スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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ラストが近くなってきた……


四十四品目 生きることから、逃げるな

崩壊したエイジスの中心部。

高台の上には、拳に紫色の炎を纏わせかがら天に吼えるハンニバルがいた。まるで、これから始まる死闘の火蓋を切るように………

 

「グゥオオオオオ!!!!」

 

右手には甘い匂いが漂う『GEチョコ』が握られている。言わずと知れた俺のアイデンティティーだ。こんな見た目だが、一緒に数々の修羅場を潜り抜けてきた相棒だ。

 

左手には血を彷彿とさせる紅に染まった神機『ブラッドサージ』が握られている。チェンソーのようなその刃が、神機の屈強さを窺わせる。

 

「アマトさん…… ここから先、僕には何もできません。リンドウを、お願いします」

 

隣では、相変わらず無表情のレンがハンニバルを見上げていた。

今、レンの心の内はどうなっているのだろう……

 

「さあ、来ますよ!」

 

ハンニバルが鋼板へと降り立つ。しかし、何処か様子がおかしい。ピクリとも動かない。その姿はまるで、体の自由を奪われたようだった。

 

「………!?」

 

紫色の炎を渦巻かせながら、ハンニバルがゆっくりと浮かび上がる。

 

『うぅ……』

 

「リンドウさん!!」

 

ハンニバルの胸部には、痛みに顔を歪ませるリンドウさんの姿があった。ボサボサの黒い頭髪、埃だらけの隊長服…… 無事とは言い難いが、それでも確かに生きていた。

 

「やっと…… やっと会うことができた………」

 

どれだけ…… どれだけ探し求めていたことか………!!

 

「今ですよ……」

 

レンの声で戦場に引き戻された。浮かれていた心に冷水に打ち付けられたような感覚だった。横に目をやると、レンがブラッドサージにそっと手をかけていた。

 

「これを逃すと…… もう、倒せないかも知れない……」

 

「……ああ。多分、リンドウさんがハンニバルの動きを止めているんだろうな」

 

正直、黒いハンニバルを倒せる自信はあまりない。倒すなら今しかないだろう。

レンが力強い目でリンドウさんを睨む。

 

「さあ…… この剣を、リンドウに突き立てて下さい」

 

その時、リンドウさんが目を開いた。しかし、その瞼は直ぐにでも閉じてしまいそうだ。

 

『うぅ……うぁっ! ……ぐぅ……俺のことは……放っておけ……!』

 

「………!!」

 

『立ち去れ……早くっ……!』

 

俺の事を知ってか知らずか、言葉を続けるリンドウさん。

 

『もう俺は…… 覚悟は出来てる…… 自分のケツは…… 自分で、拭くさ』

 

その言葉には、諦めの色が見えていた。

 

『ここから、逃げろ!! これは……命令だ!!』

 

ハンニバルが徐々に動き出す。リンドウさんの制御を離れ、解き放たれるのも時間の問題だった。

気持ちを鎮めるため、一つ大きく息を吐く。そろそろ、決断しないとな……

 

「………俺が甘党なの、知ってるよな」

 

「……? そんなの、周知の事実ですよ」

 

「だよな……」

 

………ああ、そうだ。やっぱり俺は、甘党だ。

 

「苦々しい結末ってのはどうにもダメだな。やっぱり、甘ったるい方が性に合っている」

 

「………まさか!」

 

「そうさ…… リンドウさんを、救ってやるよ!!」

 

リンドウさんを助ける覚悟を固める。どうなるのかは分からない。それでも、『出来るか、出来ないか』じゃない。『やらなきゃいけない』んだ!

リンドウさん……! 神機、使わせてもらいます!

 

「ぐがぁぁぁあぁあぁぁああぁぁぁっ!!?」

 

他人の神機を使おうとした代償か、左肘までがアラガミの腕のように変わった。同時に、尋常じゃない痛みも襲う。

まだ、負けられない………! 戦わないと…… 伝えないと……!

 

「……逃げるなあぁぁぁっ!!!」

 

腹の底から、力の限り叫んだ。

 

「生きることから……逃げるなっ!! これはっ……『命令』だ!!!」

 

こんな理不尽な世界でも、自分から死んでいい理由にはならない! シオが命を懸けて繋いでくれた世界なんだ!

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

二つの神機を構え、ハンニバルに向かって全力で駆けた。鋼板を蹴り、一直線に跳んだ。

 

「グゥオオオオッッ!!!」

 

ハンニバルの右拳が俺に迫る。コンゴウを一撃で沈めた攻撃をくらったら、ひと溜まりもないだろう。だが、このまま突っ切る!

空中で体を捻り、体が半回転する。そして、世界も反転した。

俺を打ち抜こうと放たれた拳が背中ギリギリで空を切る。風圧が半端ない。危なかった……

 

自然と元の姿勢に戻る。眼前には、ハンニバルが口を大きく開いている姿があった。

さあ、勝負はここからだ。どうなるか分からないがやるしかない!

 

二つの神機を口の中に突っ込み、動きを封じた。少し嬉しそうな顔をしたのは気のせいだと信じたい。

そのまま渾身の力を込めて、上顎と下顎を引き離した。歪な音をたてながら、その亀裂はどんどん広がっていく。

 

(見えた!!)

 

赤く染まった血肉の中、黒く煌めくハンニバルのコアがあった。

最も原始的なアラガミの撃退方法である、コアの直接破壊。どんな結果をもたらすかは分からないが、やってみる価値はあるはずだ。

 

「はああああっ!!」

 

ブラッドサージを手放し、アラガミのような左腕をコア目掛けて思いっきり突き刺す。

その瞬間、何故か意識が遠退いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、何もない真っ白な空間が広がっていた。確かハンニバルと戦って、コアを探し出してぶん殴った筈だ。そういえば左手も元に戻っている。

それにしても随分と現実感の無いフワフワとした場所だ。ここは一体どこだ?

 

「ようこそ、僕の思い描いていた結末から遠く離れた場所へ」

 

隣には呆れた顔で佇むレンがいた。

 

「レン…… ここはどこなんだ?」

 

「うーん…… 言うならば、リンドウさんの深層世界ですかね。今、その中に僕達二人の意識も共有されてるんです」

 

「リンドウさんの意識の中……」

 

「まったく…… あのままリンドウさんに神機を突き立てれば全て終わったものを………」

 

「言っただろ? ビターな結末は嫌いなんだ」

 

「そうでしたね…… 流石はスイーツイーターです」

 

頬を僅かに上げて微笑む。

 

「ここまで来たのなら、僕も最後まで付き合いますよ」

 

一段と眩い光が放たれる。思わず目を瞑り手をかざす。やがて目を開けると、ディアウス・ピターと戦ったいた教会に立っていた。

壊れたステンドグラスからは明るい夕日が差し込んでおり、出口となる通路は瓦礫で完全に塞がれている。

 

「リンドウはここでずっと、自分の中のアラガミと戦い続けてきたんですね……」

 

体を屈ませ、リンドウさんの頬に手をかける。リンドウさんの閉じていた瞼がゆっくりと開いた。

 

「……あ……? お前、誰だ…… うぐっ!」

 

痛みで悶えるリンドウさん。

 

「つれないね、リンドウ…… せっかくの再会なのに台なしじゃないか……」

 

スクリ…… と立ち上がり俺と向き合う。その顔はどこか決意した顔のようにも見えた。

 

「アマトさん、お願いします。彼にもう一度、戦う力を与えてやって下さい……」

 

そう言った瞬間、レンから強い光が発せられた。あまりの眩しさに再び目を閉じる。

何で光るんだ…… まさか、進化でもするのか!?

光が弱まるのを感じ、目を開ける。待っていたのは進化したレンではなく、リンドウさんの神機『ブラッドサージ』だった。左手に握られているソレは黄金色に輝いていた。

 

「そうか…… レン、お前は………」

 

そう…… レンの正体はリンドウさんの神機だ。俺にしか見えなかったのも、初陣の時を知ってるのも納得できる。

 

「何だ、今のは……」

 

リンドウさんが立ち上がる。なんだ…… 全然元気そうだな……

 

「おう、アマトか…… まったく、呆れたやつだ。こんな所まで追って来やがって……」

 

不敵な笑いを浮かべながら頭を掻くリンドウさん。まったく…… それはこっちの台詞だ。こんな所まで迷子になるなんて……

 

「迷子の誰かさんを探してたらこうなっちゃいましたよ。ホールケーキ三つ、奢ってもらいますからね。その位じゃないと割にあいません」

 

「うげぇ…… 俺の財布が氷河期に突入するな、こりゃ……」

 

リンドウさんへと神機を差し出す。そして、苦笑いをしながら受け取ってくれた。

 

「……お前のでかい声、ちゃんと聞こえてたぞ?」

 

『ブラッドサージ』を軽く振るい、馴れた手つきで肩に担ぐ。虚空を切り裂く音が、心なしか喜んでいるように聞こえた。

 

「『生きることから逃げるな』か……覚悟が出来てなかったのは俺の方だったな」

 

「勿論、覚悟はできましたよね?」

 

「ああ、誰かさんのお陰でな。さあて、早速生き抜くために格好悪く足掻いてみるとするかぁ!」

 

いつもの雰囲気に戻ったリンドウさんが上を見上げる。そこには、割れたステンドグラスから差し込む夕日を背に、黒いハンニバルが天に向かって吼えていた。

その姿は、絶対にリンドウさんを逃がさないという意思が感じられた。しかし、今更怖じ気ついたりはしない。ここまで来たからには、二人で生きてアナグラへ帰る!

 

「スイーツイーター。背中は預けたぜ」

 

「了解です、リンドウさん」

 

ハンニバルに向かい歩き出す。夕日に照らされた大きな背中。それは後ろから見続けるだけの背中じゃない。今はもう、護る為の背中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥオオオオオ!!!!」

 

ハンニバルが拳を振るう。バックステップでそれを躱し、そのまま拳は空を切った。

体勢が崩れた瞬間に接近し、空かさずGEチョコを袈裟懸けに振るう。

 

「ギュアアア!!??」

 

頭部に叩き込まれた斬撃は、ハンニバルの角を叩き折った。痛みからか、はたまた激しい憎しみからか、辺り構わず暴れまわる。

流石に追撃は無理と判断し、急いでその場から飛び退いた。

 

「お前、見ない間に随分と腕をあげたんじゃねえのか?」

 

リンドウさんが感心したように呟く。

 

「まあ、ずっとリンドウさんの仕事を請け負ってましたからね。特にサカキ博士のを……」

 

「そりゃまた御苦労さん。だが、踏み込みがまだまだ甘いぜ」

 

紫に燃え上がる炎の輪がハンニバルの口から放たれた。GEキャンディーを展開した直後、大きな爆発が生じた。吹き飛ばされぬよう足腰に力を込める。

しかし、リンドウさんは違った。大きな跳躍を披露してソレを飛び越えた。難なく着地し、風のような疾さでハンニバルに接近した。

 

「らあっ!!」

 

体を後ろに捻り、横一閃にハンニバルの顔面を斬りつけた。しかし、敵もさるもの、怯む事なく三爪をリンドウさん目掛けて走らせる。

 

「っと……!! とんだじゃじゃ馬だな」

 

そう言いながらバックステップで躱す余裕のリンドウさん。流石はベテラン神機使いだ。十年という経験は伊達じゃない。俺も負けてはいられないな。

 

「ギュオオオオオ!!!」

 

ハンニバルが床に左手をつく。側転してリンドウさんから離れようとする気だろう。

 

「はあっ!!」

 

このまま逃がす気はない。地面を蹴り宙に舞う。重力に任せて落下していき、ハンニバルの左の掌にGEチョコの切っ先を向ける。

 

「ギュオオオオオ!!!??」

 

全体重を乗せた一撃は、ハンニバルの手を貫通し下の地面にまで食い込んだ。研ぎ澄まされた一撃はハンニバルを地面へと縫い付ける。

必死に暴れて抜け出そうとするが、もう遅い。お膳立ては充分だったようだ。

 

「リンドウさん! お願いします!!」

 

ハンニバルの背に佇んでいたリンドウさんが、長い首に神機の刃を当てる。

 

「じゃあな、俺の事は諦めな」

 

不敵な笑みを浮かべて、鈍い音をたてながらハンニバルの頭が地面に落ちた。そのまま倒れ込み、黒い底無し沼のようなものへ吸い込まれていく。

 

「っとと…… 俺まで吸い込まれちまう」

 

慌ててハンニバルから飛び降りるリンドウさん。次の瞬間、ハンニバルの肉体は闇に吸い込まれていった。

 

「………終わりましたね」

 

やっと倒したか…… かなりの強敵だったな。リンドウさんが居なかったらどうなってたことか。

戦いの終結を確信し、神機の刃を下ろす。

 

「いいや…… そうでもねえみたいだ」

 

しかし、リンドウさんは神機の構えをとかなかった。気づいたら、闇がどんどんと俺達の周りを侵食していた。思わず一歩づつ下がってしまう。

くそ…… まだ終わらせないってか………

 

「全く、俺も厄介なやつに好かれちまったもんだなぁ……」

 

「………チョコみたいだけど不味そうですね、あの液体」

 

思うに、カカオ150%の激苦チョコレートだな。これを食う気はないが。

 

「ハハ、その通りだな。まぁ、お前が出した『命令』だ!とことん付き合ってもらうぞ!」

 

「あたりまえですよ」

 

空気が変わった。教会中が揺れ動く。まるで巨大な何かが下で蠢いてるようだ。神機を構え、動きが止まった泥を睨み付ける。

 

「ガアアァアァァアアァァアッ!!!」

 

轟音と共に黒いハンニバルが現れた。しかも、サイズが尋常じゃない。上半身だけだが教会の半分を埋め尽くす程だった。

ハンニバルが両手を広げる。そして、俺とリンドウさんを挟み潰そうと腕が迫った。

 

「ぐうっ!!??」

 

「があっ!!??」

 

それぞれ装甲を展開して腕を止める。サイズがでかいだけあり、とんでもない威力だ。これ以上押し潰されないようにするだけで精一杯だ。

 

「………! リンドウさん、何か来ます!!」

 

ハンニバルの口から紫の炎が溢れだすのが見えた。口を開くと、大きな剣を型どった炎が俺達に向かって放たれた。

あれに貫かれたら唯じゃ済まない。しかし、このまま避けるのは不可能だ。

それでも……!

 

「俺達は………」

 

「絶対……」

 

「「生きて帰る!!」」

 

次の瞬間、俺とリンドウさんの神機が光だした。装甲を残したままGEチョコとブラッドサージだけが宙に浮き、俺達の身代わりとなるように紫の剣が突き刺さる。

 

「それでいいんだ、リンドウ」

 

「ったく、世話が焼けるぜ」

 

次の瞬間には、神機はレンと見知らぬ少女に変わっていた。二人とも光輝き、両腕を広げ、胸は紫の剣に貫かれている。

 

「お前は、俺の……!」

 

「リンドウ……やっとまともに話せたね」

 

初めて聞いた心から嬉しそうな声だ。

 

「今まで伝えられなかったけど、これだけは伝えておきたかったんだ……」

 

ぽつりぽつりと語り始める。

 

「僕は、全部覚えてる…… 君の初陣の時の緊張も、救えなかった人達への後悔も、戦い続ける日々の苦悩も…… そして、愛する人たちを救うために、別れる覚悟を決めたことも……」

 

それは、リンドウさんと戦い続けた十年間の思いだった。

 

「リンドウと一緒に戦った日々は、僕の誇りだよ…… ありがとう」

 

「……ああ、俺もだ。神機使いになってからずっと俺を救ってくれてたんだな…… ありがとう」

 

その思いが伝わったのか、リンドウさんもゆっくりと微笑み返した。

 

「充分だよ…… その言葉で、充分報われた……」

 

レンが体を丸めると再び光だした。目を開けると、黒いハンニバルは消え去っていた。残ったのはリンドウさんの前に立ったレン。そして、俺の前に立っている少女だった。

 

ウェディングケーキを型どった服を着ており、チョコレートのような鮮やかな黒のロングヘアーで、その上には苺の帽子をつけている。

うん、連想できるのはアレしかない。

 

「よお…… アマト」

 

「お前、俺の神機だろ」

 

断言できる。お菓子を全部賭けてもいい。

 

「その通りだ。アマト…… 私もおめえに言いてえ事がある」

 

どこかシリアスなトーンで話す俺の神機。固唾を飲んで次の台詞を待ち構える。

 

「………なんだ?」

 

そして、重々しく口を開いた。

 

「初恋ジュースってのも旨そうだが、極甘ジュースを飲ませてくれねえか? 頼むよ、かけるだけでいいんだ!」

 

…………え?

 

「それ、今言う?」

 

死ぬほどしょうもない。しかし、ずっと真面目な表情だ。

 

「どうなんだ!?」

 

「はは、相変わらずだね。貴女は」

 

レンが呆れながらも優しく微笑む。まさか、いつもこんな事を言ってるのか?

 

「はぁ……… 帰ったら幾らでもかけてやるさ」

 

「いよっしゃあああああああ!!!! その言葉でもう充分報われたぜ!!!」

 

狂喜乱舞な俺の神機。微妙にレンの台詞と被っているのが余計に腹立つ。

まったく…… 誰に似たんだか………

 

「さて…… ここでお別れみたいだ。バイバイ、またね…… リンドウ。最後に話せて、とても嬉しかったよ」

 

そう呟いたレンは、リンドウさんの元へ歩み寄っていく。そして、そっと右腕を差し伸ばした。

 

「俺も嬉しかったぜ、相棒……… またいつかな」

 

リンドウさんもしっかりと握り返した。別れの言葉を告げた瞬間、光の粒となって消えてしまった。多分、現実の世界に戻ったのだろう。

 

「アマト…… もう少し、僕に力をかしてくれませんか? これが最後のお願いです」

 

「ああ、私達も命懸けでお前を助けるぜ!」

 

振り返ったレンが力強い目で頼み込む。その隣には俺の神機も自信たっぷりに言い放った。返す言葉はすぐに決まった。

 

「ありがとう…… 一緒に、戦ってくれ!」

 

そして、俺の視界も光に包まれた。

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