、そのまま地面へと押し倒した。

 

「消えろ………!!!」

 

一心不乱にトリガーを引いた。銃音が何度も、何度も響き渡った。

OP(オラクルポイント)が尽きたのか、これ以上銃弾が放たれることは無かった。

 

「………」

 

原形が無くなるほどツクヨミの肉体はボロボロになっていた。

感じることは何もない。ただ茫然と、ツクヨミだったものを見るだけだった。

 

フラフラとした足つきでカノンさんの元へと戻る。そこには、まるで眠っているように横たわるカノンさんがいた。

あんな事をしても、カノンさんが戻ってくる訳でもないのに。もう一度その声を聞ける訳でもないのに。

気づくのが遅すぎた。本当に、本当にバカだな、俺は………

 

 

 

 

「………あの、アマトさん?」

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ゑヱ?」

 

「…………ええっと、一日中逃げ回っていたから…… その、眠くてしょうがなかったんです……… アハハ…… 心配かけました………」

 

衝撃の事実に、一瞬で脳がフリーズした。

確かに俺が確認しなかったのも悪いけど、え……? 眠ってたただけ……?

 

「バタンキュー」

 

目の前が急に、真っ暗になった。

 

「ご、ご、ご、ごめんなさ~~い!!! アマトさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カノンさんとブレンダンさんの救出後、さっそくツバキさんに呼び出された。

説教2時間コースを覚悟していたが、返ってきたのは意外にも激励の言葉だった。ガッツポーズをとったらファイルの角で殴られた。痛い。

 

エントランスに出向くと、沢山の人が集まっていた。称賛やら無茶しすぎやら色々と言われたが、アネットが涙目で抱きついてそれも静まった。

コウタが羨ましそうに見てるが、全っ然分かっていない。アネットは巨大なハンマーを扱う神機使いだ。その腕力は半端ではない。

つまり………

 

『バキリッ!!!』

 

「骨が逝かれたッ!!??」

 

毎度恒例の病室で目覚めたのは言うまでもないだろう。因みに、隣のベッドではカノンさんが寝ている。一緒に世間話やスイーツ作りの話をして満喫していた。

 

「えへへ…… 私、アマトさんが隣に居てくれて嬉しいです………」

 

「本当はお見舞いとして隣に居たかったんですけどね」

 

まさか味方に病室送りにされるとは夢にも思わなかった。今アナグラでは、『アネットが抱きつくと背中がバキ折られる』という話題で持ちきりだ。

 

「でも、こっちの方が沢山お喋りできますよ?」

 

「カノンさん…………」

 

優しい笑みを浮かべるカノンさん。やっぱり俺の癒しはお菓子とカノンさんだけ………

 

「………う"ぅん!!」

 

「○@♯♭∀♂¥!!!」

 

「「あ」」

 

向かいのベッドでは、ブレンダンさんが気まずそうに咳払いをしていた。そういや居るのを忘れてた……

髪を揺らしながら発狂してる人には触れないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあ…… カノンさんとブレンダンさんが帰ってきたことにより、俄然リンドウさん捜索に気合いが入っている。

みんな、朝から晩までリンドウさんの捜索に精をだしていた。

カノンさんとブレンダンさん、ついでに俺の怪我もバッチリと回復し、リンドウさん捜索の任務に戻っている。

これだけ必死に探しているんだ。見つかるのも時間の問題だろう。

 

「アマトさん……」

 

「うお!?」

 

ベテラン区画の廊下を歩いていたら、後ろからいきなり声をかけられた。思わず声をあげてしまったが、周りに人はいないみたいだ。白い目で見られなくてすむ。良かった。

 

「レン……」

 

振り返ると、案の定レンがいた。人の後ろで実体化するのはやめてほしい。

 

「まずいことになりました………」

 

そう言って、いつになく哀しそうな表情を浮かべるレン。そこから、最も恐れていた可能性に行き着いた。

 

「………まさか!」

 

「……はい、間に合いませんでした」

 

ーー間に合わなかった。

つまり、リンドウさんのアラガミ化が引き返せない所まで進行したということだ。

ドクリッ! と脈拍が跳ね上がる。無意識に思ったのだろう。俺達が、彼を殺さないといけない……と。

 

「タツミさん達の元へ行ってあげてください。分かるんです。今、彼が何処にいるのかを。そして、何をしようとしてるのかを……」

 

「タツミさん達を…… 殺そうとしてるのか?」

 

「……リンドウは、捕食欲求に任せて仲間を喰らうでしょう。今、かなり近い距離にいます」

 

リンドウさんを…… 殺さないといけないのか?

命の恩人を……?

 

「~~~っ! くそ!!」

 

迷ってる暇はない。タツミさん達がいるのは工場の跡地だった筈だ。確か、コンゴウ二体の討伐だった気がする。

それなら車の方が早い。部屋でバガラリーを観てたコウタ辺りに運転させよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄塔の森をひたすら駆ける。どんどん血の匂いがキツくなってきた。そこにはコンゴウ二体の死骸に、黒いハンニバルがいた。

まさか……… あれがリンドウさんなのか?

 

そう思っている暇もなかった。ハンニバルの振り抜いた拳が、タツミさんへと襲いかかる。

装甲を展開して辛うじて防いだが、あまりの威力に吹き飛ばされた。

ダメージは無さそうだ。しかし、ハンニバルの左腕は既に振り上げられている。

 

「させるか……!!!」

 

「っ!? アマト!!」

 

タツミさんを飛び越え、黒いハンニバルと相対する。普通のハンニバルとは比べ物にならない程のプレッシャーだった。

左腕が俺に向かって迫る。反射的にGEキャンディーを展開した。

 

「ガアアァアァアアァアァア!!」

 

「くっ!!?」

 

腕に激しい衝撃が襲う。その瞬間、目に写る世界の色が反転した。

まただ…… これは、感応現象だ……!

 

 

 

ーーザザザザザ、ザザ……!!

 

降り頻る雪の中、ひたすらに歩き続けていた。いつものように客観的な視点でなく、リンドウさんの目を借りてるかのような視点だった。

 

『くっ……はぁ……はぁ……』

 

頭の中に、リンドウさんの辛そうな声がハウリングして聞こえる。

 

『……ここは、どこだ……俺は、何だ……?』

 

アラガミのような腕には、何故か鎖が巻き付けられていた。

 

『うぐっ……アラガミ、か?』

 

視線の先には、オウガテイルを捕食しているプリティヴィ・マータがいた。

突然、視界が赤くなる。気づいたらもう、プリティヴィ・マータは血の海の中に臥せていた。

神機も無いのにいったいどうやって……!?

 

『ああ……眠いな……』

 

掲げた手には、神機のような何かが握られていた。まるでシオを彷彿とさせる武器だった。

成る程。これでプリティヴィ・マータを倒したのか。

 

 

 

ーーーザザ、ザザザ……ザザザザザ!

 

ここは鉄塔の森か…… 待て、あれはコンゴウ二体にタツミさん達じゃないか!?

 

『アラガミかあぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

初めて聞いたリンドウさんの叫び声。それと同時に、コンゴウに向かって走り出した。

 

『よくも仲間を……うおぉぉぉぉぉ!!』

 

黒い腕を振り払い、コンゴウを壁へと叩きつける。もう一体はそのまま地面へと吹き飛ばされた。

信じられない。たった一撃でなんて威力だ……!

 

『他の奴らは何やってる!?……ちぃっ、浅いか!』

 

吹き飛ばされたコンゴウが、震えながらも何とか立ち上がろうとしていた。

 

『邪魔くせぇんだよっ!!』

 

その瞬間、宙へと跳んだ。

 

『くたばれぇぇぇぇぇ!!』

 

コンゴウの首に目掛けて、鋭い爪を突き刺す。血を吹き出しながらコンゴウは動かなくなった。

 

『お前らさえいなければ……!! どこだ……全員無事か!?』

 

あまりの異常事態に、完全にフリーズしていたタツミさん達が写った。その瞬間、リンドウさんの爪がタツミさんへと迫る。しかし、バックステップをしてかわしてくれた。

リンドウさんの意識はまだあるはずだ……! いったい、どうして?

 

『うっ!? うあっ!? 何なんだ! やめろっ!』

 

まさか、体の操作が効かないのか!?

 

『避けろっ! 避けてくれ、頼む!!』

 

振り抜いた拳が、タツミさんの装甲を捉える。

 

『早く逃げろ!! ウロチョロしてんじゃねぇ!!』

 

その思いとは裏腹に、右腕はもう振り上げられていた。それじゃあ…… ここで俺が来るのか?

 

『甘い匂い!? ……アマトか!!』

 

…………甘い匂い? いや、どうでもいいか。

俺が目の前に立ち塞がり、GEキャンディーでその右腕を受け止めた。

………自分の事だけど、違和感が半端ないな

 

『うおぉぉぉぉぉ!! 止まれぇぇぇぇぇ!!』

 

 

 

ーーーザザザザ……プツンッ………

 

現実へと引き戻される。黒いハンニバルはゆっくりと拳を放し、背を向けて何処かへと去っていった。

 

「すげえ…… 追っ払ったよ………」

 

「ふぅ…… 助かったぜ………」

 

「おい、アマト。大丈夫か?」

 

やっぱりアレはリンドウさんなのか……

まだリンドウさんの意識はある。でも、あの状態じゃあもう……

どうする……? どうすればいいんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井の照明がエントランスを不気味に照らす。

外はもう暗闇に包まれてる。起きている人も俺くらいだろう。ソファーに座りながら何とはなしに天井を見る。

 

黒いハンニバルの噂はすぐに広まった。これまでのアラガミが霞んで見える程の危険なアラガミだと……

幸か不幸か、あれがリンドウさんだと誰も気づいていない。しかし、襲われたタツミさん達は口を揃えてこう言った。『あのアラガミは、俺達を知っている』と……

ばれるのも時間の問題だ。

 

「こんばんは、アマトさん」

 

「………レンか」

 

チラリと目をやると、俺の真ん前にレンが佇んでいた。

 

「……すでに感応現象を通じてお気づきかと思いますが、あの黒いアラガミは、まぎれもなくリンドウです」

 

「………ああ、そうだな」

 

そんな事は分かっている。そのせいでこんな時間まで悩んでいたからな。

 

「アラガミ化した神機使いに決定的な有効打を与えるものは、自らの血肉を分けた…… 『本人が使用していた』神機が最適です」

 

「………」

 

淡々と言葉を紡いでいくレン。しかし、不思議と落ち着いて聞いていられた。

 

「そして今、その事実を知っていて、なおかつ『リンドウの神機』を『比較的安全に』扱える可能性があるのは唯一…… あなただけです」

 

「そうか……」

 

「はい……つまりあなただけが、あの『リンドウだったモノ』を倒せるんです…… その上で、かつて尋ねた質問ですから一度しか聞きません」

 

まるで俺を試すかのように、レンが口を開いた。

 

 

 

ーーあなたは、あの「アラガミ」を殺せますか?

 

 

 

その言葉がずっと俺を悩ませていた。でも、答えは既に出している。

 

「覚悟はある」

 

「………そうですか」

 

満足そうでありながら、どこか悲しい表情を浮かべるレン。勘違いさせないように、更に言葉をつけ加える。

 

「ただ、どちらを選ぶかの覚悟だ」

 

「…………?」

 

「リンドウさんと戦った時…… その時に出た答えに、自分の心に従おうと思う。その方がきっと、後悔をしないはずだ……」

 

「そうですか………」

 

先程の表情とは一転、レンの表情がキッと引き締められた。

リンドウさんから始まったこれまでの事件。いよいよだ。いよいよ全てに決着をつけれる。

 

「先程言った通り…… 彼を倒すには、彼の神

機が必要です。誰にも見られないように、気をつけて持ち出して下さいね。リンドウの神機を無断で持ち出すあなたを見たら、きっと皆必死で止めるでしょうから……」

 

「お菓子を持ってっていいですか?」

 

「300Fcまでですよ……って、変なこと聞かないでください」

 






fate/sweet zero(抜粋)


 遠くで羽ばたいている鳥の鳴き声がやけに響く。違う意味の静けさが湾岸区のターミナルコンテナを支配していた。
 誰も動かない。いや、動けない。全員の目が点になっている。宝具の得体が知れない以上、ある意味迂闊に動けなかった。
 しかし、奇しくも原因であるバーサーカーだけは狂気に染まった目でアーチャーを睨み付ける。
 バーサーカーだけは妙に殺る気のようだ。しかし、その板チョコが否応なしにメルヘンな空気へと塗り替える。
 その空気に堪えきれなくなったのか、ウェイバーがプルプルと震えている。そして、空に向かって魂の声を叫んだ。

「な ん で 板 チ ョ コ だ よ !!!!!!!」
「まあまあ、落ち着け」

 ライダーが『やれやれ……』といった感じで真っ赤になったウェイバーを宥める。バーサーカーには理性がないので何を言っても無駄だろう。現に、ウェイバーの方を見向きもしない。
 しかし、これで黙っているのは無理な話だ。喩え無駄だとしても言わなければいけない。少なくとも、セイバー達はウンウンと頷いてくれた。
 英霊といえども思いは一つなのだろう。

「いやだって…… 食べ物が宝具ってどういうことだよ!!??
あれで戦場を駆け抜けたってことだよな!?
そんなもんシュール過ぎるわ!!
そもそもアーチャーの宝具をあれで防げるわけ……」



「ハーッハッハッハッハッハ!!!」



 ウェイバー渾身のツッコミは、アーチャーの高々とした笑い声に遮られた。心底楽しそうな唯の笑い声の筈なのに、背筋が凍るような感覚を覚える。
 理由は単純、アーチャーの顔が狩人のそれに変わっていたからだ。あたかも、珍しい獲物を見つけたかのように……

「面白い! 面白いぞ、狂犬!! そのゲテモノでどこまで足掻けるか、この我に見せてみろ!!」
(ゲテモノ…… バーサーカーの宝具のことか)

 アーチャーが両手を広げる。それを合図に、背後から数多の宝具が出現した。どれも規格外の魔力と神秘を内包している掛け値のない超一級の宝具だ。
 ーーサーヴァントの切り札と呼べる宝具があんなにも。
 誰もが驚愕の表情を浮かべる中、バーサーカーはその黒いで双眸でアーチャーだけを睨み付けていた。

「■■■■■■!!!」

 バーサーカーの雄叫び口火を切り、いよいよ宝具が放たれた。ビリビリと空気を震動させ、バーサーカー目掛けて飛んでいく。
 それも一つや二つじゃない。先程とは比べ物にならない圧倒的物量だ。
 それでも、ウェイバーが食い入るようにバーサーカーを見詰めていた。結構ボロクソ言ってたが、バーサーカーがこのまま倒されるとは思えない。一体、この状況をお菓子宝具でどう切り抜けるのだろうか?
 一方、バーサーカーは慣れた手つきで宝具を弄っていた。次の瞬間、機械的な音が響いたかと思うとその手にはーーーー板チョコではなく、巨大なケーキが握られていた。
 耳をつんざく轟音が鳴り響く。
 しかし、アーチャーの宝具が引き起こした爆発音ではない。バーサーカーの宝具であるケーキからだ。ケーキから武骨な銃弾が放たれたのが原因だった。要は銃声音だ。
 アーチャーの宝具を遮るように、無数の銃弾が織り成す弾幕が形成される。その弾幕を掻い潜る事は叶わず、アーチャーの宝具は全て空中で爆発した。
 ケーキの先端に銃口のような物が覗いていた。しかも、硝煙が上がっている始末。ケーキから現代兵器の銃弾が放たれてると、認めざるを得なかった。

「ハハハハハ!! いいぞ、狂犬! 足掻け、足掻け!!」
「何処までも飽きさせぬ! 面白い奴よのお! うーん、余の軍門に下らせたくなってきたぞ!!」
「「「…………………………………………」」」

 アーチャーとライダーは心底楽しそうだが、周りとの温度差が半端なかった。正直、何が起きているのか理解できない。
 なんかもう、開いた口が塞がらなかった。

(なんでケーキから銃弾が? そもそも現代の英霊なの? いや、だったらもっと有名だろう。ていうか、お菓子の必要性はあるのか?)

 頭の中に浮かんだ疑問は次々と浮かび、消えることなく永遠にとどまり続ける。
 もう面倒になり、バーサーカーの宝具についてウェイバーは考えるのを止めた。
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