今日のアナグラはいつもと違った。みんな黒いスーツやお洒落なドレスに身を包み、何処か緩慢した表情をしている。
なんと、リンドウさんがアナグラに帰ってきた直後、そのままサクヤさんにプロポーズしたのだ。お祝いに、極東支部の総力で結婚式を挙げることになった。
レッドカーペットの先には黒いタキシードを着たリンドウさんがいる。しかし、アラガミのような禍々しく赤黒い手が右袖から覗いていた。まあ、サクヤさん曰く『リンドウには変わりないでしょ? そんなの気にならないわ』らしいが。
その言葉は本当だった。リンドウさんの隣には純白のウエディングドレスを纏ったサクヤさんがいる。それはもう、ケーキを食べる手を止めてしまう程の美しさだった。リンドウさんなんてout of 眼中だ。こういう場だと、男ってのは所詮引き立て役なんだよな……
そんな虚しい思いを胸に、早速式に出席したのだが……
「今回の神父役に勤めさせていただきます、グレイ・ヴァンガードです。まあ、本物の神父なんですけどね」
「「いや明らかに人選ミスだ!!?」」
挙式に呼ばれた神父はグレイさんだった。悲しいことに、ツバキさんとサカキ博士のグレイ神父に対する評価は高い。だから神父役に任された訳だが、あの似非神父が式を引っ掻き回すのは目に見えている。
因みに、隣には二つの結婚指輪を持ったエリナがいる。白いドレスを着た姿は天使そのものの可愛いさだった。決してロリコンではない。
「汝リンドウ、如何なる時も妻であるサクヤに付き添い、永遠に愛すると誓いますか?」
グレイさんが聖書を片手に喋り始める。普段の行いが信じられない仕事っぷりだ。
「誓います」
返ってきたのは、リンドウさんの自信に溢れた言葉だった。それを聞き、満足そうな顔をしながらサクヤさんに視線を移す。
「汝サクヤは、夫リンドウが浮気、酒浸りなど間違った道に進もうものなら、フルボッコにしてでも正しい道へと矯正することを誓いますか?」
………フルボッコ!? やっぱやらかしたか!
「誓います」ニコッ!
「!?」ビクッ!!
リンドウさんの肩が一瞬大きく揺れた。俺を叱る時のように良い笑顔を浮かべたんだと思う。
多分、浮気なんてしたら明日の朝日は確実に拝めないな。結婚は人生の墓場と言うが、リンドウさんの場合は地獄の釜を開けたんじゃないか?
「おい! なにか違うぞ!?」
数少ない常識人のブレンダンさんが席から立ち上がりツッコミをいれた。
「では、神の祝福の下、結婚の絆で結ばれた新たな夫婦が誕生しました。二人がどんな困難に直面しようと、愛の力で乗り越えられる事を祈りましょう」
しかし、当のグレイさんはブレンダンさんのツッコミなど何処吹く風だ。
ブレンダンさんが悔しそうに席に着く。グレイさんにツッコミできる人なんてエクレアさんくらしかいないしなー……
「それでは早速…… amen(エイイイィィメン)!!!」
無駄にテンション高いな。
「「「アーメン」」」
「それでは、指輪の交換を」
リンドウさんがエリナの持ってた結婚指輪を受け取り、そっとサクヤさんの薬指へとはめる。何となく、今という幸せな時間を噛みしめてるように見えた。
「続いて、新郎には新婦のベールを上げて頂きます」
サクヤさんの顔を隠すベールが上がった。その目には涙が溜まっている。悲しみではなく、歓喜の涙なのだろう。
微笑ましい光景なのだが、俺はグレイさんの歪な笑みを見逃さなかった。
「……では、誓いのディープキスを(笑)」
「「えっ」」
リンドウさんとサクヤさんの目が丸くなる。まあ、無理もない。はっちゃけたグレイ神父を見るのは初めてだろうしな。
リンドウさんとサクヤさんが困ったようにサカキ博士を見る。しかし、サカキ博士は拳をつきだし親指を立てるだけだった。
「さあ、ハリー! ハリーハリー! ハリーハリーハリー! 神の御前ですよ! できないのですか!?」
妙にツヤツヤしてるグレイさん。久々の登場だから張り切ってんだろうな。
まあ、だから―――
「少しおイタが過ぎましたね。久々の登場だからって張り切りすぎです。少しグレイ神父をお借りしますね」
後ろにいるエクレアさんにも気づかない訳だ。
「わ、私だって久々の登場で嬉しかっ…… あ、ちょっと待っ……」
ズルズルと引き摺られて別室へ連れていかれるグレイさん。なんか最近見たような……
あ、思い出した。俺がカノンさんに連れていかれれれれれれれrererererererererere…… は!? 今何を考えて……… いや、忘れたままでいいや。思い出すなと本能が叫んでいる。
「あ、こここら先は私、竹田ヒバリが進行させていただきます」
「うおおおおお! ヒバリちゃん!! うおおおおお!!」
「落ち着け、タツミ!!」
なんか向こうが騒がしいな。まあ、大方めかしこんだヒバリさんにタツミさんが興奮してるんだろ。さてと、後はフラワーシャワーの準備だな。でも、ただの花じゃ味気ないよなあ……
「皆さん、お手元に花弁が御座いますでしょうか? フラワーシャワーの準備をお願いします」
次々と祝いの言葉がかけられ、ヒラヒラと花びらが舞う。地獄の釜を開けたと言ったが、やはり夫婦円満の生活を送ってほしいものだ。
お! いよいよ俺が投げる番か……
「お幸せにー」
「アマトさん…… 何投げてるんですか?」
「ああ、砂糖だ。甘い新婚生活を送ってほしいっという意味で……」
「普通にしてください!」
所変わって大食堂。いつもの質素な外観は跡形もなく、それこそ高級ホテルの大広間のようや一室である。
一番奥にはサクヤさんとリンドウさんが座り、そこから順に第一部隊、第二部隊、第三部隊という風に白い丸テーブルに席が決まっている。
しかし、一番目を引くのは何と言ってもあの料理だ。ショートケーキ、チーズケーキ、ガトーショコラ…… おっと、ケーキにばかり目がいってしまった。
「おい、アマト! あっちに旨そうな料理があるぜ!!」
「コウタ、ケーキ…… じゃなかった。空気読めよ」ダラダラ
「おい、ヨダレ垂れてんぞ」
まだサカキ博士のスピーチの途中だ。まったく頭に入らないけど。途中で席を立つなんて失礼だからな。
「そういや旨そうなパフェもあった!」
「仕方がない!」
気づいたらもうケーキとパフェに向かって駆け出していた。周りの人の目がすごく冷たかったが、今の俺にはまったく気にならなかった。
あれよあれよという間に料理の置いてあるテーブルに辿り着いていた。早速トングと皿を持ち、トレイにあるケーキを積み重ねていく。
「よお! コウタ、アマト!」
「「どうも、タツミさん」」
「お前ら、こういう時は遠慮すんなよ。思う存分楽しんだ奴が勝ちだからな!」
その通りだ。だから俺は、限界を突破する!!
「おお……!?」
トングを音速(気分的には)で動かし、同じ種類のケーキを選別してホールケーキを作り上げる。その姿を見てか、ギャラリーであろう誰かが感嘆の声をあげた。
ケーキの取り放題なんて夢にまで見たことだ。この千載一遇のチャンス、絶対に逃してなるものか!!
「ホ、ホールケーキになっていく!?」
「しかも…… 一段、二段、三段目に突入だと!?」
この調子で四段目に……!!!
「アマト君、みんなのケーキ、無くなっちゃうでしょ?」
トングでケーキを取ろうとした瞬間、ジーナさんに腕を掴まれた。うすっらとした寒気を感じさせる笑顔と言葉で、一気に熱が冷めた。
「すみませんでした……」
ジーナさんに逆らう勇気などある筈もない。結局、一段だけで我慢することにした。
泣く泣くケーキをトレイに戻し、第一部隊のテーブルへと戻る。
「くそ……! 一段だけか………」
「いや、十分だろ!」
本音を言うと五段くらいは欲しかった……
「あ! アマト♪」
後ろから声をかけられた。振り返ると、白いドレスを身につけたエリナがいた。皿には食べ物が一つもない。
「それ、アマトの手作り!?」
「いや、あっちのバイキングで強奪してきた」
「なーんだ、残念。アマトのお菓子以外、あんまり美味しくないのよね」
急に顔が赤くなり、そのまま俯いてしまった。一体どうしたんだ?
「アマトが一緒に暮らしてくれたら―――」
「華麗に登場!!!」
「「「!!??」」」
エリナの言葉を遮るようにエリックが現れた。それもテーブルの下から。驚いたエリナは俺の後ろに隠れてしまった。
「エリック…… 何故そこに?」
「物陰から見守ってたのさ! 妹を守るのが華麗なる僕の役目だからね!!」
「流石エリックさん! 兄の鑑っすね!!」
「そうだろ? コウタ君」
「コウタ、エリック…… 暫く俺に近づくな」
「「なんで!?」」
シスコン共が共鳴してる中、エリナがぴょこんと顔を出した。
「お兄ちゃんの………ヘンタイ!!!」
そのままエリックは音もたてずに膝から崩れ落ちた。コウタだけが同情した目を向けているが、正直その心情が理解できなかった。
「それでは、夫婦初の共同作業の準備を。アマトさんとカノンさん、よろしくお願いします」
カノンさんと一緒に特大ウエディングケーキを運ぶ。ただのウエディングケーキじゃない。3Mはあろう超巨大なウエディングケーキだ。普通に運ぶには骨が折れるので、カートに乗せながらカノンさんと一緒に押さないといけない。
「ヒューヒュー! お似合いだぜ!!」
「誤射姫を手玉にとるなんざ、逆玉成功だな」
「うっさいっすよ! シュンさん、カレルさん!」
「はわわわわ~~……」
シュンさんとカレルさんが茶々入れしたせいで、カノンさんの顔が真っ赤になっている。
心なしか、ウエディングケーキもガタガタと揺れていた。倒れるのも時間の問題だな。とっとと運ばないと………
「いいですね~ アツアツですね~」
「グレイ神父、なら私が…………」ポッ…
「ないないそれはない」
「………」
「え? なんで頭を掴んで―――」
妙に乾いた音が会場に響いた。まあ、さっきのは明らかにグレイさんが悪いから同情はしない。
とりあえず、グレイ神父が安らかに眠ることを心の中で祈っておいた。
「このウエディングケーキはアマトさんとカノンさんが作ってくれたものです。皆様、二人に大きな拍手を」
パチパチと会場中に惜しみ無い拍手が響く。
喜んでくれたなら幸いだ。俺とカノンさんが全力で作ったスイーツだからな。
「それでは、ケーキ入刀の前に、新郎の雨宮リンドウさんから御言葉があります」
「えー…… 皆様、この度は―――」
リンドウさんが立ち上がり、マイクを持って違和感しかない口調で話す。
「いや、やっぱこういうのは性に合わないな。いつも通りに喋らせて貰うわ」
普通なら顰蹙(ひんしゅく)を買う行為だが、注意する者は誰もいなかった。まあ、リンドウさんのこういう所は相変わらずだからな。こっちの方がリンドウさんらしい。
「皆が俺の事を諦めず、ずっと手を差し伸べてくれたからこの日を迎えられた。本当にありがとう。本当は、お前らを傷つけるくらいなら死んだ方がマシだって思ってたんだけどな。でも、俺はもう『生きることから逃げない』。これからは俺がサクヤを、お前らを守る番だ!」
割れんばかりの拍手と歓声が場内に響いた。
カッコいいなあ、リンドウさん。隣にいるサクヤさんも顔が真っ赤だぞ。
「ふっ、珍しく緊張してるな」
「その点、サクヤは立派なものだわ」
弟に先を越されたギリ二十代の姉と、いつまでたっても浮いた話が一つもないアナグラ女主治医がいた。
背中しか見えないが、黒いオーラが全身から沸々と湧いていた。
「………なんか、黒いオーラが出てますよ」
「「そう(か)?」」
振り返った二人の目は黒く濁り、光が完全に消えていた。
あまりの負のオーラに、軽口が一つも叩けなかった。ここで下手な事を言おうものなら、明日の朝日は拝めない。
「ふん…… 大方、あいつらに妬いているんだろ」
「あっ、バカやろ……!!」
しかし、隣にいたソーマがやらかした。嘗て無いほどの制裁を受けたのは、言うまでもないだろう。
いよいよ宴も終盤を迎えた。
残った料理はほとんどない。あれだけの量を平らげたのだ。みんな満足だろう。
頃合いだと思ったのか、女性陣にはお待ちかねの一大イベントが始まろうとしていた。
「それではお待ちかね、花嫁のブーケトスを行います!」
ブーケをゲットした女性は次に結婚できるというジンクスがあるらしい。俺からしたらただの願掛けみたいなものだけどな。
「!!」
ショウコさんの目が変わる。まるで、二日ぶりに獲物を見つけたオオカミの鋭く冷たい目付きだった。
しかし、他の女性陣も負けてはいない。凛とした態度でショウコさんと対峙していた。ジーナさんだけは一歩引いた所にいるが。
そして、いよいよ闘いの火蓋が切って落とされた。サクヤさんが鮮やかな花束を持ち、上空高く放り投げた。
しかし、ここで神の悪戯が。ブーケ争いに加わる事ができず、周りを彷徨いていたカノンさんの手にすっぽりと収まった。
「ええ!? わ、私ですか??」
驚いているカノンさん。その様子を全員が祝福していた。半狂乱している女性は幻覚だろう。
「カノンせんぱ~い、お相手はアマトさんですか?」
「ふぇ、ふぇっ!!??」
アネットがカノンさんをからかっていた。でも、カノンさんには俺よりもっと良い人が――
「アマトは渡さないわ!!」
「ぐふぉ!!??」
エリナの全体重をかけた体当たりが鳩尾にヒットした。そのまま倒れそうになったが、足に力を入れてなんとか踏ん張る。
しかし、エリナがさらに力を入れたせいで地面へと倒された。一体何故俺に攻撃を!?
「け、結婚なんてドン引きです!!」
「く、苦しっ!?」
アリサがマウントポジションを奪い、襟元を掴んでブンブンと振り始めた。
なんで…… なんで俺がこんな目に!?
「ガクッ………」
「アマトーーー!!??」
fateのアンケートの途中結果を発表します。
なんと………
5:5の半々です(笑)
このアンケートは次の日曜日で締め切らせていただきます。
どちらを選ぶか決まっている人は、日曜日までに投票お願いします。
①がfate/zero
②がfate/staynightです。
皆さま、よろしくお願いします。
グレイ神父「さあ、ハリー! ハリーハリー! ハリーハリーハリー!」